いつものことですがアメリカ艦のオリジナルキャラが多数出てきます
1945年4月6日 徳山沖
呉を出たいくつかの艦艇が、山口県徳山の沖に集結していた。
その顔は、誰もが悲壮なまでに引き締まり、緊迫した空気があたりの海を包んでいる。
中心にいるのは、ひと際巨大な戦艦。
大和だった。
信濃の沈没後、年を跨いだしばらくの間、呉は平穏であり大和も何もすることなく停泊するのみだった。
しかし3月19日。アメリカの空母機動部隊が突如高知県沖まで進出し、その艦載機が呉軍港に襲い掛かる。
大和もわずかな損傷を受けるが、呉にいた艦艇に対する被害はそこまで酷いものではなかった。
だが、その後。アメリカはついに沖縄上陸へと進撃を始める。
沖縄には連合国の大艦隊が集結し、日本本土侵攻への足がかりの作戦が、ついに始まったのだ。
それを黙って見ているわけにもいかず、日本はそのアメリカへの反攻作戦を行うことになる。
天一号作戦の発動だった。
作戦は当初、特攻機による空からの突撃だけの予定ではあったが、それと同時に水上艦艇による特攻という、今までにない作戦が計画に組み込まれることになった。
軍令部が特攻機のみによる菊水作戦を行うことを、天皇に奏上したところ。「海軍にはもう艦はないのか」という言葉を賜ったということで、水上特攻が決まったということではあったが。
その言葉が本当に天皇の言葉か、もしくは水上特攻を推進する軍令部の付け加えた言葉なのかは分からない。
とにかく、水上艦艇による最後の突撃は決定され。それに選ばれたのは大和と、随伴の巡洋艦、駆逐艦数隻だった。
大和は敵の猛攻の中を突破し、沖縄の海岸に自ら座礁させ、輸送した物資を沖縄に下ろしつつ陸上砲台として砲撃を行う、という計画である。
レイテ沖海戦ですら、絶望的ではあっても帰還を許された作戦計画だったのに対して、この計画においては、もはや大和の帰還は絶対に許されないことだった。
成功しても失敗しても、母港への帰還は無い。沈むか、砲台として破壊されるかだ。
それは、今までにないものだった。
そして、選ばれたのは長門でもなく、榛名でも伊勢でも日向でもなく、大和だった。
日本海軍が誇る最強の戦艦。
国の名前を背負ったその戦艦が、敗戦後もみすぼらしく呉に残り、その醜態を晒すことは許されなかった。
長門に代わる海軍の象徴として、戦って散ることにより、海軍全体の覚悟を示さなければいけなかった。
国破れて大和あり、などということは、海軍はおろか国家の恥であった。
兵士として戦争に出て死ぬ、それが美徳とされたことだったが。いまやアメリカは日本本土にまで侵攻しつつあり、本土決戦となった場合は全ての国民が、女性や子供までもが死して抵抗することを推奨された。
一億総玉砕。
その先駆けとして、海軍の、日本の象徴である大和が特攻し、華々しく散華することは、極めて自然な流れだった。
この戦いは、もはや精神的な次元でのみ、意味があった。
軍国主義と言う歪んだ精神世界の中でのみ、貴ばれた。
比叡、霧島、山城、扶桑、武蔵、金剛。
敵と戦って沈んだ彼女たちの散り方こそが、美しいのだ。
あの時、レイテ突入をためらい、逃げ帰った大和こそが、恥知らずであり、非難されるべき存在であった。
そして、その沈みゆく運命からは、逃げられない。
どれだけ逃げても、逃げ切れない。
「矢矧ちゃん!いかないでよぅ」
「酒匂……いい加減にして」
昼の静かな沖。皆の心境を表すかのように、空は一面雲が覆っていた。
ゆったりと揺れる波間の上で、阿賀野型軽巡姉妹、矢矧と酒匂が、最後の別れを惜しんでいた。
「ねえ!あたしも連れてってよ~!」
「駄目よ!怖い敵が一杯いるのよ」
しかし、その別れは穏やかなものではないようだった。
末っ子の酒匂はレイテ沖海戦以降に就役しており、出撃の機会はまだ一回も無かった。
今回の天一号作戦がその初陣になるはずであったが、ここにきて酒匂は艦隊から外されることになったのだ。
