ゼロの使い魔で転生記   作:鴉鷺

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原作第一巻
第四十六話 春の使い魔召喚


 おれ、平賀才人の朝は早い。なぜなら一週間ほど前にパソコンが壊れてしまったのだ。それの受け取りが今日なのだ。休日の起床定時である早朝12時――正午に起きると、ブランチが既に用意されている。そんなことを思いながら食後、太陽が目に沁みるのを感じつつも、おれはどこぞのネズミーランドよりも、ワクワクとドキドキが味わえる秋葉原へと繰り出した。

 おれはパソコンを預けた電気屋でパソコンを受け取り、ぶらつく用事もないので帰宅しようとした。出会い系サイトに登録したすぐ後にパソコンが壊れたものだから、この一週間がどれほど長かったかは想像に難くない。

 平凡な毎日に一つの刺激。それが出会い系サイトでの彼女作りだ。だからやっとインターネットができることに、おれはウキウキしていた。まだ見ぬ彼女とあれやこれやをする妄想しつつ。

 だが、帰りの道に奇妙なものが現れた。一言で言い表すなら鏡が浮いていた。

 すごく気になる。

 おれは持ち前の好奇心を活かしてその鏡らしき物体を観察した。

 厚みはないし、こんな自然現象も聞いたことがない。

 気になる。おれは率直にそう思い、道端に転がる石を試しにそこに投げ込む。それは鏡に当たり跳ね返ることなく中へ消えて行った。

 鏡の後ろを見るとそこに石はない。つまりこの鏡みたいな通路はどこでもドア的なやつなのだ。

 面白い。純粋にそう思い、この物体の向こう側が見たくなった。

 おれは意を決してその物体の中へと飛び込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 トリステイン魔法学院

 春も初旬今年も第2学年への進級試験を兼ねた、使い魔召喚の儀が執り行われようとしていた。

 学院内の広場の一つであるアウトリの広場に新2年生が集まっていた。集まった少年少女たちの目線は、今回の使い魔召喚の儀の監督係のコルベールへと向いていた。

 

「みなさん。春の使い魔召喚は伝統あるとても神聖なものです。どのような使い魔が召喚されたとしても、その使い魔はあなたのパートナーに相応しいと始祖が定められたのです。使い魔と心を通じ合わせれるようにしましょう。」

 

 コルベールは一呼吸置いてから一人の生徒の名を呼んだ。

 

「では、はじめにレイジ・フォン・ザクセスくん」

 

「はい」

 

 呼ばれた赤髪赤眼の青年はコルベールの元へと歩いて行く。この学年の最初の召喚者となるにもかかわらず、その顔に気負いも緊張もない。

 

「サモン・サーヴァントを」

 

 レイジはコルベールに促され、学年全員が注目する中で呪文を発した。

 

「我が名は『レイジ・フォン・ザクセス』。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召還せよ」

 

 唱え終わると同時にその場にかなり大きな鏡面が出現した。どうやらレイジの使い魔はかなりの大きさのようだ。

 広場に集まった生徒からどよめきが生まれる。

 コルベールは何か不測の事態の時のために、杖を構える。

 鏡面が出現してから数秒後、そこから凄まじい勢いで何らかの巨体が跳び出す。

 

「あれは……」

 

 レイジは空を駆ける巨躯を見上げた。逆光でその全ては見れないが、シルエットだけでそれがドラゴンだとわかる。レイジの口元が少しだけ緩む。

空の数回旋回した後、漆黒のドラゴンはレイジの目の前へと降り立った。その巨躯は10メイル程もある。

 

「お前はオレの使い魔になってくれるか?」

 

 レイジは黒竜にそう問うた。黒竜は数秒間レイジを見つめてから頷いた。

 レイジはそれを見るとふっと笑い、

 

「我が名は『レイジ・フォン・ザクセス』。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

 そう言って黒竜と契約を交わした。

 

(おれは黒韻竜、アンヴァル。マスター、これからよろしくお願いする)

 

 レイジは念話と内容に一瞬驚くが

 

「ああ、よろしくな」

 

 ニっと笑ってそう言った。レイジとしては韻竜の存在は知っていたのでそこまで驚くことはない。

 

「レイちゃん、この子は?」

 

