私のココロの伝え方   作:真冬の三月ウサギ

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二人の新入部員

そして放課後。

 俺たちは部室に集まり、世間話をしながら時間を過ごしていた。

 

「あの、勧誘とかには行かないんですか?」

 

 こころの質問に他の三人が顔を見合わせる。

 

「そんなこと言われても、流石に何回も演説はできないよ。真人君は?」

 

「俺にできることが見つからない。先輩は?」

 

「何言ってるの。オカ研の長たる私がいなくなったら誰が入部しに来た人の相手をするのよ?」

 

「雲雀が適当にやってくれるんじゃないですかね?」

 

「自分がやるとは言わないんだね……」

 

 そんなこんなで、誰も動かない。誰かが来るのを待っている以上、部室から離れられないのも仕方ないのかもしれない。

 

「まあほら、果報は寝て待てって言うし、ゆっくりしながら待ってればいつか来るんじゃないかな?」

 

「だといいんですけど……」

 

 何もできずただ待っているだけというのは辛いものがある。俺もさっきから誰かがドアをノックしてくれるのかが気になって仕方がない。早く来てくれないと心配でどうにかなってしまいそうだ。

 

「じゃあ、待ってる間暇だし、しりとりでもしましょうか」

 

「いいですね」

 

何でしりとりなのかは知らないが、暇つぶしにはもってこいだ。というか、暇つぶしになるなら何でもよかった。

 

「よし、じゃあ私、真人君、雲雀君、こころちゃんの順番でいくわよ。じゃあまずは『りんご』!」

 

「ごまだれ」「錬金術」「津軽」「ルーレット」「とうもろこし」「森羅万象」「ウシガエル」「ルーツ」「ツバメ」「冥界」「芋づる」「留守」「すき焼き」「禁忌」「気軽」「る……ルビー」「微妙」「現世(うつしよ)」「夜」「ねえちょっと待って」

 

先輩がいきなり流れを止めた。何か問題でもあったのだろうか。

 

「どうしたんですか先輩」

 

「どうもこうも、さっきからこころちゃんが全力で私を潰しにかかってるんだけど」

 

「気のせいです」

 

「気のせいだって言ってますけど」

 

「嘘よ!だって私さっきから『る』しか回ってきてないわよ⁉︎」

 

「まあまあ、とりあえずもう一回やってみましょうよ」

 

抗議する先輩を落ち着かせてやり直す。先輩は大人しく従ってくれた。

 

「……むぅ、仕方ないわね。じゃあ……ルアー」

 

「仇」

 

「断罪」

 

「意地悪」

 

「ほらやっぱり!わざとやってるでしょ!」

 

 今度は机を叩いて立ち上がった。たかがしりとりでよくここまで熱くなれるものだ。

 

「勝つためには手段を選んではいけないのです」

 

 一体どこで学んだのか、こころがそんな事を言う。

 

「認めたわね!何よ、ちょっとくらい手加減してくれたっていいじゃない!」

 

「たとえ誰が相手で、どんな小さな勝負であったとしても、手を抜いてはいけない、と前に漫画で読んだことがあります」

 

手を抜かないことは大事だとは思うが、何もこんな時にまでそれを適用する必要は無いと思う。

 

「ぐっ……もういいわ、こうなったらふて寝してやるんだから!」

 

 そんな捨て台詞を残して先輩は机に突っ伏してしまった。さすがにやりすぎたかもしれない。

 

「私の勝ちですね」

 

「よかったな。けど、別に常に勝ちを狙う必要は無いと思うぞ?」

 

「そうなんですか?」

 

「そうそう、遊びの時くらいは手を抜いてもいいんじゃないか?」

 

 遊びの時にまで全力を出していたら疲れてしまうし、何より余計ないさかいを起こしてしまう可能性もある。何事にもある程度の適当さは必要だと思う。

 

「わかりました。今度からは少し考えてみます」

 

