ゼロの使い魔で転生記 作:鴉鷺
ベルトから武闘会のことについて聞き、フィーとフィルも武闘会に行くことになった。
ホントの目的は帝都でしか売っていないスイートロールを食べることである。
取り寄せればいいのにと言ったのだが、現地で食べるのがいいという解答により、
オレの提案もとい愚痴は流されることになった。
女の子が甘いモノ好きなのは万国共通なのだろうか?
このままだとキュルケも誘いかねない勢いである。
父とユリアさんは仕事で来れないらしい。
あとはオレがいるから大丈夫だろうという謎の期待をオレに授けて。
オレはまだ九のガキなんだが…。そこまでの信用はうれしいが、なぜか納得いかない。
お付きの者は着いてくるが。
「イリス、なんで父さんたちはオレをあんなに信用してると思う?」
「それはレイジ様が早熟でいて、なおかつ魔法の腕もあり、
大人のような振る舞いができるからなのではないでしょうか」
「そんなもんなのか?一応貴族の、伯爵家の子女だぞ。あっさりしすぎだろ」
「これはあくまで私の予想でございますゆえ、
詳しいことはグスタフ様に伺ってください」
「ま、そうか」
付きで来た侍女であるイリアに父の思惑を聞く。
「レイちゃん。そんなこといいじゃない。
そんなことよりスイートロールの話をしようよ」
「フィー、それはベルトの話を聞いてから何回目なんだよ」
「スイートロールは――」
聞いちゃいない。フィーの話を右から左に聞き流しつつ相槌を適度に打つ。
フィルもフィーと話している。
一つ深く溜息を吐き前方に見える帝都の影を見つめる。
「武闘会は明日から開催されるから、今日の午後はフリーだな」
明日から帝都の特設ステージで開催される武闘会であるが、
今年は二日間で行うようである。
「そうなの?じゃ、早速スイートロールのお店に行こうよ。ね、フィルお姉ちゃん」
そういいフィーはフィルの手を握り大通りを歩きだす。
オレもその後に続いて歩き出す。イリアは前の二人の後に追従している。
歩くこと数分、
なにやら商店が立ち並ぶ中一角だけ華やかな店に華美された人たちがいるところを発見。
見るからに自分は貴族ですと言っている格好である。
噂の店、スイートロールとやらの店なのだろう。
明日が武闘会ともあってかかなりの貴族の子女でごった返している。
パッと見オレ達と同世代のガキンチョもちらほら見受けられる。
「あ、あそこだね!」
店を発見でき、嬉しさ指数が上昇したフィーはフィルの手をぐいぐい引っ張っていく。
「フィー、落着きなよ。スイートロールは逃げないよ」
売り切れにはなるかもしれないがな…。などと言う意地悪い発言はしない。
フィーにそんなこと言えない。
「落ち着けフィー、みんな並んでるんだ。順番に買えばいいじゃないか」
「わかった」
そういいフィーは列の最後尾であろう場所にフィルを引き連れていく。
店の名前はフルース・ゴエ。
そして看板には、なぜかドヤ顔を決めるここのシェフであろう男の人の絵と、
スイートロールと思しきものが描かれている。
価格は一つ1エキューである。
ぼろ儲けじゃねか。まぁ砂糖は高価なものなのだが、
この値段は貴族の子女とか大商人とかの子供が買う値段だわな。
最後に注意書きとしてお一人様一つまでと書かれていた。
オレは並ばずに他の商店を冷やかして待つこと数十分。
手にスイートロールの入れ物を持ち顔に花を咲かせたフィーと、
心なしか本当にうれしそうな顔をしたフィルと、
なぜかその手にスイートロールを持ったイリス。
さらにどこから現れたかこれまたスイートロールと持ったキュルケが出現した。
「フィー、フィル買えたのか?」
いや、まぁ手に持っているんだから買えたんだろうが。
「ああ、買えたよ。なかなか、大きいものなんだね」
フィルの返答。確かにパッと見20サントほどある。
「へぇー、宿屋で食うのか?」
「そうだよ」
フィーが返答。
「なら、宿にもどるか」
そう言いオレは踵を返しつつ宿屋に向かおうとする。
「ちょっとレイジなに私を無視してるのよ!」
そこまで完全スルーを決め込もうとしたキュルケは突如声を上げる。
「おっと、お嬢さんこれは失礼。どちらのかたで?」
さも初対面で今まで気づいてなかったようにふるまう。意味は特にない。
「何言ってるのよ」
半眼でオレを睨むキュルケに
「で、キュルケはどうしてここに?」
話が進まないのでオレが折れてやる。
「決まってるじゃない。スイートロールを買いによ」
