私のココロの伝え方   作:真冬の三月ウサギ

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反省会inいつものところ

約束した時間、オカ研の全員が指定された場所に集まっていた。それを確認した先輩が満足げに頷く。

 

「よし、皆揃ってるわね。それじゃ、いつものとこへ行きましょう!」

 

 先行する先輩について目的地に向かう。そう遠くはないので、十分も歩けば着く。

 

「どこに行くんですか?」

 

「よく皆で集まる場所があるんだよ」

 

 何か事情があって集まるのが遅くなったり、話が長引きそうになった場合、学校では下校時刻を過ぎてしまう時がある。そんな時、その日のうちに終わらせてしまいたい時にそこに集まるのだ。それに、そこの店長とも久々に話がしたい。最後にあったのは春休み前だったと思う。

 

 適当に話しながら歩いているうちに目的の場所に到着した。そこは洋風の小さなカフェで、そんな季節でもないのに置かれた魔女の帽子を被ったジャックランタンが目を惹く。その他にも蝙蝠の形の看板だったり魔女の乗りそうな古臭い箒があったりなど色々と変わった店だ。

 

「おじゃましまーす!」

 

 先輩が扉を開けるとベルが鳴って来店を知らせた。カウンターの向こうの人影がこちらに目を向ける。

 

「いらっしゃいませ……おや、君達か」

 

 磨いていたカップを置き近づいてくる。白髪交じりの落ち着いた雰囲気の男性で、正しい意味で紳士という言葉が似合いそうな人だ。この人の好意につけこんで、もとい甘えさせてもらってよくここで話し合いをしている。ちなみに、雲雀はここでバイトをしている。

 

「浦戸君以外は久しぶりだね。そっちの子は?」

 

 後ろの方にいるこころに気がついた。

 

「うちの新入部員よ」

 

「初めまして、桔梗坂こころです」

 

 こころが前に出て一礼する。それに反応して店長も頭を下げる。

 

「初めまして、数奇見 一夜(すきみ ひとよ)だ。カフェ『Halloween Party』の店長だ、よろしく」

 

「こころちゃんは海外から来たばっかりで、この前までイタリアに住んでたんですって!」

 

「イタリア?私も何度か行ったことがあるよ、いい国だ」

 

 ああ、こうやって嘘が広まっていくんだな。後で面倒な事にならなければいいけど。

 ずっと立っているのも何なので話しながら空いている席に座る。と言っても、客は他にいないのでどこも空いているのだが。適当な席に座った俺達に店長が注文を聞く。

 

「ご注文は?」

 

「僕はトマトジュースを」

「私はアールグレイ」

「俺はブレンドを」

「ココアをお願いします。砂糖とミルクたっぷりで」

 

「畏まりました」

 

 店長は注文を聞くとカウンターに入っていった。それを見送ると先輩が軽く咳払いをした。

 

「さて、それじゃあ結果報告をしましょうか。じゃあまずは真人君お願い」

 

「部員は見つかりませんでしたけど、協力してくれる人を見つけました。知り合いに聞いてくれるそうです」

 

「そう、協力者が増えるのはいい事ね。次、雲雀君は?」

 

「僕は我が部の崇高な理念を皆に説いてきました。あれだけの人が聞いていたなら、きっと共感する人もいたでしょう」

 

「私もちょっと話しました」

 

 可哀想なことに、こころも結局話す羽目になってしまったようだ。まあ、多少は俺の責任なのかもしれないが。けど、これでこころの所属もはっきりしただろうし、勧誘する人も減るだろう。結果オーライというやつだ。

 

「先輩はどうでしたか?」

 

「私の方もいい人は見つからなかったわ……ま、初日だし仕方ないか」

 

「これからどうするんですか?」

 

「そう、その事で皆を集めたのよ」

 

 先輩が足元の鞄を探る。やがて紙と色とりどりのペンを取り出しテーブルに並べた。

 

「今日は皆で宣伝用のポスターを作ろうと思ったの。こういうのは早いうちにやっておかないとね」

 

「手書きで?パソコンとかで作らないんですか?」

 

