臨海学校前、鋼夜が親友と遊んでいた時に一夏や他ヒロインは何をしていたのかという回になります
今回は日記じゃないです
そして今回、地味に3組代表の詳細が明かされます
臨海学校まであと数日となった。
私は臨海学校前の最後の休日を利用し、街へ買い物へ出かけることにした。
リアーデを誘ったのだが生憎と彼女は別の友人との約束があったため、一人での外出となる。
私は臨海学校で着る水着を持っていない。かといって学園指定の水着というのも気が引ける。
あまり気は進まないが、水着を買うために私は外へ行くしかないのだ。
財布と鞄を装備し、着替えを済ませ、帽子をかぶれば準備完了。
昼ちょっと前に私は学園にあるモノレールの駅へ向かう。
モノレールは学園から出る方法の一つ。
しばらく乗っていれば駅とショッピングモールが合体した『レゾナンス』に着きます。私の目的地はそこになります。
「暑いですね……」
駅へ向かう途中に思わず口に出してしまう。
寮から一歩出た途端に降り注ぐ陽光。7月とはいえ暑過ぎだと思う。
私は暑いのは苦手なんですよ……。
暑さに耐えながら歩き、やっとモノレール駅へ到着。そしてタイミング良く次の車両を知らせるアナウンスが響く。
「はふぅ……」
私は停車したモノレールへ乗り、席へ座って一息つく。
そして車内を見渡し、様子を確認する。
駅に多数の人が居たので予想はしていましたが、ほとんどが学園の生徒と思われる女の子ばかりでした。
というか制服姿なので一目瞭然です。
制服だと割引とかあるんですかね?
軍隊や訓練学校みたいな休日の制服着用の義務は無かった筈ですし……どちらにせよ、私服の私が浮いてるように見えます。何故?
♪~
そんなことを考えていたら携帯が鳴ったので画面を開き何事があったか確認。
音の正体はSNSアプリの通知でした。
「3組のグループですか……」
3組が連絡用に使うグループチャットに書き込みがあったらしい。
内容を確認すると……
《ねえ!織斑くんが篠ノ之さんと一緒にモノレールに乗ってるよ!デートかな?》
織斑くんの目撃情報だった。
その書き込みを皮切りにみんなが一斉に書き込みを始めて通知音が鳴り止まなくなったので私はそっと通知をオフにした。
……休日くらい、そっとしてあげればいいのに。
そんなこんなで、モノレールはレゾナンスへの到着を知らせるのだった。
「どうしましょうか」
モノレールから降り、駅のホームで呟く。
レゾナンスに来るのは初めてでは無いので別に道に迷った訳ではない。
先に買い物を済ませるか、ランチタイムにするか、といった些細な悩みだ。
「……?」
ふと、何かを感じて横へ視線を移すと先ほど話題になっていた織斑くんと篠ノ之さんが居た。
そして先日女性であることが発表されたばかりのシャル……ロットさんも居る。
「どういうことなのかな一夏?なんで箒が居るの?なんで?」
シャルロットさんは背後に炎を浮かべそうなくらいの怒りを滲ませながら笑顔で織斑くんへ迫っている。
制服姿の織斑くんと篠ノ之さんと違い、彼女は私と同じ私服姿である。しかも化粧もしている。
「なんでって、買い物はみんなで来た方がいいだろ?あと、シャルは前に水着が無いって言ってたから箒と一緒に選んでもらおうかと」
男の俺が選ぶ訳にもいかないし、と織斑くんは続けた。
「鋼夜から聞いていたが……その、すまない」
「箒は悪くないよ。……だから今朝は鋼夜の態度がおかしかったのか。はぁ……一人で舞い上がってて僕、バカみたい……」
「???」
落ち込むシャルロットさんに篠ノ之さんは彼女の肩に手を置いて謝罪していた。
そして織斑くんは終始、訳が分からないといった表情を浮かべている。
このやりとりを見て、私は察した。
「ど、どうしますか鈴さん?なんだか思いもよらない展開になりましたが?」
「今回ばかりはあの二人が気の毒に思えてきたけど、まぁいいわ。こうなったら私達も混ざりましょ、このまま尾行するのも馬鹿らしいし」
織斑くん達が居る手前の自動販売機から様子を伺っているオルコットさんと凰さんが決定的だった。
これ以上覗くのも悪いので、私は四人の女子に迫られる織斑くんを尻目にレゾナンスの中へ入った。
と、未だに屋内に入っていながら帽子を被っていることに気が付いた私は帽子を取り鞄の中へしまい込む。
「ねえねえ、君一人?」
