死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

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わずかながら光明が見えたので投稿・・・長らく御待たせしました、次は今回ほどは開かないと思います;


第27話:乗り越えの時間

 

 

 

 

 

 

「あちぃ~」

「地獄だぜ、クーラーとかないの教室とか」

 

 炎天下。山の上にあるとはいえ、標高はそこまで高いとも言いがたい。つまり雲がかかる程に寒くはないので、夏本番に向けて徐々に気温が上昇する、じめじめとした東日本の気候に、3-Eの生徒たちはやられていた。

 定期的に熱中症が出ないよう、副担任などが水道水をとるように言ったりもしているが、段々と生ぬるくなり始めてきているので、飲みはするが皆萎えていた。

 

 そんな中、担任教師たるころせんせーも、装いが夏使用に変更されている。

 アカデミックドレスではあるのだが、袖が短く薄手で、ぱっと見ロングパーカーみたいな構造になっていた。

 

 下に見えるクールビズなシャツ姿がまともであるはずだが、どうしてか見慣れてない服装に違和感が付きまとっていた。

 

「だらしない、夏が暑いのは当然のことです」

「ころせんせー、元気だよねー」

「雪村先生ほどじゃありません」

「気合が違います」

 

 倉橋やころせんせーの言葉を受けて、ぐっと拳を握るあぐり。ノースリーブな装いでこちらもいくらか涼しげだが、それ以上に汗だくだくでも元気に笑っていた。

 と、ここで渚が何かに気付いた。

 

「……ころせんせー。後ろの黒板、少し白くなってない?」

「ヌルフ?」

 

 と、後ろを振り返った瞬間。アカデミックドレス(夏)の裏側に、大量の冷却剤めいたものがちらりと見え隠れ。

 

「「「「「ずりぃ!」」」」」

「にゅや! ちょ、ちょっと先生、精密機械もあるので多少温度は一定に保っておかないと、危険だというのもあるのでご容赦を……」

『ころせんせー、皆さんにも配ってはいかがでしょうか? 予備を買ってないとは思えません』

「し、仕方ない……。明日持って来ましょう」

 

 精密機械も(体内に)あるので、という台詞に突っ込みを入れなくなっている3-Eの面々。日頃の暗殺教室においても、生徒達のスキルは上がっているが、それ以上にころせんせーの基礎スペックの極まり度合いが、いよいよ人間離れしているのを察し始めた生徒達。

 

 本人が自称するところの改造人間、というのが、生徒たちにとってもにわかに真実味を帯び始めている証拠であった。

 

「でも、今日プール開きだよねー、本校舎! 体育の時間待ち遠しいなぁ」

「いあー、でもE組にとっちゃ地獄でしょ半分。なにせプールは本校舎だけだし、この日本晴れの下、山道1キロ近く往復しなきゃなんねーし」

 

 倉橋の言葉に木村が半笑いで言う。

 文字通り、E組死のプール行軍。授業終了時の生徒達は、カラスの餌のようだともっぱらの評判(?)だった。

 

「なんとか出来ないの? ころせんせー。

 授業日数とか変更するとかさー」

「んもぉ、しょうがないなーひろ太(ヽヽヽ)くんは、とか言いたいところですが――」

 

 さり気なく放たれた猫型だか狸型だかの未来のロボットのものまねに「似てる!?」という反応がちらほら聞こえたが、特に気にせずころせんせーは続けた。

 

「なんでもかんでも先生を当てにするんじゃーありませんッ!!

