艦隊めもりある バトルシップウォー   作:mkやまま

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ハワイ、パールハーバーの話です


エピローグ
(34)メモリアル


 

 

1994年 ハワイ・パールハーバー

 

 

 太平洋の中心に位置するハワイ、オアフ島の真珠湾。

 その名の通りに美しい港に数隻の艦艇が入港してくる。

 艦隊の艦娘達の掲げられた旗の中で一番目立つのは、白地に真っ赤な太陽を表した旭日旗だった。

 先頭を楽しそうに走る元気な少女。

 真新しいピカピカの艤装に包まれ、艦隊の中でも一際大きな彼女は護衛艦こんごう。

 イージスシステム、ギリシャ神話の神の防具の名前から取ったミサイル防衛システムを持つ彼女は、まさに日本を守る護衛艦の名にふさわしい力を有している。

 前年の1993年に就役し、一年の訓練の後、この年に開催される環太平洋合同演習リムパックに参加することになったのだった。

 リムパックは二年に一度アメリカ主体でハワイで開催される大規模な国際合同演習であり。アメリカ、日本の他にオーストラリア、カナダ、韓国の海軍が参加する。

 こんごうはこの演習に入ることが出来るのが嬉しくて仕方が無かった。

 ハワイに集結する各国の艦娘に会えることに胸がわくわくした。

 狭い水道を抜けてついに湾内に入る。前方に見えるのは湾の中心に浮かぶフォード島。

 そしてその島の奥の沿岸付近に白い記念碑が見える。

 こんごうはその存在を知っていた。太平洋戦争のことは現代の艦娘達にとっても一番の教材である。

 かつて日本が行った真珠湾攻撃の犠牲となった戦艦が、そこに今でも眠っているのだ。

 

 ペンシルベニアや長門がついに訪れることを許されなかったアリゾナの墓の前に、こんごうは立っていた。

 真珠湾攻撃の事、太平洋戦争、第二次世界大戦全体の数々の海戦の記録を彼女は知っているが、当時の艦娘がその戦争の中で何を思い戦って散っていったのかをこんごうは知らない。

 しかし、海底に沈むボロボロになった戦艦の姿を海面からうっすらと垣間見た時。

 艤装は朽ちても、アリゾナの姿はかつてのまま美しくそこに眠り姫のように眠っていたように感じた。

「あれ……?」

 こんごうの瞳からは自然と涙があふれていた。

 なぜだか分からなかったが、それを止めることは出来なかった。

 アリゾナの横を通過しながら、日本の護衛艦達は眠る戦艦に向かって敬礼していた。

 

 

1998年6月22日 ハワイ・パールハーバー、フォード島

 

 

 それから4年後、同じ場所に護衛艦こんごうの妹きりしまがいた。

 きりしまはもちろん姉と同じ最新のイージス艦であり、この日もかつての姉と同じようにリムパックに参加するために真珠湾にやってきている。

 とはいえ、きりしまは2年前のリムパックにも護衛艦ひえいなどと共に参加しており、今回は二回目の演習参加である。

 初めて来た時の真珠湾は確かに感慨深かいものだった。

 1941年の真珠湾攻撃の時、日本の機動部隊を護衛していた戦艦には、先代の霧島もいたのだ。

 それを思うと何とも言い難い気持ちに襲われたのである。

 しかし二回目ともなれば慣れたものだと思っていた。

 少なくとも彼女が現れるまでは。

 

 湾内にひと際巨大な艦影が入港してくる。

 その堂々とした姿、重厚な艤装、流れるような美しい船体。

 放たれるオーラはこれまできりしまが見てきたどの艦娘とも隔絶するほどの強烈さを感じさせた。

 軍装ではないようだが、白地にネイビーのラインが入り紅色のスカーフを締めたセーラー服風のドレスを纏っている。

 ショートヘアの金髪と冷たい水色の瞳。

 第二次世界大戦を経験した艦娘。

 最後の戦艦ミズーリ。

 

 アイオワ、ニュージャージーに次ぐ三番艦として建造されたミズーリだったが、就役は四番艦のウィスコンシンより遅く、そのためにアメリカでは最後の戦艦と呼ばれるようになった。

 就役したのは1944年6月11日、ちょうどマリアナ沖海戦の直前である。

 しかし太平洋に展開するのは1945年に入ってからであり、戦線に投入された後は空母機動部隊の護衛として働き、坊ノ岬沖海戦においても大和を沈めた空母達の護衛も務め、特攻機の直撃なども経験する。

 第三艦隊の旗艦となったミズーリは沖縄や日本本土への艦砲射撃なども行い、そのまま戦争の勝利を迎えた。

 そして彼女は最も栄えある命令を下される。

 9月2日、アイオワと共に東京湾に入り、ミズーリのその甲板の上で日本の降伏調印式が行われたのだった。

 その後、1950年からの朝鮮戦争に駆り出され、戦争が終わると予備役となる。

 一線を退き30年ほども展示艦として港に繋がれたまま平穏な暮らしを続けていたが、その間にソビエト連邦海軍の大規模化が西側諸国の脅威となっていく。

 それに対抗するため1985年、彼女に再び召集がかかり、近代化改修を受けて再就役することとなった。

 新しい力を得たミズーリはソ連を牽制する意味も込めて世界巡航に出発し、さらにペルシャ湾でタンカーの護衛などにも就く。1991年初頭には湾岸戦争にも参加、ミサイルの発射や艦砲射撃なども行った。

