私のココロの伝え方   作:真冬の三月ウサギ

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為せば成る、と信じる

放送室に行くと、既に先輩が準備万端といった様子で待っていた。放送まではまだ少し時間がある、これなら余裕を持って始められそうだ。

 

「来たわね。心の準備はオーケーかしら?」

 

「多分。先輩、台本をください。本番前に一度目を通しておきたいので」

 

本番中でも見れるが、あらかじめ見ているのとそうでないのではまた違ってくる。先輩は何も言わず手に持っている紙を差し出した。受け取り、内容を確認する。

 

『まず最初に簡単な自己紹介をする。その後、放送の目的を話す。

 

以下、流れで』

 

別に見ても見なくても変わらなかった。ただ危機感が増しただけだった。

 

「……先輩」

 

「………………てへっ」

 

「てへっ、じゃないですよ。どうするんですかこれ」

 

先輩の頬を引っ張りながら質問する。今からではどうやっても間に合わない。

 

「痛たたたたっ、暴力はんたーい!待って、これには理由があるのよーっ!」

 

「一応、聞きましょうか」

 

一旦先輩の頬から手を離し、先輩の弁解に耳を傾ける。それなりの理由があれば、減刑はしようと思う。

 

「昨日帰ってからちゃんと書こうとしたのよ」

 

「ほう」

 

「よし、書くぞーって思ってペンを持ったところまではよかったの。けど考えてるうちに眠くなってきて……」

 

「そのまま寝てしまったと」

 

「そうなの」

 

情状酌量の余地なし、有罪待ったなしである。頬を引っ張る用意をしながら最後に質問する。

 

「何か他に言い残すことは?」

 

「えっと……あ!眠くなったのはきっと妖怪のせいよ!だから許して……」

 

「だめです」

 

「うぎゃあああ!」

 

先輩の両頬を容赦無く引っ張る。柔らかい頬の感触を楽しみながら存分に引っ張りまわしたところで解放した。

 

「うう、真人君の鬼……」

 

両頬を赤くしながら涙目で睨みつけてくる先輩。

 

「任せろと言っておきながら準備してこなかった先輩が悪いんです。で、どうします?別の日に変えてもらいます?」

 

話す内容がまとまっていない以上、それ以外に方法は無い。しかし、先輩は首を横に振った。

 

「それは難しいと思う。今日だって無理言ってお願いしたのに、そこまで無茶は言えないわ」

 

となれば後は二択、放送を諦めるか、今からアドリブでどうにか乗り切るか。

 

「……しょうがない、やりましょう」

 

どんな結果になろうと、やらないよりはやった方がマシ……だと思う。やらない方がマシだったような物を見たことがあるから断言はできないけれど。それでも、滅多にないチャンスなのだ、利用しなければ損だろう。

 

「そうよ、せっかく私が頑張って頼んだんだから、やらなきゃ損よ!」

 

「そう思ってるなら、ちゃんと台本を作ってほしかったですね」

 

「それは言わないで!さ、行くわよ!」

 

覚悟を決めて放送室の扉を開く。中では放送部の部員であろう人が何かの作業をしていた。

 

「約束通り、使わせてもらうわよ」

 

「はいはい、分かってるよ」

 

先輩がその中の一人の男子生徒と話をする。あれが先輩の知り合いなのだろう。彼は先輩と話し終わるとよくわからない機材を操作し始めた。

 

「機械の操作はこっちでやっておくから、合図したらそこのマイクに向かって喋って。くれぐれも、おかしな事は言わないように」

 

「ええ、分かってるわ」

 

「よろしくお願いします」

 

男子生徒に一礼してマイクに向かう。分かっていたとはいえ、本番が近くなると緊張してしまう。しかも台本は無い。ちゃんと話せるだろうか?緊張のあまり、おかしな事を口走ってしまわないだろうか?

 

「真人君、あんまり緊張しないで。気楽に行きましょ、ね?」

 

緊張の原因のひとつを作った犯人が笑顔で言う。これが日向とかだったらきっと引っ叩いていただろう。

 

「とりあえず最初は私が話すから、真人君は何でもいいから話題を考えて?」

 

「分かりました」

 

ここまで来たらもうどうしようもない、なるようになれだ。

 

「放送始めるよ、3、2、1……始め!」

 

「はーい、お食事中、もしくはそれ以外の最中の方々、失礼しまーす!」

 

始まりの合図と同時に先輩が話し始めた。話している先輩はいつも通り、緊張している様子は全くない。

 

「えーっとまずは自己紹介から!私は三年二組の神代茉莉!そして!こっちが私の助手の……」

 

「誰が助手ですか。どうも、二年一組の桔梗坂真人です」

 

先輩の自己紹介に合わせて俺も名前を名乗る。先輩が普段通りの様子なら、こっちの緊張もそのうち和らぐだろう。

 

「さて、自己紹介も終わったところで、早速本題へ移りましょう!今日私達がこうして話すのは、私達の部活を紹介するためなのです!その名も、オールドカルチャー研究部!」

 