 いくら超人めいていても出来ないことは沢山あります。これでも一応、人間ですからね」

「……だろーねぇ」

 

 ため息を付く前原。それに連なるクラスの反応を見つつ、あぐりは偲び笑い。

 でも気持ちは分かります、ところせんせーは続けた。

 

「仕方ないので、全員水着に着替えて下さい。

 そばの裏山に沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう」

 

 流石にこの時点で、ころせんせーが何をしようとしているのか、というか何を準備していたのかを察する生徒は居なかった。

 

 

 

 木の枝を掻き分けて、時に結び、ころせんせーは生徒たちを先導する。大半の生徒たちは水着の上からジャージを着用しており、ぱっと見だけならそこまで変な光景でもなかった。

 

「あつはなついな、と大阪の方では猛暑の際にそう言うらしいです。まあオヤジギャグなんですが、元祖は古き良きしゃべくり漫才まで遡ることが出来ます」

「なんて無駄知識だ……。しっかし暑ぃ……。

 渚も流石にメモは持って来てないな」

「スマホは持ってるけどね、防水だし」

 

 杉野の言葉に笑いながら、渚は目の前を見る。

 相変わらずのころせんせー。片手には縞々模様のタコせんせー団扇を持って扇いでいる。服装は夏使用のままだが、着替えないんだろうかという生徒たちの感想は湧かない。できない事も多いがこの先生のことである、下に着ていたところで何ら不思議はなかった。

 

「裏山に沢なんてあったっけ」

「一応な。って言っても、足首まであるかないかくらいの深さだぜ」

 

 千葉の言葉にへぇ、と速水が頷く。どうにもイメージし辛いのだろうが、当たり前である。浅瀬すぎて小さな魚さえ住めなさそうなそれは、とてもじゃないが水泳できるものだと断言はできまい。

 

 まあ水掛けたりできるだけマシか、と杉野は割り切った様に笑った。

 

「渚君、この間すごかったらしいじゃん」

「カルマ君」

 

 と、背後から声をかけてくる赤羽カルマ。

 

「見ときゃ良かったなー、渚君の暗殺」

「本トだよー、カルマ君面倒そうな授業全部サボるから」

「えーだってあのデブ嫌だったし」

「烏間先生の授業も、最初の方は見学だけだったよね」

「相手に合わせてレベル変えてくれるってわかんなかったし、温くないなら楽しめるからね」

 

 茅野も混じってきて、三人は談笑。

 だがそんな中、渚はふと思い出す。

 

(でも、どうしたんだろうあの時は)

 

 我を忘れたようにナイフを振るった自分を思い出し、茅野の顔を見た後に頭を左右に振る渚。「?」という茅野の表情に「何でもないよ」と笑った。

 

「でも、暗殺教室的にはころせんせーに通用しなきゃ意味ないんだよね」

「まあね。決定打がないって感じだよね」

「皆もあの手この手、暗殺教室のある日は毎日手を尽くしてるけど……」

 

 例えば今日だって、廊下の床下からの狙撃や黒板消しトラップに同時に忍ばせた訓練用ナイフなど。それらを苦もなくあっさり回避し、アドバイスさえ入れる辺りバケモノである。

 

(未だ決定的な暗殺が出来ていない以上、何か、もっと強い弱点でもあれば――)

 

「さて皆さん! さっき先生は言いましたね。いくら超人めいていてもできない事が沢山あると」

 

 足を止め、背後を振り返るころせんせー。爽やかな微笑みは、いつも通り黙っていれば良い男である。

 だが今は珍しく脱線せず、そのイケメンな雰囲気のまま彼は続けた。

 

「その一つが、君達みんなをプールへ連れて行くこと。残念ながら、自然に任せれば丸一日かかってしまいます」

「んな大げさな。本校舎まで歩いて二十分も――」

「おやおや? 杉野君ー―」

 

 

 ――いつから君は、本校舎に行くと錯覚していましたか?

