艦隊めもりある バトルシップウォー   作:mkやまま

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レイテ沖海戦の話

サマール沖海戦に関してはかなりいろいろ省いてまとめた内容になっています


(6)敗残

 

1944年10月25日 フィリピン、サマール島沖

 

 

「敵艦見ゆ!!正規空母多数!正規空母多数!」

「ワオ!イェスッ!!アンビリーバボー!!」

「お姉さま来をつけてください!敵機が来ます!」

 戦艦4隻を含む多数の水上打撃部隊が、水平線に見えた敵空母に対して獲物を見つけた猟犬のように疾走する。

 ようやく訪れたその砲撃戦を前に、すべての艦娘達は狂喜し、目をぎらつかせた。これこそ待ち続けた瞬間だった。

 正規空母を、砲雷撃戦で沈める、夢にまで見た機会。対空戦に明けくれ、一方的にすりつぶされていくだけだったこれまでの日々の鬱屈を晴らすように、その喜びは爆発した。

 それゆえに、皆冷静な判断も失っていた。

 

「ヨー!ホー!!ハントの時間デース!!」

「お姉さま!!」

「榛名!フォローミー!!フルスピードで敵をデストロイしマース!!」

 機関全速で前を疾駆していく金剛に榛名は追いつけない。

 前の作戦で損傷していた榛名は全速力を出すことが出来なくなっていた。しかし、それに構わず金剛は駆けだしていく。

 またたく間に離れていく姉の背中に、榛名は不吉な予感を覚える。比叡や霧島のように、この人も行ってしまうのではないかという不安が込み上げてきた。

「金剛お姉さま!!」

 妹のその声は激しい波しぶきに巻かれ金剛には届かなかった。

 だが、しかしいけない。足の遅い自分が重荷になってはいけないと榛名は自重する。自分には自分の出来ることをしなければいけない。

 後方の長門、そして大和はすでに砲撃態勢に入ろうとしていた。

 

 比叡、霧島を失った後、陸奥の謎の爆沈という事件はあったが。その3隻以外の戦艦に被害はなかった。

 残り9隻の戦艦。金剛、榛名、扶桑、山城、伊勢、日向、長門、大和、武蔵がこの海戦に投入されていたのである。

 レイテ沖海戦と呼ばれる歴史上最大規模の海戦と呼ばれる一大決戦。

 ソロモン諸島での日本の敗北から、アメリカ軍は南方の島々を徐々に攻略しつつ北上し、また中部太平洋からは、マーシャル諸島、トラック島、マリアナ諸島を奪い取っていく。

 そしてアメリカはついにフィリピンまで到達しようとしていた。

 そのフィリピン上陸作戦を阻止するために、日本海軍がそのほぼ全ての戦力を注いで最後の意地を見せようと計画したのがこの作戦である。

 だがそれはある意味、破れかぶれの無謀な突撃とも言えた。

 先のマリアナ沖海戦で日本の機動部隊は大敗北を喫し、翔鶴と大鳳と共に多くの航空機が落ちていった。それにより日本にはもはやまともな航空戦力は残っていなかったのである。

 その時点で海上戦における敗北はほぼ決定的になっていたが、戦艦をはじめとする艦娘はまだまだ多くがまともな戦闘すら経験せずに無傷で残っていたのである。

 このままおとなしく降伏するくらいなら、最後にこの艦娘達が華々しく散っていける戦場を用意しようとでも言いたげな作戦が、この海戦である。

 もはや戦争に勝つために作戦では無くなっていた。

 圧倒的な数を誇るアメリカの空母群に対して、直掩機も無く突撃を開始した結果。武蔵はシブヤン海において膨大な数の航空機の攻撃を受け壮絶な最期を迎える。

 そして別働隊として出撃した扶桑と山城も、囮として突撃した結果、戦艦を主力とする敵艦隊の重厚な包囲を受け、殲滅された。

 その他の艦艇の損害は、言い尽くせないほど多く、悲惨なものだった。

 数多くの犠牲のもとに、大和、長門、金剛、榛名がようやくたどり着いたのが、このサマール沖における敵空母発見と、その後の戦闘である。

 彼女達にとっては待ちに待った戦闘ではあったが、それは逆にそこまでしないと水上打撃部隊は活躍できないということでもあった。

 そしてその活躍も、結局はあまりにもむなしい戦果しか生まなかった。

 

