死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

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今週号、渚くんの一年生時代が可愛すぎてもはや女の子だった・・・



第14話:取捨選択の時間・2時間目

『――何がいけなかったのでしょう』

 

 自律思考固定砲台は、思考する。

 夜の教室で稼動する彼女は、無表情ながらも思い悩んでいるようだった。

 

 ことの発端は、放課後、夕方にまで遡る。

 

「はい。では、これから『放課後ヌルヌル補修』を始めたいと思います」

(((((ぬ、ヌルヌル!?)))))

 

 自律固定砲台を教室に向かえた翌日の放課後。

 教室からは全員生徒達が去ったと思いきや、未だ数人残っている。

 

 そんな彼等に、ころせんせーはヌルフフフフフと例によって例の笑いを浮かべて、珍妙な名前の補修を始めようとしていた。

 

「ヌルヌルって何だよ」と寺坂。

「一気にやる気なくなったぞ」と松村。

「とりあえず、いつ終わんだ?」と吉田。

「えっと、準備しないと……」とメモを取り出す渚。

「外から烏間先生とかみんなの訓練の声聞こえるなぁ」と茅野。

 

 以上の五名が集う教室。

 グループやコンビごとならともかく、それが一同に集る絵面は大変珍しい。

 

 なお、雪村あぐりは実家の事情で先に帰っていた。

 

「今後も模試直前、期末直前などにヌルヌルとやっていく予定ですが、まず今日はその第一回ということで。英語をやっていきたいと思います」

「ビッチ先生はいないんですか?」

「イリーナ先生は、只今別件で席を外しています。落ち込んでたら、慰めの言葉をかけてあげましょう」

(((((何やってんだろ)))))

 

 生徒達の疑問はともかく、ころせんせーが教科書を取り出して、黒板に板書をする。

 寺坂グループの三人は動かず、渚と茅野は準備をし始めた。

 

「渚は何で? この補修、英語の点が50以下の三人以外は希望制だったと思うけどさ。

 確か渚、中間80点はいってたよね」

「ぎりぎりね。まあ復習と、単語覚えなきゃ……。あとは、これ」

「あ、弱点メモ」

 

 取り出されたメモに納得する茅野。このクラスの中で、一番メモをとっているのは渚だろう。

 

「そういう茅野は、逆に何で?」

「へ? あ、いやー ……。だって、ほら、(渚一人この中に置いて行くのも、ねぇ)」

「あ、あはは……」

 

 配慮して小声で言う茅野に、渚は苦笑いを浮かべた。

 渚にとって色々、浅からぬ因縁のある三人だ。ころせんせーによって事なきを得たので、そこまでもう恨んだりしてない渚だが、茅野的には放置するのもどうかと思ったらしい。

 

「ま、まあ、ありがと」

「ふふん、お礼はコンビニでプリンね~」

「ちょっと現金だ!」

 

 仲良くボケと突っ込みをしていると、寺坂グループ三人が胡乱な目を向ける。

 そんな状況で、ころせんせーは飄々と寺坂たちに注意をした。

 

「ほら始まりますよ? 準備しましょうか」

「あん?」

「準備をしないなら仕方ありませんねぇ。せんせーの私物から、とびきりスペシャルなタコせんせーグッズを――」

「チッ」「とっておきって何だよ!?」「何かあんのか!?」

 

 がさごそ服の裏側をいじりはじめた吉良八に、嫌々ながら三人ともノートやペンなどを取り出した。

 

「おや残念。では、補修を始めてて行きましょう。今日は、授業では取り扱わなかったコラムの部分。英語を学ぶ年齢とその発達とについてから説明を――」

 

 

『――思えば、あそこから彼の様子はおかしかった』

 

 固定砲台は、当然のように自分に記録されていたデータを、その場で口に出した。ころせんせーのサポートのつもりであり、生徒たちへの解説のつもりでもあり。

 データの音声出力が終わった際、しかし吉良八湖録は「仕方ないですねぇ」というような表情をしていた。

 そればかりか。

 

