やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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先に言っておきますが、オリキャラではありません。容姿で分かるとは思いますが‥‥‥‥


生ぬるい戦場。生ぬるい世界。

「過去はもはや関係がなく、未来はまだ来ぬ」

 

という名言があるが、過去を振り返らぬ愚者はいないだろう。

 

同様に、未来を想わぬ聖者もいないのだろう。

 

──────

 

夜の海は静かに凪いでいた。

 

まるで、この世界に恐ろしい事など何もないかのように、平和で満ち溢れた世界と言わんばかりに、静寂に、小さな泡の混ざった波を、寄せては返し続けていた。

暗紫に染まる夕空と、黒い海の境界線上にて、沈みかけた太陽の残光が、世界を分断するかのように輝きを放つ。

 

そして、とうとう世界が夜を迎える。空にはまん丸な月が、淡く光りながら強く自己主張を続ける。

砂浜は月光を浴び、一粒一粒が反射するように、青白く不気味に輝いていた。

波は寄せては返し、寄せては返し、寄せては返す。

その波のうち際。二人の少女が肩を並べ、寄り添い合っていた。夜の満ちる世界に、そこだけが陽だまりになっているように、二人は無邪気に笑いあっていた。白く、小さな丸い足は潮水で濡れ、煌めいている。

 

「今年も星、見れましたね」

「うん‥‥良かった‥‥」

 

少女らの見上げる夜空には、美しい星々。悠久の時を経てもそこに在り続けるそれらが、己が存在証明を続ける。

近くて、遠い。すぐそこにあるように見えて、少女が手を伸ばしても、決して届かない。

 

「また、星‥‥‥見たいですね」

「僕は君と一緒なら‥‥なんだって、どこにだってついて行くよ」

 

流れる黒髪が、涼しげな夜風に棚引く。同じく美しい白髪も靡き、砂浜の上は黒と白の少女きり、誰もいない。誰が来る気配もない。

 

「平和ですね‥‥‥」

「そうだね‥‥‥‥」

 

肩の温もりが二人を伝い、砂を伝い、海を伝い、消えてゆく。人という存在がいかにちっぽけなものかを感じさせるほどに雄大な海が、潮騒を連れてくる。

いつしか、空と海の境界はどこかへと消えて、一面薄暗い闇が満ちる。そして、二人の世界にはこの砂浜だけが取り残された。

不安をかき消すかのように、少女が勢いよく立ち上がり、波打ち際に駆け出す。白い泡が飛び上がり、パシャパシャと音を立て、水が弾ける。

 

「気持ちいいですよ?◼︎◼︎も来たらどうですか?」

「うん、そうする」

 

もう一人の少女も駆け出し、足首を青く澄んだ海水に浸す。踏ん張っていないと、打ち寄せる波に持って行かれてしまいそうだ。あわわと倒れそうになって、黒髪の少女が支える。二人は微笑む。

 

手を繋ぎ、遠くを見通す。空と海の境界は消え、まるで世界が真っ黒な何かで一つに繋がっているように錯覚して見せた。

 

そして、暫くの時間が経った。黒髪の少女は子供っぽいプラスチックの腕時計に一瞥をくれると、残念そうな顔をする。

 

「‥‥‥そろそろ帰らなきゃ」

「そうですね、帰りましょう」

 

少女は今にも泣き出してしまいそうだ。それを宥めるもう一人の少女が、聖母のように優しく微笑む。

 

「大丈夫ですよ、また明日会えます」

「‥‥‥‥そう、だね」

 

涙目のまま、少女はコクンと頷く。白髪の少女は羽根に触れるように彼女の頭を優しくさする。少女は目を強くこすって、小さく手を振る。

 

「では、また明日ですね」

「うん、また‥‥また明日」

 

少女と少女は、静寂な砂浜で別れを告げた。

 

───2───

 

フランス、パリ六区。リュクサンブール公園にて、一人の女性がベンチに腰掛けていた。肌は黄色に近く、おそらく東洋人だ。ホットドッグを美味しそうに頬張り、口をモグモグと動かしている。

リュクサンブール公園とは、1612年にマリー・ド・メディシスがジャック・ボワソーに命じてリュクサンブール宮殿に付随するものとして造園されたものだ。統領政府期以降元老院の敷地となっている。元老院の議場等は、庭園北端のリュクサンブール宮殿に入っている。リュクサンブール公園は元老院の庭園にあたるが、一般に公開されており、パリ市民の憩いの場の一つとなっているほか、観光名所にもなっている場所だ。