 

 

 きゅぴーん、と不破や竹林に電流走る。

 いや、それだけではない。岡島が最初に、耳に聞こえる違和感に気付いた。

 

 そしてそれは段々と伝播していき、生徒たちは思わず、ころせんせーの背後へと駆け出し――。

 

 

「せんせー()特製の、E組専用プールです!」

 

 

 浅い所でさえ、背の低い渚も胸の上のあたりまで浸かれるほどに水の溜まったそれは、既にちょっとした池のようなものだ。

 

「流石に時間が掛かりましたよ。なにせ小さな沢でしたから、堰き止める事約一日。

 25メートルコース幅も勿論確保。

 シーズンオフには水を抜いて元通り、水位を調整すれば生簀も観察も何のその」

 

 製作一日、移動に一分。

 

「飛びこむまでに一秒かかりません。さあ、張り切って行きましょう!」

「「「「「いやっほぉう!!」」」」」

 

 テンションの振り切れた生徒達は、ジャージを脱ぎ捨てプールに飛びこむ。ちゃっかり潮っぽい香りがするのは、きちんと塩素でも入れられているのだろうか。

 

(こーゆーことしてくれるから、ウチの先生は殺し(やり)辛い!!)

 

「あ、みんな、ちゃんと準備運動しないと駄目だから!」

 

 副担任の静止も耳に入っているのかいないのか。収集が着かないくらいには、生徒たちのテンションは上がっていた。

 

 

   ※

 

 

 泳ぎ始める生徒たち。遊び始める生徒たち。休憩し始める生徒達に、あぐりの言葉を聞いてきちんと準備体操をしている委員長コンビなどなど。

 

 そんな中、浮き輪でぷかぷか漂う茅野は憂鬱そうな声を上げていた。

 

「楽しいけどちょっとメランコリー……。

 泳ぐの苦手じゃないけど、身体のラインがはっきり出るし」

 

 タコせんせーのビーチボールを胸に抱えているあたり、自分のコンプレックスをさらけ出すつもりはさらさらないらしい。

 そんな彼女に、非常に綺麗な声をかける(おとこ)が一人。

 

「大丈夫さ茅野――」

 

 岡島大河である。

 

「その体も、いつかどこかで、誰かに需要があるさ。気にしないヤツもいるし、細いのが良いってヤツもいるし」

「……うん、岡島君、二枚目っぽく言いながら盗撮するの止めようか。

 っていうかどっから持ってきたのその本格的なカメラ、ジャージ入ってなかったよね?」

 

 やや白けた反応であるが、まあ平常運転だった。

 一方、所変わって。

 

「渚……、アンタ……ッ。

 男、なのよね……」

「今更ァ!?」

 

 渾身のリアクションである。さもありなん、上半身裸で膨らみのない体系は、女子のように華奢と言えど男子のそれに違いはない。中村のそれに続いて岡野の「まあ仕方ない」が更に追い打ちをかけたりしていた。

 

 ともあれ非常に平和である。暗殺教室の日であっても、流石にこれはテンションが上がってそれどころではないといったところか。

 そして、そんな空気であっても、いつだってブレイクするのは彼等の担任であった。

 

 

 ピッピッピ、と鳴り響く笛の音。

 音の主は、ちゃっかり競泳水着に着替えたころせんせーだ。首にはストップウォッチとタオルを巻いている。

 

「木村君、プールサイドは走っちゃいけません、滑りやすいし岩ですからなおのこと危ないですよ! 転んだりしたらどうするんですか!」

「へ? あ、すんません」

 

 これがまず一度目。

 

「原さんに中村さん、潜水遊びは程々に! 溺れたかと心配しますよ」

「あ、はい」「はーい」

 

 二度目。

 

「岡島君はカメラ没収!」

「うあ!」

 

 三度目。

 

「狭間さんも本ばかり読まず泳ぎなさいッ」

「えー……」

 

 四度目。

 

 エトセトラ、エトセトラ。

 

 

 時にリズミニカルに響く笛の音に、生徒達の心境は見事に一致した。

 

(((((こ……、小うるせぇ……)))))

 

「いるよねー、自分の作ったフィールドだと王様気分になっちゃう人……」

「あぁ、有難くても有難さが薄れるよなぁ……」

 

 生徒達の反応など、何処吹く風で満足そうなころせんせー。

 

「ま、まぁまぁ、吉良八先生……。もう少し気楽にしてもいいんじゃないですか?」

「いけません! 正規のプールでもないので、慎重にしてしかるべきです!」

(((((そしてやっぱり小心だッ!)))))

