死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

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流石に全員分のやりとりを書くと、収拾がつかなかったので削りました(ラスト付近)
誰が何を言ってるか、想像すんのも良いんじゃないでしょうか
(^-^)


第9話:挫折と立ち直りの時間・2時間目

 

 

 

「君達の第二の刃は、先生が既に育てて居ます。

 本校舎の生徒たちに劣るほど、先生はトロい教え方をしていません」

 

(ころせんせーは言う。暗殺だけではない『第二の刃』を示せと)

 

「自信を持って、その刃を振るってきなさい。

 ミッションを成功させ、恥じることなく胸を張るのです」

 

 不敵に微笑むころせんせー。それはどこか、生徒たちに挑戦状でも叩き付けているような微笑だ。

 

「――自分たちがアサシンであり、E組であることに」

 

 

   ※

 

 

 

「あ~あ……。第二の刃だってよ?」

「っていうか、あれ自分達で考えろってことよね」

 

 前原陽斗と岡野ひなたともに、話しているトーンは低い。テンションは低い。

 それは教室中も似たようなもので、全体的にテンションは低くなっていた。

 

「正直、気乗りしないよなー」

「暗殺教室ないのは、それはそれでつまらなそうだけど」

「テストで示せって……。どういうことだ?」

「学年一位とれとか?」

「ないない」

 

 半笑いではあるが、どこか気落ちした空気なのは、言うまでもなくころせんせーの出した課題によるところが大きい。

 

『本日の午後、明日の午後は共に自習とします。その間、話し合うなり対策を練るなり勉強するなり、各自頑張ってください。

 もし突破できたら――先生から、スペシャルプレゼントです』

 

 ヌルフフフ、と笑うころせんせーに、生徒達は言葉を返せなかった。

 終わり頃にまた来ます、と教室を後にするころせんせー。烏丸が一応様子見ということで残ってはいるが、生徒たちはあまり気にせず話し合っていた。

 

「渚、何かある?」

「んん……、吹奏楽やってたから、肺活量とかは少し」

「テスト関係ないね」

「ってか、吹奏楽って女子しかいなくね? ウチ」

 

「……正直、」

 

 と、教室中が一瞬静まり返る。

 寺坂竜馬だ。普段の授業も憎々しい態度を残して受けている寺坂竜馬だ。

 

「どしたの、寺坂。空気凍らせる修行でも始めた?」

「うるせぇ。

 大したことじゃねぇよ。わかってるとは思うが、俺はアイツの授業なんて、ぶっちゃけると面倒くせぇ」

 

 カルマの煽りに適当に返しつつ、寺坂は寺坂で続ける。

 

「暗殺教室なんて、何ふざけたこと言ってるんだって思ってる。上から目線で、ぴーちくぱーちく言いやがる。こっちの都合なんて全く合わせないし、変な人形は無駄に配るしオレだけNARUTOだったし」

(((((気にしてたんだ、NARUTO)))))

「だけどよ。アイツの言った一年間自習っていうのが、滅茶苦茶な条件だってのは分かる。わかるから、俺は苛立つ。カルマ、てめぇもわかってんだろ?」

「んー?」

 

 寺坂は、ある意味この「暗殺教室」の構図において、最も決定的なことを言う。

 

「どうあがいたって、俺達だけの力じゃ、あいつは倒せるはずはねぇ。それこそアイツにペナルティでも追わせて、制限をかけないことにはよ。

 そのことがわかってるから、あいつも破格の条件を付けて遊んでる」

 

 彼はこの場の誰もが、一度は気付き、そして目を逸らしていた事実を口にした。

 

 密かに、渚は寺坂に驚かされる。ただ単純に気に入らないから、放って置けば自分の天下なのに、教室全体を無駄に手入れするから。そういった理由で嫌っていると思ったのだが、どうやらそればかりが理由というわけでもなかったらしい。

 

「――オレは、それが気に入らねぇ。アイツに一泡吹かせて、一年間楽して過ごしてやろうと思ってる。

 理由なんてのはどうだっていいだろ。てめぇら、舐められっぱなしでいいのか? あのアホ面に! 見て見ろ!」

 

 と言いながら、寺坂は校庭を指差した。

 そこには――。

 

 

「俺達がこうやって頭悩ませてるのをわかった上で、副担と校庭でバーベキューやってやがる!」

(((((腹立つわー ……)))))

 

 

