やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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ええ、反省はしています。後悔はしていません。


柄にもなく、比企谷八幡は努力する

「暗い心を持つものは暗い夢しか見ない。もっと暗い心は夢さえ見ない」

 

──────

 

電子掲示板を新たな仲間に加えた俺は、それはもう驚く速さで第四アリーナに向かった。例えるなら音を置き去りにしたってやつよ。これも一日一万本のマッカンのお陰。そういえばIS学園ってマッカン売ってんのかな?

 

という訳で、アリーナに着いたのはいいのだが───

 

「なにあのヤンキー‥‥‥‥槍とか持ってるんだけど‥‥‥‥」

 

水色の髪の生徒が、アリーナの入り口に仁王立ちしている。それも、槍を持って。リボンの色が違うから多分上の学年なのだろう。顔はよく見えないが、遠目から見て、体型はボッキュンボンという感じだ。恵まれたボデーですね(KONAMI感)。

 

ってか、水色の髪とか絶対染めてる。しかも槍構えているとかアリーナの門番かよ。もしかしてなくてもデュエルスタンバイとかしちゃうの?常にシャイニングドローしちゃうの?

ふとクリスタル・ランサーを思い出した俺はデュエマ民。いやいや、融合とかペンデュラム召喚とか全然知らないよ?

それより、織斑先生‥‥‥不良がいるなんて言わなかったじゃないですか!!よくもだましたアアアア!!だましてくれたなアアアアア!!(AA略)

 

その場でくるりと踵を返す。

今日は諦めよう。槍を持った物騒な人を相手にするくらいなら、自室で勉強してたほうがマシだね。下手に話しかけたら不運と踊っちまう事になりかねない。

 

「ちょっとなんで帰るのよー!」

「ちょ、マジ?速───ヤバ、死n‥‥‥うおおおおお!!!」

「待っ‥‥‥もうぅぅぅ!!」

 

死ぬ。死ぬ。アスリート並のフォームで追いかけてきやがってやがる。一応は学生だよね?おかしい。無茶苦茶に速い。運動もマトモにしないヒョロガキがヤンキーに追いかけられている。全くもって酷い絵だ。

 

「お金ならありませんすいません!」

「なんで私がカツアゲしてる体になってんのよおおおお!!」

 

その距離はすぐに縮まり、俺の腰あたりに向けてジャンプし、抱き着かれて倒れ、転がり込む。そのままヤツのクッションにされ、アスファルトに身体を打ち付ける。

ラノベハーレム主人公ならこの時にラッキースケベが起きて羨まけしからん事になっているのだろうが、正直打ち付けた腰が痛過ぎて女の子特有の柔らかい身体とか味わってる暇なかった。やっぱり二次元はどこまで行っても二次元ですわ(絶望)。

 

「つーかまえた!」

「‥‥ウボァー‥‥‥‥‥‥」

「ふふん、敵将討ち取ったり!」

 

FFのボス並感の倒された感想を吐くと、俺の真上に仁王立ちしている青髪の少女の姿が目に入ってしまった。ヒラヒラと揺れるスカートからパンツが見え‥‥‥見え‥‥‥‥見えん!

 

捕まった瞬間の絶望を表すと、ラスボスまで辿り着いたのはいいものの、一発で瀕死になるような魔法を連発され、「今のはメラゾーマではない‥‥‥メラだ‥‥」と宣告された時と同じ位。ダイの大冒険読みたくなってきた。

 

「私の勝ちよ!」

 

どこからともなく扇子を取り出し、カッコつけて広げる。そこには毛筆で「完全勝利」と書かれており、頭の中にUCのbgmが流れる。

 

「そもそも勝負していないんですが‥‥‥どいてもらっていいですか?」

「あっ、ごめんね?」

 

案外素直にどいてもらえた。腰を抑えながら立ち上がり、汚れた新品の制服をパンパンと払い、回れ右をして立ち去ろうとする。が、肩をものすごい力で掴まれ、恐る恐る背後に振り向く。

 

「んんっ、初めまして。比企谷八幡君。私は更識楯無。この学校の生徒会長よ!」

「‥‥‥生徒会長さんが俺に用ですか?」

 

自称生徒会長は鼻を鳴らし、豊満な胸を張る。掴まれて皺のできた肩を伸ばし、観念して応対する。

彼女の真っ赤な瞳が俺の全身を舐め回すように動き、にっこりと微笑む。

 

そういえば、槍がどこかに消えている。槍どこいった。マジで槍どこ行った。なにこれ試されてるの?