 そして湾岸戦争後の同年11月には、ハワイで行われた真珠湾攻撃50周年の記念式典に参加し、それが彼女の最後の任務となった。

 同年の12月25日にソビエト連邦は崩壊し、ついに冷戦は終わったのである。

 世界に平和が訪れ、そして戦艦の役目も今度こそ本当に終わったのだった。

 それ以前にアイオワ級の姉妹は1990年から随時退役が始まっており、そして1992年3月31日、最後の戦艦ミズーリが軍を退役する。

 就役から50年近くがたち、老朽化した彼女達はもはや最盛期ほどの機関出力を出すことも出来なくなっていた。

 退役後ミズーリはハワイ州に寄贈されることとなり、1998年6月、パールハーバーにて博物館として展示されるためにここにやってきたのだった。

 

「あなた、日本の艦娘ね?」

「はい!?」

 フォード島の沿岸に停泊していたきりしまにミズーリが声をかける。

 戦艦の美しさに見とれており、まさか声をかけられると思っていなかったきりしまは驚いて敬礼をする。

「敬礼はいらないわ、私はもう軍籍ではありませんから」

「は……失礼しました」

 涼しい目をしたミズーリはゆっくり微笑むときりしまに問いかける。

「あなた、ここに眠るアリゾナのことを知っている?」

「ペンシルベニア級戦艦アリゾナですか、1941年12月8日の真珠湾攻撃で沈んだ」

「テキストの知識じゃないわ。この戦艦がどんな艦娘だったのかってことよ」

「教科書以外では……そのようなデータは……」

 きりしまは眼鏡を指で押えながら考えるが、ミズーリが何を言いたいのか分からない。

「ジャパンニーズディフェンスフォースにはもうそのことを伝える艦娘はいないのね」

「はあ……」

「ハルナという護衛艦にも8年前のリムパックの時に教えたのだけどね……」

「はるな姉さまですか?」

 1990年のリムパックでは、護衛艦はるなと現役時代のミズーリは共に演習に参加している。その時のことを言っているのだろう。

「いいわ、しょうがないから教えてあげる、真珠湾攻撃で沈んだアリゾナや他の戦艦のことや……望むなら太平洋戦争で戦った戦艦のこと全部でもいいわ。こういうことはテキストじゃなくて経験者から直に聞くことよ、いい?」

 ミズーリはため息をつきながら、こまったわねぇといったジャスチャーをしつつそう呟く。

「……いいんですか?」

 きりしまは突然のことに驚いていた。少し、というかけっこう押し付けがましい気もするが、これはものすごく貴重なことなのではないかと思った。

「いいって言ってるじゃない」

「は……では……お願いします」

「ま、実は私も伝え聞いた話なんだけどね」

 巨大な戦艦はそう言いながらペロリと可愛らしく舌を出す。

 それはそうだ。ミズーリは開戦時にはまだドックの中にいたはずだった。

「はぁ……」

「メリーランドっていう怖いおばさん戦艦がいてね。そいつが口うるさく言ってたのよ、リメンバーパールハーバーって」

「戦艦メリーランドですか、世界のビックセブンと言われた」

「そんな良いものじゃないわ、私達姉妹はメリーばあさんって呼んでたわね……」

「なるほど……」

 メリーランドは、真珠湾攻撃の時こそ、それほど損害を受けていないが、それ故にあの惨劇を克明に見ており、そしてペンシルベニアと共にアリゾナの死を看取った艦娘だった。

「じゃあ……どこから話しましょうかねえ……」

 ミズーリの水色の目はどこか遠くを見ていた。

 まるで第二次世界大戦時代のパールハーバーの景色を、今見えるこの平和な風景と重ね合わせるように。

 そして、最後の戦艦は日本の艦娘のためにゆっくりと言葉を紡いでいった。

 

 二人の目の前には、アリゾナ・メモリアルが潮風に吹かれながら白く厳かに佇んでいる。

 あの戦争に生きた全ての艦娘達の記念碑でもあるかのように。

 

 

 現在、世界に現役の戦艦はいない。

 その全ては役目を終え解体され、または海の底に沈み、もしくは博物館として港に繋がれている。

 彼女達の時代は完全に終わったのだ。

 しかし、代わりに世界は核によって際どい均衡を保ち、戦争は未だに絶えることは無い。

 戦艦は無くとも、戦争は続いていた。

 

 そして艦娘もまた、形を変え進化しながらも存在し続けている。

 艦娘が望むのは静かな海だ、だが、その静かな海に艦娘はいてはいけないものだった。

 そのような矛盾を背負いながら、彼女達は今もどこかで何かを守り続けようとしている。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます


これでこのシリーズは完結になります
最初から読んでいただいた方も、改めて感謝します
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