死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

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原作とは最終目的がちょっと違います。


第16話:連携の時間・2時間目

 

 

 

 翌日もまた雨の日。テラスのある喫茶点。

 外観も内装もおしゃれなお店だが、どうしてか二人は店の外にいる。

 

「へぇ。果穂お前、良い店知ってんじゃん」

「コーヒーが美味しいんだよ。ちょっと値段張るんだけど。パパの友達が経営してるの」

 

 3-Cの土屋果穂と、3-Aの優秀生徒”五英傑”が一人、瀬尾智也である。

 今日もいつも通り、他のメンバーと別れた後、二人はそのままデートとしゃれ込んでいる。なお普通に椚ヶ丘中学では、登下校の際の寄り道についてはきちんとしないようにと注意が回されているが、学生にとって処罰されない部分はへのかっぱであった。

 

 

「晴れでも雨でも音楽も良いし、私のお気に入りの場所だよ」

「そんなこと言ってもよぉ、昨日前原の奴とも来たんじゃねーか?」

「そ!? そ、そんなわけないじゃん、瀬尾君が初めてよ」

 

 それなりに可愛い顔をしてはいるものの、性格の問題かこれは自業自得である。

 少し低い位置にある耳をいじりながら、若干疑いの眼差しを向ける瀬尾。昨日一緒になって前原を甚振った関係でも、やはり疑惑の目は向くわけである。

 

「ごめんねー、昨日は前彼がみっともないところ見せちゃって。あんな見苦しい人とは思ってなくって……」

「あー、E組落ちするような奴のことなんて相手すんなよ」

 

 もっとも、その疑惑の目自体色眼鏡なので判定はガバガバだが。

 ちなみに当の前原からは、振られたこと自体そんな重く受け止められてない事を当人たる彼女は知らない。

 

 雨の中のオープンカフェ。濡れてないこのスペースで優越感に浸りつつ、二人の話題は昨日の前原のことに移行していく。

 

「昨日のアレとは大違いだよなぁ!」

「きゃははは、ひっどーい!」

 

 大笑いを続ける二人。

 と、そんな二人に声をかける、背の低い老人夫婦が。

 

「あの……、そこ通っても良いですか、お坊ちゃん方」

「奥の席に座りたいんで……」

「はぁ?」

 

 足を組みながら、ぶらぶらしていた瀬尾。

 舌打ちと共にそれを解き、どうぞ、という仕草を嘲笑と共に言う。

 

「嫌味ったらしく口に出して言わなくても、通るならどきますよ、おじいちゃん」

「……どうも」

 

 おずおずとその誘導に従う二人。「なんだあれ」とか「老いぼれがこんな店来るんじゃねぇよ」などと隠す気もなく笑い合う二人に、二人の老人が背後でにやりと笑った事など、気が付いてもいない。

 

「そういえばあなた。さっきの占い師さん良かったわねぇ」

「そうじゃのぉ。100メートルくらい先のコンビニで、色々救われたわい。今日も雨が降るとわのぉ」

「梅雨ですよ、お爺さん」

「そうじゃったそうじゃった」

 

 あはは、と笑い合う老夫婦。

 それを聞きながら、土屋はぴくり、と笑うのを止める。

 

「あん? どうしたんだよ果穂」

「……(今、占いがどうこう言ってなかった?)」

 

 瀬尾に耳打ちをする彼女だが、対する彼は「あんなインチキくさいの気にしてどうすんだよ」と笑う。

 

「でも学校帰りに、声かけられたじゃん? 今日、不幸があるかもって。後悔は先に立たないって」

「だからって聖なる風邪用マスクなんてインチキだろ。……雰囲気はあったけど」

 

 それとなく思い出す二人。

 店に来る直前。二人は道中にいた謎の占い師から、忠告を受けていた。

 雨の日だというのに傘も差さず、頭の上からローブをまとう占い師。女性だが、陰気さを感じさせるもじゃもじゃヘア。気のせいでなければ、その背後には「闇」が噴出していたような――。