 

八幡は考えるのをやめた。

 

「あら、酷い言い方ね。お姉さん泣いちゃう。およよよー」

「帰ります」

「あっ、待ってよー!」

 

嘘泣きは小町で間に合ってますんで。というより全てが小町で事足りる。料理もできるし可愛いしハイブリットぼっちだしうちの妹マジでスペック高い。お兄ちゃんとはぜんぜん違う。たまげたなぁ‥‥‥

ま、まあ俺もそれなりにスペック高‥‥‥この学校の生徒のレベルについていける気がしねえな。得意科目すらついていける気がしない。俺の将来息してる?

 

「全く、織斑先生に頼まれたから来てあげたのにぃー」

「はあ、織斑先生が?」

「あー、信じてないでしょ!お姉さんぷんぷんだぞ!」

 

ぷんぷん(笑)。スイーツが好きそうな言葉ベスト3に常にランクインしてそうですね。

 

話は変わるが、この自称生徒会長‥‥‥笑い方が変だ。違和感を感じるというか、なんと言えばいいのか‥‥‥

 

「言っとくけど、ISの操作ってケッコー難しいのよ?最初は飛ぶことさえできない人もいるのよ。」

「えっ」

 

そんな違和感も、目の前の向かうべき事象の前にかき消えてしまった。

 

参考書にはそんなこと書いてなかった。簡単そうに思わせて実戦で失敗させる巧妙な罠だったのか?それともこの自称生徒会長がテキトーなことを言っているだけなのか?

数学の教科書に問題の解き方として例題が乗っているが、途中経過が略されていてわからなくなったあの現象と考えれば納得できる。せめて例題くらいは略さなくてもいいじゃないですか‥‥‥

 

「まあまあ、悪いことはしないから大人しくお姉さんに教わりなさい☆」

「は、はあ‥‥‥‥」

 

語尾に星ついてるような気がするんだけど。食蜂さんなの?精神掌握しちゃうの?

 

という訳で、俺はこの更識とかいう自称生徒会長にISの稽古をつけてもらう事になった。

俺が現在装備しているのは、打鉄と呼ばれる日本の第二世代型量産機である。速度は出ないが防御力は高く、近接戦闘が得意でバランスがいいらしい。ISというものを装備したのは二度目だが、本当に自分の身体のように軽く動いてしまう。試しにアリーナ内を駆け回るが、特に問題は感じられない。むしろ心地いいくらいだ。

 

「思ったよりスジがいいわね‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

楽しそうな、どこか黒い何かを孕む声。ISのハイパーセンサーが嫌でも捉えてしまう。呟き声さえも捉えてしまうなんてきたないISきたない。

 

そもそもスジってなんだよ。メロンなの?ハイエロファントグリーンなの?緑色で光ってなんかいないんだけど。ジョジョネタを振ってきてるの?

今Google先生にこの状況を検索したら、「もしかして オラオラ」って出てきそう。どうでもいいが、去年のクリスマス前に、「クリスマスケーキ 一人用」って検索したら「もしかして クリスマスケーキ 二人用」って出てきた。俺がぼっちという事を見越したGoogle先生の精神攻撃がヤバい。ま、まあ小町いるし?そういう配慮って可能性も残ってるじゃん?

 

「じゃあ次、飛行訓練行くわよ。」

「あぁ、まあ。はい。」

「取り敢えずやってみて。」

 

訓練機に搭載されたマニュアルを開く。背部のブースターユニットが点火し、ゆっくりと機体が浮いてゆく。

文章表現の中に、「まるで鳥になったかのようだ」というものがあるが、まさにそれだ。本当に、空というものを自由に操れる、圧倒的な支配感を感じる。

 

「おお‥‥‥‥」

 

今ならお兄様に飛行用デバイスを貸してもらった研究員の気持ちがわかるわ。詩とかかけちゃうレベル。

 

「ほらほら、ボーッとしてると痛い目見る事になるわよ?」

「え?───うおおお!?」

 

途端、機体がバランスを崩し、速度を上げながらアリーナ内を右往左往する。制御が効かない。

 

「ま、まず───あでっ!」

 

自分でも立て直そうと頑張ったのだが、結局地面に激突してしまった。IS装備してるから特になんともないとか思ってた自分が馬鹿でした。普通に痛いです。え?痛いのはそれだけじゃない?‥‥‥心が痛いです。

 

「あははははっ!落ちたわね。ふふふふふふ‥‥」

 

わぁー、面白かったですかー。いい腹筋運動になりそうですね(棒)。

とにかく、ふざけている場合ではない。俺には時間とかもう色々ないんだ。両手を使って立ち上がる。

雪ノ下だったら、「あら、比企谷君にないのは時間だけでなく人権もなのだけれど」とか言いそう。あの罵倒最近トゲトゲしさが増してるよな。

そして、由比ヶ浜は───

 

「っ‥‥‥」

 