そうピシリと言い切る。
「そんだけか?」
「キュルケは、武闘会も見に来たんだって~」
質問に答えたのはキュルケではなくフィー。
「そうなの、ベルトさんが出るって聞いてね」
キュルケは無駄に居候していた時期に数度ベルトとあっている。
いやそんなことより、
「なんでそんなこと知ってんだよ」
「あらやだ、小父さまが教えて下さったのよ?」
「そういえば、父もそんなこと言ってたかな。キュルケ嬢にも知らせてやろうって」
そうすか。
「ふーん。で、一日早く来てスイートロールを買いに来たわけか」
「だって、今話題のお菓子よ?これを逃がす手はないわよ。ねぇ~」
「ねぇ~。」
フィーと一緒に笑いあうキュルケ、それと微笑ましい光景だという感じに見るフィル。
オレは若干の呆れを顔に張り付ける。また騒がしくなるな……。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもんだ。
これで人海戦術では勝つことは不可能である。オレの意見は通ることはまれである。
フィーの裏切りがあれば通るんだが。
まぁ特に用事もないので気にしない。この三人娘に合わせる。
「まぁいい。早く宿に帰るぞ。キュルケは宿決まってんのか?」
「いえ、ちょうどよかったと思ってね」
「何がちょうどだ、分かっててやってんだろ。つーか、侍女はどうしたんだよ」
「侍女はいるわよ~」
「どこにだよ」
「家よ」
「それはいるとは言わん。お前の父は放任主義なのか?」
「いいえ、レイジが守ってくれるって信じてるのよ」
「オレはそこまで万能じゃない。全知全能じゃないっつうの」
そこで会話のドッチボールをやめ、
おもいっきり深いため息をこれ見よがしにしてやり、
「わーったよ。ならお前はこれ着けてろよ。ついでにフィーとフィルの分もある」
そう言いつつ明日くらいにベルトと共に渡そうと思っていたペンダントを渡す。
ついでにイリスの分も。
フィーには二個目なのだが一つ目はオレが回収して、
この新たなペンダントに生まれ変わったのだ。
「なにこれ?」
フィーには説明済みである。フィルはフィーに聞いたかもしれんが、
「簡単に言うならば風石をマジックアイテム化したものだ」
「へぇーどんな?」
「効果は単純、風石の力を使い『エアシールド』を展開するんだ」
回数制限ありだ。と付け加える。
「すごいじゃない。因みにどれくらい耐えれるの?」
「そうだな。今のオレの『エアシールド』より若干強度は下がるが、
ラインの魔法なら完全に防げると思うね」
「それはすごいわね。これで数回とはいえ『エアシールド』が発動するなんて」
「ついでに言うとペンダントの周囲三メイル位に、
魔法の反応があった場合なども自動で発動すると思う」
「レイジ、君はまた阿呆なことをしてたんだね」
オレのマジックアイテムにケチをつけるとは。
「なんだ、阿呆と罵るのならオレの努力の結晶を返したまえよ」
「いや、君に阿呆はほめ言葉さ」
そう大仰に肩をすくめて見せるフィル。
「そうかい。まぁいい。腹減ったし帰るぞ。今度こそ」
そう言い残しオレはズンズン大通りを闊歩していく。
宿に着くころには夕食時になっていた。
夕食を食べ部屋に入る。二つ部屋をとりオレ一人と女子の区分わけである。
「レイちゃんちょっと来て~」
フィーに呼ばれ女子部屋へと潜入する。
スイートロールが一つでてそれをイリスが切り分けていた。
「オレにもくれるのか?」
若干の期待を込めて質問をする。興味がないというのは嘘になる。
「そそ。お一つどうぞ」
キュルケがスイートロールを切り分けたものをオレに渡す。
一口かじる。次の瞬間砂糖の確かな甘みとその甘みがすっきりと舌に残らず消えていく。
そして、砂糖に包まれた生地のしっとりとして、
それでいてふわふわな感じがたまらない。
まさに、スイートレボリューション……!!
「うまいな」
そんな言葉が自然とでてしまった。
「くっ! オレの負けだ」
完敗である。正直そんなだと思ってました。やるな、フルース・ゴエ。
オレのたまにつくる洋菓子とは比べ物にならんうまさだ…。
そんなオレをみて
「レイジは何に負けたのかしら」
「いや、分からないな」
「きっと自分にだよ」
「流石ティナ様分かっていらっしゃる」
そうしきりに頷くイリス。お前はオレの何を知ってるんだよ。
そう突っ込みたくなる光景だった。
因みにフルースとはドイツ語で川という意味です。