特攻なのだから、駆逐艦を率いる軽巡は矢矧一隻で十分だという判断は妥当だった。
しかし、置いていかれる酒匂はたまったものではない。
「矢矧ちゃんがいなくなったら……あたし一人だよぉ……そんなの嫌だよ」
「……」
「連れて行って!お願い!!」
「駄目ったら駄目!絶対よ!」
それは、姉の矢矧にも辛いことであった。
長女阿賀野をトラック島空襲で失い。二女能代はレイテ沖海戦の撤退時に矢矧の目の前で沈んだ。
最後に残った二人の姉妹、その末妹だけを残して特攻しなければいけない、それは辛いことだった。
半分泣いてしまっている酒匂よりも、矢矧のほうが遥かに心苦しいのかもしれなかった。
でも、酒匂をこの作戦で沈めるのはもっと嫌だった。
「矢矧ちゃんのばかぁ~~~~~!!」
末妹は、ついに泣きだしてしまった。
それを困った顔で眺めていた矢矧は、やがて一回ため息をつくと笑顔を作って、酒匂の肩を抱きしめた。
「ごめん、ちょっときつく言いすぎたわ……」
「ひゃん……」
「あなたはここに残って、これからの日本を守って……ね?」
酒匂は相変わらず目に涙を溜めていたが、黙って姉の顔を見つめていた。
「……」
「ごめん……ね」
姉の声も、どこか震えている。
「……ぴゃん」
それで、ようやく酒匂も諦めたようだった。
大和は、それを横で見ながら、思っていた。
これこそ、大楠公の桜井の別れだ。
望みのない死地へと向かう楠正成。それに着いていこうとするが桜井の駅で押しとどめられ、故郷に帰される息子の正行。
矢矧と酒匂の、寸分たがわない状況が、今目の前で起こっていた。
そして、沖から見える陸地には、美しい桜の花が咲き誇っている。今はまさに桜の季節だった。
桜花。
特攻兵器にも使われたその名前。
桜の儚く散っていく様を、散華しゆく兵士と掛け合わせて美しいものとした、この国の思想。
大和は、それを忌々しいとすら思った。
桜そのものは確かに美しい。
しかし、戦場で散っていく戦士を美しいなどとは、大和はとても思えなかった。
武蔵や、その他大勢の艦娘が自分の目の前で沈んでいったが、それはどれも血生臭く、醜く、おぞましいものだった。
悲しみに涙することはあっても、健気さや美しさに感動することはなかった。
それでも、どんな意味を込められても、やはり桜自体は美しいと思えた。
いつか、大楠公を舞った時に覚えた、あの懐かしい感覚は、この今現在のことを未来視したものだったのかもしれない。
いや、そうなのだろう。
大和は用意していた筆をとると、白い旗に一気に文字をしたためる。
非理法権天、と。
そしてその旗を艤装にくくりつけた。
理も、法も、権力も、天の道には逆らえない。楠正成が使ったとされる言葉だった。
それは敵に対する言葉ではない。自分自身にあてた言葉だ。
兵器は、天に逆らうことは出来ない、どんな作戦であろうと忠実に従うのが兵器であり、戦艦だ。
さらに、旭日の旗を鉢巻にして頭に括りつける。
それは出撃する全ての艦娘がやっていることだった。
神風特攻隊と同じ、決死の軍装だった。
死のう。
大和はそう思う。
ここで、自分は沈もう。沖縄までいって、浜辺に座礁せよ、という命令だったが、丘の上で死ぬというのはどうにも気に入らなかった。それにまず、敵の攻撃の前には沖縄までも持たないだろう。
自分は海の底に沈むのだ、武蔵や信濃のように。
それが、最後の望みだった。
時間だった。
大和は周りに立つ艦娘達を見渡す。
ついてきてくれるのは、栄光に彩られた華の二水戦。矢矧を中心に、冬月、涼月、朝霜、初霜、霞、そして第17駆逐隊の磯風、浜風、雪風だった。
みな、激しい戦いを生き抜いてきた、極めて優秀な艦娘達だった。
艦型も所属部隊も、元々バラバラだった彼女達が、こうやって集まってくれている。その額には紅白の旭日の鉢巻が巻かれていた。
目はつりあがったように緊張し、壮烈さを表情に表わしている。