 

『悪い事は言わないから、貴方たち、今日はこのマスクをつけて一日過ごしなさい。さもないと――不幸が訪れるわよ』

 

「「……」」

 

 一瞬その彼女を思い出したが、まさかねーと笑い合う二人。

 そうこうしている内に注文したメニューが届き、瀬尾はコーヒーに満足するような声を出す。

 

 なお、バイトのお姉さんはちょっと苦笑いをしている。実際問題、ちょっと的外れな批評を言ったようだ。

 

「ひゃー! 濡れる濡れる……」

 

 大声で、手前のバス停の下に走ってくる少女。お? と瀬尾の視線がそれを追う。

 テンガロンハットに迷彩柄のジャージ。ミニスカート装備のロングヘアの美少女だ。年齢は彼等と同じくらい。綺麗な髪と、すらっとした体系はモデルのようでもある。

 

「ちょっと、瀬尾君?」

「あ、悪い悪い……」

 

 言いながらも視線の端で彼女の姿を視界に入れているあたり、どうにも興味は抜けないらしい。

 そんな状態で会話が長く続くはずもなく、二人は時折沈黙が発生する。

 

 バイトのお姉さんが、奥の老夫婦に注文していたサンドウィッチとサラダとを持っていくくらいの時間がたった後。

 

「悪い悪い、待たせたよ、恵美」

「遅いって、ユウ」

 

「「!?」」

 

 現れたイケメンに、二人の顔が凍る。

 赤いワイシャツに黒ネクタイ、黒ズボン。一見かっちりしているようでいて、適度に着崩しズボンにはチェーンを巻いている。さぞ不良かと思いきやビジュアルは正統派の男前であり、頭の上にはアホ毛が踊る。縁のついたメガネに注意がいくが、背後に抱えたギターケースがそれを許さない。

 

 印象としては、今ライブが終わって帰って来たミュージシャンといった具合か。

 そんな彼が、先ほどバス停で雨宿りしていた彼女の元へ行くのだから、注意を引くのも仕方ない。

 

「って、果穂お前も何あいつ見てんだよ」

「へ? い、いやいや、そんなことは……」

 

 とか言いながらも、二人の視線は彼等に固定されている。

 ちょっと照れた風に手を組みながら、相合傘をする姿が初々しい。

 

 下手すると瀬尾たちより年上かもしれない、美男美女コンビ。

 

 なお、そんな二人を見ていたため、老夫婦の持っていたスマホが『ごー♪』と女の子の声を鳴らしながら振動したことに、気付いてもいない。

 

「あなた、この近所トイレあったかしら。コンビニでさっき借りたけど……」

「おいおい、お前も大丈夫か? ここで借りれば良いじゃろ客なんじゃし。席は外でも」

「そうでしたそうでした。ちょっと行って来ますよっと」

 

 二人の注意が、ここで老夫婦に移った。「ボケかけ?」「ああはなりたくねーよな」と笑い合う。

 席を立ち、店内に向かう老婆。

 

 そして先ほどの腕を組んだ二人が、店の手前を横切るタイミングで。

 

「お、しまっ」

 

 がしゃん、とサラダのボウルとコップを落す老人。

 タイミングが悪かったため、瀬尾たち二人はこれにキレる。

 

「さっきからいーかげんにしてよ!」

「ガチャガチャうっせんだよ、ボケ老――」

 

「「大丈夫ですか!?」」

 

「「!?」」

 

 だが、思いっきり罵倒しようとした二人に、外を歩いて来ていた例の二人が、軽々と店のデッキに入った。

 老人の体に外傷がないか確認し、荷物や他に飛んだものがないか。コップが割れて居ないかを確認したり、とにかくてきぱきと、その場をおさめる。

 

「す、すみませんな……」

「いえいえ」「お怪我がなくて良かったです」

 

「「……」」

 

