ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第二十三話 フィーとフィル

ワイバーン退治が終わった日の翌日。

 

昨日とほぼ同時刻であろう時間にオレは起床し、三兄弟を待つことにした。

 

フィルはオレの少し前には起きていた模様である。

 

二人で村長の家の玄関先で待つこと数分。

 

三兄弟が姿を現す。やはり、金にはしっかりしている。

 

パクるかもとの心配はいらぬ心配のようであった。

 

「ボウズ。いや、レイジ。報酬の300の金だ」

 

そう言いダイヤはパンパンに膨れた袋をオレに向けて放り投げる。

 

それをたたらは踏まずに両手で受け取る。袋の口を緩め中を確認。

 

300枚あるだろうの新金貨ではない金貨がこれでもかと袋の中には溢れかえっていた。

 

「うひょ~、こんなに金貨あんの見たことないかも」

 

いや、白毛精霊勲章の年金はあるのだが。

 

確か年に200エキューだから、それよりも稼いだわけだ。

 

一日にして大金を掴んでしまった。

 

しかし、父には言えないな。何で得たのか聞かれるし。

 

「確かに渡したぞ。ではな」

 

金を渡したことで役目を終えたダイヤが身をひるがえしてこの場を後にする。

 

それに続き、サファイアも踵を返してダイヤに追従する。

 

ルビーはこっちにニヤッと笑い、

 

「またどこかで会うかもな」

 

「そりゃ、どっかであうだろ」

 

そう言っただけでルビーはほか二人の後を追っていった。

 

「レイジ、そのお金は何に使うんだい?」

 

「いんや、決めてないな」

 

「貯めとくのかい?」

 

それもいい。金はあって困ることはない。しかし、

 

「そうだな、200エキュー位この村に寄付でもしてやるか」

 

かなり上から目線だが、やるんだからいいだろう。

 

「そうかい、君がいいならそれでいいさ。

ボクもこの二日でいろいろ感じられたからいい経験になったから」

 

「ま、金は肥料ってやつといっしょだな」

 

そこでフィルは首をかしげる。

 

「肥料? なぜだい?」

 

「肥料ってのはばらまくと栄養になるが、一か所に固めると臭いだろ?

 そういうことだ」

 

そこで合点がいったのか頷きをオレに返す。

 

「なるほどね」

 

「それに、ヴィッツ領は豊かじゃなかった。

 最近は炭鉱がありコークスがとれるが、それも一年もたたない。

 子爵であんな大金用意できないね。大方、先見の目ってやつで見た。

 投資対象だから今回金を出したわけだ。皇帝に納める金額を改ざんしていてな」

 

だから、正規軍には頼まないんだ。そう付け加える。

 

「確かに、こんな辺鄙なところの領主が、

 しかも普通の子爵が大金をパッと出せる様なものじゃないね。

 けど、ここはゲルマニア、金で地位などを買ったっていう可能性は?」

 

「そりゃないね。ヴィッツ領は、近年と言っても三世代くらい前から全く変わらないし、

 なにより、古い貴族だ」

 

「まぁそれなら、納得はいく理由かな」

 

まぁ、こんなどうせ俺たちが介入できない問題を考察しても意味はない。

 

ここでこの話切り上げ、村長に200エキューを村のためにでも使ってくれと言い。

 

残りは自分が持って帰ることにする。100エキューになり、かなり袋の重量が軽くなる。

 

「村民の心も羽が生えたようだが、オレの報酬も羽が生えたな」

 

「そうだね。そろそろ、帰ろうか。家に着いたら日が暮れてしまうよ」

 

オレは自転車を飛ばせばそんな心配はないがフィルを一人にして帰らせるなんてことは

 

自称紳士であるオレには無理なので、しょうがないからフィルの馬の速度に合わせる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ザクセス家の家に着いたのは日がとっぷり暮れてしまった後のことである。

 

やはり、何時間も自転車をこぐのはつらいものがある。

 

途中で舗装もされていないのに両手放し運転の練習をしてしまった。

 

