艦隊めもりある バトルシップウォー   作:mkやまま

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ビスマルク追撃戦の続きです
戦闘場面はいつものようにまとめたものになっています、実際の推移とは違うものです

あといまさらですがドイツ語や出てくる欧州艦娘達の文化描写などは適当です


(25)トライバル・アタック

 

 

5月26日夜

 

 

 夜の暗闇の向こうに、艦影が見え隠れしながら、やがて近づいてくる。

 さきほどの攻撃隊をビスマルクまで誘導した軽巡シェフィールドだ。

 いかにも色素の薄いその容姿に、セーラー服を着ている。雪女のように、どこか儚げで冷たい雰囲気をもった艦娘だった。

 日本の最上型のように、軽巡として登録はされているが、その船体は重巡洋艦と同等のものだった。持っている主砲のみが軽巡クラスの小さなものである。

 艦種ごとに保有制限を定めた軍縮条約逃れのために、日本でもアメリカでもイギリスでも行われていたことだった。

 彼女は様子をうかがいつつ、こちらを触接しているようだ。

 イギリス艦隊の主力戦艦がやってくるまでの、場つなぎだろう。ご苦労なことだったが、怒りと苛立ちを呼ぶものでしかなかった。

「この……かかってきなさい!!」

 ふいに接近しすぎたシェフィールドに対し、ビスマルクは主砲を発射する。

 操舵能力は著しく落ちていたが、戦闘能力に関してはほとんど問題なかった。

 シェフィールドは無表情で、どこかぼーっとしていたが、砲撃を向けられた彼女はびっくりした様子で逃げだそうとする。

「逃がさないわよ!!」

 さらなる砲撃が敵を襲い、早くも夾叉を得る。いくつもの水の柱がシェフィールドを囲んだ。

 続く何回かの斉射で至近弾多数を受け、シェフィールドは小破しながら辛くも逃げ去った。

 残ったのは闇夜に不気味に浮かぶ敵の煙幕だけだった。

「……」

 ビスマルクは沈黙し、強い風と波に流されないよう極めて微速で進むのみだった。

 多数の敵に対して、彼女はどこまでも孤独だった。

 手負いの虎に対して、狩人の集団はその包囲網を狭めつつある。

 シェフィールドは後退したが、さらなる刺客がやってくるだけだった。

 

「ウラァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 そのような叫びが、暗闇の向こうから聞こえてくる。

 ロシアの鬨の声だ。

 しかしドイツとソ連は不可侵条約を結んでいるはずではないのか、とビスマルクは訝しむ。

 それでもまさかソビエトの艦娘が攻めてきたのか、と思ったが様子が違う。他にもいくつもの異国の言葉での意味不明な叫びが混ざり合って聞こえてきたのだ。

「アエエエエエエエエエ!!!アエアエアエアエ!!!」

「カマテ!カマテ!!カオラ!カオラ!!」

 何を言っているのかはわからないが、少女の大声がこのような視界の利かない夜に鳴り響くのは不気味なものだった。

 なにより敵はイギリス艦だけではないのか、という点が不可解で得体のしれない恐怖を感じさせた。

 やがて、その正体が判明する。

 五隻の駆逐艦が、ビスマルクを遠目に突き進んでいる。

 それぞれ独特の、異民族といったふうのいでたちをしていた。

 コサック、マオリ、シーク、ズールー、ピオルン。

 前者四隻はトライバル級、種族という名を持つ駆逐艦達だった。

 コサックはもともとロシアの騎兵集団の名であり、名前の通り暖かそうな毛皮のコサック帽子とマフラー、分厚いコートを羽織っている。

 マオリはニュージーランドの先住民族。服装は普通のセーラー服だったが、顔には黒い刺青のようなフェイスペインティングが施され、鉢巻や鳥の羽や首輪など、さまざまなそれらしい装飾を纏っていた。