 席を半立ちしたまま、何も言えなくなっている二人。

 と、背後からバイトのお姉さんが慌てて老人の方へ。。

 

 室内から状況は見ていたこと。最低限確認することを確認した後、お姉さんは頭を下げた。

 

「す、すみません。えっと……」

「いえいえ」「当然ですよ」

「そういうわけにも……」

「元々、お店に入ろうか迷ってたところだったので、困った時はお互い様ですよ」

「イケメンね、君……。うん、じゃあそうですね。何か一品、私の方から奢らせて頂きます」

「へ?」

「そのイケメンさ加減に免じて。せっかくお似合いの彼女さんも居ることだし」

 

 ウインクを飛ばす彼女に、二人は何とも言えない表情を浮かべた。

 照れてるのか困ってるのか、判別がつかない。

 

「いや、私こそすみませんの。連れが来たら店を出ますんで」

 

 ぺこぺこと頭を下げる老人。

 彼にお大事に、と言って店の中に誘導されるイケメンカップル(?)。

 

「……たく、何なんだ今日は」

「ご、ごめんね、普段はもっとスマートなんだけど、お店……」

 

 瀬尾も果穂も微妙な表情のままコーヒーを飲む。

 その瞬間、老人が僅かにニヤリとしたことに、二人は気付いていない。

 

「じゃあ、そうだな。今度は俺が別な店紹介して――くしゅん」

「そ、そう? じゃあ楽しみに――くしゅん」

 

 コーヒーカップを持つ手が止まり、動けなくなる二人。

 

「な、何だこれ、急に――げほっ、くしゅん、えっくしゅぃッ!」

「あ、くしゅん、くしゅんッ!」

 

 何故か突然、くしゃみが止まらなくなる二人。

 

「お、お前ここのコーヒー、本当に大丈夫か――くしゅんッ!」

「ば、馬鹿なこと言わないでよ私の行きつけに――くしゅんッ!」

 

 と、二人は鼻を付く臭いを感じ取る。

 店の外にある観葉植物のわずかな匂いでも、既に敏感になっている二人。

 

「お、俺、洗面所――!」

「あ、ずるい!」

 

 とにかく一時退避と、顔を洗おうとダッシュで駆ける二人。

 道中さっきの二人が「ホール買って返ったら、弟達喜ぶかな!」「先生の財布だけど自重しようよ……」といったやりとりをしていたのすら目に入らず、洗面所のあるトイレの方へかける。

 

 だが、扉が開かない。

 

「ちょ、何で開いてないの!?」

「あ、ああっさてはさっきのババァ、間違えてこっちも鍵閉めやがったな!?」

 

 奥のトイレから、老婆の鼻歌が聞こえてくるが、扉二枚に更に距離があり、空調の音が五月蝿いためか向こうには聞こえないらしい。

 流石に限界になった二人は、コップを磨いていた店長に叫ぶ。

 

「ちょっと、他にトイレないの!?」

「じゃなきゃそこの貸してくれ!」

「い、いえ、一応飲食店ですので、それは……。うちはそこ一つで、後は近所に――」

 

 事情が飲み込めず、てんやわんやな店長。

 なお、慌てすぎているのか手前の鍵だけ開けてもらうという発想が、二人からは出て来ない。

 

 だが店長の一言を聞いて、二人の脳裏にはあるアイデアが浮かぶ。

 

『100メートルくらい先の方にあったコンビニで――』

『コンビニでさっき借りたんだけど――』

 

「!?」

「あ、ちょ、何先に行こうとしてんのよ! あんた男なんだから先譲りな――くふんッ!」

「できるか! っていうかこんな顔で――ブエッ、いられう、えっくしょん!」

 

 もはや言語が成り立たない。

 なお、お代を払う余裕のない二人の変わりに、店を出る老夫婦が「迷惑料じゃ」と払っていたので、後々二人のことが問題になることはなかったりするが。

 