そのおかげか、街道くらいならば手を離すことができるようになった。

 

実にくだらないスキルがまたオレに追加されてしまった。

 

門兵に声をかけ中に入れてもらい家の中に入りフィルと別れ、

 

風呂で一服して着替えベットへ直行。

 

そのまま倒れこみ睡魔に身をゆだね、意識を手放す。

 

 

 

翌日起きたのは太陽が天高く昇ろうかとするころ合い。

 

完全にダメ人間の活動開始時刻である。

 

まぁまずは帰ったことを父に報告し、フィーにも報告をして日課にもどろうか。

 

そう思考を巡らせていると、

 

「帰ったか、レイジ」

 

「父さん。昨晩に帰りました」

 

「そうか、フィルに聞いたよ。ヴィッツはどうだった」

 

「ええ、炭鉱がありそこでコークス、鋼鉄の原料を採掘していました。

 

これからの一大産業になってくるやもしれません」

 

コークスと言えば様々なものに活用される。

 

時代が進めば活用法が多岐にわたることだろう。

 

「なるほど、うちの領には山等はないからな。残念だ」

 

「ええ、まったくです。」

 

「よし、ティナにも帰ったことは伝えておけよ。あいつはお前に大層立腹だ」

 

そう言い残し父はオレの部屋を退去していき、

 

入れ替わりざまに小さな金が飛び込んできてオレにタックルをかます。

 

たたらを踏みつつも倒れるのを堪え、

 

「おい、危ないじゃないかフィー」

 

そう言いつつもタックルから抱きついた体勢になったフィーの頭を撫ぜる。

 

「レイちゃん。なんでかってに行っちゃうの?わたしに言ってくれればよかったのに」

 

「う、い、いや。それは、フィーにはつらいかと思って」

 

「もぉう。次からはちゃんとわたしにも言ってよ?

 フィルお姉ちゃんはいっしょだったのに」

 

「悪かったって、次から何かあるときはフィーに必ず一言言ってからにするから。

 そんな顔スンナって。なんか言うこと聞いてやるから。

 それにフィルは勝手についてきたんだ。オレは何も言ってない」

 

臨時収入も入ったことだし。つーか、よく察知できたなフィルの奴。

 

オレの言葉を聞き顔を笑顔に瞬時にシフトして、

 

「ほんと!?じゃあね。なににしようかな」

 

そう言いあれやこれやと言いながら考え始め出すフィー。

 

「フィー別に今決めなくてもオレは逃げやしないさ。それよりご飯が」

 

「あ、そうだね。もうそろそろ昼御飯だしね」

 

そう元気いっぱいオレの手を引き食堂に手を引いていくフィー。

 

その後頭部を見つつ、やはりフィーに何も言わなかったのは失敗だったな。

 

髪の毛はうれしそうに弾んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

昼食をレイジ達が食べ終わるとレイジはいつものように飽きずに、

 

今日もせっせと修行に勤しむ。勉学の方はいいのかと聞かれるが、

 

レイジにとってこの時代程度の勉強、

 

算術などはただのクイズなので取るに足らないものである。

 

フィーはフィーでレイジに分からないこと+αで様々な無駄知識を仕込まれている。

 

ただ単にレイジが話したかっただけなのだが、

 

フィーはその話がお気に入りの用で、ちゃんと聞き入っている。

 

フィルはフィルで小さなころからのたゆまぬ努力のおかげで、勉学は問題はない。

 

レイジにとって新たな知識として吸収されたのが、貴族としての振る舞いである。

 

しかし、それも幼年のときに全て覚えてしまっており、今更やるものでもない。

 

ゆえに、レイジは一日のタイムテーブルを自分の好きなように決めることができる。

 

フィーもフィルも似たようなものだが。

 

しかし、レイジがアホみたいに修練に励む姿を見つつ、

 

木陰で二人は本を読んだり、女の子の話に花を咲かせるのである。

 

「お姉ちゃんとレイちゃんは三日前からどこ行ってたの?」

 

フィーが自身がついて行っていない出来事について聞く。

 