 

まあ、そんな場所に東洋人がいる事自体はなんらおかしくないのだが、おかしいのは彼女の服装と、その辺り一面の状態だった。

表面上、彼女の見た目は全く違和感を感じさせない。白いパリッとしたジャケットを肩で羽織って、下はキャミソールを着用。きっちりとしたジーンズを履着こなしている。その豊満な身体を見せつけるような、自分自身をよく理解している格好であった。

そして、彼女の首元から覗くウェットスーツのようなものには、小さく「千葉メカトロニクス」と印刷されていた。

千葉メカトロニクスとは、千葉県発の日本三大IS企業の一つだ。通称千葉工と呼ばれ、地元就職が盛んな競争率の高い企業である。

なぜ千葉メカトロニクスの関係者がここにいるのかという話なのだが、問題はそこではないのだ。そのウェットスーツ───ISスーツはへそ辺りで緩く裾として広がっており、ショートキャミソールのような姿を象ってるのだ。

ISスーツとは、ISを効率的に運用する為のスーツである。身体を動かす際に発生する電気信号を増幅してISに伝達する。その為、スーツは基本的にピタッと身体に吸い付くような、スクール水着に酷似した形をしている。

が、この女性の着用するISスーツは最早ISスーツとは言えない。これでは電気信号がうまく伝わらないだろう。

そんな事よりも、最大の問題は、現在この公園に人が一人もいないという事だ。普段なら観光客と現地の人々で溢れているのだが、現在は全く、比喩でもなんでもなく、彼女以外の人間が一人もいないのだ。常識的に、これはどう考えてもおかしいだろう。

 

「はむむ‥‥‥ふぅ‥‥」

 

色とりどりの花の香りを運ぶそよ風に、ミディアムロングの黒毛をなびかせた女性は口元に付いたソースをペロリと舐め、小さく満足げに微笑む。ホットドッグを包んでいた紙をくしゃくしゃに丸め、設置されたゴミ箱に投げ入れる。

手をパンパンと叩き、ジーンズの前ポケットに突っ込む。そして、長方体の金属質な見た目のコンピュータを取り出す。

片手で器用に操作した通信機器兼コンピュータが投影するディスプレイに「フランスで発生する謎の罰印、今月に入って───」と、ニュースの文字が一面を踊る。

見ると、フランス全域に無差別に切り裂かれたような罰印の跡が発生するという怪現象についてのまとめ記事だった。どうやら既に五十を越す罰印が示されており、その全ての罰印と共に、「We welcome to dominant.」という言葉が示されているという話だ。犯行現場を大勢の人が目撃している事、なのに全く仕組みが分かっていない事、その人間業とは思えない大きな削り取られたような罰印、残された意味深な言葉から、今やフランスを騒がせる怪談と化した。何故か被害者は全く出ておらず、フランス政府はその犯人像も、目的さえも掴みかねており困惑しているそうだ。

 

「本当に来るのかなぁ‥‥‥」

 

彼女は誰にも聞こえない程の声で呟く。コンピュータを手で翫び、乱暴な仕草でジーンズのポケットに突っ込む。引っ張られたジーンズ生地が、彼女の柔肌に少しだけ食い込む。それを親指を突っ込んで直し、もう片方の手で申し訳程度に髪を整える。

 

「───来たかな?」

 

噂をすればなんとやら。突然、人工的としか思えない激しい突風が吹き荒れる。庭園の花を散らし、左右対称に植えられた美しい木々をザワザワと揺らす。花の匂いなんというものではなく、ガソリンが燃えた匂い、例えるならば油性マジックの匂いが風に乗ってやってくる。

突如、地面が掘り起こされ、大きく削り取られる。刃で切り裂かれたかのように鋭い爪跡は交差し、綺麗に罰印を描く。

その爪痕の下には、控えめに「We welcome to dominant.」の文字。彼女の目尻が少し上がって、引き締まった顔になる。凛とした冷たい顔を一切崩さず、コンピュータの入ったポケットとは逆の方からタブレットケースのようなものを取り出し、開く。手首のスナップを利かせ、口に向けて白い錠剤を数粒放り込む。

ガリガリと音を立てて、表情を歪めながらも薬剤を噛み砕く。文字通り、苦虫を噛み潰したかのような顔だ。

そして、彼女が突如現れた黒い影に隠される。上空には、大気を切り裂く荒々しい騒音を撒き散らす、大型のヘリコプターが飛んでいた。そのヘリコプターは不気味な灰色のコンテナを釣り下げ、ゆらゆらと揺らしていた。