「ファイアーーーー!!!」

 金剛の放った砲弾が、敵空母に直撃する。その他にも多数の砲弾を受け、敵の飛行甲板はボロボロになり、満身創痍になっていた。

 他にも空母は多数いた。その艦載機は順次発艦しており、必死の反撃で逆にこちらにも少なからぬ被害が出ている。

 敵に慈悲を向けている場合ではなかった。

「これでフィニッシュ!!」

 金剛は電探によるレーダー射撃を行う。この時期になって日本の艦娘にもようやく実用レベルの電探が装備されるようになっていた。かつて比叡や霧島を沈めた技術を使って、金剛は止めの一撃を敵に発射する。

 胴体を貫かれ、体を崩した敵空母は、噴煙を上げながらやがて海中に没していった。

「イエ~ッス!!榛名見てましたか!?」

 金剛は振り返るが、当然そこに榛名はいなかった。

 周りには共に砲撃を行った重巡達がいたが。鈴谷、熊野、利根、筑摩、鳥海、羽黒など、そのほとんどが被弾しており。顔面を蒼白にして血を流していたり、苦痛に顔を歪めている。

 負傷者同士で体を支え合い、なんとか沈没を免れようとするような悲惨な有様だった。これ以上の戦闘の継続は不可能だろう。

 その中に榛名がいないか、金剛は不安に思ったが、見当たらない。

 まさかもう沈んだのでは、とまで思った。

 さきほどの武蔵の沈んでいく様がまだ目に焼き付いていただけに、余計恐ろしかった。

「榛名……」

 比叡や、霧島だけでなく……榛名まで。

 しばらく探していると、後方に大和の巨体が見えた。その横には2隻の戦艦がついている。

 その艦影は長門と、もう一つはまさしく榛名だった。

「は、榛名ーーー!!」

 金剛は全速力でターンし、榛名のほうに向かった。

 

「金剛、他の艦娘は大丈夫なのか……状況を報告して……」

 現在の旗艦は大和だというのに、仕切る癖が治らない長門が報告を要求する。だが、金剛はその脇をすり抜けて、後ろできょとんとしている榛名に飛びついた。

「お姉さま!?」

「うぇーーーーーーーん!!ちゃんと着いてくるデース!」

「だって、金剛お姉さまが速すぎて……榛名は今全速を出せませんので……」

「そうでしたーーー!!アイムソーリーーー!!」

 金剛は榛名に抱きついたまま泣きだしてしまった。

「お姉さまどうしたんですか?……榛名は大丈夫ですよ?」

 それを大和と長門は苦笑しつつ眺める。大和はついさきほど妹を失い、長門もまた過去に陸奥を失っていただけに、このような姉妹艦の絆を見せつけられるのは複雑な気持ちだったが、金剛と榛名もまたすでに二人の姉妹を失っていたのであり、それについては何も言えなかった。

 