 E組に落ちている段階でプライドとかは捨てている生徒が大半だったが、流石にこの流れにはちょっとイラっと来たようだ。

 

 あぐりに肉と野菜がささった櫛を差し出し、ころせんせーはこちらを見る。

 その目は、例によって例のごとく、なめくさったニタニタ笑いだった。

 

 なお、そんな様子を見ながら烏間も渚たち同様軽く白目向いていた。

 

「で、結局何言いたいのさ、寺坂?」

「今回は、俺達も積極的にやるって言ってんだ!」

「「ええ!?」」

 

 寺坂グループ二名、村松拓哉と吉田大成は、今初めて聞いた、と言わんばかりの反応を示した。なお紅一点の狭間綺羅々は、興味なさそうに手元の文庫本に目を落していた。

 

「いつまでもアイツの天下じゃねぇって、思い知らせてやる。お前等、いいな!」

「ええ~」「いや、まあ……」

「嫌がるわよね。二人の場合、頑張っても程度知れているから。ミジンコと哺乳類くらい差があるし」

「「ぐふっ」」

 

 渋々ながら承諾する二人に、綺羅々はさらっと毒を吐く。

 

 一瞬何とも言えない空気に包まれた教室だったが、片岡メグと磯貝悠馬が手を叩く。

 

「ま、まーとにかく、みんなで考えよ?」

「そ、そーだな! うじうじしてても始まらないしさ!」

 

 その流れでE組全体の空気が、だらけていた状態からわずかに立ち直る。

 

 カルマが両手を頭の後ろで組み、にやにやと笑う。

 

「ふぅ~ん? 寺坂、ひょっとして丸くなった?」

「あん?」

「なんだろう、やられると味方になってずっとかませになってるポジションみたいな感じ?」

「誰がベジ○タだ、誰が!」

「どっちかって言うと、ヤム○ャ?」

「知るかッ!」

 

 不破である。誰に対してだろうが、こんなことさらっと言うのは不破優月である。

 

 ともかく、自発的に動き出したクラスを見て、烏間は小さく呟いた。

 

「……なるほど。つながり、あと()る気か」

 

 中村莉桜や茅野あかりやら、数人の生徒が立ち上がり黒板に向かう。

 渚はそれを、一歩引いた立ち位置から、メモ帳を構えて記入準備をしていた。

 

 

 

 

「試してはみましたが、なかなか火入りが難しいですねぇ、BBQ……。

 ニュル? 決まりましたか皆さん」

「吉良八先生、ソース……」

「おっと、これはかたじけないです。ヌルフフフ」

 

 あぐりにほっぺを拭いてもらいながら、ころせんせーはご満悦な表情で六時間目の終わりに部屋に入る。

 色々と遊んでいたのを隠そうともしないころせんせーに、あぐりをはじめ教室中が微妙な空気につつまれた。

 

「まあ、なんとか……」

「とりあえずー、こーゆー感じになったよー」

 

 倉橋陽菜乃の言葉を受けて、ころせんせーは黒板を見る。

 千葉龍之介と速水凛香が書き込みを終えて、その場から離れた。

 

「……この端々のイラストは?」

「菅谷くんです、先生」渚の解説。

 

「とりあえず、こんな感じで考えました」

「なかなか案がまとまらなかったんで、烏間先生にも聞いたりして」

「ほうほうほう……」

 

 にやにや笑うころせんせーの視線を受けて、烏間は一瞬引きつった笑いを浮かべた。

 

 片岡と中村が、代表して説明に入る。

 

「とりあえず出たのは、せんせー的に『第二の刃』が何なのかって話」

「ふむふむ」

「私達は、とりあえず『教科ごとの点数』と暫定しました」

 

 書かれている五教科、国数英理社、その他実技を含む。それぞれの下に名前が列挙されており、得意分野ごとにメンバーの勉強を集中させるつもりのようだ。

 

「私達のクラスで、先生に提示する『第二の刃』は――『学年五十位以内に入る』ことです。

 聞き入れてくれますね?」

「…………ええ、結構ですよ?」

 

 それを聞き、ころせんせーはにやり、と微笑む。

 

「本当にそれでいいんですか? 二言は今なら聞きますけど」

「大丈夫? ころせんせー。結構笑えてないけど」

 

 カルマの煽りが入る。事実、その言葉に表情はともかく、ころせんせーは生徒たちと目を合わせようとしていなかった。

 