彼女が数歩後ろに下がると、丁度罰印の真上、重力に逆らわずにコンテナが降下する。大きな音、衝撃を巻き起こしながらコンテナが地面に衝突。掘り起こされた土が巻き上がり、彼女は腕で口元を隠す。

 

風圧で土埃を撒き散らしながら、そのコンテナが開かれる。

 

そこに格納されていたのは、濁り銀の装甲を持つIS。力なくだらんと垂れ下がり、胴体の部分は百足の足のように開いており、まるで人間を捕食する口のようだった。

彼女は片膝をつけているそれに向けてゆっくりと歩みを進める。柔らかい、水気を含んだ土と割れたレンガを同時に踏み締め、砕く。破片が飛び散る。

そして、そのISに飛び乗り、装着する。突如ラインアイが控えめに光り、黄色い光を灯す。ドミノ倒しのように次々と肋部が閉じられ、身体へ完全に装着される。全身が波打つように揺れ、止まる。サイズ調整が完了し、機体の舵は彼女の手に収まった。

 

「システム‥‥‥オールグリーン。【十六夜-弐式改】、戦闘モードを起動します」

 

両耳に取り付けられたイヤーバイザーが陽光を反射させる。全身が剣であるかのように先鋭的なデザインではあるのだが、かといって全体的なバランスは崩れておらず、機体的な意味ではむしろスタイリッシュに纏められている。

しっかりとした、柔軟性のある両脚部が強く、地面を掴むようにして踏み締めてゆく。

前衛的に尖った胸部は重心をずらし、前方へのスタビライザーの機能を果たしていた。

 

そして、それは極めてISらしさを欠いていた。普通は拡張領域に格納されているはずの武装諸々は既に装備されていた。それが手や足に装備されているのなら何の問題もないのだが、背中には機体全長に追い付く程の大剣を一本背負っており、腰骨の辺りには二丁の携帯用突撃銃が掛けられていた。マガジンが仙骨辺りに横並びにされている辺り、実にISらしくない。普通ならば拡張領域に入れておくべきものなのだ。

そして、一番目立つのはハイパーセンサーだ。天を貫くような一角であるハイパーセンサーは途中で折れてしまい、まるで落武者だ。戦いに挑む者の姿ではない。

が、対してその目は───ラインアイは強く鋭く光りを放つ。この時を待ちわびていたかのように。嬉々とするように。戦場で震え、己を鼓舞する武者のように。

 

「うーん、久しぶりだからちょっと調子悪いかも‥‥‥っと!」

 

口とは違い、手慣れた手つきで突撃銃を手に取り、脇を締める。そして、何もないはずの空に向けてそれを滅多撃つ。一見、適当に撃っているようにしか見えない。が、ガンマンのような早撃ちとスナイパーのような正確さが兼ね備わった一発一発は、確実に空間を貫いて殺してゆく。

するとなんと、カンカンと音を立てて空間が弾丸を弾き飛ばし、弾頭の潰れた弾丸が地に落ちる。同時にその空間が歪み始め、フランスを騒がせた事件の犯人が姿を見せる。

現れたのは、真っ黒なIS。何故か黒いマントを羽織っており、犯行の凶器であるとみられる二又の槍を持ち備えている。

そのシンプルなカメラアイの上には、西洋の騎士のような兜が取り付けられ、右手で持ち上げられていた。その姿は、まるで人の命を奪いにやってきた死神のようだった。

 

濁銀の落武者と漆黒の死神は向かい合い、互いを測るように睨み合う。

 

先に動き出したのは彼女の方だった。地面を蹴り飛ばし、白式をも越すほどの爆発的な加速力で衝撃波を巻き起こす。公園の花々を散らしながらも、一気にその距離を詰める。死神な兜を下げて再び姿を暗ますよりも早く、その距離は0になり、彼女はハンガーに突撃銃を掛けて両腕を構える。

碗部のシースが開き、両刃の短刀【影縫】が姿を見せる。銀色に光を返すそれを、風を切るように高速で突き出す。そして、舞うように連撃を加える。

 

「───、───!!」

 

一発、二発、三発と、死神に似たISが身体をありえない方向に曲げながら、すんでで攻撃を回避する。そして、声にならない叫びのような、呻くような音を吐き出す。

瞬間、死神の機体は完全に消えた。そう、まるで伝説の白騎士のように(・・・・・・・)