 こころの疑問に先輩が答える。

 

「甘いわね。私たちはオールドカルチャー研究部。そんな文明の利器に頼るような事あってはならないのよ!」

 

「けどネットでブログとか開いてるんだけどね」

 

「うっさい。ほら、書くわよ!」

 

 先輩がペンを持つ。そうして紙に大きく部活の名前を書き始めた、のだが。

 

「あれ?」

 

 書いたのはいいのだが、オールドカ、まで書いて紙の一番端まで届いてしまった。改行するには中途半端なところで止まってしまった。

 

「……先輩、もうちょっとバランス考えて書いてくださいよ」

 

「……ま、まあいいわ。予備の紙はまだまだあるんだから」

 

 先輩が失敗した紙を丸めて鞄から新しい紙を取り出す。使い切る前に完成すればいいのだが。

 

「先輩、俺が書きましょうか?」

 

 一応失敗しないよう代わりに書こうと提案したが、先輩は受け入れなかった。

 

「ダメよ。部活名はいわば部活の魂。部長が書くものって決まってるのよ!」

 

「はいはい、じゃあ失敗しないでくださいよ」

 

 こういう時の先輩は頑なだ、きっと何を言っても代わろうとはしないだろう。大人しく引き下がって見守る。改めて先輩が紙に向かった。しかし今度はなかなか書こうとしない。どうするか悩んでいるようだ。

 

「ねえ、どこで切ればいいと思う?」

 

「花之宮、オールドカルチャー、研究部、でいいんじゃないですか?」

 

「そうね……よし、書くわよ!」

 

 今度は失敗しないようにゆっくりと文字を書いていく。気をつけたかいあって、今度は失敗しないで書くことができた。そこに簡単な部活紹介と部室の所在を書き込む。説明についてはこれくらいで十分だろう。

 

「……できたけど、何となく寂しいね」

 

 完成したポスターを見て雲雀が呟く。やはり文字だけではいまいち迫力に欠ける。人の目を引くにはもっと工夫が必要か。

 

「そうね。なんかそれっぽい絵でも描いときましょうか?」

 

「オカ研っぽい絵……例えば?」

 

「誰にでも分かりやすくてオカルトっぽい……UFOとか」

 

「いいわねそれ、採用!」

 

 すぐさま描き始めようとする先輩を雲雀が止める。

 

「いや、僕達これまでUFO関係のこと一切やってなかったですよね?」

 

「今年やればいいんじゃない?夏休み辺りに」

 

「ダメですよ、せめてやったことを描きましょうよ」

 

 そもそもここはオカルト研究部ではない。そう思いながら二人の争いを観察しているといきなりこころが手を挙げた。

 

「これまでの活動で書けそうなのは無いんですか?」

 

 こころを除く三人が今までの活動を振り返る。が、なかなか描くことができるようなことは思い出せない。

 

「これまでの活動、ねえ……」

 

「そう言えば、僕達が入部してすぐの時に何か召喚しようとしたよね。魔方陣描いて、頭蓋骨の模型を理科室から借りてきて蝋燭立てて」

 

「あー、あったなそんな事。くじ引きで負けた先輩が生贄として縛られたやつ」

 

「じゃあそれでいきましょう。とりあえず魔方陣と頭蓋骨描いとくわね」

 

「いやそんなもん描いたら誰も来ませんって」

 

 そんな不気味な部活誰が来るんだ。むしろ避けられて、俺達のイメージがもっと悪くなる。既にどん底かもしれないけど。

 

「もう普通に自分達の専門分野を描くんでいいんじゃないですか?」

 

「うん、確かにそれが一番マシかもね」

 

 結局、目立つものを描こうとして失敗するくらいならいっそ普通のほうがいいという結論に至った。順番にペンを回し、それぞれが思い思いのイラストを描いていく。出来上がったものはごちゃごちゃとしたまとまりのない物だったが、とにかくポスターはできた。

 

「随分と楽しそうだね?」

 

 店長が注文した品を持ってきた。それらを邪魔にならない場所に無駄の無い動きで並べていく。

 

「一体何の話をしているんだい?」

 

