艦隊めもりある バトルシップウォー   作:mkやまま

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金剛と榛名のその後の話です

こちらもかなりいろいろな出来事を飛ばした内容になっています

補足ですが解体された艦娘は普通の少女に戻る設定を一応踏襲しています


(7)平和な海

 

1944年11月21日 台湾沖

 

 

 灰色の空にどす黒い海。そこを猛烈な雨風と大波が吹き抜けていく。

 台風により、海は大いに荒れていた。

 その中を大和、長門、金剛、矢矧、他駆逐艦達がびしょ濡れになりつつ航行している。

 16日にブルネイを発った戦艦部隊は台湾にまで至っていた。

 金剛の周りには雪風、磯風、浜風、浦風の第17駆逐隊がいたが、皆荒れた海に翻弄されて参ったような顔をしている。

 早くこの台風を抜けたいものだと皆がうんざりしていた。

 金剛も、この悪天候では比叡の進水記念日を紅茶で祝うのは無理だなと忌々しく思っていた、その時である。

 金剛の直下に猛烈な衝撃とともに突如二つの巨大な水飛沫が上がった。

「あぁーーーっ!!」

 わき腹をボディブローされたような強烈な痛みに吐き気を催すほどだったが、なんとか膝をついただけで持ちこたえた。

 どうやら二発の魚雷が直撃したらしい、撃ったのは敵潜水艦だろう。

 その瞬間後方でも巨大な爆発音がした。何十メートルもの水柱が龍のように立ち上り、その元にいたはずの浦風が胴体から真っ二つに折れ、血飛沫を上げながら海中に没する。

 あまりにも一瞬の出来事だった。

 

 突然の潜水艦の襲撃により、駆逐艦達が慌てたように警戒態勢をとる。しかし浦風の死を目の前で見てしまったために、その姉妹たちは既に泣きそうな顔になっていた。

「浦風ちゃんが……そんな……金剛さんは、大丈夫ですか?」

 前方を行っていた大和が心配したのか声をかけてくる。

「オウ……シット……、ちょっとかなりガツンと来ましたが、オーライデス」

 金剛はわき腹を押え、苦しそうな顔をしながらも親指を立ててなんとか微笑んだ。

「無理はいかんぞ……」

 そこに磯風と浜風が近づいてくる。

 浦風を失った彼女達の顔はあまりにも虚ろで、暗かった。おそらくまだ現実を受け入れることすら出来ていないのだろう。

「ワタシは戦艦デス、これくらいノープロブレムネ。それよりも、サブマリンはまだ近くにいるはずデス……」

 金剛はなんとか笑顔を作って大丈夫だとアピールした。駆逐艦達も、まさか歴戦の金剛がこの程度の被弾で沈むとは思わなかったので、それ以上は追及しない。

 

 そのまま艦隊は警戒しつつ航行を続けたが、未だに海中に潜む脅威のために浦風の死を悼む暇さえなかった。

 そして金剛の様子は明らかにおかしくなっていた。

 一度立ち上がって航行を再開していたが、またしても膝をつき、そして徐々に沈みつつある。

 