 シークはインドのシク教徒が元であり、巨大なターバンを巻いており、如何にもインド人といった格好だ。

 ズールーはアフリカ南部の民族。巨大な楕円形の盾と槍を持ち、カラフルなビーズワークのネックレスで装飾している。アフリカ部族のイメージそのものだった。

 そのような独特な装飾をしているとはいえ、彼女達はみんな白人のようだった。恰好だけそれぞれの名前の種族に合わせているだけだ。

 トライバル級はイギリスの駆逐艦であるだけに、イギリス人種の艦娘であることは変わらない。なんちゃって部族といってもいい仮装行列だった。

 そしてピオルンだけは別の艦型であった。彼女も、元々はイギリスで生まれたN級駆逐艦、ネリッサという名前だったが、ポーランド海軍に譲渡され、ピオルンと改名していた。

 ポーランド海軍の制服を着ている以外は、普通のイギリス駆逐艦娘である。

 そんな乱雑極まりない駆逐隊がシェフィールドに代わってビスマルクの触接を続ける。

「ふざけてるの……!」

 ビスマルクは冗談かと思うが、敵はいたって本気のようだった。

 理論的で、冷静で合理主義者かと思えば、とんでもない奇行を繰り出してくる、イギリス人はまったくもって理解に苦しむ存在だった。

 

「おう、良き哉、良き哉。今日はなんといい獲物にであったことか」

 コサックはあったかそうな服装をしてビスマルクの巨体を愉快そうに眺めている。

「あいつ弱ってるわ、あたしたちで沈めて良いの?ね?ね?」

 マオリも、目をキラキラと輝かせて喜んでいる。

「これほどの敵です、戦艦に譲ることはない、我々の手で沈めて差し上げるのがよいでしょう」

 シークも、ターバンが風に煽られるのを抑えつけながら、神妙な顔でそう言った。

「ふへへ!このズールーさまの槍の餌食にしてくれるぜぇ」

 原始的な槍と盾を構えて飛び跳ねるズールー。

「皆さま!ご注意を!敵は脚をやられていますが、まだ撃ってきますよ」

 それを諌めようとするのは一世代後輩のピオルンだった。

「へっへ!なぁに、こういうのは速度で掻き乱せば何も怖くないんだぜ、海戦はスピードだ」

 確かに、ズールーが言うとおり、駆逐艦の最大速度には今のビスマルクは到底追いつけない。速度で囲まれれば、いくら戦艦と言えどなすすべはないはずだった。

 そして必殺の魚雷を撃ちこむ、それこそが駆逐艦の戦いにおける最大の名誉だった。

 艦隊決戦において、水雷戦隊の突撃により大型艦を屠る戦術。これは特に重武装の駆逐艦が揃う日本海軍において重要視された戦法だったが、イギリスの駆逐艦だって魚雷を積んでいる以上同じことを考えていた。

 とはいえ、この戦争において駆逐艦が最も活躍したのは、船団護衛や対潜哨戒などもっと別の場面であり。そのような、大型艦を狙う活躍の場が与えられた機会は極めて少なかったのではあるが。

 だからこそ、この理想的なチャンスを逃す手は無かった。それはピオルンに至るまで思っていたことだ。

 

「あいつすっごいザコそう、まともに進めないみたいじゃん、すぐ沈みそう。ね!ね!早くやっちゃおうよ!」

 マオリはもう飛びかからんばかりだ。

「まったく、その通りですな」

 シークも、ターバンを押えながら、主砲と魚雷を構えている。

「良いか、ぬしら。我が駆逐隊はこれより敵大戦艦に突撃をかける!」

「オォーーー!!」

 コサックの掛け声に、全員が威勢よく返した。

「全艦吶喊用意!!我にぃ……続けぇーーーーーーー!!!」

 コサックが、最大戦速で猛烈な突進を始めると、他の駆逐艦もそれぞれの鬨の声を上げながら、狂喜しつつ疾駆する。

「ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「------------!!!!!」

 その揃わない叫びは、それでも一つの絶叫として混ざりつつ、闇夜の嵐の海に響いた。

 が、しかし、やはりこの戦艦すら押しやる激しい波風の中で、小さな駆逐艦では思ったように全力を出すことは出来なかった。

 波に突き上げられ、かと思うと海面に叩きつけられるように落ち、彼女達は揺れに揺れながらも、それでも敵の戦艦を必死に追いかけた。

 