フィルは本にしおりをはさみこんで閉じて、

 

「ヴィッツ領のコーク村に行ってきたのさ」

 

「何しに?」

 

そこでフィルはニヤッと笑い。

 

「ワイバーン退治さ」

 

レイジからフィー他には言うなと言われていたにもかかわらず、

 

フィルはフィーに対してなんのてらいもなくばらす。

 

「へぇ~。ワイバーンって竜種の?」

 

それを聞いたフィーも特に驚いたふうに聞かずにワイバーンについて聞く。

 

「ああ、竜種の中でも下位の種族だけどね」

 

「ふーん。レイちゃんは倒したの?」

 

「そうだね、3匹ほど倒したかな」

 

「どんなふうに!?」

 

フィーはレイジのことが大好きである。

 

なのでレイジが活躍する話を聞きたがる。

 

フィルもそれは二年前の討伐隊の話を、

 

根掘り葉掘り聞かれたことにより感じていた。

 

だから、フィー対してばらしたのである。

 

それにフィーは流布はしないことは知っているということもある。

 

「そうだね。今回行った目的はレイジとしては、

 実戦でオリジナル魔法が有効的に使用できるか否かを測りに行ったと言っていた」

 

まぁ要するに実験だ。そう付け加える。

 

命を使う実験だったことは否定できないが、

 

野生の生物であり、炭鉱付近に巣なんぞ作ってしまったのが運のつきである。

 

人権もとい竜権なんぞ存在しない。

 

もっとも人権も存在は薄い、ないといっても過言ではない。

 

人権の基準など貴族の尺度が基準であるからに平民の人権なんぞ保証はされていない。

 

「それで、それで?」

 

フィーはそんな些細なことを気にせず先を促す。

 

「それで、レイジは、新魔法『マテリアルエア』っていう魔法を使ったわけだ。

 『風』の三乗スペルらしい。これが面白いんだ。

 風の空気を固めるってところを利用し、空中で自身の足場を作りだす。

 そこを蹴って跳ぶわけだ。しかも、『ウィンドアクセル』も併用してね。

 こんなの魔法されたら当てられないよ。縦横無尽に空を駆け抜けていたね」

 

「おお~!すごい!!今度教えてもらおうかな」

 

そう目を輝かせフィーはフィルの話に聞き入る。

 

「その、自身が作ったオリジナル魔法を並列で使用し、

 空を駆けワイバーンを一呼吸で二匹ブレイドで切り裂いたわけだ。

 もう一匹はリーダーでちょっとした攻防の後にブレイド切っておしまい」

 

「レイちゃんすごいな~。わたしと同い年なのに」

 

そこでフィーが羨望のまなざしをレイジに向ける。

 

「まぁレイジはすごいだろう。規格外としか言いようがないよ。

 あんな子供何百年に一人とかの確立だろうね。

 けど、フィー、君も何年かに一人の逸材さ」

 

そんなフィーの声をフィルは肯定しつつ、フィーも慰め、頭をなでる。

 

金髪の美少女二人が寄り添い片方は頭をなでている。なかなか絵になる画である。

 

どちらも金髪であり、知らない人が見たならば確実に姉妹と考えてしまうはずである。

 

「そうかな?わたしもそんなにすごいかな」

 

「そうさ、君はその年でトライアングルなんだ。もっと誇るべきだ。

 それにレイジとは比べてはいけない。彼は私たちとは何か違うからね」

 

そう口にしつつ、貴族らしからぬ多々の発言を思い出す。

 

「そうだね。レイちゃんは物知りだもんね」

 

そこで一泊置き、フィーはフィルに向き直り、

 

「フィルお姉ちゃんはレイちゃんが好きなんだよね?」

 

そう無邪気に聞く。その問いの意味はなんだろう。

 

家族としてか、はたまた異性としてか。その思考に一瞬の停滞。

 

「……そうだね。ボクはレイジが好きだよ」

 

「そうだよね。

 なんだか、今日のお姉ちゃんは前と違う感じでレイちゃんを見てるから」

 