「おう、がんばれ」

 

「茉莉はどうしますか?寝ちゃいましたけど」

 

「放っておけばそのうち起きるんじゃないかな?」

 

「そうだな」

 

 寝ている先輩を放っておいて話を続ける。きっと寝たふりだろう。

 

「あ、そういえば放送聞いたよ。結構よかったと思うよ」

 

 雲雀が先ほどの放送について触れる。

 

「そうか。あれで人が集まると思うか?」

 

「どうだろう、何とも言えないかな。やっぱりそういうのは完全な第三者じゃないと分からないかな」

 

雲雀は首をすくめてみせた。話していなくても少しでも関係ある人と全く無い人では違うらしい。

 

「けど、聞いていて楽しそうな雰囲気は伝わったよ。いきなり入ろうとはしなくても、興味を持ってくれた人はいるんじゃないかな?」

 

「そう思いたいね」

 

ここで何を話したとしても、人が来なくては意味が無いのだ。やはり大人しく待つしかないだろう。

 

「けど、あの放送じゃ僕達の本質は伝わらないね。もっとこう、深い活動について話さないと」

 

「無茶言うな、オカルトっぽい事はそこまで話せないんだ」

 

俺達はあくまでオールドカルチャー研究部だ。あんまりオカルトを前面に押し出す訳にはいかないのだ。

 

「そんな事言って、オカルトに興味が無くて真面目に文化の探究をしようとする人が来たらどうするのさ?」

 

「まさか、そんな殊勝な学生が存在する訳ないだろ」

 

「さらっと僕達を全否定するような発言をしないでよ……」

 

「まあ、そんなのが来たら来たで何とかするさ。意外とそういうのに興味持ってくれるかもしれないし」

 

「だといいね……あれ?」

 

 雲雀が何かに気づいたのか、扉の方を見て声を上げた。

 

「どうした?」

 

「いや、今誰かがいたような……」

 

 俺も扉を見てみる。扉には布で覆われた窓があり、その隙間から少しだけ外の様子が見える。だが、そこに人影はなかった。

 

「誰も見えないぞ?」

 

「けど確かに誰かが覗いてたような気がしたんだよ」

 

「入部しに来た人じゃないですか?」

 

「そうかもな」

 

 だったらノックでもすればいいのに。ひょっとして緊張でもしているのだろうか?

 

「開いてますよー」

 

 念のため声をかけてみる。しかし反応は無い。やっぱり緊張しているのだろう。ここは逆にこっちから出てみることにしよう。そう思い扉に手をかけると、外から誰かが話す声が聞こえてきた。

 

「あれ、ここで何してるの?」

 

「ひゃあっ!?え、あの……」

 

 布の隙間から外を覗くと、そこでは日向が誰かと話しているのが見えた。ちょうどこちらから見えない位置にいるので相手は見えない。その相手を確認するため、俺は扉を開けた。

 日向と話していたのは、見知らぬ小柄な女子生徒だった。緊張のせいかおどおどとした様子でこちらを見ている。目までかかりそうなさらりとした長い黒髪。先輩の髪も黒いが、こちらは黒といってもより漆黒に近く、吸い込まれそうな、という言葉の似合う色であった。

 

「えっと、この子は?」

 

「なんかこの部屋の前で立ってたから話しかけた」

 

 別に知り合いとかそういうものではないらしい。とりあえず話を聞くために一度部屋に入る必要がある。

 

「とりあえず入ったら?」

 

「えっ、あ、はい、お邪魔します」

 

「おう、入らせてもらうぜ」

 

 なぜか日向まで入ってきた。もしかして、こいつも入部しに来たのだろうか。どういう心境の変化なのかは知らないが、部員が増えるのはいい事だ。

 

「ほら先輩、お客さんが来ましたよ、起きてください」

 

 二人分の椅子を出した後先輩を起こす。さすがに部長が寝っぱなしというのはよくない。

 