 

 明らかにテンションが生徒たちとは違うころせんせー。プールに入っていないこともあって、浮いてる浮いてる。なお、ウェットスーツ姿のあぐりが一番浮いていると言えば浮いていた。

 

「それはさておき、ヌルフフフ。景観選びから間取りまで、自然を生かした緻密な設計!

 皆さんには安全に、相応しく遊んでもらわなくては」

 

「律、ころせんせーの弱点データベースに追加しておいて」

『はい、渚さん♪』

 

 そしてメモを持って来てなくても、ちゃっかりころせんせーの弱点データを更新する渚。プールマナーに五月蝿い、といったところか。

 

「吉良八先生も、もっと肩の力抜いてくださいよ」

「そーだよころせんせー! カタいこと言わないで遊ぼうよ! ほら、水かけちゃえ!」

 

 あぐりに続いた倉橋の言葉。そして同時に、遊ぶ感覚で放たれる水の軌跡。

 それが顔にかかった瞬間、響いた言葉に生徒たちは目を見張った。

 

 

「――きゃんっ」

 

 

 フォントが変わるほどの裏声である。

 え? 何、今の悲鳴? と反応がじわじわ伝播する。

 

「きゃ、カルマくんゆらさないで~~~! 水、落ちる~~~~っ 

 落ちますって、いやー、たのんますっ」

 

 ぐらぐらところせんせーの座っている監視台を揺らしながら、ニヤニヤとするカルマ。

 

 あぐりが「これ大丈夫だったのかしら」といった表情を背後でしているのに生徒達は気付いていないが、概ね彼等もここまでしていれば察する。

 

(ころせんせーって)

(もしかして――)

 

 ぜいぜいと肩で息をするころせんせー。

 

「いや、別に泳ぐ気分じゃないだけだしぃ。

 水中だと機動力が一気に()がれるとか、そんなんじゃありませんしぃ」

 

 唇を尖らせてわざとらしいくらいそっぽを向くころせんせー。

 

 それは、一つの可能性を明確に示唆していた。

 

「せんせー ……、泳げないんだ!」

(僕等の大半は直感した。今までで一番、僕等が使える弱点だと)

 

 水殺! 実際に殺す訳ではないのだが、確実に生徒たちに大きなテーマを与える事になる情報に違いはない。

 そしてそんなタイミングで。

 

「わ、ちょ、足つった! 痛いって――きゃッ!」

「茅野!?」

 

 浮き輪の上で、茅野あかりがバランスを崩して転等。

 

「ちょ、バカ何してんだ!」

「あいつ背低いから、あの位置だと立てねーのか?」

「って、あのタイミングで足吊ったって一大事だから前原!」

 

 生徒達がわたわたし、ころせんせーが急激な状況変化に対応できず。

 しかしそんな中、あぐりが泳ぐよりも素早く飛びこみ、クロールで彼女のもとに駆けつける女傑が一人。

 

「ぷはっ」

「大丈夫? 茅野さん。浅瀬の方に行くけど、後でマッサージだね」

 

 溺れる彼女の首を持ち上げ、水面に出した上で押さえる足を引き、陸地へと誘導する彼女。

 

「ありがと、片岡さん!!」

「ふふっ。

 ……水の中なら、お手のもの、かな?」

 

 彼女、片岡メグは、男前な笑みを浮かべながらころせんせーの方を見ていた。

 

 

 

   ※

 

 

 

 ころせんせーに隠れて、生徒達が議論したポイント。

 

「まず問題なのは、ころせんせーが本当に泳げないか」

「湿気が多いと頭すんごいことになるのは前に見たよね」

「リアクションから判別は難しいけど、雪村先生も入ってたのに一緒に入らないのはおかしい」

 

 磯貝たちの予想の通りといえば、予想の通りである。渚のメモを参照しても、逆に泳げることを決定付ける判断材料は存在していなかった。

 