 例えば、理科の奥田。

 例えば、英語の中村。

 また例えば、国語の神埼や狭間など。

 

 それぞれの教科に配置された生徒たちは、確かにそれぞれの分野を得意科目としており、これまでの小テストの点数からもそれが伺える。

 実際にそれを中心に勉強をし、他の教科を落とさなければ。

 僅かなりとも、五十位圏内ならば狙える可能性があるのだ。

 

 なお、コメントがあるのはカルマだけではない。

 

「受けたんだから、後で変更とかなしだからなー!」「こ、今度は頑張ります! 国語も!」「メイド喫茶……」「渚、がんばろ!」「う、うん……」「で、結局俺等が勝ったら、先生なにしてくれんの?」「このブロマイド写真って先生のでありますよね!」

「ヌニャ!? 岡島君、いつそんなものを拾って――」「吉良八先生?」「あ、あぐ――雪村先生、これには深い事情が――」「ありませんね?」「ニャフッ!?」

 

 問答無用にハリセンを振るわれるころせんせー。この辺りは平常運転といえた。

 だが、続いて言われた言葉に、生徒たちは言葉を失う。

 

「では、そうですねぇ―― 一人ごとに、先生は無防備にダメージを食らいましょうか。

 無論、その実施場所なども君達が指定した上で」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 ころせんせーの口から零れた条件は、いくら何でも破格の条件だ。

 以前カルマが検証したところ、ころせんせーのHPは13発。一日おきにリセットされるとはいえ、上手くいけば、そのまま仕留められてしまうのではないか。

 

 ただし、ところせんせーは前置き。

 

「無論、最後の一発くらいは残させてもらいましょう。流石にゲームになりませんからねぇ」

「ふぅん……。せんせーさ、それマジで言ってるんだよねぇ」

「ええ。でしたら、契約書でも書きましょうか?」

 

 そう言いながら、ころせんせーは懐からケースを取り出す。

 

「「「「「!?」」」」」

(あれは……)

 

 渚は回想する。ころせんせーが最初に赴任した時期。「暗殺教室」などという馬鹿げたゲームを信じなかった生徒たちに対して、彼は鉄箱と「契約書」を取り出して言ったのだ。

 

『暗殺教室に関するルールです。これに私と皆さんでサインをして、私の指紋印と、雪村先生の確認サインをしましょう。さすがにここまで厳重に契約をしたと示せば、皆さん納得してくれますね?』

 

 生徒たちは半信半疑ではあったが、きっちりとゲームのルールが明示されたその契約書。サインをした後のそれは、箱に入れられ錠前をつけられ、現在はあぐりの自宅で管理している状態にある。

 それを提示すれば、ころせんせーも言い逃れが出来ないようにしてあるのだ。

 

 果たして、ころせんせーは今回全く、その時と同様の手段で生徒達に信頼を示そうとしている。

 それを見ていなかったカルマを除く、他の生徒たちの緊張感がにわかに高まった。

 

「要領は前と同じです。皆さんで確認してサインをして、私の朱印と雪村先生のサイン。ただし、今回これを預かるのは烏間先生にしてもらいます。構いませんね?」

「……まあ、それくらいならな」

「では、確認とサインを。あ、箱も確認しますか?」

「んな、手品じゃあるまいし……」

 

(寺坂君は言った。ころせんせーは、僕等だけで倒せない。だから滅茶苦茶な条件をつけて、僕等を見て遊んでいるのだと)

(でも、いくら何でもそれだけで、ここまでするのはハッキリ言ってやりすぎだ)

 

「おや、カルマ君はサインしないですか?」

「今回はいーや。なーんか、今回は()の戦いじゃないでしょ」

「そうですか」

 

 普段から誰よりころせんせーを観察している渚からしても、彼の考えていることはよくわからない。

 ただ、彼の言葉を借りるのならば。

 

(「僕等と張り合う」ために、せんせーは全力だ)

 

 茅野から回された紙にボールペンを握りつつ、渚は思案する。

 脳裏には、浅野の笑顔と渇いた言葉。

 

「……がんばろう」

 

 気を引き締めて、渚は紙に名前をサインした。

 一通りサインをさせ終わると、処理をしてころせんせーは、そのケースに入れようと――。

 

(……あれ、もう一枚?)

