ゼロの使い魔で転生記 作:鴉鷺
夕暮れ、フィー、キュルケと共に食堂に向かう。
そこには、険しい顔をした父がいた。
オレなにかやらかしたっけ?
と、若干ビクつきかけるが押しとどめる。
転生したオレ自身の実年齢よりも父の方が年上なのは変わりないのだ。
「小父様、どうなされました?」
キュルケも気になったのか声をかける。
「おお、キュルケ嬢。いやなに、魔物がアルデンの森に大量に出現したという、
閣下からそれにかかわる文を貰ったのだ。
それに伴い私がアルデルの森の魔物討伐を編成しろとおっしゃられている。
魔物の数が凄まじいらしい……。
なので、明日からアルデンの森に接する諸侯に文を出し討伐に協力してもらう」
どうやらアルデンの森
―ゲルマニアの南に位置するトリステインも若干かかっていた気がする―
で魔物の大量発生が起きたらしい。
「それならば、そこまで悩む必要はないのではないですか?」
そう、別に閣下の勅命みたいなもんだ。
しっかり諸侯は編成され討伐部隊となるだろう。
「ああ、それだけならば問題ないのだが……」
なんだ?それ以上に何が…。
「報告によると、ドットのメイジでは傷がつけられなかったそうだ。
ラインメイジでも傷を少々つけるにとどまり撤退したとか……」
おいおい、それって完璧あのオーク再来ってことじゃないか…。
「父さん、それは……」
「ああ、お前の思う通りだ。
さらに、アルデンの森は数多くの領に接しているほど広大」
「ええ、確かに……」
何が言いたいのだろう。
「トリステインにも接している。接している場所は……
キュルケ嬢の家と因縁深い。ラ・ヴァリエール公爵領だ。
そこに使いを出さねばならない。協力をしろとの指示だ」
この際トリステインの最大有力貴族との仲も取り持つのか。
それは……。
「しかし、私は兵の編成をしなければならない。だから」
そこでオレを見る。まさか、そのまさか……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ~」
馬車の中盛大な溜息をつく
「どうしたの溜息なんてついて。福が逃げるわよ」
「そうです。レイジ、シャキッとなさい」
「わかりましたとも……」
トリステインとゲルマニアは別段仲は良くない。
どちらかと言うと不仲である。
トリステインが一方的な論理でアホを言うからであるが。
とりわけ領が接する。
フォン・ツェルプストーとラ・ヴァリエールは仲が悪い。
呉越である。
不倶戴天である。
殺し合いも何回もしてきたことだろう。
そんなのが手を取り合い仲良く魔物退治だ~。などとうまくいくはずがない。
なのでオレの家の出番である。
特に因縁があるわけでないので、門前払いはないだろう。とは閣下の言だ。
閣下はしその血が欲しいのか、トリステインで産まれた――オレと同じくらいだったかの姫様を狙っているんだとかなんとか。
とんだロリコンである。口が裂けても言えないが。
オレの家からの使者はユリアさんと一応は嫡子のオレ、なぜかキュルケである。
お前は家に帰れ。火に油を注いで、さらに水を注いだみたいになるだろ。
相容れないもんを合わせていいのか? まぁいい。オレ知らね。
フィーはお留守番である。
一緒に行くと駄々をこねていたが、
父が私を一人にしないでくれとばかりに娘に泣きついていた。
いや、比喩であるが。
それで渋々本当に不承不承諦めた。
一応危険がないとは言えないから。ま、よかったんじゃないかと。
オレの癒しは失われたが。
「というか、キュルケ、お前なに普通について来てんだよ」
馬車に揺られながら、先の持ったことを口にする。
「いいじゃない。楽しそうなんだもの」
「おい、旅行じゃねぇーんだぞ」
「それにトリステインに行ったことないのよね」
いや、だから旅行じゃねーから。
「ユリアさんいいんですか? ヴァリエールにツェルプストーを会わせて」
「まぁ、いいでしょう。流石にそこまで冷酷とは聞いていません」
あ、そうですか。
「ユリアさんが言うならいいです。おい、キュルケおとなしくしてろよ?」
一応釘をさす
「分かってるって」
絶対わかって無い。目が輝いてる。
もう一度溜息をつく。ホント大丈夫かよ。
馬車に揺られそんなことを考えつつ、行路はラ・ヴァリエール公爵家へ。
速達で会うむねは伝えてあるから、いいかもう。
そう思い目をつむり、何か新しい魔法がないか考え始める。
新しい魔法、要は既存の魔法の発展版である。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ラ・ヴァリエール領に入り、半日馬車で進む。
するとそこには巨大な屋敷が建っていた。ここは城かっつうの。
「ここが、トリステインの名家である、ラ・ヴァリエール家。壮観だ」
「私の家よりも大きいわね。父様に言っとかなくちゃ」
そんなとこで、対抗心を燃やすな。
「何をしているんの、いきますよ」
ユリアさんに言われ歩きだす。
門をくぐると初老の壮年の女性と執事が迎えた。
「ようこそお出で下さいました。私はカリーヌ・デジレ・ド・マイヤールでございます」
「これはお出迎えありがとうございます。
私はユリア・アンニャ・フォン・ザクセスと申します。お初にお目にかかります。
ヴァリエール公爵夫人」
「話は主人と共にしましょう」
そう言いオレとキュルケを一瞥して、踵を返す。
なんだ、あの威圧感。
「ユリアさん。交渉はユリアさんに任せます」
「勿論です」
大事な交渉であるからにガキンチョのオレとキュルケは、
夫人の隣にいた執事の案内のもと、一室に案内される。
「少々お待ちを」