それを、特攻にやらないといけないというのは精神的に苦しいことだった。
だが、今更何も言えない。
「神機将に動かんとす。皇国の隆替繋りて此の一挙に存す。各員奮戦激闘会敵を必滅し以て海上特攻隊の本領を発揮せよ!!」
大和は叫んだ。
その言葉に、全員の目がいっそう険しくなる。
いよいよ出撃の時だった。
「戦艦大和!推して参る!!全艦続け!!」
午後三時。
日本海軍最後の艦隊は、徳山沖を出撃した。
それと同時に、航空部隊の特攻、菊水作戦が行われていたが、沖縄に向かう全ての戦力は、帰ることを前提としない、行きだけの突撃だった。
そして、それを迎え撃つ連合国艦隊もまた、その最後の海戦に臨むにつけて、さまざまな思いが交錯していた。
同日 沖縄
アメリカ第五艦隊の何隻もの戦艦が、猛烈な爆炎と、轟音を発しながら沖縄本島を砲撃している。
何十、何百、何千という砲弾が沖縄の島に突き刺さり、灰色の噴煙をまき散らしていた。
高密度の砲撃に晒された場所は、草木は禿げ、山は形を変え、後には抉れた茶色い土の丘があるだけだった。
地味で楽な仕事ではあったが、もはや戦艦の使いどころなどというのはこんな大きすぎる動かない的を撃つ、艦砲射撃くらいしかなかった。
砲撃の下には、日本の兵士だけでなく、一般人もいると思うと、決して気持ちのいい任務ではない。
「何回おんなじところ撃ってんのよ、ウェストバージニア」
「は~い、アイサー」
コロラド級戦艦姉妹のメリーランドとウェストバージニアは、レイテ沖海戦におけるスリガオ海峡で西村艦隊を迎え撃った時と同じように、今でも同じ艦隊で任務にあたっていた。
「あ~……もう海戦も無いのかしらね~」
「ないわよ、ジャップもそこまで馬鹿じゃないでしょうよ」
メリーランドのぼやきに、妹がそっけなく返す。
「どっかの馬鹿が、突撃してこないかしら……レイテの時はまあまあだったけど、まだまだ撃ち足りないわ」
姉の方が、まさに主砲を斉射しながら、そう言う。
「撃ってるじゃない、今も、腐るほど」
「ジャップの艦娘にぶち込みたいのよ!」
スリガオ海峡では山城や最上に対して散々砲撃を食らわせた二人だったが、それでも真珠湾で受けた憎しみは消えないようだった。
「そうね……まあ、まだ一隻くらいそんな馬鹿な敵戦艦がいても良いわね……」
「……ん?通信だわ」
代わり映えのしない砲撃にいつになく気だるげではあったが、そこにある一報が飛び込んでくる。
それは、沖縄奪還を目指して、戦艦大和が我が艦隊に特攻を仕掛けてくるという情報だった。
アメリカは空からの偵察や潜水艦による監視、また暗号電文の解読により、日本の作戦をほぼ全て把握していたのだ。
しかし、それは確かに馬鹿げた情報ではあったが、戦艦達や空母に与えた衝撃は大きかった。
「いるじゃない!!馬鹿が!!」
「本当にいるとは……さすがジャップね……あいつらのそういうところ、私好きよ」
砲撃を途中で切り上げ、メリーランド姉妹は沖に集結する大艦隊の中心にやってきていた。
そこには第五艦隊の中枢、58任務部隊の正規空母エセックスとホーネット、ヨークタウンなどがいた。
その横には最新鋭であり、巨体をもつアイオワ級戦艦のニュージャージーとウィスコンシン、ミズーリが波間にほとんど揺れることも無く立っている。
さらに奥にはサウスダコタ級のサウスダコタと他二人も見えた。彼女達は58任務部隊の護衛の戦艦だ。
そしてその真ん中には、メリーランドと同じ54任務部隊であり、旧式ながら第五艦隊旗艦を務める戦艦ニューメキシコがいる。
錚々たる顔ぶれの彼女たちも、大和特攻に湧いていた。
「アホなジャップは私達がもらうわ!」
メリーランドはそんな新鋭の顔ぶれにも恐れずに自己主張をする。
「ヘイ!グランマ・メリー……ジャップとはいえ大和はニューカマーだ、そんな御老体で倒せる相手かい?」
憎たらしい声でそう言うのは、最新の正規空母エセックス級のネームシップ、エセックスだった。