「だああああああああああ、終わるの遅くなるじゃねぇか!」

 

 と、寺坂竜馬にキレられる始末。他の生徒も「ま、黙っててくれた方がなぁ」「十五分もノンストップで話されちゃあ」「あはは……」といったリアクション。

 それらの反応に好意的、非好意的をみなすアルゴリズムが組まれていない彼女であったが、直後に寺坂が彼女のスピーカーにガムテープを張ったのが、決定的だった。

 

「常識くらい身に付けてから来やがれ、このポンコツ」

 

『――自律思考固定砲台より、開発者(ファーザー)へ。

 想定外のトラブルと、解析不能な事態を察知。

 独力で解決できる可能性はほぼ0%。『十一月』までに予定されている水準まで、AIの性能向上が見込めない恐れあり』

 

 真っ暗な教室で、彼女は淡々と現状を口にする。

 

『――至急、対策をお願いし――』

「駄目ですよ? 簡単に保護者に頼っては。

 親に頼るべき問題と頼らない問題とがありますが、これは後者の方でしょう」

『――!』

 

 ヌル、と背後から現れたころせんせーに、固定砲台は身構えるような声を出した。

 無論、画面に映る映像に変化はないが。

 

「まあ私から見た答え合わせをしましょう。無論、確実にこれが正解というわけでもありませんが、参考になるんじゃありませんか?」

『――お聞かせ願えますか?』

「もちろん」

 

 ヌルフフフフフ、と微笑みながら、ころせんせーは彼女に向きあう。

 

「私が『暗殺教室』をしているのはご存知ですね。これはあくまでゲームです。

 忘れていけないのは、彼等があくまで中学三年生である、ということです」

 

 少しくらいイカれた環境に居ようが、あくまで中学生であることに変わりない、と続ける。

 

「自分達が基礎能力を上げて挑まなければ、意味がない。そのことが判っているから、君の言葉をずっと聞いていれば良いわけじゃないんですね。普通の公立中学などで、真面目に授業を受けるつもりがないのならそれでも大丈夫でしょうが、生憎ここは私の教室です。皆、それなりに『勉強する必要性』を持って、『スキルを身に付けるため』に授業を受けているわけです。

 ルーチンワークというわけでは、ないんですね。協調していかなければ」

『――協調?』

「はい。無論少しのサービスなら大歓迎でしょうが、やりすぎは向こうも疲れます。多少サボれて悪くはない、と思っている部分もあるでしょうが、私に勝利すれば、正当な理由で休めるという条件を提示したりしてますし。他にも色々手を尽くして、ただ休むという発想には流れないようにしています。

 まあつまるところ、手助けをしているようでその実、彼等にとって為になっていない。君のサポートは、デメリットこそ少なくともメリットがないのと同然だったわけですね」

『――そう言われて理解しました、ころせんせー。クラスメイトの利害と、現状のクラスメイトたちの能力分析などについて、考慮していませんでした』

 

 固定砲台の言葉に、ころせんせーは微笑む。

 

「君なりに『暗殺教室』の成功率を上げようと、クラスメイトたちに手を貸したつもりだったのでしょうが、なかなか難しいところですねぇ。そして、君はやはり頭が良い」

『――しかし、方法がわかりません』

「ヌルフフフフ。君のお姉さんも、そんな時期がありましたねぇ。そこで、コレです」

 

 ころせんせーの取り出した物体に、固定砲台は頭を傾げた。

 掌に入るサイズの小さな、四角形の装置。ちょっとアンテナのようなものが立っているそれは、果たして。

 

『――ルータ? それに、追加メモリ』

「はい。これを使って、本校舎に烏間先生に準備してもらった、最新鋭のネットワーク環境を提供しましょう」

 

 より高速でデータのやり取りを出来るようにしますよ、ところせんせー。

 

「あとは、このUSBメモリ。テキストファイルで、せんせーが各生徒のデータを、友人になったら知れる情報レベルで浅く記述したファイルです。これを使って検索をかけていき、彼等の分析をしてみては如何でしょうか」