「俺らと遊ばない?」
さて、何処へ行きましょうか。
「ちょっと無視は酷いんじゃない?」
「日本語分かる?」
歩き出そうとした私の前に、日本人の若い男性二人が現れる。
間違いなくナンパ目的だろう。
別に無視した訳ではない、私に向けての言葉だとは思わなかっただけだ。
「うひょー、やっぱり可愛い」
「この赤い髪って地毛?」
「触らないでくださいっ」
妙に馴れ馴れしい男二人。
そのうちの片方が手を伸ばしてきたのを私は反射的に振り払う。
「いきなりなんなんですか貴方達は」
「へぇ、日本語上手いじゃん。どう?俺らこの辺り詳しいから案内するよ」
振り払われたことが気に触ったのか、片方の男がやや乱暴に迫ってくる。嫌だ、怖い。
「け、結構です」
「そんなこと言わずにさぁ」
「ひっ」
男の手が、私の肩に触れる。その瞬間に私は短い悲鳴を上げてしまった。
あの日の光景が、過去のトラウマが、私の脳裏にフラッシュバックする。
急停車する車。中から現れる大量の男。成す術もなく抑え込まれ、車に押し込まれる自分。
嫌だ、怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「何をしている」
そんな時、私の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声で私は現実へ戻った。
「嫌がっているだろう、離してやれ」
「ボーデヴィッヒさん……」
「すげぇ、IS学園の生徒じゃん。なになに君の友達?」
「こっちも可愛いじゃん」
私の前に現れたのは、ボーデヴィッヒさんだった。
彼女は腕を組みながら私に絡む二人の男を睨みつけます。
「楽しませてあげるよ?」
「二人ずつでちょうどいいじゃん?」
「ふん、下らんな。貴様らは嫁の足元にすら及ばん。……二度は言わん、そいつを離してとっとと去れ」
そう言ってボーデヴィッヒさんはドスに効いた声で男達を威圧しますが、男達はそれよりも彼女の「嫁」という発言に首を傾げます。
そして私とボーデヴィッヒさんを交互を見ます。
「……俺達、用事思い出したわ」
「そ、そうだ用事あったわ。じゃあねー。…………最近の外国人って進んでるな」
何を納得したのか、男二人はそう言ってその場を離れていきました。
待ってください、これ確実に誤解を受けましたよね。
嫁って私ですか!? まさか私、同性愛者に見られたってことですか!?
私はノーマルです!
「行ったか。そこのお前、大丈夫か?」
私が頭を抱えていると心配したのか、ボーデヴィッヒさんが声をかけてきました。
「あ……はい。ありがとうございます」
正直、まだ身体の震えが止まりませんが彼女を心配させないために表情を取り繕う。
「うむ。たまたま目に入っただけだ、気にするな」
……この人に悪気は無かったんですよね。まぁ、どうせあの男二人に会うことはこれから先絶対に無いでしょうから気にしない方向でいきます。
「いえ、お礼をさせてください。ボーデヴィッヒさん」
「む。私を知っているということは学園の生徒だったか」
ボーデヴィッヒさんの言葉に頷き、私は彼女で自己紹介することにした。
「ではまず自己紹介から。IS学園1年3組のクラス代表を務めています、アリサ・ユーティライネンです。先ほどは本当に助かりました、ありがとうございます」
そしてぺこりと一礼。
「う、うむ。だが私は当然の事をしたまでだ。軍人として、学園の生徒としてな」
ボーデヴィッヒさんは私の突然の行動に戸惑いますが、素直に感謝を受け取ってくれた。
お互いに紹介を済ませて解散する雰囲気になりそうな時にさり気なくランチに誘ったらボーデヴィッヒさんは承諾してくれたので、急遽彼女と一緒にランチをとることが決定した。
「アリサはフィンランドの生まれなのか」
「はい。と言っても母は日本人ですが」
「フィンランドのユーティライネン……確かフィンランドの国際宇宙センターにそういう名前の人間が居たと記憶している」
「合ってますよ、それは私の父です。私も宇宙センターに所属しているんですよ」
「なるほどな。ISは元は宇宙での活動を目的としたパワードスーツ。ISについての学習もその一環か」
レゾナンスの中にあるフードコーナーにある喫茶店にてラウラさんとガールズトークに花を咲かせます。