 レイジは無事に『コントラクト・サーヴァント』を終えると呼ばれる前の位置へと戻った。数人の特に親しい面々の思いを代表するようにフィーネは疑問を口にした。今フィーネは最近し始めたハーフアップという髪型をしている。レイジが聞くところによるとキュルケに結ってもらっているのだとか。

 

「ああ、黒韻竜のアンヴァルだと。アンヴァー、紹介するオレの妹と友達だ」

 

 アンヴァーとはレイジがアンヴァルに付けた愛称である。

 レイジはフィーネの疑問に答えてから、アンヴァルにフィーネ達を紹介した。

 アンヴァルは少しだけ頭を下げてから広場で横になった。

 

「しかし黒韻竜を召喚するなんて流石……ね?」

 

 一同はキュルケのこの一言で言葉を反芻した。この世界に竜は存在する。しかしただの黒竜ではない。そもそも黒竜自体珍しいのだがこの際彼の規格外の度合いと鑑みてもまあ納得だったのだが、絶滅したと言われる韻竜となると話は違う。

 

「韻竜は絶滅していると言われています」

 

 そうキュルケたち一同の停止のなか、キュルケの横にいた小柄な少女は口を開いた。

 

「そうよ!! これはすごいことよ!?」

 

 キュルケとルイズは興奮しつつもレイジにまくし立てた。

 

「韻竜ってのはどう違うんだい?」

 

 そんなすごさがいまいちわかっていないのか、ギーシュはレイジに疑問を投げた。

 

「韻竜は他の竜とは違って精霊魔法が使えるんだとか。まぁオレも書物で読んだ知識しかないからな」

 

 レイジはそう言って横になっているアンヴァルを撫でる。実際のところレイジも韻竜についてあまり詳しくは知らない。

 

「アンヴァーちゃん。わたしも撫でていいかな?」

 

 フィーネはアンヴァルを撫でるレイジにくっつきながらも、この黒竜と触れ合いたいようだ。

 アンヴァルはそんなおっかなびっくりのフィーネを見て、頭を差し出した。

 

「フィーネ、アンヴァーを仲良くするのは良いが自分の使い魔を召喚してこいって」

 

 レイジはそんなフィーネを見て苦笑いした。

そんなことをやっている中でも着々と使い魔は召喚されていった。

 キュルケはサラマンダーを召喚し、タバサも風竜を召喚。ギーシュはジャイアントモール、所謂大きなモグラを召喚している。見た瞬間一目ぼれでもしたのかギーシュはモグラ――ヴェルダンテに抱きついている。

 フィーネも無事召喚を成功させた。召喚に答えたのは純白の体毛に包まれた聖獣であるユニコーンだった。ユニコーンは無垢なる乙女しか乗ることを許さない幻獣である。

 金髪の美少女とユニコーンの『コントラクト・サーヴァント』はとても絵になっていた。

 使い魔召喚の儀もいよいよ大詰めを迎える。一人の生徒以外全ての者が自身のパートナーである使い魔を召喚し、各々で触れ合っている。レイジの使い魔であるアンヴァルとタバサの使い魔であるシルフィードも追いかけっこのようなものをして、大空を飛びまわっている。レイジとしてはアンヴァルが遊び回っているのは最初の印象とは少々違った感覚だ。以外に精神年齢が低いのかもしれない。もしくは面倒見がいいのか。

 

「ルイズ、自身を持て。お前に相応しい使い魔が必ず現れる」

 

 レイジは二匹の竜を見上げた後に、隣で緊張して震えているルイズにそう声を掛けた。

 レイジは知っている。ルイズがどれだけの努力をしてきたかを。そして彼女に相応しい、少し抜けていてエロいことに興味シンシンだが、人一倍も勇気を持ち合わせている少年を。

 ルイズは大きく深呼吸を一回だけした。これまで人一倍をしてきたのだ。その努力に見合うだけの使い魔が出ることを、祈るような気持ちでルイズは口を開いた。

 

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ。神聖で美しい強力な使い魔よ。私は心より求める。我が導きに答えたまえ!!」

 

 定型的な口上ではなかったが、問題なく魔法は発動した。2メイルほどの鏡面がルイズの目の前に現れる。辺りでもコモンマジックしかできないルイズが、どんな使い魔を召喚するのかに注目していた。

 鏡面が出現してから幾ばくかの静寂。

 