 とはいえ、ビスマルクも黙ってその接近を許すはずがない。

 駆逐艦達は、ここにきて初めて戦艦の恐ろしさを知ることになった。

 当たれば即轟沈と思われる、死の砲弾が駆逐隊の頭上から多数降り注いだ。

 着弾による猛烈な海面の爆発。

 すでに辺りは大雨だったが、そこにさらにバケツをひっくり返したような豪雨が追加され、水滴が飛び散り、彼女たちの顔や体にかかる。

 しかしまだまだ魚雷の確実な射程圏内ではなかった、12センチ主砲もやっと届くかといった距離だが、届くだけで命中精度は無いに等しい。

 アウトレンジから一方的に襲われるのがこれほどの恐怖とは知らなかった。

 続いて第二射が、美しい死の放物線を描いて飛来する。

「きゃあっ!!」

 ピオルンが突如水柱に包まれる。誰もがやられたかと思った。

「おう!!ピオルン!!!」

 コサックは沈痛な面持ちで叫ぶが、それはすぐに安堵のため息に変わった。

 吹き上げられた白い霧の中から無傷のピオルンが飛び出てくる。

「ふええ……ぴ、ピオルンは、だ……大丈夫で~す」

 明らかに大丈夫じゃない顔をしたピオルンはそう言う。だが至近弾だけのようで、損傷はない様子だった。

「ピオルン!おぬしは退け!!」

 それでも勇敢に主砲で牽制射撃を続ける彼女を、コサックは下がらせる。

「り、了解です!」

 ピオルンはたまらず煙幕を展開しつつ後退する。

「いいねぇ!いいねぇ!これが戦闘だぜ!これが海戦!これが砲雷撃戦!これが艦隊決戦!!」

 ズールーはさらに狂喜している。臨戦態勢によるアドレナリンにより、完全にハイになっていた。

 持っていた槍を投げるように、主砲を撃ちまくっていたが、弾はばら撒かれるだけで敵戦艦には届きもしなかった。

 だが、彼女にもビスマルクの砲撃が襲い掛かり、巻きあげられた海水に全身をずぶぬれにされる。

「なになにぃ!あいつ結構やるじゃん!やっば!やばいってこれぇ!!」

 マオリも、その状況にもはや浮足立ちつつある。

「戦況は、予想に反してよろしくないようですな……」

 シークも突撃態勢はとっくにやめ、回避運動に専念している。

 このままでは魚雷の射程に入る前に誰かが沈められる、それほどに激しい反撃だった。

「ええい!!全艦退避!!退け!!退けい!!」

 コサックも、たまらず退避命令を出さざるを得なかった。

 夜戦において駆逐艦五隻による突撃でも、ビスマルクを相手にするにはなお無謀なようだった。

 

 一方、ビスマルクはビスマルクで、敵駆逐艦の奇襲に警戒せざるを得なかった。

 こちらは満足に動けず、接近されて魚雷を撃ちこまれれば回避行動はかなりおぼつかない。

 砲撃も、おおよその至近弾までは与えられるだろうが、この荒れた海で予測不能にフラフラとする小さな駆逐艦に直撃を命中させるのは、相当な運が必要だ。

 駆逐隊は一旦撤退していくようだったが、またすぐに戻ってくるだろう。

 結局ビスマルクと駆逐艦の戦いは夜通し続けられることになる。

 次の攻撃が開始されるのは、27日に日付が変わってしばらくしてからだった。

 