「金剛さん、本当に大丈夫ですか?」

 浜風が恐ろしいものを見るような顔で再び近づいてくる。

「ん~……ちょっと浸水してるみたいネ……」

 金剛の顔は血が抜けて青白くなっており、手で押えたわき腹の装束には明らかに赤い血がにじんでいた。

 もはや元気なふりをする余裕も無いようだった。

「傷を見せろ……!」

 磯風が急に鬼気迫るような表情で腕をどかし、そのわき腹を検分する。

 そして、しばらく無言で傷口を見た後、目を閉じた。

「磯風……ソーリー……。ワタシは……もうここで……」

 金剛はそう言うと、力が抜けたように波間に腰を下ろす。

「磯風、そこをどけ、私に見せろ!」

 ことの異様さに気付いたのか、後方から長門がやってきて寄り添うように金剛を抱える。

 そして、その傷口を見て、磯風同様沈黙した。

「長門……どうやらワタシはここまでみたいデス……」

 力ない声になり精気を失った顔色ではあったが、金剛はそれでも微笑んでいた。

「金剛さんっ!」

 大和も、そばに寄ってきていた。その顔は雨にぬれたのか涙にぬれているのか分からない。

 金剛、長門、大和。

 奇しくも長女であるネームシップが並んでいた。そして皆同様に妹を失っている。ただ一人、金剛にだけは榛名が残ってはいたが。

「大和……ドンクラ~イ……泣いちゃいけまセン……」

「こんごう……さん……」

 これと同じような場面を、金剛はいつかどこかで体験していたような、そんな気持ちになった。

「アナタは最強のバトルシップデス……あなたがこれからの日本を守り、背負って立たなければいけません……」

 金剛は覚えていなかったが、それはかつて金剛が三笠に聞かされた言葉だった。

 歴戦の老朽艦と、世界最強の戦艦。その……最後の会話だった。

「こん……ごう……さん……私は」

 大和は、嗚咽を漏らしながら立ちつくす。

 代わって長門が話しかけてきた。

「金剛……!私は……私は……お前のことが羨ましかったっ!」

「ナンデス……長門……」

「戦艦でありながら、常に最前線に出て活躍するお前が……私は心底羨ましかった……」

 長門の眼にさえ、涙か雨粒かわからない輝きが湛えられていた。

「長門は、強い子デス……でも、やっとそんな顔を見せてくれましたね」

 金剛のよわよわしい腕が長門の頭のほうに持ち上げられ、それをやさしくヨシヨシと撫でる。

「金剛……いかないで……私にとってあなたは……一番尊敬できる……艦娘だった」

「ごめんなさい……あなた達には、一番つらいことを任せてしまいますね……」

 長門には金剛が何を言っているのか分からなかったが。金剛はこれから敗戦までの一番辛い時期と、そしてそれと同様に厳しい敗戦後の日本を大和や長門達に任せることになるのが心残りだった。

 出来れば自分が少しでもその負担を軽くできればと思ったが、それももう出来ない。

「金剛……靖国で待っていてくれ……いや、あなたの故郷ではヴァルハラと言うのか」

「……いえ、私はどこにも行きません……ここで、うみの……そこで……また」

「海の底か……そうだな、そちらのほうが私達にはお似合いだ……」

 海面に染み出した血とともに奪われていくように、金剛の意識が急速に薄くなっていく。そこにいたすべての艦娘達が、その死期を悟った。

 警戒任務も忘れてさきほど駆けつけてきた雪風と矢矧に、大和、磯風、浜風、長門。このようにみんなに見とってもらえるのは幸せだった。

 ただ、ひとつ、やはり……そこに妹がいないのだけが残念だった。

「はるなに……よろしく……つたえて……ください……」

「分かった……」

「あなたは……いきて……と」

 それが金剛の最後の言葉だった。

 その体は長門の支えをすり抜けて、いまだ荒れている海中に沈んでいく。

 

 沈みゆく最後の意識の中で、金剛は思った。

 榛名……いつか、プリンスオブウェールズが言っていたあのネーム。

 プリンセス・ダイアモンドでしたっけ? 

 ワタシ実はあの名前がちょっとフェイバリットでした。

 だって……豪華客船みたいじゃないデスカ?

 いつかワタシが、……ノウ、ワタシ達シスターズが生まれ変わったら、豪華客船になって、イギリスと日本を行ったり来たりしたいデス。

 そんな、平和ナウミガ……マタ……キット……。

 