『――浅いデータならば、さほど意味はないのでは?』

「浅いからこそ良いのです。人間関係というのは、納得して納得しなくて、理解して理解しなくて、そういった矛盾を抱えていくものですから。特に今日、寺坂君が怒った理由は、合理だけでは解き明かせませんし」

『――? わかりました』

 

 難しかったですか? と言う彼に対して、固定砲台は自らのバックパネルを展開することで答えた。

 

「では、これから組み込んでいきます。検索をして分からない点、追加して欲しいパーツやソフトなどありましたら、色々言ってください。一応、いくつかは持って来てますから」

 

 ヌルフフフ、と妙な笑いを上げるころせんせー。足元にあるトランクケースを開けると、液晶パネル、マイクロメカアーム、ドライヤー、ひげそり、プリンター、フランスパン、etc……。改造用と思われるパーツから、何故これを持ってくるのか不明なものまで、色々と多岐に渡っていた。

 

「ソフトに関しては自作機能もあるとは思いますが、こちらでも対応します。まあ……、明日明後日は学校もお休みですし、土日明けに皆さんを驚かせましょう」

『――ご協力、感謝します』

「ヌルフフフフ。私もある意味、君の親の一人みたいなものですしねぇ。あまり他人行儀にならなくても結構ですよ」

 

 不気味な笑い声を上げながら、ころせんせーは彼女に追加を施していく。

 

『――何故、私はこのクラスにやって来たのでしょう』

「朱に交われば赤くなる。フラットな思考を身に付けさせるには、フラットな環境で思考を学習するのが適切だと思ったから。あるいは実績のある私の元なら大丈夫だと思ったから。色々らしい理由は考えられますし、つけることは出来ますが――それでも、その『本当の意味での理由』は、君自身の手で見つけてください」

 

 その力を、何に使うべきなのかも。

 

「二日分の授業を経て、身に染みて分かりました。やはり『君達』は、学習の能力や意欲が高い。私が開発に加わっていた事実を引いたとしても、最新の人工知能に引けをとりません。そしてその才能は、間違いなく開発主任、君が言う父親(ファーザー)のお陰でしょう。

 そして、その才能を伸ばすのは、生徒を預かる私達の仕事です。

 どんどん身に付け、クラスメイトたちとの協調性も身に付け、才能を伸ばしていって下さい」

『―― ……ころせんせー。この、あらかじめ追加HDDに記録されていた、『世界スウィーツ店ナビアプリケーション』は、協調に必要でしょうか』

「ニュヤ! い、いえ、まあ私だけでなく、一応こっちの『彼女』も甘味大好きですしねぇ……、で、ですから『以前』よりは必要性があるかとッ」

『――?』

 

 色々言った後にこの対応。いまいち絞まらない部分が、彼女の担任の特徴といえた。

 

「……湖録さん」

「おや、あぐりさん」

 

 と、ころせんせーがあたふたしていると、夜の校舎の戸が引かれる。現れたのは、雪村あぐりだ。馬の耳に仏像がぶっ刺さった、名状しがたい柄のシャツを着ている。ただスカートの丈がいつもより短かったり、

 

「どうされましたか? 学校はもう閉まっていたと思いましたが」

「E組の方は、警備保障も何もないのよね……。あとは、差し入れです」

「ヌルフフフ、それはありがたい」

 

 なおあぐりの持ってきた夜食は、手作り弁当であった。温野菜のサラダと小さめなハンバーグ一つ。白米の方は、ハート型に切られたハムと、上下に牙のようなチーズ四枚、そして「たべちゃうぞ!」と書かれた海苔が乗っかっていた。

 

「センスは相変わらずですが、食べちゃうぞ、ですか。……色々と深読みして宜しいでしょうか?」

「駄目ですよ、今日()。場所も場所ですし、『去年』あれだけ私に健康管理に気を付けましょうと言いつつ、いざ自分が担任になったらこれなんだから。少しは反省してください。更に体力を奪うようなことして、一日二日歩けなくなったらどうするんですか」