 

 ケースの底に用紙がもう一つあった気がしたが、閉じられた先はもう確認のしようがなかった。

 

 

 

   ※

 

 

 

 そして向かえる、中間テストの日。

 

「……ハン」

 

 カルマにとって因縁の教師、大野が監督を務める。

 あからさまに見下すような笑みを浮かべて、コツコツ机を叩き、周囲を見渡す。

 

 音で気が散って、明らかにやり辛そうである。

 というか、わざとらしい咳やら、試験冒頭でのやや長い注意など、露骨に集中力乱しにかかっている。まあ効果の程は、日ごろから暗殺教室に慣らされている生徒らにしてどうかは、定かではない。

 

 しかし、まあともかく。

 

(テストは、全校生徒が本校舎で受ける決まり。つまり、僕等E組だけアウェイでの戦いとなる)

 

 不安そうな顔をしながら、渚はプリントの√計算問題を見る。

 他のクラスメイトたちも同様の感覚だろう。目の前に提示されたプリントは、まるで未知のモンスターであるかのように、3-Eに牙を向いて来ていた。

 

 全く解けないわけではない。

 だがところどころ、明らかに解かせない、解けない――それも、確信できるだけ集中してそういった問題が、要所要所に投入されていたのだ。

 

(わかっちゃいたけど……)

 

 椚ヶ丘学園のテストのレベルは、いっそ凶悪なものだ。

 

(やばい……。文章の意味はわかっても、とっかかりがつかめない)

 

 渚自身、問題の意味が理解できるようになっただけ成長してはいたのだが、それすらテスト問題はものともせず蹴散らしてくる。

 

(このままだと――やられるッ)

 

 終了時刻は、刻一刻と迫っている。

 3-Eの生徒たちに、余裕と呼べるだけの余裕は欠片もない。

 

 

 

 同日、同時刻。

 校舎裏、森の入り口で立ったまま目を閉じ、うっすら微笑んでいるころせんせー。

 

 背後から投げられた訓練用模擬ナイフを蹴り飛ばし、背後を振り向いた。

 

「……本気なの? 出来るわけないじゃない!」

「イリーナ先生?」

 

 大声で怒鳴る彼女に、不思議そうな目を向けるころせんせー。

 

「だって、あの子達この間まで底辺だったんでしょ! 校舎での扱い、見たわよ私だって」

「おやおや……。心配してあげてるんですねぇ。なかなか板についてきたじゃありませんか」

「黙れこのエロ教師ッ! この、この……、何で、当たんないのよッ!」

「ヌルフフフ」

 

 イリーナの投げるナイフをかわしつつ、ころせんせーはどこからともなく、「タコせんせー」グローブを取り出し、ナイフの回収まではじめた。

 

「いくら条件を作ったのがあの子達だからって、いきなりの目標にしちゃ高すぎるでしょうが!」

「いえいえ。事前調査も一応しましたからね。よっぽどのことがない限り、何人かは狙えるとは思いますよ。

 よっぽどのことでも起こらない限り、三、四発は喰らうんじゃないでしょうかねぇ」

 

 それに、以前はともかく今は「私達」の生徒たちです。

 

「ピンチの時にもきちんと我が身を助け、連鎖的に今までの経験が『つながる』。私が教えているものは、そういう教育(ぶき)ですよ」

 

 

 

「……!」

 

 ふと、渚の脳裏にころせんせーの微笑みが浮かぶ。授業中のものだ。

 

『問題は、決して正体不明の怪物ではありません。恐れず、一つ一つ確認していきましょう』

 

 さながらそれは、巨大な生き物の体のパーツに近寄り、一つ一つを観察していくように。

 

『例えばこの問題なら、√そのものを、それぞれ一つ一つ検証して、分解していきましょう。17に至るために必要な数は? ――はい、ではこの下の数値と掛け合わせると――』

 

 巨大な生き物の一箇所一箇所を分解して、細かく見ていく。

 すると、どうだろう。あれほど巨大に感じた問題の難易度が、段々と、段々と解けるように変化していくではないか!