「のあああああ!!」

 

 それを切り裂くようにして一つの悲鳴が広場に届く。

 何やら四角い板を持った変な格好の少年が鏡の中から飛び出してきたのだ。

 

「なんだ? 平民か?」

 

 生徒たちは、ルイズが呼んだ少年を見て疑問を口々に零す。貴族の証であるマントはなく杖もパッと見たところ持っていない。手には謎の板を持っているだけだ。

 

「おお、ミス・ヴァリエール。『ささ、コントラクト・サーヴァント』を」

 

 コルベールは一度で召喚できたことに満足して続きを促した。呼び出された少年は未だに事の全容が把握できておらず、視線を様々な方向へと向けている。

 

「お、おい!! よくわかんないけど、ここはどこなんだ?」

 

 少年が大声を上げる。彼にしてみれば突如として大人数の前に呼び出されたのだ。混乱するなと言う方が無理である。

 

「うるさいわね!!」

 

 ルイズは、言葉は分からないが大声を出した少年を一喝した。

全くわけがわからない。自分だってレイジ達のような使い魔を召喚して今まで影でバカにしてきた生徒を見返そうと思ったのに。ここ何年もの努力は一体何のためにしてきたのだろうか。母や父のような立派な貴族になるための第一段階の使い魔召喚の儀。そう思って今まで目標にしてきた。いざ召喚してみれば、使い魔として呼び出されたのは何の変哲もない平民の少年だ。ルイズは泣きたい気持ちを必死にこらえた。

 

「ルイズ」

 

 レイジは混乱しているルイズの両肩に手を置いて名前を呼んだ。ルイズは潤んだ瞳でレイジを見る。レイジの顔に一片の動揺もない。平民が使い魔と言う前例は聞いたことがない。

 ルイズには、レイジは前例のないこの事態を予期していたかのように感じた。

 

「大丈夫だ」

 

 ルイズにとってこの落ち着く声音が、今回ばかりは気に障った。

 

「何が大丈夫だっていうの!? 私は努力を怠ったことなんてない! なのにどう……して…………こんな」

 

 レイジはルイズの態度を見てその心情を察した。レイジ自身魔法が使え、使い魔もこれ以上ないほどの立派な黒竜を召喚したのだ。何の変哲もない平民を召喚したと思っているルイズにとっては快くないだろう。

 

「……そうだな」

 

 誰にも聞こえないだろう声量でレイジは呟く。

 

「ルイズ、この後時間をくれないか? そろそろ話すべきことだ」

 

 レイジは数瞬の間の後にルイズの潤んだ瞳をまっすぐ見抜いて言った。

 

「……わかったわ」

 

 ルイズはレイジの強い意志を読みとって首肯した。

 この間召喚された少年は、目の前の少女の突然の涙に若干面食らっていた。

 

「コルベール先生。少々お話が」

 

「ん、なにかね」

 

 ことはデリケートなものだと見て、静観していたコルベールはレイジの呼びかけに反応した。

 

「召喚されたこの少年の身柄は自分が見ます。なのでルイズに少々時間を与えてやってください。心の準備がいると思うんです」

 

「ふむ、まぁ君ほどの者が見ていてくれるのなら、いいでしょう」

 

 コルベールは少々悩んでからそう言ってレイジの提案を了承した。

 

「ありがとうございます」

 

 コルベールはレイジの礼を受けた後使い魔召喚の儀の終わりを告げた。

 

 

 

「あの~、それでここはどこなんでしょうかね」

 

 平賀才人と名乗った少年は、自己紹介の後に一番最初から気になっていたことを質問した。

 

「ここはハルケギニアのトリステインにあるトリステイン魔法学院だ」

 

 現在魔法学院のとある一室には召喚された少年才人とその主であるルイズ。その部屋に招いたレイジの三人がいる。部屋には『サイレント』で室外には何も聞こえないようになっている。

 因みに才人は椅子に括りつけられている。

 

「なるほどなるほど~」

 

 才人は納得したのかそう呟いた。その実理解が追い付いていないだけである。

 

「納得してくれたのならいい。本題に入る」

 

 レイジは才人の反応を見て話を進める。元の世界の住人だろうと今はルイズに話をする方が大切なのだ。

 

「まずルイズ。ルイズが魔法を唱えると爆発が起こるよな」

 