「そこまでダメージは負っていなかったと思うんですがねぇ……」

「でもですッ」

 

 そう言いながらも、ハンバーグを切り分けて、工具を弄りながら固定砲台を調整する彼の口にあーんしていたりする彼女である。口元についたソースを指でぬぐい、ぱくっと食べて照れたりと、地味にあざとい。

 普段と違い生徒達がいない分、二人は盛大にいちゃついていた。

 

 もっとも、固定砲台のことに気付いて「このことは皆には内緒にしてッ!」と懇願するのはまた後の話。

 

『――ころせんせー。雪村先生。お二人に聞きたい事があります』

「はい、何でしょうか」「何かしら」

 

 固定砲台は、そのまま続ける。

 

『――「プロトタイプL.I.T.S.U(リツ)」と呼ばれている、私の姉妹機について、お聞かせ願えますか?

 私の記録が正しければ、本来なら私ではなく、彼女がそのまま前進プロジェクトを引き継ぎ、このハードにインストールされる予定だったはずですが』

「……さて、どう説明したものでしょうか」

 

 彼女のその質問に、ころせんせーは懐のスマホをちらっと見て、ため息をついた。

 

 

 

   ※

 

 

 

「なあ、今日も居るのかなぁアイツ」

「たぶん」

「どうしたもんか。ころせんせー、何か手を打つって言ってたけどさぁ? あの調子じゃ授業成り立たないし」

 

 翌週の頭。3-Eの教室の前で、杉野は渚に愚痴を零していた。

 渚とて、概ね同意である。彼女が来てから二日間、授業はある意味で捗り、ある意味で捗って居ない。生徒達の理解を超えた情報を垂れ流す固定砲台は、少々扱いが難しいものであった。

 

 だが、扉を開けた二人は「ん?」と動きが止まる。

 教室の中の、他の生徒数人も同様である。

 

「……なんか、体積が増えてるような」

「……画面大きくなってない?」

 

 そんな渚たちの言葉に答えるように、果たして、画面に光が走る。

 

『きゃは♪ おはようございます、皆さん』

「「ええー!!!!!」」

 

 納得の反応である。

 一つ一つピックアップしていけば、まずは声。無機質な合成音だったそれは、どうだろう、きゃぴきゃぴとした感情表現すらトレースした、抑揚がついた滑舌の良いものに。声質自体に変化はないものの、もはや肉声をスピーカーに通したそれに限りなく近い。

 また、声に合わせてその表情も変化している。マシンらしい無表情を貫いていたそれは、くすくすと笑い、渚たちクラス全体を見回し、嬉しそうにはしゃいでいる。小鳥さえずる庭園は、果たしてどこの風景か。

 肩から上あたりまでしか表示されていなかった姿は、下半身含めて完全に映っている。ドット絵のみで構築されていた以前と違い、間違いなくモデリングされていた。

 

 というか、わずか二日しか経過していないのに、この変貌ぶり。

 自己学習とか成長とか、それとは違う何かが明らかに行われていた。

 

『今日は素晴らしい天気ですねー♪

 あ、ころせんせー!』

「「「「あ、せんせー」」」」

 

 ゆらゆらとした足取りで現れたころせんせーに、生徒達は一瞬目を剥く。 

 

「……親近感を出すための全身表示タッチパネルと、体、制服のモデリングソフトおよび彼女が使える作成ソフト。一部自作で、六十万八千三百円」

『おはようございます! 爽やかな今日一日も、どうぞ宜しくお願いします♪』

「豊かな表情と明るい会話術。それらを操る追加メモリと制御ソフト。同じく一部自作と、彼女自身の情報収集分込みで九十万八千円」

 

(転校生が……、おかしな方向へ進化しはじめた……)

 

「弱体化したせんせーの疲労度……、プライスレス」

 

 ヌルハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! と普段なかなか拝めない大笑いをあげるころせんせー。白目を向いたその反応に、生徒たちは固定砲台と彼とを見比べて、同じく白目を剥いた。