金髪のロングヘアーにベレー帽をのせ、近代的な軍服を着て飛行甲板を背負い、手にはライフル銃風カタパルトを持っていた。
最重要戦力である空母機動部隊の中心である彼女は、ここのところ常に鼻高々だった。
「あなた達空母は散々戦果を食ってきてるでしょう、大和くらい私達戦艦に譲りなさい」
しかし、メリーランドもまったくもって負けてはいない。
「ン~、分かってくれないようだね~、私はあんたら老人会の旧式戦艦様御一行の内何隻かが、可哀想にも沈まないかどうか心配だから、代わりに大和を沈めてあげましょうかって言ってるだけなんだけど」
エセックスの言うことは確かにその通りだった。
レーダーなどの装備はともかく、単純な性能的には、単艦で大和を越える戦艦はアメリカにもいない。アイオワ級くらいでやっとタイマンを張れるくらいだ。
大和は厚い装甲と耐久力、46センチ砲という最強の火力と最長の射程を持っている。
それに対して複数で囲むとはいえ、メリーランド達旧式の戦艦で圧倒できるかどうかというのはかなり怪しいところだった。
最終的な勝利は疑いようがないが、それまでにこちらの数隻が沈められる可能性が全くないとは言い切れない。
「若造が心配することじゃないわ!それこそ私はあなた達空母の大事な艦載機ちゃんが大和の弾幕に落とされて泣いて帰ってきて、結局大和も沈められないんじゃないのかってことのほうが心配よ」
「ハッハッハ!私の子達が沈め損ねるなんてまずないね。フィリピンでも大和級の二番艦、武蔵を沈めているんだ。今回はもっと鮮やかにやってみせるさ」
「空母はカミカゼアタックの相手だけしとけばいいのよ!!」
「ならあんたら戦艦はオキナワを砲撃だけしてればいい、後方はまかせてくれ」
メリーランドとエセックスの口論は留まることを知らないようだった。
「そこのアイオワ級!貴方達も何か言ったらどうなの」
メリーランドはついに周りの戦艦にも噛みつきだした。
言われたニュージャージーとミズーリは、58任務部隊に所属しており、エセックス達空母を護衛する役割を持っている。
しかし、何とも言えない顔をしていた。
「命令があれば私達も出るが……」
そういう調子だった。
最新の戦艦ではあるが、空母に散々仕事をとられてきたせいか、アイオワ級の艦娘達はどれも覇気が無いように思えた。
まあ、真珠湾攻撃も、太平洋戦争緒戦の苦戦していた時期も知らない子達なのだから、危機感が薄いのは仕方ないのかもしれないが。
とはいえ、ミズーリの後ろにそっと佇んでいる戦艦。緒戦の苦しい時期を知っているサウスダコタも、苦い顔をして、大和など我関せずといった感じでそっぽを向いていた。
第三次ソロモン海戦で霧島に大破まで追いやられたことがまだトラウマになっているようだった。
アメリカ艦娘の中にも大和を恐れるものは多い。
だが、メリーランドはそういうわけにはいかなかった。
「私の護衛の最新鋭戦艦さん達はそう言ってるんだし、メリーおばあちゃんもいいかげん黙って無理はしないほうがいいんじゃないの?」
「あなたねぇ……!」
終わりのない言い争いに、別の艦娘が入り込む。
「判断は私が下します」
艦隊旗艦のニューメキシコだった。
「オウ……フラグシップには逆らえませんねぇ」
「ニューメキシコ、あなたなら分かるはずよ、大和は私達で沈めないといけない」
ニューメキシコは黒い髪に彫りの深い美しい相貌をしたヒスパニック系の艦娘だ。メリーランドよりもさらに旧式であり、真面目で冷静沈着で、考え方も古い形式に沿ったものだった。
「敵が水上特攻をかけてくるなら、こちらもシーマンシップに則りそれ相応の礼義を持って対応しなければいけません」
彼女は淡々とした口調で続ける。
「日本海軍は伝統ある歴戦の集団です。かつて日露戦争でロシアのバルチック艦隊を壊滅させた日本海海戦は、海戦史にも稀に見る見事な勝利でした。今回の太平洋戦争においても、我々アメリカ海軍とここまで戦える国は日本を置いて他にはいなかったでしょう。その健闘は称賛に値します」