 ルイズは何をいまさらといった表情で、しかしレイジの問いに真面目に答える。

 

「属性魔法を唱えるとなぜか全部爆発になるわ。これはおかしなことなのよね?」

 

「そうだ。前にも説明した通りこれはおかしな現象だ。普通呪文を唱えて失敗した場合何も起きない」

 

 才人は突如始まった魔法がどうだのという会話を聞いて背筋に電流を走らせていた。

 

「それで?」

 

「実はルイズは魔法を何度も発動させている」

 

 レイジはルイズの疑問から一泊置いてそう告げた。

 

「え!?」

 

 驚くルイズをしり目にレイジは話を更に進める。

 

「ルイズは属性魔法を使うことはできない。だが『爆発』という魔法を使っていたんだ」

 

「それって『爆発』自体が魔法ってこと? けどそんな魔法聞いたことない……」

 

 ルイズは伏せ目がちにそう否定する。

 

「いや、あるはずだ」

 

 しかしレイジは間髪いれずに、ルイズが考えることを促した。

 

「…………虚無の魔法」

 

 恐る恐るといった表情でルイズは最後の魔法の種類を答えた。

 

「そうだ。虚無の魔法だ」

 

 レイジはルイズの目を見て断言した。

 

「けど、虚無の魔法はおとぎ話の中の魔法のはず……」

 

「いや、歴史上一人だけ使えた人物がいる」

 

 ルイズの鼓動は加速しレイジの言葉を頼りに答えを導き出す。座学の努力を怠らなかったルイズだからこその早さだろう。

 

「始祖ブリミル」

 

 レイジは一つ頷いた。

 

「始祖ブリミルの子供はそれぞれの国の長となった。そしてその血を引くのが現在の王家の人々であり、公爵家をはじめとする貴族だ」

 

 レイジは謎を紐解いて行く。魔法が遺伝することは周知の事実だ。

 

「……つまり私はブリミル様のお力を?」

 

 ルイズは未だ現実味がないのか唖然としている。

 

「虚無の魔法使いには特徴がある。まず属性魔法が扱えないこと。そして使い魔にはある特殊なルーンが刻まれること」

 

「私と同じ……」

 

「そして始祖ブリミルの使い魔は人だったそうだ」

 

 レイジの言葉にルイズは顔を上げ、今まで置いてけぼりを喰らっていた才人を見やった。

 

「ルイズ、言っただろ。必ず相応しい使い魔が現れると」

 

 レイジは柔らかな笑みをして、ルイズの肩を軽くたたいた。

 

「今はまだ足手まといかもしれない。だが、主人と使い魔二人三脚で成長していけばいいさ」

 

 レイジはそう言うと腰掛けていた椅子から立ち上がる。

 

「あとは自分で決めるんだ。それと虚無の魔法については他言無用だぞ」

 

 レイジはそう言い残すと部屋から出て行った。

 レイジが部屋の外に出ると案の定と言うべきか、そこにはフィーネをはじめとした面々がいた。

 

「なんだみんな」

 

「どうなったの!?」

 

 キュルケが食いぎみに質問をした。

 

「聞いてりゃわかるさ」

 

 そう言ってレイジは壁を背もたれにした。

 それを見て全員が壁に耳を当てる。

 ルイズと才人は幾らかの言葉を交わしていた。

 

「……我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。――――」

 

 レイジは契約をし終わる前に部屋の中へ向けた意識を戻した。

 

 

 やっと始まるのか……。いやもう始まったのか。

 




最終更新から早何ヶ月。お待たせしました。
半年以上の期間が開いてしまったので、文に違和感がありそうです(^^;;
モンスターを狩ったり、育成して戦わせたり、太平洋に浮かぶ某島で車をかっ飛ばして事故ったりサツに追われたり、モビルスーツを操って格闘ゲームをしたりとね……www

ルイズは原作と違い身近に魔法の出来不出来を思い知っている分、努力は欠かしていません。勿論原作のルイズもそうだったでしょう。
レイジの思わせぶりな知る時、はこのタイミングとなりました。
彼の予定(教典をルイズが受け取る辺り)とは違いますね。
ルイズもこれでひとまずの納得を持って才人との契約を果たします。今は半信半疑でも信じてみよう、というスタンスです。

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