「嫌よ、私の心の傷はまだ癒えてないのよー」

 

「そんなもん唾でもつけとけば治りますよ。ほら、起きてください」

 

「うう、真人君の鬼ぃ……」

 

 なんだかんだ文句を言いながらもしっかりと起きてくれる先輩。こんなんでも一応部長としての資格はあるのだろう。先輩が起きた事を確認し自分の席に着く。女子生徒はきょろきょろと部室内を見回している。神棚だの棺桶だのがあるような部室が珍しいのだろう。

 

「何か飲み物はいるかな、すぐ用意するよ」

 

「あの、お構いなく……」

 

「お、じゃあ炭酸くれよ」

 

「炭酸水だね、わかったよ」

 

「いや確かに炭酸だけども!ってかあるのかよ!?」

 

「これでトマトジュースを割ると意外とおいしいんだよね」

 

 そんな他愛ない会話をしながら飲み物を用意する雲雀。よくよく考えてみると、特に運動もしない部室に冷蔵庫があるというのは変なのではないかと思う。

 

「というわけではい、トマトジュースの炭酸水割り。君も、とりあえずお茶をどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「お、おう……」

 

 飲み物を受け取る二人。日向は見るからに嫌そうな顔をしている。

 

「さて、改めて二人とも、ようこそ、我々の部室(サンクチュアリ)へ」

 

「さ、さんくちゅあり……?」

 

「あー、彼の言うことは気にしなくていいわ。二人とも、オールドカルチャー研究部への入部希望者ってことでいいかしら?」

 

 先輩の質問に二人がうなずく。

 

「そう。じゃあまずは名前を教えてもらえる?」

 

「うっす。夏野日向です」

 

「えっと、志倉 幽香(しくら かすか)、です……」

 

 志倉さんはうつむきながら答えた。垂れた髪が目を隠していた。内気な子なのかもしれない。

 

「そう、日向くんに幽香ちゃんね。私はオールドカルチャー研究部部長の神代茉莉。よろしくね」

 

 先輩に続いてほかの部員も自己紹介をする。日向にとっては先輩以外は全員知り合いなので、そこまで新鮮味はなかったかもしれない。

 

「……さてと。自己紹介も終わったことだし、うちの部について説明しないとね」

 

 全員の紹介が終わったところで先輩が部活の活動内容を話す。今回は放送とは違い、オカルト的な事に関してまでしっかりと話す。入部してもらう以上、いつまでも隠しているわけにはいかない。

 

「……とまあ、これがうちの活動内容なんだけど。大丈夫?イメージと違ったなんてことない?」

 

 確認の意味を込めて先輩が問う。これを説明してイメージと違っていたならば仕方がないので入部は諦めてもらうしかない。

 

「俺は大丈夫です。真人からいろいろ聞いてるんで」

 

「あの、私も、大丈夫、です……」

 

「そう、よかったわ。これで帰られたらどうしようかと思ったわ。じゃあ二人とも、最後に、二人の興味あるものを教えてくれるかしら?」

 

 これが一番大事だ。ここで活動していく以上、これは必要不可欠だ。

 

「俺は忍者ですかね。昔っから憧れてたんですよ」

 

 それは前にも聞いた。一時期は将来の夢が忍者だったとか。

 

「なるほど忍者か。同じ夜を歩む者同士、通じる所があるかもしれないね」

 

「いや、忍者と吸血鬼は違うんじゃないか?あと俺忍者じゃないし」

 

「そうなんだ……あと、吸血鬼(きゅうけつき)じゃなくて吸血鬼(ヴァンパイア)だから。そこを間違えないでほしいな」

 

「え、ああ、すまん。ちなみに吸血鬼(ドラキュラ)とか吸血鬼(ノスフェラトゥ)とかじゃダメか?」

 

「ああ、別に構わないよ」

 