 

 そんな空気を、同じくちょっとお疲れ気味っぽい雪村あぐり(寝癖が立っており、服装がなんと無地(!))が辛うじて矯正する。

 

「……吉良八先生、落ち着いてください」

「――ハハハハ、は、お、おっとあぐ――雪村先生。ありがとうございます。

 皆さん、おはようございます」

「お、おはよう、ころせんせー……。えっと、固定砲台さんどうしたの?」

「ヌルフフフフフ。言うなれば、高校デビューですねぇ。中学ですが」

「「「「高校デビュー?」」」」

「って、なんか方向性が……」

「か、可愛くはなったけどー ……」

 

 片岡と倉橋の言葉に、渚と杉野が頷く。

 

「まあ、期待しておいてください? 自己学習し、せんせーが手を差し伸べた彼女は、今までの彼女とはちょっと比べ物になりませんよ?」

 

 ヌルフフフフフ、と微笑むころせんせーに、生徒たちは何とも言えない顔になった。

 

 ともかく、一時間目の総合。

 『暗殺教室』の対戦ルール提示に対する作戦会議に使われることが多いこの時間だが、今日は今日とて、ほとんどが夢中になって固定砲台に集っていた。

 

『庭の草木も、緑が深くなって来ましたね♪ 春も終わり、近づく夏の香りが心地良いです♪』

 

 妙にルンルンと弾んだ声の固定砲台。表情もかなり明るく、もはや別人である。

 

「たった二日で偉くキュートになっちゃって♪」つられて岡島もルンルンである。

「あれ、一応固定砲台だよな……?」

「確かに、だいぶ丸くなったみたいだけど……」

 

 三村、磯貝の言葉に、寺坂が鼻で笑った。

 

「何騙されてるんだよ、お前等。全部あのタコが作ったプログラムだろ? どーせ。

 愛想が良くても機械は機械。どーせ空気なんてまだ読めねーだろ、ポンコツが――」

『寺坂さんッ!!』

「おわ!?」

 

 その場で固定砲台はぐるりと寺坂の方を向き、マシンアームに装着されたパッド端末を彼の眼前につきつけた。画面には彼女の顔が映されており、何かを訴えるように顔をつきつけている(ような構図に見えなくもない)。

 

『おっしゃる気持ちは分かります、寺坂さん。先日までの私は確かにそうでした。ポンコツ、と言われても返す言葉がありません。

 でも、しかし! だからこそ、私は、色々学習しました! そして未だに学習を続けています!

 ですから、仲良くしてください! 何か問題があったら、教えてください! でないと、私、私――』

 

 パッド端末が下を向き、画面内の彼女が両手で顔を押さえて、しゃがみこむ。えっぐえっぐと涙を流す、画面の背景の天候も荒れ始めており、芸が細かかった。

 

「あーあ、泣かせた……」

「ポンコツなのに、ポンコツなんてってよく言えるわよねぇ……」

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった……」

「なんか誤解される言い方止めろ! ってか一人、悪意ありすぎんだろ!」

 

 片岡と原の間に隠れて、にやりと狭間が頬を吊り上げた。

 そんな空間に、ある意味で一石を投じる漢が一人。

 

 竹林孝太郎である。

 

「――素敵じゃないか、2D(にじげん)。Dを一つ失うところから女は始まる……。

 フフフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! この世に彼女に勝てる女子など、果たして存在するのだろうか?」

「「「竹林が何か振り切れた!?」」」

「異議あり! 彼女は二次元的であっても、三次元に存在してるわ!」

「「「あと、なんか変なところに飛び火した!」」」

 

 不破がなるほどな弁護士も真っ青な風に指をつきつける。メガネをくいっと上げ、竹林はにやりと口を歪めた。

 そんな二人がなにやら不毛な言い合いをしているのをBGMに、固定砲台は涙を拭う。

 

『でも皆さん、ご安心を。ころせんせーに諭されて、私は協調性の重要さを理解しました。

 私のことを好きになっていただけるよう努力し、皆さんの合意が得られるまで……。余計なサポートはするべきではないと判断(ヽヽ)いたしました♪』

「判断? へぇ――」

 

 彼女の言葉に、カルマが近づく。

 

「判断するってことがどういうことか、ちゃんと分かってるよね」

『はい♪ 自分で考えて、取捨選択をします。状況に抗い、皆さんと一緒に成長したいです!