 走ってる途中、足を挫きかける果穂。

 瀬尾は、そんな彼女を見向きも気遣いもしない。

 

「まさか不幸ってこれ? ……くしゅん」

 

 色々考えが廻りはするが、そんなことより早く行かなければ。

 だが、信号機で足止めを喰らう彼女であった。

 先を行く瀬尾が、鼻で笑ってんだかくしゃみしてんだかわかんない声を出す。

 

 もっともそんな彼の上に、丁度伐採された複数の枝が落下してくるところだったが。

 

「すみません、大丈夫ですか!?」

 

 良く見れば、民家の壁には「只今伐採中、避けて通ってください」の文字が躍る。

 そのトラブルのお陰で果穂が追いつき、二人はデッドレースを再開。

 

「じゃあまた、イケメンの先生さん」

「ヌルフフフフ。おや? ああ、トイレなら店の奥ですよ」

 

 コンビニから出てくる、アカデミックコーデではない雨合羽だが、見覚えのある教師の顔に、一瞬表情が引きつる二人。

 だが背に腹はかえられず、アドバイスに従い疾走。

 

 だが残念ながら、当たり前だが洗面所は一つしかない。

 

「くしゅんッ! アンタ、トイレの中の方で洗いなさいよ」

「汚ねぇだろうが! えっくしゅッ!」

 

 お互いに吐瀉物を撒き散らしながら、絶叫して足の引っ張り合いをする二人。

 結局腕力的な問題からか、瀬尾が勝利し先に洗う。

 

 これがせめて、先程の距離関係を維持したまま、どちらかが先に店内に入ったなら事情は違ったのかもしれないが。

 同時に店に入ったというのが、完全に悪影響と化していた。

 

『過ぎたるは、及ばざるがごとし』

「……っ、ま、前原君ならっ」

 

 不意に、占い師の言葉を思い出す果穂。

 確かにキープしていた彼ならば、こんな状況なら一応は譲ってくれたはず。しかも結果的に無銭飲食となってしまう状況を回避するくらいはしてのけただろう。

 

 例えば、今まで発想は出てこなかったが民家に借りに行くなどして。

 それこそ、さっきのイケメンカップル(?)のごとく、色々気遣ってもらえたかもしれない。

 

「……くしゅん!」

 

 神妙な表情をしながら鼻を押さえる彼女と、何度顔や鼻を洗ってもくしゃみが止まらない瀬尾。

 

 結局、今日は二人にとってかなり屈辱的な一日として記憶に刻まれた。

 

 

 

   ※

 

 

 

「作戦名は、題して『隣の芝は青い』作戦よ」

(((((直球だ……)))))

 

 時刻は、遡ること昨日の放課後のカラオケボックス。

 昨日の前原に関する顛末を元に、事前に声をかけていたメンバーは結集して作戦会議をしていた。

 

 面子はころせんせーをはじめ、渚、茅野、杉野、菅谷、奥田、カルマ、倉橋、矢田、磯貝、片岡、千葉、速水、岡野に前原本人。

 加えて、ちょっと異色なメンバーとして、神崎と狭間。

 かなり大所帯である。

 

「とりあえず、渚のメモを中心に役割分担考えたから、その通りに動きなさい」

「「「「「了解」」」」」

 

 メモを展開して、渚は作戦概要をメモする。

 

 

 シナリオを書き、陣頭指揮をするのは、かなり意外なことに狭間である。

 杉野が神崎に「一緒にやろうぜ」と連絡を入れた際、二人そろって図書館で本を読んでいたことが運のツキ。そのまま「何で私が……」「まあまあ……」と引っ張られ、結果として現在の状況である。

 

「狭間さん、すごいよね。よくこんな短時間で――」

「私と神崎とじゃ、文章に対して見る世界が違うのよ。こんな陰湿なネタ、はかどるじゃない」

(((((何が!?)))))