 

 烏間の言葉が脳裏に響く。

 

『相手の獲物を見極める時は、過小評価しないことも大事だが、過大評価しないことも大事だ。下手に見極めることを失敗すれば、どちらに転んでも致命傷を負う。大事なのは、今の自分に何ができるか。相手の動きに対してどう動いていけるか、だ』

 

 その時続いた言葉は、生身で銃撃に当ろうとするな、ではあったが。

 

(嗚呼、なるほど――わかる)

 

 正体不明の、ドラゴンのようなものに思えたそれは――まるで、近所で売っているお魚さんだ。

 これなら、自分でも捌くことが出来そうだ。

 

『じゃあ、ぱっぱと料理してみようか!』

(……何で雪村先生の声のイメージだったんだろう、今)

 

 若干苦笑いしながら、渚は問題にとりかかる。一問だけではない。全体をよく見れば、例えば次の解けなかった問題も、同様の考え方がちらほら。応用こそあるが、やはり基本が中心なのだ。

 

(先生たち、みんな言ってたっけ。基礎を積み重ねていくことが大事だって)

 

 にわかに止まっていた手が、しゃかしゃかと動き出す生徒たち。

 大野が汗をかき、周囲を見わたす。どこかテストに取り組む生徒たちからは、笑みがこぼれていた――。

 

(さあ、次の問題を――) 

 

 

 

「――まあ、それで素直にいくのならば、私もこうして『暗殺教室』など開かなくて済んでいるのでしょうが」

 

 

 

(――へ?)

 

 ころせんせーがイリーナに言った一言が聞こえたわけでもないだろう。

 だがしかし、ほぼ重なったタイミングで、E組の手は止まった。

 

 それは、まるで高波だった。

 

(そ、そんな……!)

 

 渚たちが、立ち向かった事のないような、そんな壁。巨大な塀。

 ひときわ配点の高い、問の11番。最終門にあとちょっとというところの文章問題が、明らかに、今まで渚たちの見たことのない問題に違いなかった。

 

「(ふぅん……)」

 

 面白くなさそうに小声で一言。カルマはそのまま、静かな教室の中で黙々と問題を解き続ける。

 だが、渚はそこについていくことが出来ない。

 

(この瞬間、僕等は――背後からの見えない問題に、殴り殺された)

 

 

 

   ※

 

 

 

「……これは一体、どういうことでしょうか。

 試験の公正さ、という面で著しく欠いていると感じましたが」

 

 わずかながらも声音に不満や憤りを滲ませず、烏間は淡々と電話で確認をとる。

 案の定というべきか、向こうはこちらのことなど全く考慮しない声音で、愉快そうに語った。

 

『おっかしぃですねぇ。ちゃんと通達したはずですよ? 貴方がたの伝達ミスなんじゃないですかぁ?

 何せおたくら、本校舎来ませんし……フフッ』

「伝達ミスなど我々のシステムで起こり得ませんし、あの吉良八先生が見逃すとも思えない。

 それに、そもそもどう考えても普通じゃない。二日前にテストの出題範囲を、全教科で大幅に増加させるなど――」

 

 つまるところ、これがE組が今回直面した問題だった。

 体育教師である以上、義理は低いとはいえど、流石に烏間も第三者的立場から、物申さざるを得なかった。

 

 ただ、電話向こうの教頭は、むしろ嘲笑うように言う。

 

『わかってませんねぇ。ええっと、烏間先生?』

 

 新任ということもあって、何故忘れているんだ! と強くは言わない烏間。

 

『ウチは進学校なんですよ? E組もついてこれるか試すのだって、方針の一つ。本校舎では、理事長自ら教壇に立たれて、見事にその分のフォローをなさりましたし』

(主義のためとはいえ、そこまでやるか……。

 肉体的なダメージはともかく、自衛隊の可愛がりのほうがまだ健全に思えるぞ)

 

 経験者らしい烏間の感想だが、要するに陰湿ということだ。

 らちが開かないという風に通話を切られ、彼は吉良八の方を見る。

 

(全く、余計なことをしてくれた!)

(この男の回復(ヽヽ)速度は、過度なストレスでも左右されかねないというのに……。

 どこまで影響が出るか読めないが、最低でも「三月」までには使いものになっていないと――)

「――元も子もない、ってところでしょうか? 烏間先生」

「……」

 

 ころせんせーは、烏間に背を向け、廊下の方を見ている。

 

「ご安心を。一応、想定しているケースです。多少、やはり失望感はありますが、だからといってどうということはありません」

「お前がどう考えているか、ではない。わかっているのか? お前は――」

「まあ、最悪は向こうの『開発者』様がどうにかしてくださるでしょうし」

 

 第三者からすれば、わけのわからない会話が繰り広げられている。

 誰しもこれが「一年後の世界を左右しかねない」物事についての話だとは、誰も想像はつくまい。

 