そんな顔に出ていたかと思いつつ、

 

「そうかな?自分では気づかないもんだな」

 

そう自嘲気味に曖昧な笑みを浮かべる。

 

「そうそう。乙女だよ。乙女の勘だよ」

 

そう純粋無垢に笑みを浮かべるフィー。

 

「フィーもレイジが好きなんだよね?」

 

フィルも分かり切ったこととはいえ、お返しに聞き返す。

 

「そうだよ。大好き!!」

 

そう声を張って一切の淀みなく言いきる。

 

そこがフィルには少し羨ましかった。そして純粋な疑問が口をつく。

 

「なぜだい?」

 

「だって、強いし、頭も良い! 何より、わたしを好いてくれてるのがわかるから」

 

その言葉を聞きフィルはまた一瞬固まる。

 

“私を好いてくれているのがわかる”

 

この言葉は前にレイジからも聞いたことがある。

 

この家に来たばかりのころにフィーとの仲の良さが気になり聞いてみたのだ。

 

“フィーは好きか”と。

 

答えは勿論イエス。よどみも何もなく言い切った。

 

さらに理由を追求したら、フィーについての様々な素晴らしい個所を熱く語り。

 

最後に“オレを好いてくれるのがわかる。ま、自惚れかもしれんがな”

 

そう言った。そんな信頼関係がうらやましかった。

 

嘘でできた自身に信頼などあるはずもないのだから。

 

だが、その後にレイジは“ま、フィルも好きだぜ?”

 

そうニヤリと冗談めかしく言い放った時には、

 

驚きで頭の中が真っ白になってしまったものである。

 

それから気になり始めたのかもしれない。あの貴族らしからぬ言動。

 

しかし、民のことはしっかり思うことを忘れていない。

 

そんな彼を。そう思考を巡らせる。

 

「なるほど、レイジは非のうちどころがないね。

 やっぱりボクはレイジが好きなようだ」

 

そう言い、最後はポツリとつぶやく。そんなことは伝えられないとわかっていても…。

 

「だよね~」

 

そんなフィルの返答を聞き、フィーは上機嫌になりつつ、はっとなり、フィルに対して、

 

「けど、レイちゃんは渡さないよ?」

 

「それは残念だ。しかし、一夫多妻は認められているよ?」

 

「その場合はわたしが本妻ね」

 

「わかってるよ」

 

フィーの微笑ましさに笑いかけつつ、返答をする。

 

そこに一匹の梟が足に手紙をくくりつけ飛んでくる。

 

フィルの前に着地する。

 

フィルそれを、手紙を梟の足から取りざっと読み、内容を記憶する。

 

「それ誰からの手紙?」

 

フィーが気になったのかフィルに聞く。レイジは剣を少し遠くで振りまわしている。

 

「ああ、これは昔の友達さ」

 

フィルはそう返し、手紙をきれいに折りたたみポケットにしまいこむ。

 

そして、

 

「ボクたちも修練でもしようか」

 

そう言い腰を上げる。それにならいフィーも起立。庭の真ん中の方へと歩んでいく。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

とある邸宅に一通の手紙が届く。

 

内容は

 

≪一年後に全ての準備が整う。≫

 

そう短く一言だけ書かれていた。

 

その手紙を持った壮年の男性は、長方形の長机に座った、

 

きらびやかな衣装に身を包んだ貴族に対して声を発する。

 

「今、手紙が来た。一年後が我らリベリオン決起のときである」

 

その声に各々は声を上げる。

 

「一年だ。これまでの十余年に比べればたやすい時間。

 

待とうではないか。今は雌伏のときである」

 

そう壮年の男は口を弧の字に歪ませる。それに伴い他の貴族も口元が歪む。

 

「後一年、後一年で、皇帝は……死ぬ」




なんだか、ダークな感じになってきたようなそうでないような。
リベリオンの目的が明らかになったわけです。
いろいろ、しっかり伏線張って回収できたらいいです。
こ、細かいところは気にしないでください(笑)

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