が、【十六夜-弐式改】のレーダーは、何もいない筈の空間を赤く点状に染める。

 

アンチステルスセンサー。この機体に積まれた、対「白騎士事件」専用の武装だ。IS学園に送り込まれた黒い無人機IS、ゴーレムのハイパーセンサーを解析し、急遽取り付けたものだ。

彼女の目の前にいたはずの機体は、おそらくステルス性能と光学迷彩の両方を兼ね備えている、強襲型だ。見えないというのは厄介だが、その分性能を下げているという事なのだ。見えればどうという事ではない。

彼女は再び両手に突撃銃を構え、座標にいるISの未来位置を予測、乱射する。同様に、死神に似たISはまたしても姿を現してしまい、驚いたのかなりふり構わずに、脱兎の如く逃げ出す。

 

「逃げちゃうのかぁ、まあそれでもいいけど」

 

濁銀の武者の背中に取り付けられた補助碗部が滑らかにマウント、展開し、スライドして大剣の柄を突き出す。

 

「‥‥‥【暁月夜】!!」

 

その名を叫び、一気に引き抜く。灰色の剣身が、見た目の割には重く鈍い音を立てて振られる。

引き抜かれた大剣は、いたってシンプルな方刃の大剣───いや、大太刀だった。機体の全長ほどある近代的なデザインの大太刀に、特殊な機能は全く登載されていない。

 

それはただ重く、ただ硬く、ただ鋭い。一太刀で敵を切り裂く、単純故の強さが、そこには有る。

 

彼女は前傾姿勢をとり、【暁月夜】と呼ばれた大太刀を構える。その黄色く光るラインアイは、着実に距離が離されてゆく死神を捉えていた。

四基のブースターに光が急速に収束を始め、十二基のスラスターがまるで生きているように蠢く。

光は瞬きを許さない程の速さでチャージを完了させ、溜め込んだエネルギーが一気に解放する。地面を抉る程の勢いのブースターが、機体を大きく押し飛ばす。

 

「はっ!」

 

風を切り裂き、色鮮やか花々を散らし、離れていた距離を一気に詰める。全身を使い、一回転しながら斬りかかる。

敵機は咄嗟に二又の槍を構え、その一撃を受け止める。が、槍はミシミシと嫌な音を立て、圧倒的な質量の前にヘシ折られてしまう。金属と金属がぶつかり合い、不協和音が響く。

勢いに負け、死神は空中で姿勢を崩し、喘ぐように機体を揺らす。が、一瞬の隙さえも与えず、上を取っている彼女は力を込めて【暁月夜】をブン投げる。地球の重力で加速し、大太刀は直線上の全てを叩き斬る。

 

「足、もーらいっと!」

 

宣言通り、大太刀は死神の左膝より下を持って行ってしまう。下半身の重量バランスを崩し、飛行さえもままならなくなった死神は、ゆらゆらと揺れながらも逃げ惑う。

そして、両碗部、両脚部のシースより短刀が飛び出す。太陽に照らされて、命を刈り取る刃が怪しく光る。

 

すぐに落武者が加速し、簡単に死神に追いつく。最低限の動作で右腕を振り上げ、左肩から下を斬り落とす。壊れた腕は地面に落下し、バラバラに砕ける。オイルのようなものが溢れ出し、タイルの隙間を流れ、川を作る。

 

「‥‥‥つまんない」

 

脚部の短刀で右肩を突き刺す。ギィィと切断音が響きわたり、そのまま回し蹴るようにして死神を振り落とす。轟音を響かせながら地面に打ち付けられた機体にはところどころヒビが入り、ほぼ大破している。

真上からゆっくりと降下してくる、戦場で負けた武者のようなISは、細く鋭いラインアイで落ちたISを見下ろす。そのまま地面に着地し、短刀で右足を削ぎ落とす。血があふれ出すようのと同じように、オイルのようなものがドバドバと溢れる。

右腕と肩の接合部は既に千切れる寸前で、触れば取れてしまいそうだ。黒いマントはボロボロになり、兜はヒビ割れている。

そんな醜態を晒しても、ISは足掻こうとする。ギギギとモーターの駆動音を鳴らし、火花を散らしながらも逃げようとしていた。

 

「そろそろ止めを───!?」

 

右腕を振り上げるが、彼女はふらふらよろめき、倒れてしまいそうになる。頭を左手で押さえて、左右に振る。そして、ゆっくりとした動作で態勢を立て直す。

 