 

 というわけで、狭間が描いたシナリオを、ころせんせーと神崎でマイルドに仕上げたものが、今回の計画の草案となる。

 

(狭間さんは神崎さんと違って、ものの解釈がネガティブだ)

(それが、今回の作戦でどう生かされるか……)

 

「茅野が小学校時代、演劇をやっていたっていうから、演技指導とかは任せるわよ」

「らじゃー!」

「じゃあ肝心のカップル役だけど……、磯貝と片岡やりなさい」

「「ええ!?」」

「アンタら真面目だから、照れても最低限仕事こなせるでしょ。変装は完全に菅谷に投げるけど、大丈夫よね」

「んー、二人とも家に服どんなのがあるか……」

「場合によっては、先生のお古とかあげましょうか?」

「本当ですか!?」「磯貝君、目、目!」

「赤羽と岡野と前原は、ラストの仕上げ」

「な、なんか悪いなぁ」「別に」

「狭間さん、なんか生き生きしてるねぇ」

「そうかしら。否定はしないけど」

 

 なお否定しないという時点で、今回の仕事に対する彼女の楽しみ度がうかがえる。

 

「接待は矢田たちに任せるわよ。いいわね」

「おっけー!」「了解」

「杉野は状況報告。狙撃班二人はいつも通りよ」

「「わかった」」

「なんで俺、報告?」

「……」

「何で黙るんだ? なあ」

「神崎は、律調べで明日の二人のデートコースのリサーチは終わってるから、私が占い師やってる時、背後でドライアイスの煙、焚いてなさい」

「う、うん……」

「ヌルフフフ、先生は――」

「特に仕事ないわよ」

「ニュヤ!?」

 

(な、なんかすごくテキパキしている)

 意外な才能に驚きつつ、渚は狭間のメモに「交渉力高め? 好きな分野だとスペックが上がる」と書き込んだ。

 

「で、奥田は――」

「はい。肝心の弾薬の方ですね。そこは律さんも居ますし、頑張ります」

『はい♪』

 

 

 そんな流れで向かえた当日。

 

 

「すげーな。あれ、茅野と渚だろ?」

「パーティ用のマスクあるだろ? 俺にかかれば、あの通り」

「やっぱ菅谷呼んで正解だったわ」

「茅野の演技指導もあって、結構様になってるしな。声音とか。

 あと狭間は逆に、そんなに改造しなくて充分ってのが凄いな」

「あー、だな……」

 

 喫茶店の向かい側の民家にて、望遠鏡を使い状況を観察する二人。

 現在ここは、イリーナ直伝の接待テクニックを使った倉橋と矢田により、家主のおじさんから借り受けている状態だ。

 

 続いて、片岡と磯貝が変装したカップル(?)が登場。菅谷いわく、コンセプトはライブ帰りのファンとミュージシャンカップル。

 腕を組む二人見て、杉野が一言。

 

「……怪しいよな、あの二人」

「だな。茅野の演技指導とかなくても」

「「「「「うん、うん」」」」」

 

 照れ方が結構ガチな割に、すんなり作戦行動に移れる二人。

 背後の複数人からも同意が得られるくらい、委員長組の二人は話のネタにされることがある。

 

「というか、磯貝ってギター持ってたっけ」

「あれ、ギターケースっぽいけどテニスのラケットケースらしい。着替えも入れられるやつ」

「へぇ!」

「ミュージシャンにしようと思ったのは、そこが切っ掛けだな。あと、片岡の上着はジャージをちょっといじったやつだし。ワイシャツはころせんせーのお下がりで」

「お下がりって言っても、なんだっけ? 知り合いの子供のじゃなかったか? イニシャルで”N”って入ってたし……っと、じゃあ次だな」

 

 店の手前を横切る二人。

 律を経由して、渚のスマホに連絡を入れる杉野。

 

「ヌルフフフ。では、皆さん頑張りましょう」

「あれ、ころせんせーどこ行くの?」

「ちょっとアリバイを作っておかないと、烏間先生に感づかれるかもしれませんので……」

 