 追撃から帰って来た重巡達が、大和達戦艦の周りにしだいに合流してくる。

 敵を狩るほうとはいえ、どの艦娘も反撃を受けており、疲労困憊して力のない顔をしていた。

 利根がフラフラとこっちにやってきた、その肩には姉妹艦の筑摩が担がれている。二人とも深刻な損傷を受けているようだったが、特に筑摩は酷かった。

 制服は血で汚れ、腕は不自然に曲がり、艤装もボロボロになっている。もう意識も薄れかけているようだ。

「被害報告は……見たらわかるじゃろう……」

 それでも利根は律義に報告をしてくる。

「敵正規空母は……結局何隻やったんだ。艦名は分かるか?」

 長門は利根と筑摩に寄り添い、傷を労りつつも戦果報告を聞こうとする。

 その問いに対して、利根は脇に担いでいた敵の残骸の、飛行甲板らしき板きれを海面に投げ捨てる。

「空母1は確実じゃ……じゃが……」

 海に浮かんだ飛行甲板は金剛の直撃弾も含め多数の穴があき、焼け焦げていたが、なんとなく原型は留めていた。

 しかし、その形は……。

「なに……これは」

「そんな……」

 長門と大和の顔が青ざめる。

 その飛行甲板は酷く短かく、小さかった。小型の軽空母だとしてももう少しあるだろう。

「護衛空母じゃな……一緒にいた他の空母も同じじゃろう」

 その利根の言葉に、全員が押し黙る。

 正規空母だと思っていた敵は、そうではなく、もっともっと格下の艦娘だったということだ。

 

 大和はその事実を受け入れつつ、旗艦として今後どう動くかを考えなければいけなかった。

 

 今作戦の目標のとなるレイテ湾はもうすぐそこだった。そこに展開する輸送船団を攻撃し、アメリカ軍の上陸を阻止することが今回の主目的である。

 大和は周囲の状況を見て、しばらく瞑想するように黙考する。

 レイテ湾の周辺には扶桑山城を撃滅した戦艦部隊がまだ待ち受けている可能性がある。それに敵の航空機も先ほどから断続的に空襲を続けてきていた。

 上手くいけば突入は可能かもしれない、しかしその先に待つのは全滅だろうと思われた。

 連合艦隊の主力中の主力を全滅させてでも、それはやり遂げなければならないものなのか否か。

 そして、大和は目を見開いて残存する艦娘達の顔を見る。

 皆疲れ果て、負傷に苦しみ、悄然としていた。

 

「帰りましょう……」

 旗艦のその言葉に、長門が反応する。

「貴様、何を言っているんだ……レイテ湾は目の前なんだぞ」

 長門の声には、明らかな怒りが含まれていた。

「……」

 しかし大和はそれには答えない。

「ここでおめおめと帰って、囮となって沈んでいった皆に、私はどのような顔をすればいい!!」

「……」

「私は……私達は何のためにここまで来たんだ!」

 金剛も榛名も、他の艦娘達も、それを黙って聞いているしか出来なかった。

「答えろ大和!……私は……何のために……」

「……」

「私一人でいい、私一人だけ行かせてくれ、単艦突入でいい」

 陸奥の死後、戦闘に出されずに温存され続けた長門が常に死に場所を探し続けていたことを、大和は知っていた。

「旗艦命令です……全艦反転」

 

 サマール沖海戦において、大和達が攻撃した正規空母と思われる機動部隊は、実際のところはただの護衛空母だった。

 カサブランカ級護衛空母、それは輸送船団を護衛する航空機を運用するために必要に迫られて作られた、いわば戦時急造艦と言っても良い。軽空母よりもさらに安価で早く作ることが出来る、埋め合わせの艦であり。エンタープライズをはじめとする精鋭揃いの正規空母からみればかなり格下の存在だった。

 要するに積極的に戦闘に参加するような空母ではなく、後方で輸送船を守ることが出来る最低限の設備を備えた艦ということである。

 日本の主力水上打撃部隊の死力を尽くした攻撃でもってしても。結局、護衛空母ガンビアベイが沈没、数隻が損傷を受けた他3隻の駆逐艦が沈没しただけだった。

 かわりにこちらの艦艇もかなりの損害を受けているのである。

 敗北と言ってもいいほどの戦果だった。

 大和や長門といった名だたる戦艦が参加して、弱小護衛空母部隊と戦った結果がそれなのである。古き良き時代のように、戦艦が海戦を支配し、戦況を大きく変えていく時代は完全に終わったのだ。