 その同じ日、榛名はブルネイからリンガ泊地に移動していた。

 金剛も同じことをしていると思いながら、比叡の記念日のために紅茶を淹れ、航行しながらもそれを啜っていた。

 比叡お姉さまがパーティをやりたいと言って、結局出来なかった二年前のこの日を思い出しながら。

 その時、急に船体に衝撃が走る。

「きゃあ!」

 攻撃……ではない。この感触は座礁だった。

 困難な海域のために注意はしていたのだが、見えない浅瀬に乗り上げてしまったようだった。

 ダメージはあるが、大丈夫だろう、なんとか航海は続けられるようだった。

 羽黒と足柄が救助に駆け付けてくる。

「すいません……榛名は大丈夫です。ご迷惑かけます……」

 しかし、さっきの衝撃でティーカップを海に落としてしまっていた。

 金剛お姉さまからもらった大切なものであっただけに、気落ちする。それと同時に不吉な予感もしていたのであった。

 リンガ泊地に着いたあと、金剛が台湾で沈んだことを聞かされ、榛名はその予感が当たってしまったことを知った。

 四隻いた金剛型戦艦は、もはや榛名を残して沈んでしまったのである。

 

 

 その後、座礁による損傷の修理のために、榛名もすぐに内地に帰ることになった。

 潜水艦の魔の手を逃れ、なんとか呉にたどりついた榛名だったが、当然の如くそこにはもはや金剛はいない。

 そこで待っていた大和に、金剛の沈没を陳謝されたが、どう考えてもそれは大和の責任ではなく榛名としても困るだけだった。

 その大和もやがて出撃していき、二度と戻ってくることはなかった。

 そして日本にはもう戦艦を動かすほどの燃料もほとんど無く、榛名は同じく呉鎮守府に逃れていた伊勢、日向と共に浮き砲台として係留されるだけとなった。

 もう出撃することも、太平洋の大海原を自由に駆け回ることも無くなった。

 やがて戦局はどんどん悪化し、呉も空襲を受け、そこにいた多くの艦娘が爆撃を受けて沈んだ。

 榛名も伊勢も日向も、港に大破着低したまま、完全に沈むことも無く鉄くずとしてそこに佇むのみとなってしまった。

 そして、その呉の港から。

 1945年8月6日午前8時。

 広島市の上空で光る猛烈な光と、その後巻き起った巨大なキノコ雲を榛名達は目撃する。

 その後まもなくして日本は降伏し、戦争は終わった。

 戦後、榛名は引き上げられ、解体され。その戦艦としての歴史を終える。

 解体された艦娘がどこに行くのかは、誰にも預かり知らぬことだった。

 

 

「榛名は、これからどこにいくの?」

 この敗れた国に再び夏が訪れていた。

 暑い日差しが砂のグラウンドを白く照りつけている。

 町はまだ寂れたように埃っぽかったが。そこに住む人々は、精気を取り戻しつつあった。

 除隊式を終えた後、かつての鎮守府だった建物の前で伊勢が聞いてくる。

「そうですね……伊勢さん達は?」

「私達もとくに決めてはいない。まあ、しばらくはのんびりと釣りでもして過ごすか……」

 榛名の問いに日向が答える。

「え~まだ釣りするの……オヤジ臭い。もうちょっと建設的なことしようよ日向」

「ならお前は好きにしろ……私は一人でもそうするからな」

「そんなこと言って……日向ってば一緒にいて欲しいくせに」

「それは伊勢のほうだろ」

 姉妹のそんなやりとりを見て、榛名は苦笑したが。この光景はもう長いこと見飽きたものだったので、微笑ましい思いしかなかった。

「榛名も良かったら一緒に来る?釣りは……まあ私が阻止するけどさ」

 この姉妹の温かい性格が榛名は好きだった。しかし、自分の居場所はここではないという思いもあった。

 普通の少女になって、改めて自分の居場所を探してみたいと思う。

「すいませんが、一度横須賀に行こうと思ってるんです……。三笠師匠に挨拶をしておこうと思って……」

 三笠も、まだ横須賀に残っていた。

 それが、日本に残された最後の戦艦だった。

「そう、じゃあここでお別れだね……」

「……榛名、君とはまたどこかで会える気がする」

 日向が、いつもの何を考えているのか分からない顔で、そんなことを言った。

「ええ、また。お会いしましょう」

 

 

2008年 日本近海

 

 