 その一言が、烏間の部下たちへの口止めに行くということとイコールだということに、生徒達は気付けない。

 律に後を任せ、ころせんせーはその場から立ち去った。

 

「じゃあ、二人とも」

 

 奥田の調合した弾丸を、銃身にこめる射撃成績男女トップ二名。

 杉野と菅谷が退いて、千葉と速水とに狙撃場所を提供した。

 

 渚がボウルを落したのを合図に、ターゲット二人の注意が逸れたのを確認してから、コーヒーに向かって発砲。

 

 僅かに吹き零れそうになるが、律の事前計算通りぎりぎりでバランスをとる。

 

命中(ヒット)!」「マッハで動いてそうな目標に比べればチョロいね」

「おお!」

 

 淡々と片付けをはじめる仕事人二人。

 元の位置に戻りつつ、くしゃみがとまらなくなっているターゲットたちを見て、杉野が奥田に聞いた。

 

「律さんが学園のデータベースから収集した情報を元に、花粉薬を作りました」

「か、花粉薬……?」

「花粉とか、胡椒とか香料とか色々混ぜた、一時的に相手を麻痺させる薬です。

 くしゃみと鼻水が何をやっても一定時間止まらない、ばらまけばまさに集団破壊兵器!」

「「お、おう……」」

 

 ビクトリア・バーストと命名する彼女に、杉野と菅谷は何とも言えない表情になった。

 

 

 所変わって、ここはある民家の木の上。

 

「お、来た来た」

「作戦的には、確か『二人の足並をそろえる』だったよね」

「ん」

 

 警告の貼紙がしてあることもあってか、三人は割と思いっきり木の枝を伐採して、走ってくるターゲットの片割れの上に落した。

 

「あれじゃ状況も把握する余裕もないよね」

「ころせんせーに言われて毛虫とかはとっといたけど、どうせならそのまま落した方が面白かったよねー」

「「いやいや」」

 

 カルマの発言に、ツッコミを入れる前原と岡野ペア。

 民家のおばちゃんから感謝の言葉とペットボトルの小さいお茶をもらいつつ、三人は頭を下げてその場を後にする。

 

 

 

「ま、少しはスッキリしましたかね」

「すっきりしたら駄目よ。後に爪跡を残さなくちゃ」

(((((その執念は何!?)))))

 

 にやりと笑いながら、ころせんせーに一言入れる狭間。

 コンビニからやや離れた位置に集合しつつあるE組の面々。メイクを落しながらな彼女に、苦笑いしながらころせんせーは聞いた。

 

「さて狭間さん。本日の作戦のポイントはどこでしょう」

「連鎖的に思い出させることよ」

 

 まず、狭間の占い師により第一段の伏線を張り。

 老夫婦組により苛立ちを加速させつつ、カップル(?)組で自分達との違いをそれとなく思い知らされ。まあ、あのまま店の中に入ってしまうのは予想外だったが、状況的には良しとした。

 そして最終的には、今と以前とを比べさせることが重要である。

 

「恋愛小説でよくあるじゃない。元彼のことを後悔するのは、今の彼と比べて元彼の良かったところを意識させるいことよ。加えて目の前でもっと有料物件があれば、過ぎたるはってなるわ」

「でも狭間さん、たしかあの小説って、その後運命の相手に出会えたって話じゃ……」

「あれ、続刊一杯あるわよ。主人公変わらないで」

「う……、えっと、それでも、ちょっとずつは前進してるんじゃない?」

「後悔ってのは、やった後に悔いるから後悔なのよ。まああの作者、割と行き当たりばったりで展開考えてるみたたいな気がするけど、それを置いても、一度悪評がつくと後が面倒になるってわけね」

(((((闇が見える……)))))

 

 狭間のコメントに苦笑いする神崎。

 不破でもこの場にいたら「黒魔術?」「くっ、幻術か……」くらいは言ってしまいそうな、そんなテンションであった。

 