 もはや空母と航空機による反撃以外に、この状況は変わらない。

 しかし、日本はエンガノ岬沖にて瑞鶴を中心とする最後の空母機動部隊と航空機を囮に使い。沈めてしまっていた。

 雲龍型といった空母はまだ残っていたが、それに乗せる艦載機がもはやどこにもなくなってしまっていたのである。

 その時点で日本の敗北はもはや誰の目に見ても避けられないものであり、いかんともしがたいものになっていた。

 だがしかし、それでも降伏は許されなかった。

 レイテから撤退した日本の艦娘達は、もう海戦で活躍することも、おとなしく降伏することも出来ずに、いたずらに沈んでいくか、港でただ浮かんでいるしか出来ない状態に陥っていくのである。

 

 

1944年11月4日 ブルネイ泊地

 

 

「比叡は、これで何歳デス?」

「え?え~っと……33年です」

「オウ……オバサンネ~」

「うふふ、お姉さまも榛名も、もうとっくに三十路越えですよ」

 艦娘の姿は変わらない、いつまでも若いまま老いることはない。まるで若くして死んだ者の遺影のように、それはいつまでも美しいままだった。

 フィリピンからの撤退後、金剛たちはブルネイ泊地に帰還していた。そこで次の命令があるまでしばらく待機である。

 そのため時間はあったので、金剛と榛名はいつもの恒例行事としてお誕生日会をやっていた。

 彼女はもういないが、今日は比叡の進水日である。この日がまたやってきていた。

 比叡の時も霧島の時も、もはやお彼岸のように、残された姉妹はその誕生日を祝うことにしていた。

 比叡と、霧島の遺影の前におかれたティーカップに紅茶が注がれていく。

「ずいぶん長い間生きました……」

 金剛は、自分の紅茶に口をつけながら、遠くを見るように呟く。

「何言ってるんですか、まだ30年とちょっとですよ」

 榛名はそうは言うが、その意味は深く考えないようにしていた。

「……そうですネ。三笠シショーもまだまだ元気デス」

 金剛は主力艦艇の中では最古参である。

 30年という歳月は艦娘にとっては長い時間だった。

 金剛型は本来であれば除籍され、あるいは解体され、加賀や赤城といった新しい戦艦にその座を譲って静かに引退するはずだった。

 それが条約により運命が変わり。こんなに長く現役でいられることになり。大規模な近代化改修を受け、この戦争でも活躍できるほどの力を得た。

 戦争のない時代に一度も砲火を交えずに除籍となるのと、戦って沈んでいくのと、艦娘としてどちらが幸せなのか金剛には分からない。

「本土に帰ったら、また師匠に報告しないとですね……」

 三笠は、未だに横須賀の港にいる。いつでも我が家で待っていてくれる母親のように。彼女の元に行って戦況を報告するのが金剛達の楽しみでもあった。

「……榛名。先ほど辞令がきたんデスが。ワタシだけ一足先に日本にカムバックすることになりマシタ」

 辞令では大和、長門、金剛だけが護衛とともに本土に帰ることになっていた。榛名はブルネイからリンガ泊地に移動し、まだしばらくはこの南方に残ることになる。

 本土に戻るとはいえ、南方から日本までの海域には敵の潜水艦がうようよしていた。何事も無く無事に通過できるほうが珍しいほどであり、非常に恐ろしい航海になる。

「そう……なんですか……」

「オーライ、榛名もすぐに日本に戻れます、それまでの短い間デス」

「……はい、大丈夫です」

 とはいえ、ここまで来て離れ離れになるのはどちらも心苦しかった。榛名がいつ日本に帰ることが出来るかは金剛には分からなかった。

「ア~……でもまもなく出発デース。だから今度の21日の比叡の進水記念日は一緒にセレブレイト出来ません……」

 金剛は比叡の写真を眺めながら、わざと演技じみた声でさみしそうに嘆いた。

「場所は別々になりますが、時間だけは合わせて一緒にお祝いしましょう」

「そうデスネ~」

 それが最後の別れになるなど、絶対に信じたくなかった。

 ただそれだけを祈っていた。

 それでもこの戦況では生き残るのは難しいだろう。

 もし沈むことになるのなら。共に寄り添って一緒に沈みたいと、それが最後の望みだった。

 残されるものの気持ちは、もう十分だった。

 だが、運命はいつも。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます

次回で金剛型の話は終わりになります
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