「イェーーーーーーーーーーーー!!!!アワワワワワワワ!!!」

 暗闇の向こうからわざわざ突撃を知らせるように奇声が聞こえてくる。

 いかにもアフリカ部族の魂の唄といった感じの叫びだ。

 サーチライトで海面を照らすと、槍と盾を構えたズールーが勇猛果敢に、単艦こちらに向かってくるのが露わになる。

 それはサバンナを駆けるライオンのようでもあった。

 敵とはいえその勇気には、さすがに感心せざるを得なかった。

「いいわ、来なさい……」

 ビスマルクも主砲で応戦するが、高速で動く的に、やはり直撃は出せない。

 サーチライトで照射され続けているズールーが、魚雷を発射するのが見えた。

「ズールーさまの槍を受けろっ!!」

 海中を進む四本の槍が、戦艦に向かう。

「甘く見ないで!!」

 しかし、ビスマルクも、舵を使わず左右の推進機の操作のみで旋回を行い、なんと雷撃を回避したのだった。

「ふが~~~!!なんで当たらないんだぜ!!」

 悔しそうに後退していくズールーを見送っていたビスマルクだったが、その時ふいに後方上空で太陽のような光が発生する。

 敵の撃ち上げた照明弾だ。

 その降り注ぐ眩しい光に照らされることになった。

「くっ……まだ来る!?」

「ハァーーーーッ!!!カマテ!カマテ!!」

 マオリだった。彼女がマオリ族特有の戦意高揚の唄、ハカを絶叫しながら突撃してくる。

「駆逐艦め……沈め!!」

 38センチ主砲弾による至近距離からの砲撃も、敵を怯ませることすらできない。

「当たる!これ絶対当たるよぉ!これであんたは終わり!いっけー魚雷達!!」

 マオリの放った雷跡がいくつも尾を引いてこちらに進んでくる、回避行動は必死に行っているが間に合うか分からない。

 さらに悪いことに、またしても背後から敵の声があがった。

 もうわけがわからない。

 敵は陣形を組んでまとまって突撃することを止めて、この悪天候と闇に乗じてバラバラに攻撃を仕掛けてくるようだった。

 鈍足で単艦のビスマルクからすれば、そのように囲まれての十字雷撃は確かに脅威でしかなかった。

「くっそ……!!」

「ウラアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 マオリと挟撃を仕掛けてきたのはコサックだった。暗闇を疾走しながら、魚雷を発射する。

 別方向からのわずかな時間差雷撃は、さすがに回避しきれない。

「駆逐艦ごときがっ……!!」

 波浪の中にかすかに見えた航跡は、直撃コースだった。

 さすがのビスマルクも覚悟を決める。

 さっきから変わらない大きな波と、吹きすさぶ暴風、そして魚雷が直撃するまでの時間が忌々しい。

「……」

 しかし、爆発は起こらなかった。

 艦底を抜けたのか、不発だったのか、どういうことかよく分からないが、敵の雷撃は失敗した。

 ビスマルクは撤退しゆくマオリとコサックを追撃するように主砲で狙い撃つが、内心安堵していた。

 逃げるコサックの背中に、至近弾を得る。が、それでも敵はそのまま去って行く。

「……ふう」

 その安心した隙を突くように、さらにシークが現れたが。ビスマルクの怒りの主砲弾を至近で浴び、ついにターバンが飛んで行ってしまい、そのせいで雷撃の発射角度がずれ、戦艦の横を通り過ぎて行った。

「こ、これはよろしくない」

 海面に落ち、ずぶ濡れになったターバンを拾いながらこれまた必死で逃走するシーク。

 これで、ひとまずは敵の攻撃をやり過ごしたようだった。

 だが、駆逐艦との小競り合いはこの後も朝になるまでずっと続くことになる。

 それによりビスマルクは極度に疲労した。

 長時間の逃走と戦闘、さまざまな損傷により体力は奪われ、限界に近かった。

 

 しかし、ビスマルクには分かっていた。

 この駆逐艦はやはり前座に過ぎない。

 この後に、間もなくやってくるであろう存在。

 主力戦艦だ。

 それが、もうすぐそこまでやってきているというのは、予想できた。

 決戦は、まもなくだった。

 それまでは、まだ。

 最後の気力を振り絞ってビスマルクは立ち続ける。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます

次回も追撃戦の続きとなります
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