「もし仮に、頭だけがあのサイズになってしまったとすると……」

「バランス悪そうだよなー、それこそ行動がものすごく制限されるくらいに」

 

 片岡メグが、そんな話し合いに一つ提案。

 

「だから皆、一つ作戦があるんだけど。

 この夏の間、どこかのタイミングでころせんせーを水中に引き込む。それだけなら殺すってアクションじゃないから、ころせんせーの反応も遅れると思うの。頼めば夏休みとかでも暗殺教室はやってくれるだろうし。

 で、動きが悪くなったところで水中でスタンバイしていた生徒がグサリ。

 言いだしっぺの法則じゃないけど……」

 

 髪留めを外しながら、彼女は微笑む。その先端から、じゃきん、と訓練ナイフの刃が出現した。

 

「水中だったら、お手のものかな。私なら、髪飾りの仕込みナイフでやれる準備はしてある」

 

 

「はぁ~」

「さっすが。

 昨年度水泳部クロール学年代表、片岡メグの出番ってわけだ」

 

 前原のその言葉に応じた訳でもないだろうが、彼女はいつも通り男前に仕切る。

 

「まず大事なのは、ころせんせーに水場近くで警戒させないこと。

 夏は長いし、作戦を念頭においてじっくりチャンスを狙ってこう!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

 

(女子のクラス委員、片岡さんは、女子なのにイケメンだ)

(文武両道、面倒見も良く、颯爽として凛々しい姿から、ついた渾名が「イケメグ」)

 

「さっき飛びこんで助けてくれたのとかさぁ……、イケメンすぎて惚れそうになっちゃったよぅ」

 

 茅野の言葉に苦笑いの渚。実際、女子の面々で何人かイケメグに落されかけた生徒は多い。本校舎の生徒からもラブレターを未だに貰い続けている。

 なお、相手は主に女子。

 

「でも、片岡さんくらい出来る人が、どうしてE組なんかになっちゃったんだろう」

 

 渚の言葉に答える相手はいない。開いたメモのページで、ペンが左右にゆれていた。

 

 

 

 

 

 

「相変わらず早いなー、イケメグ」

「磯貝君まで、イケメグ言うのは止めてって……。律、タイムは?」

 

 放課後のE組プールにて。泳ぐ片岡の姿を、男子のクラス委員こと磯貝が見守っていた。片手にはタオル、片手にはペットボトルとちょっとしたコーチみたいな感じの服装である。

 

 そして首からぶら下げていたスマホ画面から、水着コスを自作した律が「きら☆」という感じにタイムを提示。

 

『26秒08! 片岡さんの50メートル自己ベストまであと0.7秒ほど届いてません』

「流石にブランク開いてるからなぁ」

「部活から抜けたの、結構大きいなぁ……。

 でも、任せてと言った以上は万全に仕上げとかないとね」

「頑張れ!」

「うん、見てて磯貝君。フォームおかしいところかあったら、言ってくれると助かる」

 

 ばしゃばしゃとクロールを続ける彼女に、中心線がずれてるなど磯貝が声を飛ばす。何ゆえこのコンビで練習をしているのかという疑問はあれど、両者に共通して姿勢は真面目だった。

 

「うーん、カッコいい」

「責任感の塊だねぇ」

 

 あとイケメンだった。

 

 そして、離れた場所から評する茅野と渚に加えてもう一人。いつも通りのアカデミックコーデ(ただし夏仕様)な担任である。

 

「確かにカッコいいです」

「こ、ころせんせー!?」

「ヌルフフフ。まぁ何を任されたかまでは知りませんがねぇ」

 

 ニタニタいやらしく笑う彼に、はっと渚が機転を利かせる。彼にしては珍しく、表情にカルマがオーバラップしていた。

 いや、どちらかと言えばいつかの野球大会の仕返しだが。

 

