ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

35 / 49
第三十四話 新たな

 反乱が鎮められてから数日後。レイジ・フォン・ザクセスは絞首刑場に来ていた。今日の南中する時刻に元侯爵であるファインド・アルベルト・フォン・ゼルギウスは公開処刑される。あと四半刻ほどだろう。皇帝の首を狙ったのだ。死刑が確定しているのも当然といえば当然だ。レイジは自分の手で引導を渡すことができないことで、少々複雑な気持ちになっていた。

 元侯爵の死刑が執行された後、既に修繕され終わった謁見の間にて、レイジの皇帝を助けるという活躍。その後の平原での戦いに伴い、リッターの称号を与える式が催されることになっている。白毛精霊勲章は既に受け取ってしまっていることと、皇帝の意向によってリッターの称号を任命されることとなったのだ。

 レイジとしてはそれほど嬉しいことではない。通常ならば欣喜雀躍狂喜乱舞するほど喜んだかもしれない。しかしレイジにとって大きな存在が失くなったのだ。喜ぶべきところなのだが素直に喜びの気持ちを表せるはずもない。

 元侯爵のそばに付き従っていた夫人――スキルニルはレイジが平原での戦闘に駆けていった後、少ししてからバラバラに崩れ落ちてしまった。ルクスの魔力供給が立たれてしまったのが原因ではないかとレイジは考えている。もとは彼の用意したスキルニルなのだから。

 とりとめもないことをレイジが考えていると周りには帝都を騒がせた者を一目みようと都民が集まってきた。この娯楽の少ない時代なのだ。少々の刺激が欲しくなるのだろう。レイジも自身の指定されている場所に着席する。

 その数分後にアルブレヒト3世が声を発した。

 

「連れてこい」

 

 すると元侯爵は憔悴しきった顔で、どことも見ぬ焦点の合わない視線を迷わせながら、兵士に連れられ歩いてきて、絞首台に上がっていく。

 

「この者は我の首を取ろうと画策した国家的な反逆者であり、此度の帝都を混乱に陥れた張本人だ」

 

 大きな声ではない。しかし皇帝の声は集まった民衆全てに届いているだろうと感じさせるほどの力がこもっていた。皇帝の声明により事実を知った民衆は口々に元侯爵を罵倒する言葉を投げつける。

 レイジはこれがもし元侯爵が勝っていたならば、逆の立場になっていただろうと考えた。民衆とは実に単純な生き物なのだ。上の意見を鵜呑みにする。

 それはそうだ。そうなるような印象操作を上がするからだ。一概に民衆が須らく能無しとは断じきれない。いつの時代も為政者は自身の良いように情報を隠蔽し、捏造する。

 レイジは自分の考えを反芻して自嘲した。

 レイジの考え事などいざ知らず、元侯爵の頭に麻でできた袋が肩の位置までかぶせられる。そしてその首に縄がかけられる。刑が執行される。元侯爵の立っていた場所は下に開き、彼を中空に吊るす。首の骨が折れる音がレイジの鼓膜を揺らす。風のメイジとしての特徴として、気配や音を察知しやすくなっていることに原因がある。横の貴族たちは特にリアクションを示さない。レイジは若干しかめる程度の反応をした。既に元侯爵の体は力なく吊るされていた。

 

 時は過ぎ場所は謁見の間に移る。そこではレイジのリッター叙任式が執り行われていた。その場には先日呼び集められた有力貴族が左右に並んでおり、中にはツェルプストー辺境伯の姿も見受けられる。レイジは左右に居並ぶ諸々の貴族に緊張もせずに、堂々と闊歩する。そして皇帝の前で腰の杖――儀礼用として新しく買った長い杖を抜き、跪いて杖を掲げる。その杖を皇帝が受け取り、レイジの肩に置くように添え、騎士叙勲の文句を発する。

 

「我、ゲルマニア帝国皇帝アルブレヒト3世、この者に祝福と騎士たる資格を与えんとす。高潔な魂の持ち主よ、比類なき勇を誇るものよ、並ぶものなき聡し者よ。汝、始祖と我と祖国に揺るがぬ忠誠を誓うか」

 

「誓います」

 

 レイジは淀みなくはっきりと答えを返す。

 