「……えっと、何つーか」

 

 その場の空気を変えるため、でもないが。

 前原が頭を掻きつつ、みんなに頭を下げた。

 

「ありがとう。ここまで話を大きくしてくれて」

 

 なおみんながみんな、今回ばかりは普段のカルマのような笑顔を浮かべていたりもするが、それはともかく。

 

「どうですか? 前原君。まだ自分も、弱い者を平然と甚振れる人間だと思いますか?」

「……いや、今のみんな見たらそんなことできねーや」

 

 サポート組(積極性は低いが熟考し、自分に出来ることを冷静にこなすグループ)を中心に見つつ、前原は笑う。

 

「一見強そうに見えなくてもさ。皆どこかに頼れる武器を隠し持ってる。

 それには当然、俺にないような武器だって沢山あって……。

 今回特に狭間とかな」

 

 反応こそなかったが、概ねこの場全員の意見が一致した瞬間であった。

 

 そういう事です、ところせんせーは前原の肩を叩いた。

 

「強弱は、一目で簡単に計れるようなものじゃありません」

 

 それとなく渚に流し目を送るころせんせーだが、当の本人はメモに集中している。

 苦笑いを浮かべて、彼は言葉を続けた。

 

「単独であれ幾数人の連携であれ、軽んじればそれこそ危うい。

 アナフィラキシーショックというものをご存知でしょうか?」

「確か、蜂とかのやつだよね」

「毒物が体内に侵入した際、それの抗体を多く作りすぎてしまい、過剰なアレルギー反応として命を落す症状です」

「奥田さん流石ですねぇ。ともかく、それとて一番最初に軽い気持ちで毒物を体内に取り込んでしまうことが切っ掛けであることが多い。

 ましてやそれが、複数と連携して”つながって”しまえば、もう単独で手に負えるわけもありません。

 そのことが今回、色々な立場から君達は学べたと思います」

 

 全体を見回しながら、ころせんせーは授業らしく生徒達の理解度を見る。

 なお、前原が若干そわそわしていることには気付いていない。

 

 指を立てて、ころせんせーは前原に微笑みかけた。

 

「それを、E組(ここ)を通して学んだ君は、君達は。

 この先、簡単に弱者をさげすむ事はないでしょう。ゆめゆめ覚えておいて下さいね」

「「「「「はい」」」」」

 

 その首肯に、満足そうに笑顔を浮かべるころせんせー。

 彼等の反応がきちんと生かされているかどうかは、彼の記憶の中では二学期の中間試験前後を待つことになる。

 

 ともかくとして。

 

「……うん。俺もそう思う。

 ありがと、みんな」

 

 自分の励ましを中心に行われた授業に、前原は同意を示した。

 

 

 もっともそこから一秒も経たず。

 

 

「あ、やばっ。

 俺これから他の中学の女子とメシ食べに行かないと。

 じゃあ皆、また明日!」

「「「「「   」」」」」

 

 手を振り走り去る前原の背中に、全員の時間が停止する。

 真顔で静止する生徒。苦笑いのまま「やっぱりですか」みたいな表情の先生。『はてな?』と頭を傾げる律に、「らしいと言えばらしいか」と肩をすくめるカルマなど。

 

 彼の姿が見えるか見えないか微妙な距離になったタイミングで。

 

 

 

 

 

 

「この……、女たらしクソ野郎おおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 岡野ひなたの絶叫だけが、むなしく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、そういえば磯貝たちは?」

「あ、たぶんまだ店内なんじゃ……」

『はい♪、ころせんせーのくれた五千円から、兄弟たちへのお土産を買って、一緒に家に持って行ってるみたいですよ?』

 

 

 

 

 

 




※なおこの後、色々生徒達の様子が怪しかったのをあぐりに感付かれ、律に質問してゲロされ、ころせんせーはお説教を受けた模様
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