由比ヶ浜の事だけは思い出したくなかった。

あいつが俺に優しかったのは負い目があったから。ただそれだけだ。何故俺は今になって由比ヶ浜を思い出した?もうあいつは関係ない筈だろ?まさか、俺はまだあの事を引きずり続けているのか?いや、そんな事はないだろう。俺は訓練されたぼっちだ。別に、誰かとの縁が切れたくらいで───

 

「───君、比企谷君?」

「は、はい!?」

「大丈夫?すごい深刻な顔してたよ?」

「や、やだなぁ、ポケモンでもいつもいつでも上手くいくなんて保証はないって言ってたじゃないですか?」

「そりゃそうじゃ!って?」

 

あははと笑う自称生徒会長。それは屈託の笑顔というべきで、裏表のない素直なものだった。見間違いかと思い機械仕掛けの腕で目を擦り、もう一度見つめてみると、今まで通りの思索を含んだ顔だった。見間違いだったのだろうか。

 

「?」

「‥‥‥近いっす」

「ふーん?」

 

下から覗き込んでくる。近いいい匂いする近いヤバイハイパーセンサー凄い。

身体を仰け反らして、あからさまに嫌な顔をする。すると彼女は楽しそうに、更に身体を近づけてくる。

 

「は、はやく続きをやりましょうよ?」

「ちぇー‥‥はーい」

 

こうして、俺は自称生徒会長にビシバシとシゴかれてしまうのであった。

 

最後まで、槍を持っていた理由と、それが消えた理由はわからなかった。

 

───2───

 

私、相川清香はハンドボール部に所属している。練習は厳しいが、毎日それなりに楽しくやっている。

今日は体力をつける一環として、先輩から学園内の外壁を三週するという課題が出された。IS学園はすっごく広いので、三週となるとものすごい時間がかかる。走っているだけでもう夜になってしまう。ハンドボール部に入ったはずなんだけどね‥‥‥

 

一周走るだけで私はヘトヘトになってしまい、ペースがガタ落ちだ。体力には自信があったのに、本当にIS学園はレベル高い人ばっかりだ。私なんかじゃ到底叶わない。

 

そこから更に半周し、学園校門の真反対のところまで走った。すぐそこにある自販機に手が伸びてしまいそうだ。

さすがに自販機で飲み物は買いはしなかったが、隣のベンチで休むことにした。このまま走り続けていたら絶対に倒れてしまう。

 

「疲れた〜、ふぅ‥‥‥‥」

 

独り言でも言って、寂しさを紛らわせる。他の子は全員先に行っちゃったので、この置いてきぼり感が寂しいです。集団が好きじゃないのに寂しいなんて、ちょっとおかしな話だけれどね。

 

さて、そろそろ行こうかなと思い立ち上がると、少し離れたところから何かが落っこちたような、大きな音が鳴り響いた。第四アリーナの方向からだ。第四アリーナは学舎から一番遠いので、放課後以外殆ど使われないとよく聞く。

 

あんな場所で何があったんだろう?という野次馬根性で覗きに行くと、一つのISが危うげに空を飛んでいるのが見えた。中に乗っていたのは、想像もできない人物だった。

 

「え?ひ、比企谷くん?」

 

思わず声が出てしまった。まさか、今日は風邪で休んでいるはずの比企谷くんが、こんなところでISを借りて一人で練習してるとは思いもしなかったからだ。そういえば、風邪と言っていた割には朝も元気だった。集中して勉強もしていたし、もしかして嘘だったのかな?

でも織斑先生に嘘をつくなんてすごい勇気だなぁ‥‥‥‥

 

比企谷くんは空中で大きく機体を揺らしながら、手に持つライフルでターゲットを撃ち抜いてゆく。今日がIS学園に来て二日目のはずなのに、とっても上手だ。私はまだ歩行さえままらならいって言うのに。

そして、私の頭の中にある可能性が浮かんでしまう。

 

もしかしたら、比企谷くんは本気でオルコットさんを倒すつもりなんじゃないかな?

 

いや、そんな事が出来るわけがない。オルコットさんは代表候補生で、私達のような一般生徒とは違う。織斑くんだってきっと織斑先生の弟だからあんなに善戦ができただけ‥‥‥‥

 

そのはずなのだ。だから、比企谷くんが勝てるわけなんてないんだ。

 

でも、その動きからその真剣さが見て取れた。私は比企谷くんが本気で勝ちに行くつもりなんだなと思い、少しだけ嬉しくなった。

 

こうやって頑張っている人を見ると、元気が漲ってくる。私も頑張らなきゃ、そう思える。

 

「よーし、頑張るぞ〜!ファイトー、おー!」

 

自分自身に喝を入れて、拳を空高く突き上げます。比企谷くんが頑張るなら、私だって頑張らなきゃ。目の前で頑張っている人がいるのに、それを横目にサボることなんて私にはできない。

 

今は応援することしかできないけど、いつかは───





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