「ならば始祖ブリミルの御名において、汝を騎士に叙する」

 

 その言葉のあとに左右の肩を杖で二度叩く。その瞬間からレイジは一人の騎士――リッターとなった。

 

 叙勲式の後の会食の際にアルブレヒト3世はレイジに話しかけた。

 

「今回は苦労をかけたな」

 

「とんでもございません。ゲルマニアに属する貴族として当然のことを、したまでです」

 

レイジは少々恐縮しながら返答をした。思ってもないことだ。

 

「そうだな。レイジ・フォン・ザクセス貴殿に二つ名を授けよう。あの強力無比な魔法に因み「雷鑓」という二つ名を授ける」

 

 雷鑓、『ブリューナク』を見たままの、なんともひねりのない二つ名だがそこがレイジとしては気に入った。

 

「はっ! ありがたく受け取らせていただきます」

 

 そう言ってレイジは頭を垂れた。

 

「一つ宜しいでしょうか」

 

「申してみよ」

 

「私がリッターであることの公表をしないで欲しいのです」

 

 レイジがリッターになったことは現在さきの叙勲式にて参列したものしか知らないことだ。しかし明日には大々的に発表しようとしていた。なにせ最年少リッターの誕生なのだから。しかしレイジとしては特に目立ちたいという願望もないので内々で済ませて欲しかったのだ。広まればいらぬ嫉妬を買うことが確定しているのだ。

 

「なぜだ」

 

「いらぬ妬み嫉みを受けたくないからにございます」

 

「ふむ。まあいいだろう。お前に助けられた私だ。それくらいの便宜ははかってやろう」

 

 アルブレヒト3世は手を叩き、今日の叙勲式でリッターとなったものの名は伏せるようにという命を下した。よくも抽象的な理由で頼みをきいたものである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 皇帝への反乱。帝都への侵攻の騒ぎの数ヵ月後。レイジの頼みはしかと受け止められ、あの日の叙勲式での叙勲者は噂によると謎のままだ。レイジはその日から変わらず鍛錬を続けていた。

 もう大切なひとを失うわけにはいかない。

 その一心でレイジは自分を鍛え続けた。しかし彼はまだ子供で体の出来上がっていない子供が無理を出来るはずもないことは、レイジ自身理解している。いくら魔法によって若干の筋力疲労が回復するとしても無理はできない。焦る気持ちを抑えながらも限界ギリギリまで鍛える。レイジにとって初めての喪失は心を深く抉るものとなったのだ。

 レイジはスクエアクラスになった『ウインドジャベリン』を『ブリューナク』と命名した。もともとのレイジの精神力が規格外かつ桁違いで、精神力の扱いが上手いにもかかわらず、この魔法はそんなことはお構いなしに喰らい尽くしていく。『ブリューナク』は生成時に魔力を大幅に消費し、さらには投擲する際にも大きく魔力を消費するかなり、燃費の悪い魔法となっている。しかし威力は絶大であることには変わりはない。それに投擲せずに槍として振るうことも可能なのだ。投擲により威力が上がるが、通常の槍として扱った際でも相当な威力の魔法となる。

 現在のレイジは三本までなら生成、投擲を行える。射程は投擲された雷鑓の精神力が熱、光、音などのエネルギーロスによって尽きるまでである。威力もそれに伴って落ちてくる。レイジが投擲したら最後、超音速で一直線に突き進む。超音速の影響により周りにはソニックブームが形成され、見た目よりもかなり大きな点として攻撃する。

 この魔法を皇帝は利用しようとした。そこでスクエアメイジに教えるようレイジに命令したのだ。レイジは渋々この魔法のスペルを教えたはいいが、結局『ブリューナク』という雷鑓にできるものはいなかった。みな最初の生成段階で精神力を使い果たしてしまい、雷鑓の姿を顕現させることすらできなかったからだ。あと一歩のところまでなら数名のメイジが到達した。

 結局、スクエアメイジであっても失敗する魔法であると皇帝は諦め、完全にレイジの固有魔法となっている。

 レイジの叙勲式の頼みを聞いたのは『ブリューナク』のスペルを聞き出すためだったわけだ。それも結局は徒労として終わったのだが。

 下位互換の『ウインドジャベリン』の存在は聞かれていないのでレイジは伏せておいた。こんな戦術戦略魔法が世に蔓延ったならばどうなるか、考えただけでゾッとしたのだ。

 といってもレイジ並みの空気の圧縮と速度を出すとなると『ウインドジャベリン』であっても、スクエアメイジの精神力を使い果たすことになる。

 