「アメリカで生まれたイージスシステムを日本で初めて搭載したこんごうデース!ヨロシクオネガイシマース!」

「こんごうお姉さま!その自己紹介は非常に分かりやすいです!きりしまもそう思います!」

「そうデス?広報活動もこれでバッチリネー」

 晴れた空のもと。こんごうときりしまが海を走る。

「こんごうちゃん、きりしまちゃん……隊列みだしたら駄目ですよ~」

「あのしゃべり方……全く誰に似たんでしょうか?そう思いません、はるなお姉さま」

 その後ろには、はるなとひえいがいた。

「さあ……国際合同演習の時にアメリカの艦娘から影響を受けたみたいですけど。ああ、あとあのアメリカの原子力空母」

「ジョージワシントンですか?最近横須賀に入港した」

「そう、まあ、あんなに大きな空母なら憧れるのも分かるけど」

 原子力空母ジョージワシントンは今日本に派遣され、横須賀を母港としている。

「でも、きりしまはなぜかあの空母嫌ってるんですよね。なんででしょう?」

 ひえいが不思議そうな顔でそう言った。

 きりしまがワシントンを嫌いなのは、おそらく先代からの因縁というか、その名前のせいなのだろうが。はるな達にはそこまで思いいたらない。

 

「まあでも、私達がしっかりと教育しないと」

 はるなの言葉にひえいは頷いて同意する。

「そうですよね、あの子たちはなぜか面倒見なきゃって思っちゃうんですよね~。これも私達の先代が姉妹艦だったっていうのと関係あるんですかね」

 護衛艦娘も、当然先の大戦のことは勉強して知っている。金剛型が姉妹であり、どのような戦歴を送って来たのかも。

 でも、そんな知識からくるものとは違う絆のようなものを、四人はなんとなく感じていたのだ。

 はるなもひえいも、もうまもなくで退役だった。それまでにこんごうたちに少しでも何かを残せたらと思う。

「さあ……どうでしょう」

 

 はるなとひえいがそんな大人びた会話をする横で、こんごうときりしまは海上を嬉しそうに走り回っていた。

 四人の護衛艦娘はそれぞれ現代的な艤装を身にまとっている。ゴテゴテとした大砲は積んでいないが、いかにもハイテクな装備だと分かる。

 こんごうときりしまは、艦型が違うようではるな型の二人よりも一回り大きい。

「はるなお姉ちゃ~~ん!ルックミー!!」

 こんごうときりしまがいつの間にか遠くまで行ってしまい、こちらに手を振ってきている。

 その人懐っこい性格が可愛くて、はるなとひえいも笑顔で手を振り返した。

 

 

 金剛の夢であった姉妹揃っての豪華客船としての生まれ変わりは、結局のところ叶わなかった。

 榛名と比叡は後に海上自衛隊の、はるな型護衛艦として1973年に「はるな」が、1974年に「ひえい」がそれぞれ就役する。

 そしてその後に金剛と霧島は、こんごう型護衛艦として1993年に「こんごう」、1995年に「きりしま」が最新のイージス艦として就役した。

 姉妹の順序は狂ったが、かつての四姉妹が、艦型は違えど揃ったのである。

 2009年に護衛艦はるなは退役となるが、それと代わって就役したのが護衛艦ひゅうがだった。

 さらに「ひゅうが」の姉妹艦として「いせ」も就役する。

 かつての戦艦達が、こうやってまた戦う船として現代の日本に蘇っている。

 もはやその護衛艦が敵と砲火を交えることはないが。それでも、それはまだ世界が完全に平和になったのではないということを意味していた。

 真に平和な海はすぐそこにあるようで、まだ遠い。

 ただ、ひとつ救われることがあった。

 金剛と関係はない、こじつけのようなものではあるが。日本で建造され、イギリスの会社が所有するダイヤモンド・プリンセスという豪華客船が2004年に竣工した。

 今イギリスと日本の間には平和な関係が続き。ダイヤモンド・プリンセスは太平洋などの海を航海し、日本とイギリスの間を結んでいる。

 

 

 

 




ありがとうございます、金剛型の章はこれで終わりです

浮砲台の時期の話や呉空襲に関してはまた次の伊勢型の章で少しですが触れます


次回は時系列を戻して伊勢型視点の話になりますので、また読んでいただけると幸いです
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