そう言い残し執事が部屋を出て行った。
「なんか……。圧倒されちゃった」
さっきの夫人の一瞥のことを言っているのだろう。
「ああ、あれはなんだ? トリステインの夫人はああなのか?」
「それは…、ちょっとやね」
ちょっとどころではない。
「まぁいいや」
そう言い高そうなソファーに腰を下ろす。
「私たち何やるの?」
「いや、特に何もやらんだろ…。父さんは他の国も見て勉強だ。
とか言ってたが、公爵家だけ見ても勉強にはならんな」
そこで部屋のドアが開く、すると桃色の髪色をした。
姉妹がやってきた。確か……名前は。
「カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。
よろしくね」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。よ、よろしく」
物腰柔らかそうな人と、
若干高飛車な感じをすでに纏わせたオレと同い年ぐらいの子が現れ、
自己紹介をする。ラ・ヴァリエール公爵の娘のようだ。
「自分はレイジ・グスタフ・フォン・ザクセスです。よろしくお願いします」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーです」
オレらも名乗る。キュルケの名前を聞きちっちゃいほうが柳眉を逆立て、
「ツェルプストーですって!?」
大きな声を上げる。
「まぁ、ルイズ。家名だけで人を判断してはいけませんよ」
その声を聞きカトレアさんがルイズを宥める。
「……それで、ツェルプストーがなんでいるのよ」
「私が、このレイジの……ザクセスの家にちょうどいたからよ」
さも当然だとキュルケはいい返す。当然ではない。
「ふーん。なに? あんたたち許婚か何か?」
「いんや、違う。ただこいつの両親が仕事に出ていないからオレの家にいただけだ」
「そうそう。私は人の一番はとらないわ」
「まぁ仲がよろしいわね」
そこでカトレアさんが食いつく。
「まぁ、わるくはないな。わるかったら付いてきてないだろうし」
「私もレイジこと好きよ」
「それは望外の喜びだ。大体”も”ってなんだよ」
「あら、ちがくて?」
「ま、好きか嫌いかでいえば好きだな」
そこでカトレアさんがコロコロ笑って、ルイズが真っ赤に顔を染めているのがわかった。
「なななな何言ってるのよ!! あなたたち!!」
「そう怒鳴りなさんな。これはただのコミュニケーションさ」
な、といいキュルケにふる。
「そうね。週一位でこのやり取りをするわね。まぁほぼ毎日フィーネとあなたでやってるけど」
「そうだっけ?」
「そうよ」
そこでカトレアさんが疑問を挟む。
「フィーネちゃんと言う子は?」
「それなら、オレの……なんだろ? 妹……でもないし」
うーんと首をひねる。
「レイジの腹違いの兄妹よ」
「あら、そうなの。今日は?」
「今回は家で留守番。
父上が親バカで、フィー大好き過ぎてたまにオレにあたってくるから、
堪ったもんじゃないよ。トライアングルスペルを放ってくるからな」
「まぁ」
「トライアングル……」
「けどあなたも、最近は返り討ちで捕縛ができるようになったじゃない。『プリズン』って魔法」
オリジナルもクソもない。
「いや、それまでは超必死こいて逃げてたからね?『プリズン』だって土メイジなら誰でもできるだろ。ただ牢屋の形にして錬金で鉄に変えるだけだ」
だがそれが難しいんじゃない。動いてる相手を捉えるのは。というキュルケ。
「レイジ君は土メイジなの?」
この質問に答えたのはオレでなくキュルケ。
「いいえ、こいつったら、全系統が扱えるのよ」
「おい、勝手に言うなよ」
「全系統が使えるなんてすごいわね。」
「全系統!?」
ヴァリアール姉妹は同時に驚く。
「え、いや、まぁ、一応は」
「一応じゃないでしょ。全部ライン以上のくせして」
どんどんオレの情報をばらしていくキュルケ、こいつ楽しんでやがる。
「お前も火はラインだろ」
無駄な争いが勃発しそうなときに、
ヴァリエール公爵夫人が部屋に入ってきて、オレを見るなり。
「あなた、ランクは?」
と、のたまう。
「え? ……か、風のラインです」
ははは、と乾いた笑いと共に虚偽を言う。
「なるほど、嘘はいけませんよ。先の話は聞こえておりました」
一瞬で嘘を見抜き、嘘は極刑とばかりの眼光でオレを見据える。
てか、結構大声だったのか、気付かなかった。
オレが乾いた笑みのまま固まっていると、
「レイジ……、ごめんなさい」
なぜかユリアさんが来て謝られた。おい、なんだこの状況。
「そういうことなので、少し手合わせをしましょう」
そう言い踵を返す公爵夫人。おい!! どういうわけだ!!
「ちょ!! 待って下さい!! なぜこんな急展開に!!!」
「レイジ、理由としては、ゲルマニア……もといツェルプストーには手を貸したくない。
どうしても手を借りたければ、儂を納得させて見せろ。ですって」
納得ってなんだ? なぜそれでオレが戦う理由になるんだ!?
ガキのオレと戦って何になるんだよ……。
「納得する簡単な条件は公爵との決闘で勝ったら、だから。
一番魔法が使えるあなたにやってもらうことになったの」
「なるほど………。なるほど」
ぜ、全然納得できねぇー!!主にオレが。
「がんばってね、レイジ」
そういい爽やかな笑顔と共に肩をポンポン叩きサムズアップするキュルケ。
「気の毒に…」「ちぃねえさま、お母さまじゃないだけましよ」
そう憐憫の目で見る姉妹。ここでオレは気づく。
オレを行かせた理由に。このことを予期していたのか……父よ。
いや謀られたのかもしれない。