 レイジはここ数ヵ月猛特訓といっていいほどに修行の密度を上げた。そんな彼を一番心配していたのはフィーネだろう。日が落ち、あたりが暗くなるまでレイジは自分を鍛えることに没頭した。フィーネはレイジと違いまだ精神が子供だ。遊びたい盛りなのだ。フィーネだってフィルグルックが亡くなってからは、かなりの落ち込み具合だった。姉と慕った彼女の死を受け入れるのには時間がかかった。しかしレイジと違い時間が心の傷を癒した。逆により一層レイジにべったりくっついている。時たま、ふらりと現れるキュルケに相手をしてもらってもいる。キュルケがレイジに対してリッターになったと言わないことを鑑みるに、ツェルプストー辺境伯は皇帝の命令に従っていることがわかる。

 レイジはフィーネと自分の家族を守るために強くなるとフィルグルックの墓前に一人誓った。だが焦る気持ちが先に行き過ぎている。体が出来上がっていないのだから結局は劇的な成長はほぼ起こらない。

 レイジはある考えを最近持つようになった。それがわかったのかフィーネはレイジに質問をした。

 

「レイちゃんどうしたの?」

 

 フィーネにとっては無二の兄妹だ。

 

「どうもしてないけど。どうして?」

 

 レイジはいつものように優しく答える。

 

「レイちゃん何処かへ行こうとしている」

 

 悲しそうな目で訴えかける。

 

「オレはお前を残して何処へもいかないさ。どこかへ行ったって必ず帰ってくる」

 

 レイジはフィーネにそんな顔をして欲しくはない。だが、何処へ行かないという保証もない。

 

「ほんとう?」

 

 だが何処かへ行ったとしても必ずフィーネのもとに帰る。レイジは気持ちに踏ん切りをつけた。

 

「ああ、オレはお前に嘘は言わない」

 

嘘は言わない。だが多くは語らない。大人はズルい。

 

 

 

「父上」

 

 レイジが父のことを父上と呼称するときは、基本的に他人の目がある場か、かしこまったときに用いる。

 

「なんだ。えらくかしこまって」

 

 レイジの父の執務室でレイジは話を切り出した。

 

「私は国々を見て回りたいと考えています。魔法学院入学までには戻ってきますので、旅をさせてください」

 

 11になろうかという子供が一人で旅などできるはずもない。普通ならばそう言われ却下される。

 

「ティナ、フィーネのことはどうするんだ。あいつはお前にべったりだ。一時の別れとはいえあいつは悲しむぞ」

 

 父グスタフはノーともイエスとも言わずにフィーネについて言及した。

 

「それは承知の上です。しかし私は世界を知り、強くなりたいのです」

 

 レイジは知っている。未曾有の戦いが起きることを。そこで生き残るには強くならねばならない。リッターとなったレイジに関わるなということは無理なのだ。

 

「そうか……お前が初めて私に願ったことだ。可愛い子には旅をさせろという言葉もある。いいだろう、だが条件がある」

 

 グスタフはゆったりとレイジに許可を出した。

 

「なんでしょう」

 

「月に一度でいいから手紙を出せ。フィーネ宛にだ」

 

 レイジは全く予想外な条件で一瞬ほうけてしまった。

 

「……分かりました。月に一度、必ずフィー宛に手紙を出します」

 

「ところでレイジ。あてはあるのか?」

 

 レイジは一応初めにラ・ヴァリエール公爵のもとへ手紙を出す予定だ。ゲルマニアはいつでも見ることができる。トリステインは波乱の舞台だ。しっかりと見ておく必要がある。

 

「ラ・ヴァリエールに少々お世話になろうかと……」

 

 ラ・ヴァリエール公爵家とはアルデルの森にて共闘して魔物を駆逐した仲だ。そしてその共闘の申し込みに行ったのはレイジだった。

 

「なるほど……まずはトリステインからか。ならば私が一筆書いてやろう。なにかわいい息子のためだ」

 