再び腕を振り上げ、突き刺す。右腕は無残な姿で千切れ千切れになり、機能しなくなる。

死神を象ったISから、完全に駆動音が消える。指先までまるで死んだように全く動かない。おそらくシールドエネルギーが尽きたのだろう。

倒れたISに一瞥をくれて踵を返した彼女は、おもむろにその場所に戻り、局部の装甲を剥がす。そこは丁度、ISコアが格納されている場所だ。

分厚い装甲の一枚下には無数の回路と、コードに繋がれた正方形の箱。彼女はそれを見るに、嬉々とした表情を浮かべて手を伸ばす。が───

 

「なっ!こいつまだ───!?」

 

死者が蘇るか如く、突如として機体の各パーツからモーター音が響き出す。彼女は慌てて手を引っ込めようとするが、それよりも早く、残った左腕が伸び、掴まれ、引き寄せられる。突然の事態に反応しきれず、よろめいて踏ん張りの効いていなかった彼女は態勢を崩し、覆い重なるように倒れこむ。

色を失っていたコアが真っ赤に染まり、眩い光を放つ。機体の隙間隙間から溢れ出し、閃光として全方向に突き刺さる。

 

「まず───間に合わない!」

 

ISコアを中心に、全てのエネルギーが一点に収束し、大きな爆発を引き起こす。タイルを、土を、木々を、噴水を、花々を、彼女をも焼き尽くし、公園の一帯を超高度エネルギー体の破壊に巻き混む。

 

やがて、エネルギーは燃え尽き、終息する。その場所は元の美しい景色は一片も残っておらず、跡形もなく消え去っていた。焼け焦げものたちの匂いが混ざり合い、異臭が広がる。

 

「危ないなぁ、死ぬかと思った‥‥ゲホッゲホッ!」

 

しかし、爆心地には一つの影。爆発に巻き込まれた筈の【十六夜-弐式改】が、爆心地の丁度中心に仁王立ちしていた。足元には彼女の機体のものと思われる装甲の破片と、炭になった何かが散らばっていた。機体もボロボロで、彼女の東洋人にしては白い肌を露わにしている。

 

「コア回収、間に合わなかった‥‥‥‥ま、いっかぁ」

 

がっくりと肩を落とし、ふらふらと歩きながら遠くに向かう。レンガを踏んだ事を確認すると、その場で屈み込む。

腰部の装甲が上から順々に開き、空気を吹き出しながら胸部が解放、脚部は火花を散らしながら嫌な音を立てて、真ん中からぱっくりと開く。ところどころの装甲がひしゃげて剥がれたISを脱ぐ。

焼け焦げ、黒ずんだハイパーセンサーを脱ぎ捨て、ISスーツにジーンズというラフ過ぎる格好の彼女が姿を見せる。へなへなとその場にへたり込み、自嘲的に笑う。

そして、ポケットの通信機器兼コンピュータがプルルと震える。おっくうそうに取り出すと、空間に小さく「SOUND ONLY」と表示される。

 

「もしもし、架橋ののゆちゃん?生きてる?」

「あー、社長、【十六夜】ぶっ壊しちゃった」

「ええ‥‥‥」

 

困惑した声。せっかく改修したばかりの新型が、一回の実戦で大破したのだ。困惑どころではないだろう。

 

「ターゲットのコアは?」

「いやぁ、自爆されちゃってねー全壊かな?」

「ああ、なるほどね‥‥‥じゃあ、【十六夜-弐式改】は回収しとくよ。本命の方は大丈夫だね?」

「もっちろーん、バッチリ任せといて?」

 

彼女はニヤリと笑い、すくりと立ち上がる。片手で頭を抑えながら、その不調をを全く声に出さずに会話を続ける。

 

「じゃあ、頼むよ?」

「はいはーい。じゃ、またねぇ」

 

通信が終了する。ポケットに無理矢理に押し込み、下がったジーンズを上げ直す。小さくあくびをして、大袈裟な動作で伸びをする。

そして、改めて自分の服を見た彼女は盛大に溜息をついて、小さく呟く。

 

「服、買うか‥‥‥」

 

彼女───架橋ののゆと呼ばれた女性は再び歩き始めた。

 

真っ白な雲を流す空は、不気味な程に青く澄んでいた。

 

 

 





会社とその設計構想とか考えるのが楽しいです。一応話にも反映させてあるのですが‥‥‥

次話もよろしくお願いします。

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