そこまで言ってこちらに目配せしてきた。恐らく、説明は任せた、という事だろう。部長である先輩の方が向いているような気もするが、『オールドカルチャー研究部』としての活動なら俺の方が適任だろう。先輩はどちらかと言えば『オカ研(オカルト研究部)』としての活動にかたよっている。そういう意味では、部員の中では俺が適任だろう。

 

「オールドカルチャー研究部の活動は、簡単に言うなら『失われつつある文化の保護、再興』です」

 

いつかこころに対して雲雀が言った言葉を引用させてもらった。だが、これだけでは足りない。もう少し説明が必要だ。

 

「と言っても、特に難しい事はしません。みんなで集まって、伝統的な行事をちゃんとした方法で楽しむのがメインです。例えば、七夕や元旦など、十五夜にも色々とやりますね」

 

『オールドカルチャー研究部』としての活動をひとつずつ挙げていく。『オカ研』の活動が混ざらないように慎重に。内部にいると、両者が混ざってしまってややこしい。

 

「ちゃんとした方法って言っても、そんなに厳しいルールがある訳じゃないから気軽に入っても問題ありませんよ!」

 

先輩もちゃんとフォローをしてくれる。安心して紹介ができそうだ。

 

「部員もちょっと個性的だけどいい人ばかりなので、仲良く活動できると思いますよ」

 

「友人関係についても、部員が少ない今ならすぐに馴染めるので、今すぐ入部した方がいいですよ!」

 

「今すぐ入部してもらえないと消えますからね、この部活」

 

「そうなのよね。だから皆さん入部してください!今すぐ!早く!さあ!」

 

「落ち着いてください先輩」

 

段々訴えが切実な感じになっていく先輩をなだめる。この部活が消えるのは嫌だし、そうなる気持ちも分かるんだけれども。

先輩も落ち着いて、その他細々とした説明や部活の日常風景を話したりしながら、特に大きな失敗も無く放送を終えることができた。

 

「今日はありがとうね」

 

「ありがとうございました」

 

放送部の部員達に最後にもう一度挨拶をして部屋を出た。

 

「あー疲れたー」

 

先輩が大きく伸びをする。俺も体の緊張がやっと解けた。

 

「けど、以外とどうにかなったわね」

 

「台本が無いって知った時はどうしようかと思いましたけどね」

 

「まあまあ、無事終わったんだから細かい事は忘れましょ?」

 

「細かくないですよ。今度からは気をつけてくださいよ?」

 

「はーい」

 

分かってなさそうな返事をする先輩。今度からこういうのは俺や他の人もやるようにしよう。

 

「……人、来ますかね?」

 

ふと、そんな事を呟く。オカ研のメンバーでできるアピールといったら恐らくこれで全てだろう。もしこれで誰も来なかったらもう打つ手は無い。そうなれば部活は……

 

「来るわよ」

 

先輩はそう断言した。絶対に来るなんて、確かな証拠も無いというのに、先輩の顔は確信していた。

 

「どうして断言できるんです?」

 

「うーん……勘、ってやつ?」

 

「勘って……」

 

「それにほら、ポスターでもさっきの放送でも、私達の楽しそうな雰囲気は伝わったんじゃない?」

 

「楽しそうな?」

 

「そう。真人君は楽しくなかった?」

 

「いや、そんな事は……」

 

実際、マイクに向かってした先輩との掛け合いは楽しかった。最初こそ緊張していたものの、話を続けていくうちに段々と緊張を感じなくなってきた。楽しくて緊張を忘れてしまったのかもしれない。

 

「楽しかったでしょ?だったら、聞いてた人にもそれは伝わってたと思うな?」

 

「そうですかね?」

 

「そうそう!だからもっと自信を持って、ね?」

 

「先輩……」

 

「あ、じゃあ私教室こっちだから。じゃあね、また後で!」

 

そう言って先輩は階段を上っていった。先輩が行った後で考える。楽しそうな雰囲気は伝わっただろうか?確認はできないし、確信は持てないけど、先輩はあんなに楽しんでいたみたいだし、きっとその分は伝わっていたと思う。俺の分は知らないけど。

 

「お、真人じゃん」

 

声がした方を振り向くと日向がいた。急いでいたのか、少し息が乱れている。

 

「よう。どうしたんだこんなところで」

 

「あ、いや、まあちょっとな」

 

返事は曖昧で、視線もこっちを向いていない。事情は知らないが、詮索はよそう。

 

「そっちは放送の帰りか?」

 

「そうだ……それに関してひとつ聞きたいんだが」

 

せっかくだから、楽しいのが伝わったかどうか聞いてみよう。実際に感想を聞けば、もっと自信がもてるだろう。

 

「俺たちの放送、どんな感じだった?」

 

「え⁉︎あー……すまん、聞いてなかった」

 

「そうか……」

 

「悪いな。大変だったんだよ、それどころじゃなかったっていうか……」

 

「いや、いいよ」

 

結局感想は聞けなかったけど、きっと伝わっていただろう。今更どうしても変わらないのだから、いい方に考えていた方が精神衛生上よろしいだろう。

とにかく、俺たちにできる事は全てやった。

後は細かい勧誘を続けながら、誰かが来るのを待っていよう。

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