 グスタフはそういうや羽ペンをインクにつけて、紙に文字を書き始めたのだった。

 

 

 それから二週間ほどあとに返答の手紙が帰ってきた。内容を約すと了承とのことだ。

 出発することになった朝。レイジはフィーの部屋に来ていた。今回の旅について納得してもらうためにフィーを説得するためだ。

 

「フィー。わかってくれ。必ず帰ってくる。だから」

 

「どうして、どうしてレイちゃんはそうやって、いつも一人で行こうとするの?」

 

 フィーの言葉はレイジの胸を心理的にえぐる。ぐうの音も出ない。振り返ってみれば確かにレイジは一人で何でもこなして来た。こなせていた。そしてこれからも大抵のことは一人で全て片をつけるに違いない。

 

「フィー……」

 

 フィーの表情は布団にくるまっているので定かではない。

 

「約束して、必ず帰ってくるって」

 

「わかった。約束しよう。オレ、レイジ・フォン・ザクセスは必ずティナ・フィーネ

・ザクセスのもとに帰ってくる。必ずだ」

 

 フィーは目から上だけ布団から出してレイジの言葉を聞いた。

 

「もういいよ。キュルケが言ってたの。好きな男の子の頼みを聞いてやるのが女の勤めだって」

 

 レイジはフィーの言葉を聞いて心の中でキュルケに苦言を呈した。だが今回はキュルケの恋愛観に感謝である。

 

「そうか、ありがとうフィー」

 

 久しぶりにレイジは心からの笑顔をフィーに向けた。それをみてフィーはまたも布団の中へと潜り込んでしまった。

 レイジは再度可愛いフィーネのために、必ず戻ってくるという意思を固めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フォン・ザクセス邸とは雲泥の差がある巨大な屋敷。ラ・ヴァリエール邸。レイジは二度目となるこの邸宅を見て再度デカいと感じていた。そして正門の前でレイジは父から借り受けた馬から飛び降りた。持ってきたものはレイジが旅に必要だと思ったものが数点だ。当分はラ・ヴァリエール邸で過ごすことになるので必要はない。

 

「お久しぶりです。ラ・ヴァリエール公爵夫人。この度は私を受け入れて下さりありがとうございます」

 

 またも出迎えは夫人であった。前と変わらぬ厳しい眼差しだ。

 

「お久しぶりですレイジくん。噂はかねがね聞いていますよ。いろいろと」

 

 挨拶を早々に屋敷の中へと通され、一室へと執事に案内される。

 

「ここがレイジ様のこれからのお部屋になります。わからないことがあれば使用人に

気軽に聞いてくださいませ。後ほど使いを出します故、部屋でお待ちを。ではごゆるり

と」

 

 レイジに用意された部屋は、自分がフォン・ザクセス邸で使っている部屋の1.5倍ほどもある大きな部屋だった。流石はトリステインの名門であるラ・ヴァリエール公爵家である。レイジは馬にくくってあった荷物を床に並べておいた。そして部屋の中をくまなく探索すること十数分。使用人がレイジの迎えに来た。

 使用人に連れられた場所は待合室だ。

 そこには長女を除く家族4人が勢ぞろいしていた。長女のエレオノールは既にアカデミーに入っているのでここには現在いない。次女のカトレアは魔法学院に行っているはずの年であるが、持病によって自宅で療養中だ。三女のルイズはレイジと同い年だ。

 

「よくぞ来た。レイジくん」

 

 初めに声を発したのは公爵だった。前にも増して威厳をにあふれた顔だ。今回はモノクルをかけている。

 

「この度は私の居候を了承してくださりありがとうございます」

 

 レイジも公爵に再度お礼の言葉を述べる。

 

「おお、そんなに気張る必要はない。もう儂たちは家族同然なのだから」

 

「そうです。こどもなのですから気を使う必要はありません」

 

 続いて夫人も声を出す。

 やはり大貴族ともなると腐りきっているか、度量が広いかのどちらかなのかとレイジは思った。

 

「感謝します」

 

「して此度の目的は?」

 

 公爵としては文面だけでなくレイジ自身の口から聞きたかったのだろう。

 