「……それでも、我々はお前に協力を頼んだ。だからこそ、今お前は教師をすることが『できている』。

 最低限そこだけは忘れるな」

「ヌルフフフ。まあ、わかっていますよ? 生徒たちを物理的に『守って』もらっていますしね」

 

 さて、と言ってころせんせーは立ち上がる。

 扉を開けると、手前にはあぐりが立ち往生していた。

 

「あ、あ……、えっと。終わりました?」

「ええ。問題は……、ないわけじゃりませんが、多少はマシでしょうか」

 

 そんなころせんせーに、イリーナがつっかかろうとするが――。

 

「――って、まだ何もやってないのに、谷間にナイフ挟むんじゃないッ!」

 

 投擲し返すナイフは、当たり前のように彼の頭の横を通過していった。

 

「ヌルフッフフ! 嗚呼烏間先生、教室の方に次の時間、ちゃんと来てください! イリーナ先生も連れて!」

「あ、こら、湖録(ヽヽ)さん! 待ちなさーい!」

 

 反射的に取り出したハリセンを構えるあぐりに、楽しそうに笑いながらころせんせーは廊下を逃げる。

 

 そんな様に、烏間は頭を抱える。

 

「……こんな調子で大丈夫なのか? 一年後の地球は」

 

 突然の一言に、イリーナは不審げな目を向けた。

 

 

 

 

「さて、みなさんテストは残念でしたね」

 

 回答を返却し終えると、流石に生徒たちは落ち込んでいた。気持ち、RGBのBが強い。

 そんなクラスに対しても、ころせんせーは微笑を浮かべていた。

 

 あぐりは、何故かいない。イリーナと烏間が、教室の後ろ端で全体を見ていた。

 

「さて、でも教科ごとに細かく見ていけば、実際そこまで悪いとも言えませんでしたね。

 教科別でみれば、みなさんそこそこと言えましたが、いかんせん相手が悪かったと言えますねぇ」

 

 妙に落ち着いているころせんせーに、生徒たちは黙ったまま。

 なんとなく予想いていたのだ。もし駄目でも、先生は物腰だけは決して変わらないのだろうと。

 

「そんな中でも、カルマ君は流石と言えるでしょう。学年順位で言えば、四位です。

 A組の生徒にも劣りません」

「まあ、問題とか変わってもカンケーないし?」

 

 おお、というどよめきが上がり、生徒たちが立ち上がる。見る? とテキトーに示されるそれに、各々が突っ込みを入れる。数学に至っては満点なあたり、問題作生の矢野雄介はさぞ涙目なことだろう。

 

「俺出来るから、アンタのプリントで余計な範囲まで教えたでしょ?

 だから多少の変更や追加なら、対処できた。

 でもさ、俺は先生との今回のゲーム、参戦してなかったし?

 そこのところ、結局どーすんの? みんな気になって、夜も眠れなかったって感じみたいだけど」

 

 流石にそれは言いすぎにしても、クラスの面々はどこか、ころせんせーに縋るような目を向けてると、言えるかもしれない。

 

「俺、前のクラスに戻るつもりはないよ? 暗殺教室の方が、全然楽しいし。

 で、どーすんの?」

「ヌルフフフ」

 

 微笑みながら、ころせんせーは烏間から、例の鉄箱を受け取る。

 開封して紙を取り出しながら、ころせんせーは言う。

 

「確かに君達は、君達が宣言した『第二の刃』を私に示せませんでした」

 

 しかし、と彼は続けた。

 

「別に先生は、君達が提示したルールばかり(ヽヽヽ)が、先生に示すべき『第二の刃』だとは、一言も言ってませんよ?」

「「「「「?」」」」」

 

 疑問符を浮かべる生徒達に、ころせんせーは、箱の中からもう一枚(ヽヽヽヽ)紙を取り出した。

 クラスのみならず、烏間たちもこれには驚かされる。

 

 あぐりところせんせーのサインがされたその紙に書かれていたルールは――。

 

「「「「「『全員、全教科ニ年次最終試験の点数よりも、二十点以上あがっていること』?」」」」」

 

 はい、と、ころせんせーは微笑んだ。

 

「まもなくお昼ですが、校庭を見て見てください?」

「「「「「あっ!!」」」」」

 

 校庭では、いつか見たようにグリルが広げられている。ただし準備しているのは、雪村あぐり一人だ。

 ころせんせーは、全員に目配せをして、言った。

 

