ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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第四十五話 ルイズ

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはそろそろ慣れ親しんだと言っていい、この学院の朝日差し込む自室で可憐な顔に似合わぬため息をついた。理由は至極簡単なことだ。彼女は今魔法学院にいる。そう魔法を教えるための学院だ。しかし彼女は系統魔法と呼ばれる魔法を唱えることができても、ついぞ爆発しか起こることがないのだ。

 将来兄になるかもしれぬ神童、麒麟児と謳われている少年にも理由を訪ねたことがある。その時返されたのが、「魔法を失敗した時、それは何も起きない時だ」と言われたのだ。つまり彼が言わんとすることは、ルイズが魔法を失敗しているのではないと、暗に語っているのだ。その後に魔法とはなんたるかを彼にレクチャーしてもらい、なんとかコモンマジックだけ発動することに成功している。

 その時の喜びは彼女にとって至上だった。だがしかし、結局系統魔法が使えないことに変わりはない。ルイズは系統魔法ができるようになりたいのだ。そうすれば最近影で囁かれるようになった、忌々しいあだ名を払拭してやれるのにと思っている。そのために、座学は先生にも優秀だと褒めてもらえるほどに勉学に勤しんでいる。しかし現状頼りにした少年は、どうすれば系統魔法が使えるようになるのか聞くと、「時が来ればわかる」と言う、至極意味のわからない発言しかしない。つまりどういうことなのかを、はっきりと言って欲しいのがルイズの性格だ。フラストレーションを内へ内へと押しやっていくことしか今はできないのが彼女にはストレスを与えていた。

 そうして今日も彼女は重い腰をあげ、教室へと赴いた。

 今日のルイズが受ける授業は『風』の魔法についての授業だ。風の魔法など二年弱共にした少年が嫌というほど、ルイズに魅力と残念なところを語っているのでほとんど聞き流しているような状態だ、ということはなく、一応は教師であるミスターギトーの話に耳を傾ける。しかし彼の話は聞けたものではない。なにせ風がいかに素晴らしいかを延々と語るのだから、狂信的な風の賛同者でなければこの授業は楽しくはあるまい。

 風をこよなく愛する少年ですら、「あいつの言うことは盲信だ」と切り捨てるほどだ。いや、風が好きだからこそ、欠点も含めて見ないものはクズだ、とも言っていたような気もする。ルイズは周りにはバレないようにため息をもう一度つく。それは深窓の令嬢のように儚いものだった。

 そんな億劫な授業も終わり、各々は形成されるグループを作って教室から出ていく。

 そんな中ルイズに彼女の父や姉同様の、煌びやかな金髪の少女――ティナが声をかけてくる。これはいつものことだ。彼女はルイズとは違いあぶれ者という類の人間ではない。座学は優秀だし、魔法だってルイズとは違い才能に溢れている。そしてなにより快活な笑が特徴だ。彼女は常日頃から笑を絶やすことがあまりない。

 ルイズは彼女と連れ立って、彼女の兄がいるであろう広場へと向かった。この広場では授業終わりの貴族子女が、優雅にお茶に興じている場所だ。彼女の兄はよく一緒にいる金髪がウェーブしている少年――ギーシュと少々ふくよかな少年――マリコルヌ、さらにはこの学園の魔性とでも言うべきルイズの天敵の、長髪赤髪の褐色女性――キュルケと席を共にしていた。ルイズはそれを見て眉間にしわを寄せた。そもそもルイズのヴァリエール家とキュルケのツェルプストー家は旧知の敵である。この反応は当然のことだろう。であるからに、ルイズはティナに急用が出来たと言って部屋へと戻ったのだ。あそこにいたら馬鹿にされることは目に見えていると思ったからだ。

 実際はティナの兄であるレイジがいるのでそのような事態になりはしない。ルイズの悪口を言う時は本人の目の前と、レイジの聞こえる範囲以外でと暗黙の了解がある。

 それもそのはずルイズ本人はトリステインの旧家ヴァリエール家の娘である。一方のレイジはゲルマニアの伯爵家の長男なのだが、スクエアメイジであると鼻高々に宣言しているギトーを楽々と倒してみせたのだ。その時レイジが本気を出していないということは、その決闘を見た人々ならば確実にわかるほどだ。その後何かと裏で画策したギトーに唆された生徒たちが、度々レイジに戦いを挑んでいって華々しく敗れるという結果だけが残った。

 これによりレイジは自発的な行動は一切していないにもかかわらず、アンタッチャブルな存在となり、学院を影から統べているとまで言われている。さらにそのレイジはヴァリエール家と交友があると実しやかに囁かれているものだから、触らぬ神に祟りなし、ということになっているのだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 季節は過ぎ去る。冬の肌寒い季節となり、使い魔召喚の儀という実質的な二年への進級試験が間近に近づいてきたこともあり、皆が皆少々浮かれ調子といった空気が魔法学院の一年生を覆っている。中には上級生が召喚した使い魔を見て、自分もあれがいいやら、私だったらあれがいい、などと談義している。

 使い魔は自身の系統のモノが召喚される。将来の道がある程度決まると言っても過言ではないのだから、少年少女にとっては気が気ではないだろう。

 かく思うルイズも系統魔法も使えない自分にはどのような使い魔が召喚されるのか、という思いで気が気ではない。

 そんなルイズは今まで苦労が一度も付随してこなかったのではないかと思う人物を見た。半分は嫉妬、半分は羨望といったところだろうか。彼はすごい使い魔を召喚するだろう。幻獣を召喚したって驚かない。

 ルイズ自身彼――レイジには複雑な思いを抱いている。もちろん恋愛ごとではない。レイジとあったのは何歳だったか。しかしその時の彼は強烈なインパクトを与えていった。自分とは違い魔法の才能に満ちあふれた少年。嫉妬せずにいろという方が無理だろう。

 そしてもう一度あったとき、レイジはさらに成長していた。座学もおろそかにせず、ルイズ自身頑張っていたと思うことでさえ、教えられてしまう始末だ。しかし彼のおかげで今までできなかったコモンマジックを使えるようになったことも事実だ。

 さらにそれから一年ほど経ったあとに、姉の病気が治り婚約したと言うことを聞いたとき、ルイズは自分のことのように喜んだ。だが、同時に自分の姉を誰かに取られてしまうと言う寂しさと妬ましさもあった。

 まだ結婚することは決まったことではない、それは長女であるエレオノールが何度も婚約解消をしているからだ。しかしそれは姉の性格によるところが大きい。それに比べ彼らはどうだろうか。魔法の才能あふれる二人、何者からも守ってくれそうなほどの彼、天然なところがあれだが、それ以外非の打ち所のない姉。美男美女、想像するだけでお似合いだ。

 これからから来る複雑な思いは年月が積み重なって出来たのと同様に、一朝一夕でどうこうなる感情ではない。彼に憧れもあれば妬みもある。二律背反の気持ちは学び舎を共にしたところで解消されていない。しかし彼に悪意なども持ち合わせてはいない。自身の盾となっていることを知っているのだから。

 そして第一学年も末期になる頃、やっとのことルイズは、彼の言葉の真意をうっすらと感じていた。

 




なんと会話ゼロというね、何とも言えない構成になりました。
一応レイジが関わったことによる、ルイズの立ち位置や心境の変化などを描写したつもりです。
やっと原作突入です。

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