「……ころせんせーさぁ、女優の田所はるこにファンメール送ったよね、巨乳グラビアもやってる」

「にゅやッ!? な、何故そんなことを、紙媒体だと残るからと電子メールでやったのに――」

「カルマ君が律に依頼してたんだ。

 下書きが随分色々あったよねー」

「ちょ!? ひぃいい、まさかあれらを読んだというんですか!?」

 

 突拍子もない、というかとんでもない驚きようのころせんせー。周囲をきょろきょろしてるのは、あぐりのハリセンを恐れてか。そして、居ようと居なかろうと作戦成功のため、この時点の渚は鬼である。目を光らせ、こっそり耳打ちするように追い詰めていた。

 

「『週刊俊英vol26号のグラビアを見ると、私、大変元気になるんです』って、普通にセクハラだよね。かなり際どいやつだったよね。

 中学校の先生が送ったって知られたらどうなるのかなー」

「な、渚、止めてあげよう、もうころせんせー瀕死だから。雪村先生いなくても」

 

 羞恥に打ち震えるころせんせー。攻める渚にストップをかける茅野という、なんだかちょっと珍しい光景はさておき。

 

「ん?」

『はい? イケメグさん、多川心菜という方からメールです』

「律までそれ……、はぁ。えっと、友達。悪いけど読んでくれる?」

 

 そのやりとりが始まった瞬間にスマホを首から外して、音が聞こえない範囲まで引く磯貝の圧倒的なスマートさである。

 メールの文面を見て、モバイル律は表情、声音を完全に変化させた。

 

『――「め <″ め <″ 、 レナ″ ω 、キ レヽ ~(^▽^)/

ι″ ⊃ ゎ 、 ィ ・/ 勹″ └| ッ ゙/ ュ 孝攵 ぇ τ ナニ @ £ヽ (_ _)?

ー⊂ 丶) ま 馬尺 前 @ ┐ ァ 彡 ∠ ス 集合っτ ⊇ ー⊂ τ″、 レヽ ぇ ~ レヽ  ☆ 彡 」

 とのことです。びっくりするくらいギャル文字かつ、知能指数が少し心許ないです。簡単に落せそうです』

「こらこら」

「律、ナチュラルに落とせるとか言ったよね、今!?」

 

 ちなみに律の音としては、

 

「めぐめぐ、げんきい~(^▽^)/

 じつ わ 、イングリッシュ教えてたのむ (_ _)?

 とりま駅前のファミレス 集合ってことで、いえ~ い ☆ミ」

 

 といったところである。

 

 片岡はそれを聞いて、表情を暗いものにした。

 

「……わかった。『すぐ行く(゜゜)'ミミ』って返しておいて」

『承知しました』

「磯貝君、今日はもういいから。ありがと」

「へ? お、おう」

 

 じゃあね、と全員に手を振りながら、教室へ引き返す片岡メグ。

 不審そうな表情を浮かべる磯貝に、渚たちも続く。

 

「らしくないよな、たぶん」

「そうだね、友達と会うって割には元気ないような」

「急にテンション落ちたよねー」

 

 そして、そんな彼等の視界から外れて、ころせんせーは何処かへ電話。

 

「……はい、それでは準備お願いします。ではさて」

 

 生徒達の方に向き直り、背後からさらっと、さも今思い付きましたといった具合に提案する。

 

「少し様子を見守ってみましょうか。しっかり者なだけに、ちょっと心配ですねぇ」 

「心配ですか?」

「はい。

 経験はあるかもしれませんが、皆から頼られるヒトは、自分の苦しみを抱えがちです」

 

 そういう意味でも、焦らず気付かれず、そっと遠くから見守りましょう。

 ころせんせーの一言に、渚が頬を搔きながら確認。

 

 

「つまり、ストーキング?」

「スニーキングミッションと言いましょう」

「どっちみち、やることあんまり変わらないよねー」

「だな」

 

 ともかく、こうして山を下る片岡メグの簡易追跡隊が結成される運びとなった。

 

 

 

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