「今回、君達は一つ挫折しました。ですが、究極的には負けたというわけでもありません。

 人生は、基本的に生きるか死ぬかです。生きてさえいれば勝ち、だと極論も出来ますねぇ。

 まあ何が言いたいかといいますと――」

 

 ですから、と、ころせんせーは続ける。

 にやりと笑ったが、その表情にはどこか青筋が立っているように見えた。

 

「――期末テストで、本校舎(あいつら)に百倍返しです!」

「「「「「あはははははは――」」」」」

 

 子供っぽく、八つ当たりするみたいに言い切ったころせんせーに、生徒達は大いに笑いを誘われた。「ここ笑いどころじゃないですよ、カチドキ上げるところですよ!」と言うものの、彼等の耳には入っていない。

 

 しばらく肩で息をした後、ころせんせーはようやく、本日のメインイベント(?)についてコメントした。

 

「さて、そちらの紙に書いてあるとおり、ご褒美は――ちょっとした打ち上げです。

 理事長から事前に許可はとりました。なのでこれからみんなで――校庭で、BBQ大会を開催しましょう」

「「「「「「よっしゃ-!」「やったー!」」」」」」

 

 大いに盛り上がる教室。ころせんせーのサムズアップに、校庭であぐりもサムズアップを返した。

 

「……事前に読んでいたってこと?」

「さあな。だが、第二案としては妥当なところか」

(――そうか、「第二の刃」!)

 

 烏間たちの会話を耳聡く聞きつけて、渚は思わずころせんせーを見た。

 やはり、あの時見た紙は間違えではなかった。

 

 ころせんせーは、何か不足の事態が起こった時のために、対応策を考えていたのだ。

 

(もちろん、僕等の出した結論通りに負ければ、それもそれで受け入れたと思う)

(でもだからこそ、それが失敗した時のための策が、用意されていたんだ――)

 

「では、外に出ましょうか。それから烏間先生、これ」

「ん?」

 

 生徒を廊下に促しつつ、烏間に契約書をわたすころせんせー。

 その末尾は、こういった文章で締めくくられていた。

 

 ――なお、必要諸経費は烏間惟臣が責任を持つ。

 

「って、支払いオレかよおおおおおッ!?」

 

 となりのイリーナがぎょっとするほどに、烏間は、彼らしくない叫び声で絶叫した。

 

 

 

「渚、これ食べるー?」

「あ、ありがとう」

「渚ちゃん、もっとお肉つけないとねー。やわらかいやつ」

「筋肉じゃないの!?」

「渚君、とるなら早い方がいいらしいよ」

「だから何!? その僕の扱い!!」

「渚、ファイト!」

「杉野ぉッ!?」

「ほら烏間、もっと食べなさいよッ」

「……俺持ちなんだぞ、色々察しろ。アレか、お前等糖尿病の人間に、デザート毎日勧めるのかッ」なお、実際は烏間の「防衛省」の方の給与から天引きされる模様。

「あー、じゃあ先生、これは?」

「む? ……チョコレートか。いや、受け取れない。というか、それは普通に没収の対象だぞ」

「ええ!?」

「どんまい」

「原ちゃ~ん……」

「――だ、か、ら! コナ○君の○○は××でー―」

「――それこそ見方が甘いですよ、不破さん。第一、あれは子供とお姉さんという――」

「千葉くん、これ」

「ありがと」

「寺坂おめでとー、ようやく五十点超えたね!」

「黙れカルマ、てめぇ――」

「や、やめろー! お肉様に罪はね――」

 

 カオス極まりない校庭BBQ。

 そんな中で、渚はふと、ころせんせーの方を見る。

 

(中間テストで、僕等は壁にぶち当たった。E組(ぼくら)を取り囲む、分厚い(かべ)

 

 野菜を多く食べるように生徒に注意して回る殺せんせーと、彼同様野菜串を配るあぐり。

 

(ただ、それでも僕は心の中で胸をはれると思った)

(――自分がこの、E組であるということに!)

 

 確かに、その挑戦は一度は折れた。

 だがしかし――立ち直る時は、案外と近いのかもしれない。

 

 中村莉桜に脂肉を口につっこまれながら、渚は苦笑いしつつそう思った。

 

 

 




中の人がちょっと出掛かってる烏間先生。
次回、いよいよ修学旅行編・・・?
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