「結果報告をしてポスターの字とか絵を書いて皆さんのくだらない活動について話を聞いてました」

 

「僕達の思い出が一言で片付けられちゃったよ」

「ああ、ばっさり切り捨てられたな」

「私達真剣にやってたのにね」

 

 わざとらしく三人で寄り合う。くじに負けたとは言えわざわざ縛られた先輩は本当によくやったとは思う。周りから見たら馬鹿らしいのは間違いないが。

 

「えーっと、全く話が見えないんだが……?」

 

 困惑している店長に簡単に事情を説明する。オカ研が無くなりそうな事、部員を探さなくちゃいけない事など。店長は静かに俺達の話を聞いていた。

 

「……ふむ、なるほど。事情はだいたい分かったよ」

 

「何か人を集めるいい案とかあります?」

 

 店長は顎に手を当て考え込む。その姿はなかなか絵になっている。俺達は黙ったまま店長を見つめる。しばらくそのままでいた後深く溜息をついた。

 

「……いや、特にいいアイデアは思いつかないな」

 

「そうですか……」

 

 まあ仕方ない。いきなり聞いて思いつけというのは流石に無茶だ。

 

「すまないね、できれば力になりたいんだが……」

 

「いいんですよ、場所を貸してもらってるだけで十分過ぎます」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

「あ、そうだ。せっかくだから店長も何か描いたらどうかしら?」

 

「私が?いいのかい?」

 

「いいんじゃないですかね、どうせスペースも空いてるし」

 

「そうかい?じゃあ……」

 

 店長が先輩から遠慮がちにペンを受け取る。ペンを受け取った店長は余った場所に何かを描き始めた。

 

「……よし、こんなもんかな?」

 

 やがて店長は可愛らしい黒猫を描きあげてペンを置いた。描かれた黒猫に皆が目を奪われる。

 

「とても上手いですね」

 

「そうね、まるでプロみたい」

 

「いや、それほどでもないよ」

 

 褒められた店長が照れくさそうに頭をかいた。謙遜してはいるが、店長の絵はとても魅力的で、俺達の描いた絵がもう見ていられなくなるような出来だった。

 

「……なんかもう、全部店長にやってもらったほうがいいような気が……」

 

「そんなことはないさ。こういうのは気持ちが大事なんだ」

 

「……そうよね、やっぱり大切なのは入ってもらおうっていう気持ちよね!」

 

「そうだよね、この熱い真理への情熱が伝わればそれでいいんだよね!」

 

 満足げにポスターを眺めながら先輩がポスターを鞄にしまう。とりあえずこれでポスターは完成だ。できるだけたくさんの人がこれを見て部に興味を持ってくれることを祈ろう。

 

「これでポスターはいいとして。明日からどうするんですか?」

 

 そう、問題はそこだ。流石にポスターだけで部員が集まるとは思えないし、今日のように皆がばらばらに宣伝しても効果が薄かったり逆効果だったり、いい結果を得ることは難しいだろう。何か決め手になるようなものが欲しいところだ。

 

「一番目立つのは舞台だけど、特に舞台でやるような事があるわけじゃないしね。人数も少ないし……」

 

 昨日の話し合いでも多少話題に上がったが、やはりたった四人ではできることも限られる。せいぜい雲雀がやっていたような演説くらいだろう。それでもこころや先輩が壇上に上がれば見た目につられた人は集まるだろうが(特に男子)、そんなもの集めたところでどうにもならない。

 

「いっそバンドでも組んじゃいましょうか!」

 

「バンドって、先輩楽器できるんですか?」

 

「ううん、全然!」

 

「いや、そんな胸張って言わないでくださいよ。そもそも部活動関係ないし」

 

「じゃあマジックショーをやるっていうのはどうかな?」

 

「雲雀はマジックができるんですか?」

 

「できるよ。せっかくだから、今ここで見せてあげよう」

 

 雲雀は手の甲をこちらに向けて親指に手を添える。

 

「これを……こう!」

 

 雲雀が手を動かすと、それに合わせてもう片方の手の親指が一緒に取れた。

 

「おお……」

 