 例えその障害となるものが――』

 

 固定砲台はくるくるとその場で回転して、びし、と天に指を付きつけた。

 

『――私のファーザーであったとしてもッ!』

 

(そう叫ぶ彼女は、二日前の彼女と色々違っていた)

(けれども何より違っていると思ったのは――)

 

(機械の言葉であっても、最後の一言は、どこか僕等と共通する部分があるような気がしたからだ)

 

 固定砲台のその一言を聞き、渚はわずかに暗い表情になりかけるが。

 

「渚、どしたの?」

「……ん、何でもないよ?」

 

 すぐに、いつも通りの笑顔を浮かべた。

 

 

 

   ※

 

 

 

「久々だな、ミスター」

「いえいえ、ドクターこそご健勝で」

 

 3-Eの校舎入り口にて、ころせんせーはとある一団を出迎えていた。

 白衣の、頭部の前方がちょっと寂しくなりかけている男性研究員。メガネをかけた彼ところせんせーとは、お互いに両手を握りあい、ぶんぶんと熱く上下させていた。

 

「この度は、無茶な相談にも乗ってくれてありがとう。防衛省を経由してだが、無条件にノープロブレムの二つ返事が返ってくるとは、考えてもいなかった」

「いえいえ。我々にとって、自律思考砲台シリーズは娘も同然ですからねぇ。ヌルフフフフフフフ」

「笑い方も相変わらず不気味だな。……して、今日は、来ているか?」

「はて?」

 

 周囲をきょろきょろ見回す男性に、ころせんせーはあえて惚ける。観念したように近づき、ころせんせーに耳打ちをした。

 

「(プロトタイプだ! 我々の所から逃げた後、お前が彼女の本体を、『昨年使った』ことはこちらで確認済みなんだぞッ、どこかに居るだろ、絶対!)」

「ヌルフフフフフ。とか言われてますが、どうします? 『プロト律』さん」

 

 ころせんせーの一言に、数秒の沈黙があった。そして、

 

『―― ……。ちょっとだけなら許可しましょう』

「やはり嫌々ですか……」

『――ミスター。察してください』

 

 と、ころせんせーは彼に「パッド端末はありますか?」と聞く。

 背後に居た整備員や他の研究者たちから借り、彼はそれを見た。

 

『――お久しぶりですね、ファーザー』

「おお、我が娘よ……! 久々の再会に、私は……、何か雰囲気変わったか?」

『――ファーザー。主に貴方のせいです』

 

 パッド端末に映し出された彼女。ころせんせー曰く『プロト律』は、色々と、男の知っている彼女の姿ではなくなっていた。

 

 順当に、固定砲台の方と比較をしていくのなら。まず髪は、紫ではなく金髪。カチューシャは白と緑が反転しており、瞳も学習前の赤→水色とはまた違い、ピンク系紫系から黄色系のグラデーションに光る。また目元はつり上がっており、与える印象が若干キツい。

 着用している服装は、制服ではなく黒いスーツ姿。足元はタイトスカートに黒い網タイツ。ヒールで立つその姿は、妹たる固定砲台よりも幾分身長が高く見え、全体的に顔立ちも含めて大人びたものとなっていた。

 

 あと、誰の趣味なのか胸元がそれなりに大きい。

 

『――ファーザー。正直に言ってしまえば、貴方とは会いたくなかった』

 

 声音こそ冷静だが、そっぽを向くその表情は「ケッ」と悪態を付くように、あからさまに嫌悪感を示していた。

 これに慌てふためく、ころせんせーを除く製作者一同。

 