「私は世界を知らなすぎます。だから見聞を広めたいと思いました。そして己の大切なものも守れぬ弱きものです。その弱さを砕き強きものとなりたいのです」

 

「あいわかった。レイジくん。君は変わった」

 

 公爵は大きくうなずいた。公爵はゲルマニアの反乱の顛末は耳に挟んでいる。

 

「レイジくん。自分の家と思ってくれたまえ。私は仕事に戻るとする。だが、私の小さなルイズには手を出すなよ」

 

 公爵は高笑いしながらマントを翻して部屋から出ていった。それに続き夫人も部屋から退出した。ルイズは公爵の発言に顔を真っ赤にして俯いてしまった。最後のあまりにもブッ飛んだ発言にレイジも思わず、カトレアには手を出していいのだろうか、と考えてしまった。

 

 残ったのはレイジ、ルイズ、カトレアの三人だ。

 

「お久しぶりね。レイジくん」

 

 夫人が部屋を出て直ぐに口を開いたのはカトレアだ。笑顔で再開の挨拶をする。前にもまして女性らしいプロポーションであり、とても柔和な雰囲気だ。

 

「ええ、お久しぶりですカトレアさん。それとルイズも」

 

 レイジも笑顔で答える。

 

「ひ、ひさしぶりね! 全く父様ったら何を言っているのかしら!!」

 

 まだルイズは紅潮しているようだ。四年程前に会ったときとあまり変わらないようだ。

 

「そりゃかわいい娘に手を出されれば怒るだろう」

 

 レイジの父グスタフもフィーネにそんなものができれば迷わず決闘で叩き潰すだろう。もちろんレイジも加わってだ。

 

「レイジくんは私を可愛くないと言いたいの?」

 

 レイジの言葉にカトレアが耳ざとく反応した。心外だという蠱惑的な演技も堂に入っていた。

 

「いえいえ、カトレアさんは可愛いではなく美しいんですよ」

 

 レイジはカトレアのいたずらに臆面もなく切り返した。レイジは大体こういうことは素ではなく計算してやっている。この切り返しにはカトレアも少々の恥じらいを見せた。まさかルイズと同い年の子がこのような返答をするとは思わなかったのだ。

 

「ちょっとレイジ!! あなた私のちいねえさまにちょっかいかけちゃダメよ!!」

 

 ルイズはこのことにご立腹のようだ。レイジはルイズを少々小馬鹿にするような、しかし誰が見てもワザとやっているとわかるテイで切り返した。

 

「落ち着けって、そんなんじゃあいつまでたっても子供のままだぞ」

 

 ルイズはレイジに小馬鹿にされ今度は違う意味で顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

「カリーヌさん」

 

 レイジを歓迎する晩餐の後。レイジはラ・ヴァリエール公爵夫人に声をかけた。名前呼びであるのはそうして欲しいと頼まれたからだ。

 そう、レイジがラ・ヴァリエール家に居候する最もな理由を完遂するに向けてのファーストトライだ。

 

「なにかようですか?」

 

 カリーヌ・デジレ・ド・マイヤールはレイジの目を見つめ言い返した。その目力は相当なものだ。

 

「オレを、自分を鍛えて欲しいんです」

 

 レイジはストレートに言葉を発した。

 

「何故です? いえ、なぜ私なのですか?」

 

 普通ならば前に負けた公爵に頼むものだろう。しかしレイジはカリーヌに頼んだ。

 

「公爵は仕事で忙しすぎます。カリーヌさんにも仕事がありますが、公爵ほどではありません。何より風のスクエアメイジだ」

 

 ここにきてカリーヌの眉が動いた。そしてレイジの目を先とはまた違った目で見返す。しかしレイジに一片の怯みも懐疑の念もない。カリーヌはレイジが自分のことをスクエアメイジであると、確信を持っていることがわかった。

 

「どこでそれを?」

 

 カリーヌは自身がスクエアメイジであることを認めていると取れる返答をレイジに返す。レイジは心の中で安堵のため息をつきつつも最後のダメ押しをする。

 

「風の噂ですよカリーヌさん。いえ、「烈風」のカリン殿」

 




原作前五章終。続いて原作前六章です。六章はレイジが魔法学院に入るまでの閑話とラ・ヴァリエール家での話を少し書いていきます。七章にて魔法学院一年生編です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。