 こころは素直に感心していた。確かにすごいけど、地味だ。

 

「すごいです、他にはどんなことができるんですか?」

 

「え?これだけだけど」

 

「それだけかよ!」

 

 そんなもの舞台に立ってやったところで『ふーん』くらいの反応しか返ってこない。まず後ろの方の人とか見えないだろ。

 

「やっぱり、地道に声をかけるくらいしかないか……」

 

「声をかけるにしても、一度に大勢の人に声をかけられればいいんだけどね……」

 

「一度に大勢に……放送は使えないのかい?」

 

「放送?……そう、その手があったわ!」

 

 店長の一言に先輩が勢いよく立ち上がった。

 

「使えるんですか?」

 

 なぜかは知らないが、この時期でも放送室は解放されていない。機材の扱い方とかが複雑で、放送部の人間がいないとまともに扱えないというのもあるのだろう。

 

「放送部に知り合いがいるの。頼めば使わせてもらえるかも!」

 

「じゃあ、交渉の方は先輩にお願いします」

 

「ええ、任せなさい!」

 

 今後の活動も一応決定し一息つく。明日は先輩の結果報告を待ち、放送が使えれば内容を考え、使えないならまた次の手を考えようということになった。それからしばらく久々に会った店長と他愛ない話をしていた。

 

「……おっと、もうこんな時間か」

 

 雲雀が時計を見て言う。時間は既に七時を回っている。そろそろ帰らないと夕食が遅くなってしまう。

 

「あらほんと、そろそろ帰らないと」

 

「うちは食事のメニューも豊富だよ?よかったら食べていかないかな?」

 

「いえ、遠慮しときます」

 

「そうか、ぜひ食べてもらいたかったんだが……今月は客が少なくてね……」

 

 後半は小さな声だったがしっかり聞こえた。切実すぎて笑えない。

 

「まあまあ、無事部員が集まったらここで歓迎会するから、食事はその時にね?」

 

「そうか、そうなるように祈っているよ」

 

「僕も頑張らないとね、バイト先が無くなったら困るし」

 

 皆で笑いあう。店長は目が笑ってなかった。本気で頑張らないといけない気になる。

 

「それじゃあ、ここで解散ってことで、また明日!」

 

 代金を払い店を出る。店からだとある程度帰り道も一緒だが、それもやがてばらばらになり、やがて俺とこころの二人だけになった。

 

「さてと、早く帰って飯の準備を……」

 

「ちょっと待ってください」

 

 後ろから手を掴んで引きとめられた。

 

「真人、高いチョコを買ってくれるって約束しましたよね?」

 

「あー……」

 

 すっかり忘れてた。だが今日はもう遅い。

 

「なあ、それ明日でも……」

 

「今日の帰りに買うって言いましたよね?」

 

 そういえば言ったねそんなこと。今からそんなものを買いに行く暇はない。かといって無視して帰れば夕食の準備などといっている場合ではないようなことになるのは想像に難くない。どうするべきか……

あれこれ考えながらポケットに手を入れると、指先に何か硬いものが当たるのを感じた。取り出してみると、それはさっき先輩からもらった飴玉だった。確か先輩は、これで災いを遠ざけられるとか言っていた。そして今、俺の身に災いが降りかかろうとしている。今これを使わないという選択があるだろうか、いやない。

 

「……すまん、やっぱりそれ明日にしてくれないか?」

 

「…………」

 

「もちろんただでとは言わない。代わりにこれをやろう」

 

 疑いの目を向けてくるこころの前に飴玉を差し出す。これで駄目ならもう占いなんて信じない。こころはそれをしばらく見つめ、そして、

 

「……しょうがないですね、今日のところはそれでいいです」

 

「よし、交渉成立だな」

 

 こころに飴玉を手渡すと、すぐに包みを外し口に含んだ。飴玉で頬を膨らませるこころを見て、とりあえず危機は去ったのだと実感する。恐るべし占い、恐るべし巫女さんパワー。明日は忘れないようにしないと。二回目ともなると誤魔化せないだろうし、何より約束を果たさないのはよくない。明日もやることは多そうだ。

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