その堅苦しい前置きを聞いた時点で、エセックスは勘弁してくれよというようにうんざりとした顔になった。
逆にメリーランドは、日本が称賛するべき相手だとは思いたくも無かったが、それでも大和を討ちたいという自らの望みの優勢を感じた。
戦艦の復権を望む、ニューメキシコと自分の考えは極めて近いというのはもともと知っていた。
とはいえ日本海軍を尊敬しているところは、絶対に相容れないが。
「これは、恐らく最後の艦隊決戦の機会となります。ならば、海軍の矜持を示し、正々堂々と戦艦同士の決戦によって決着をつけるべきです」
艦隊旗艦は、いくらなんでも古臭すぎる決断を下す。
「栄光の日本海海戦のように、戦艦同士の砲撃戦により、日本海軍に最後の引導を渡すのです」
「そうよ、そうだわ、私達54任務部隊が大和を沈めるのよ」
すかさずメリーランドが合いの手を入れ、旗艦の決定を我がものとする。
「オゥ……ゴット……」
エセックスはそのあまりの懐古趣味に天を仰ぐ。
最新の空母からしたら、もはや化石のようになった大艦巨砲主義的な考えは、聞くだけで頭が痛いだろう。
その空母の失望の前で、ニューメキシコはさらに補足した。
「日本の神風特攻は激しさを増しつつあります、敵に一番狙われるであろう空母機動部隊は、全力でその迎撃と回避にあたってください」
この日、既に日本の神風特攻隊はアメリカ艦隊に突撃をかけていた。駆逐艦や空母にも結構な損害が出ていたのである。
一番まずいのは空母を沈められることだ。だからこそエセックス達には神風の迎撃に徹してもらい、その間に戦艦部隊で大和を攻撃しようというのだ。
「大和迎撃には我が54任務部隊の6隻の戦艦と、随伴の巡洋艦、駆逐艦が向かいます、その指揮は私がとります。大和が予定通りの航路をとれば明日の夜、沖縄周辺までやってくるでしょう、そこで待ち受け、夜戦を仕掛けます……以上」
メリーランドはその貴婦人らしい外見に似合わないガッツポーズをし。対してエセックスは信じられない、頭大丈夫か?といったジャスチャーをした。
しかし、それで作戦計画は決定だった、変更の余地は無い。
「オーケイ、わかった……ただ、足の遅いあんたらが大和を捉えそこなったらどうするんだい、大和が沖縄とは別の方向に向かったら?」
エセックスはまだそんなことを言う。
確かに、54任務部隊のどの旧式戦艦よりも大和の最大速度は上だった。その心配は実際切実な問題ではあった。
しかし、この時に沖縄以外の場所に大和が向かうとは思えなかった。向かってくるものを迎撃するのであれば、問題はないはずだ。
「大和は沖縄に来るし!それを私達が逃すわけないでしょう!」
が、その心配もメリーランドの怒号で掻き消される。
「フン……わかった、戦艦同士、敵味方仲良くせいぜい頑張ればいい」
そう捨て台詞を吐くと、エセックスは他の空母の元に去って行く。
お好きにどうぞと言った感じだ。
邪魔者はようやく消えた。
こうなったら、後はとにかくメリーランド達は全力で大和を迎え撃つのみだ。それは最高にワクワクすることだった。
「では、その段取りでお願いします」
旗艦、ニューメキシコがそう言って頷くと、そこにいた全ての艦娘がさっと敬礼を返し、それぞれの持ち場に急ぎ、作戦準備に入った。
太平洋戦争も最後の段階に入ったところで、まさかの時代遅れの、戦艦同士による艦隊決戦が起きようとしていた。
それは、それだけ大和の特攻が常識外だったということであり。
また、ある程度の合理性を捨てて精神性や伝統性を採ることが出来る、アメリカの余裕の表れでもあった。
しかし、渦中の大和は、アメリカ側のそのような思いは知る由も無かった。
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