 よく分からないが、ただ単に吸血鬼と呼ばれるのが嫌らしい。どうでもいいが、なぜ日向はそんな事を知っているのだろうか。

 

「そうだ、せっかくだからこの機会に日向君も忍者を目指したらどうだい?まずは簡単なところからでもいいから」

 

「やめろ、お前みたいなのが増えたら手に負えなくなる」

 

 吸血鬼と忍者が友達とかファンタジーじゃないんだから。こんなのを二人も相手にしたくない。それにただでさえ少ない友達がさらに少なくなってしまい、友達は部員だけとかになりかねない。

 

「そうでござるか?じゃあ手始めに部室の周りにまきびしを撒いてみるでござる」

 

「邪魔でしかないですね」

 

「本当にやってみろ、お前の口にまきびしを死ぬほど詰め込んでやる」

 

「ジョークでござるよ真人殿、目が怖いでござるよ……」

 

「当たり前だろ、大事な学園ライフがかかってるんだ。……あと、語尾にござるをつければいいってわけでもないだろ」

 

「そうですよ日向」

 

 ここでよせばいいのにこころが口をはさんできた。こいつに忍者の何が分かるというのか。

 

「忍者というものは語尾にござるをつければいいというものではないんだってばよ」

 

「おいやめろ!」

 

 それはごく一部、というか一人(時々増える)の忍者しか言わない。

 

「けど忍者なら……」

 

「はいはいこの話は終わり!」

 

 変な方向に話がそれない内に無理やり打ち切る。それにまだ志倉さんの方を聞いていない。

 

「じゃあ次、支倉さんは何に興味があるの?」

 

「えっと、私は、その、幽霊とか、怪談とか……」

 

「いいじゃない!夏とかにぴったり!」

 

「じゃあ、これで二人とも入部で決まりですね」

 

「そうね、後は入部届けに名前を書いてもらうだけね」

 

「あ、俺昼休みに先生に出しちゃいました」

 

「え、そうなの?」

 

 あの時すれ違ったのは入部届けを出しに行ったかららしい。

 

「まあ部則は公式なものじゃないし、出そうと思えばすぐに出せるしね……けど、どうしてそんなに急に?部を見てからでもよかったのに」

 

「ほら、思い立ったが吉日って言うだろ?だから早くしなくちゃってさ」

 

「ふーん。ちなみに、入部しようと思ったきっかけは?」

 

「え!?あー……まあいろいろあったんだよ!」

 

 慌てて誤魔化す日向。けどまあ、理由は何となく想像できる。決断したのはさっきの昼休み。その時に話していたであろう人を考えると……つまりはまあ、そういうことなんだろう。きっと原因であろう人をちらりと見る。

 

「真人、どうかしましたか?」

 

「いや、別に」

 

 出会ってからたったの数日、何がそこまで彼を引き付けたかは知らないが、今のところ俺から言えることは何も無い。こころの事情を考えれば何としてでも止めるべきなのだろうが、どうにも止める術は思いつかなかった。一目惚れのようだし、日向には悪いが、今のところは自然に諦めてもらうのを待つしかなさそうだ。

 

「とりあえず、これで廃部の心配は無くなったかな」

 

「そうだな」

 

 何はともあれ、廃部は免れた。これでいよいよ本格的な活動が始められる。今のところは、その事を喜ぼう。

 

「それじゃあ……おっと、大事なことを忘れてたわ。うちの部員はそれぞれの興味あるものに関するものを持ってきてもらうことになってるの」

 

「あ、じゃあなんか持ってきますよ」

 

「私も、がんばります……」

 

「うむ、よろしい。それじゃ、部員も無事集まった事だし、今年もオカ研、全力で頑張るわよ!、部員も無事集まった事だし、今年もオカ研、全力で頑張るわよ!」

 

「「「「おー!!」」」」

 

「お、おー……」

 

 こうして。

 オカ研の本格的な活動が、ついに始まるのであった。

 

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