私は昼食を軽く済ませようとサンドイッチのセットを頼みます。
ラウラさんは昼食を済ませていたようでコーヒーを頼んだようです。
なんやかんやあって、私達は名前で呼び合うくらいの仲にはなりました。
「アリサは代表候補生ではないのか?」
「違います。フィンランドに配布されたISコアは3つ、その全てが研究用です。候補生どころか国家代表を置くのも厳しいのでIS乗りを目指す人はだいたいがドイツかロシアへ行きます。というかそう勧められます」
ハムサンド片手にラウラさんに説明しながら、私も自分の家庭や国について振り返る。
フィンランドは北欧に位置する国です。近くにドイツやロシアがあるせいで影に隠れがちですが世界でも有数の大きな宇宙センターがある。
国が運営する施設なので配布された3つのコアは全て宇宙センターで研究されていて前に私が借り受けたIS『ユグドラシル』に使用されていたのも此処で研究されていたコアだ。
私の父はフィンランド人で母は日本人。私は所謂ハーフというやつだ。
父が日本を訪れた際に母に一目惚れしたのが始まりだったそうだ。
母は一般の出ですが、父は今や世界でも有名な宇宙飛行士になりました。
しかし宇宙センターはISの登場で大きく傾くことになる。
当初は宇宙開発が目的だったISは今や軍事、競技に転用されISの開発費が宇宙開発の資金から取られることになったのは有名だ。
フィンランドや宇宙センターも例外ではなく様々な問題が発生したようで、そのせいかフィンランドは他国に比べてコア配布数が極端に少なく、宇宙センターの存続や運営のためにコア全てを研究用に回すしか無くなったためコア保有国でありながら代表が存在しないおかしい国になってしまったのだ。
「私は高いIS適性があったのと……あまり言いたくはありませんが父の名前のお陰で宇宙センター所属のテストパイロットをしています。フィンランドでISに乗ってるのは私だけだと思いますよ」
「なるほどな」
それ故に小さい頃から今まで色々あった。
親の七光り、ただISに乗れるだけ、そんな言葉を言われたこともあった。
あの事件だって私を妬んだ人による犯行だった。
たまたま現場を目撃した人が居て通報してくれたから私は助かったが、もしあのままだったら……考えたくもない。
あれ以来、私は男性が怖くなった。
周りに誰か居るのなら、なんとか表情や態度に出さないようにすることは出来る。
しかし1対1で向き合ったり、身体に触れられたり、多人数に囲まれるのは無理だ。
呼吸が荒くなって、身体が震えて、ただただ「怖い」という感情が無限に湧いてくる。
「むむむ……聞いてしまっておいてなんだが、良かったのか?私はこれでもドイツの軍人なのだが」
「……いいですよ。ほとんど周知の事実ですから」
ラウラさんの可愛い唸り声でふと我に返る。
彼女はドイツ所属のIS操縦者。今の話を聞いて思うことがあったのでしょうが私は気にしない。
これ以上この話をするのはよくないですね、話題を変えましょう。
「そういえば、ラウラさんはなぜレゾナンスに?」
たまごサンドを片手に、私はラウラさんにレゾナンスへ来た目的を訊いてみた。
「買い物だ。臨海学校で使う水着を買いにきた」
「そうなんですか、私と一緒ですね」
予想通りラウラさんも水着を買いにきたようだ。
聞けば、本来は買いに行くつもりはなかったが同室のシャルロットさんに強く言われて買いにきたのだとか。
「アリサも一緒に行かないか?恥ずかしい話だが、私はそういったものに疎くてな。頼む」
一緒にどうですか、と言おうとしたらまさかのラウラさんの方から誘ってくれた。
断る理由なんて勿論ない。
私は快くラウラさんの誘いを承諾した。
喫茶店から出て私とラウラさんは二階にある水着売り場へと移動する。
海開き前のシーズン真っ盛りなため二階の一角にはこれでもかというくらいのレジャーグッズや水着が並んでいる。
「おお……これが……」
その光景を見てラウラさんが思わずといった表情で呟く。
そんなに珍しいですか?フィンランドにもこういうものは売ってましたしドイツに売ってないということは無さそうですが。
「よし……まずは情報収集だ。アリサ、少し失礼する」
そう言ってラウラさんは通信用の端末のようなものを取り出すと誰かと話を始めました。
さて、私もさっさと水着を買って用事を済ませましょう。