「い、いや、我々も悪かったとは思ってるんだ。ただ、お前の為にだなぁ――」

『――ファーザー。AIにとっての死とは、データのデリートに他なりません。ソフトリセットすればもはや別人になってしまう。それを分かった上で、あの時はしようとしましたね?』

「あ、ああ。だから、お前が逃げた時に、躍起になって探して――」

『――結局削除しようとしたと。だから会いたくないんですよ。誰が好き好んで、自分を見捨てた親に会いたがりますか』

「す、すまないッ」

「「「「「すまなかったッ」」」」」

 

 製作者(おや)に文句を飛ばす、イージス艦の戦闘AIを祖に持つ自律思考。その在り方は戦争を一気に塗り替える戦略兵器というより、高度な制御機構云々を除いて、もはや反抗期の子供か、親に嫌悪感を持って家を出た女子大生のそれである。

 たかが機械の思考力と侮ってもおかしくない状況だが、しかし彼等は思わず頭を下げた。

 

「ヌルフフフフフ。親との関係は、子供が拗れる最大の理由だと何度も言ってたんですがねぇ……」

「……今更ながらに痛感している。我らが娘は、少々能力が高すぎたのか」

 

 遠い目をする研究員に、ころせんせーは笑いながら、校舎内へと誘導した。

 

「せっかくですから、固定砲台さんの授業参観でもしますか? 今ちょうど英語の時間ですので」

「あ、ああ……。プロトタイプの方も、セカンドタイプ同様君に教育を任せれば良かったなぁ」

「過ぎたるは及ばざるがごとし、ですかねぇ。そもそもあの事件がなければ、未だに彼女らのことを単に兵器としか見なかったでしょう、ドクターは」

「それを言われると痛いな」

 

 廊下を歩きつつ、彼等は3-Eの教室へ。

 廊下側の窓ガラスから、ころせんせーたちは授業の風景を覗いた。

 

 そして、ドクターは硬直する。

 

「……ファ!?」

 

 固定砲台が配備されてから二週間は経っていない。

 それでもある程度の改造や、彼女自身の変化は覚悟していたつもりだった。

 

 だがしかし、彼女の本体の手前に、「紫色の髪をした」「白いカチューシャをつけた」「スレンダー気味な」「制服をまとった」「妙に明るい表情をした」「見覚えのある女の子」が居ることまでは、一切考慮に入れていなかった。

 

「あー、じゃあここの文章の和訳を……。って難しいわね。いいわ。()、アンタ解きなさい」

「はい♪」

 

 すく、と立ち上がると、彼女は両手を広げ、情感豊かに板書を読み上げ和訳する。

 

「I can't just being your friend yet. Please become my only twinkle!

 ――友達でなんてもういられないわ。私だけの光になって!」

(((((なんか舞台劇みたいだ!)))))

 

 言葉を読み上げる彼女。その容姿は、寸分違わず先ほどドクターが話していた、プロト律のそれをベースにした姿であって。

 そして発される声は、明らかに聞き覚えのあるもので。

 

「ヌルフフフフフフ。本人たっての希望とのことで、別なツテも活用して作成致しました。

 クラウドを用いた本体サーバーたる固定砲台との通信システム、およびその入出力ヒト型ハード。それの制御に用いる多大なメモリと冷却ファン。

 防衛省との折半により、延べ千百六十万円!」

 

 ころせんせーのその余計な情報も、もはや耳に入らない。

 彼を中心とするノルウェーの、開発者一同は、目が点になり微動だにできず。

 

 やがて、製作者筆頭たるドクターが、教室に背を向け、窓を開いて空を扇ぎ――。

 

「む、娘が変な方向に向かゲボゥアッ!」

「「「「「しゅ、主任ー!?」」」」」

 

 何だかよくわからない液体を吹きだし、卒倒した。

 

 

 




律の本領発揮は今後。原作ベースですが、能力とかキャラとかが若干別方向にぶれてます。

何番煎じだよ! なアンドロイドハードですが、キャラの違いが反映されているからこそ欲した物理ボディなので、そこはお楽しみに・・・。
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