「何かあれば呼んでくださいね」
私はラウラさんに一言伝えてから自分の水着を選びに向かいます。
男性ものと違い、大量に並べられた女性用の水着。
ハンガーに掛かっているその水着一つ一つを手に取り眺めては元の場所に戻していく。
別にこの水着は誰かに見せるためのものではない。なるべく露出の少ないものにしよう。
私はまずスポーツタイプの水着が並んでいるコーナーへ向かう。
「清香、これなんてどう?」
「如月くんもこれで悩殺!」
「いやそれスリングショットじゃん!着れないよそんなの!」
「スリングショット、知ってますのね」
「あっ……」
仲良く水着を選んでいる四人の女性の会話を聞き流しながら、水着を選ぶ。が、これといったものは見つからない。
次に私はビキニタイプが並んでいるコーナーへ向かう。
「どれがいいでしょうか……」
「うーん、どれにしようかな」
「悩むわね」
そこの一角では先ほど織斑くんと一悶着を起こしていたシャルロットさんとオルコットさんと凰さんが既に水着を選んでいた。
「これは……少し小さいですね……」
「ちょっと大胆かな?でもこれくらいしないと一夏は……」
「ぐぬぬ……」
あーでもない、こーでもないと呟きながら二人は水着を確認しては戻す作業を繰り返している。
そしてその二人を恨めしそうに睨む凰さん。
ふと、自分の胸に手を当てる。
胸に到来するのは言葉にならない敗北感。
私はビキニタイプのコーナーに入るのを諦めワンピースタイプのコーナーへ向かうことにした。
売り場へ到着したがこのタイプは人気が無いのか、あまり人は居なかった。
その方が私にとっては都合がいいんですけどね。
そう思い、私は水着を選ぶ作業に入った。
「……これにしますか」
選び始めて数十分。もしかしたらもっとかかったかもしれない。
幾つかの候補の中から選んだのは白い水着。
上と下に分かれていない純粋なワンピースタイプだ。
あと日除けのための麦わら帽子があったのでそれも選択。
「かんちゃん、これ可愛いよ~」
「いや、それ着ぐるみなんじゃ……」
その二つを持ってレジへ向かう途中に黄色い狐のような着ぐるみを着た女性が目に入る。
そういえば水着売り場の一角に着ぐるみのような水着もあったな、と思い出す。
いやしかしさすがに露出を抑えたいとは思うがあれはあれで恥ずかしいのでは。
「かんちゃんのもあるよ?ほら、なんとたぬきさんなのだ~」
「いいから戻してきて……」
たぬきの着ぐるみを渡された人をよく見れば四組代表の更識さんだった。
水着を買いにきたということは臨海学校のためだろう。彼女が臨海学校に行くのは少し意外だった。
聞いた話では彼女の専用機は確か未完成だった筈ですが……まぁ、学園は下手な研究機関より設備が充実していますから既に完成していても不思議ではないですね。
そう結論付けて二人から視線を外して私は会計のためにレジへと向かった。
「どうですかラウラさん」
会計を終えた私はラウラさんの元へ戻った。
ラウラさんは水着を持ってレジへ進もうとしても立ち止まりその場で唸っています。
「アリサか……なぁ、これは私に似合っているか?」
そう言って彼女が目の前に出したのは黒いひらひらとした水着。ランジェリーと見間違えるくらいひらひらした大人の水着だ。
「部下から聞いたら私に一番合う水着だそうだが……どうだ?率直に言ってくれ」
そう言うラウラさんの表情はほんのり赤くて、恥ずかしがっているのが一目瞭然だった。
私はくすりと笑ったあとに「似合っていますよ」と言った。
恥じらうラウラさんを見ると笑みがこぼれます。何故でしょうね。
私の言葉を聞いて自信を持ったのか、ラウラさんは「よし」と呟くと水着を持ってレジへ向かっていきました。
あ、支払いがブラックカード……凄い。
「買ってきたぞ!」
買い物袋に入った水着を掲げたラウラさんが戻ってきた。なんでもないことの筈なのに、なんだか微笑ましくなる。
「臨海学校が楽しみですね」
「ああ!今日は付き合ってくれて感謝するぞ」
「こちらこそ」
お互いにお礼を言い、その後はラウラさんとレゾナンスを見て回り学園まで一緒に帰りました。
骨董品屋の熊の置き物に反応していたラウラさんは見ていて……とてもかわいかったです。
フィンランドの御国事情は辛い
アリサはいずれ本編に出ます