私のココロの伝え方   作:真冬の三月ウサギ

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初練習の日

週明けの月曜日。新入部員達の歓迎会も済み、いよいよ本格的に活動を始める時が来た。

 放課後、全員が公園に集まる。この公園には誰でも自由に使える大きな運動場があり、おまけに更衣室と粗末なものだがシャワーまである。町内の有名なスポーツ選手もたまにここで練習しているらしい。オカ研部員はそこに体育着を着て集まっていた。ここだけ見るとまるで運動部のようだ。

 

「よし、ちゃんと揃ってるわね。じゃあ前に決めた通り二人組になって、各自で練習してね。あ、紐はこれを使って」

 

 先輩から足を結ぶための紐をもらいペアごとに別れて練習を始める。最初はどこも呼吸を合わせるところから始めているようだ。

 

「俺達もやるか」

 

 受け取った紐で俺の左足と雲雀の右足をしっかりとくっつける。引っ張って簡単には解けないことを確認して雲雀と肩を組んだ。

 

「どうする、最初はゆっくりにしておくか?」

 

「そうだね、あんまり急いで転んじゃうのも嫌だからね」

 

「ああ、じゃせーので歩くぞ。せーの……」

 

 合図と同時に縛った方の足を前に出す。多少ふらつきはしたものの、どうにか転ばずに初めの一歩を踏み出すことができた。

 

「やった!」

 

「油断するなよ」

 

 慎重に呼吸を合わせて進めていく。決して速くはないものの、初めてにしては上出来だろう。

 

「いち、に、いち、に……どうかな、結構いい感じじゃない?」

 

「だな」

 

 この調子で続けていれば思ったよりも早くまともに走れるようになりそうだ。希望を見出しながら他の人の練習をのぞいてみた。

 

「ふぎゃあ!」

 

 先輩とこころのペアに目を向けると、ちょうど二人がバランスを崩して地面に突っ込んでいるところだった。先輩が面白い声を出して倒れた。

 

「いたた……こころちゃん、大丈夫?」

 

「はい、問題ありません」

 

 地面に打ちつけた胸をさすりながら起き上がる先輩に対し、こころは顔面からぶつかったにも関わらず痛がるそぶりを見せずいつも通り表情一つ変えずに立ち上がる。痛みは感じると聞いていたのだが、痛覚を遮断できたりするのだろうか。

 

「本当に? 顔からいったみたいだったけど、鼻血とか出てない?」

 

「平気です、続けましょう」

 

 淡々と練習を再開するこころ。アンドロイドだから鼻血なんて出るはずもないのだが、そんな事情を知るはずもない先輩は心配そうにこころの顔やひざを見回すが、目立った怪我がないことを確認すると不安そうにしつつもまた練習を再開した。

 

「じゃあ、まずは一歩ずつ始めてみようか?」

 

「は、はい、お願いします……」

 

 次に志倉さんと日向のペアを見てみると、こちらも苦戦しているようだ。さっきの二人のように転びはしていないものの、その歩みはかなり遅い。一歩一歩を踏みしめて、確実に歩を進めている。身長差もあり、歩幅も違うせいかなかなか思うように歩けないようだ。

 

「どこも苦労してるみたいだな……」

 

「みたいだね」

 

 全然ダメ、とまではいかないものの、苦労はしているようだ。一方俺達はというと、速くはないけれども安定して歩けるまでになっていた。一度紐をほどいて近くのベンチに腰掛ける。

 

「俺達はまあ、それなりに歩けるようにはなってるな」

 

「そうだね。なんといっても付き合いの長さが違うからね」

 

「付き合い、か……」

 

 言われてみれば、他のペアはどちらも知り合ってからまだ一か月も経っていない。志倉さんと日向に至っては一週間以下だ。だが、俺と雲雀はすでに一年を同じ部で過ごしているので、完璧にではないがお互いの事をそれなりに知っている。他と比べて呼吸が合うのも当然だろう。

 

「ま、一年も付き合ってるから、息も合わせやすいんだろうな」

 

「これも僕達の魂が共鳴しているからこそ成せる業……!」

 

「あーはいはい、そうだねー」

 

 一年付き合っているからこそ、こんな発言も聞き流せるというものだ。話し始めた頃はよく発言の意図を聞いていたが、今では聞かなくてもなんとなく理解できるようになってしまった。喜ぶべきか悲しむべきか。

 

「……一年も付き合ってるんだから、真人君ももうちょっと僕に理解を示してくれてもいいんだよ?」

 

「示したくない」

 

「即答……まあいいけどさ。でも……」

 

「でも、何だ?」

 

「付き合いの長さで言ったら、僕よりこころ君の方が長いんじゃないのかい? 親戚みたいだし、お互い理解しやすいと思うけど」

 

「あー……」

 

「どうする?今からでもペア交換してもらう? 僕は先輩とも付き合いは長いし、あんまり苦労はしないと思うけど」

 

 確かに、同じ家に住む親戚ならば赤の他人よりもお互いを理解しやすいかもしれない。だが、実際はこころとは血なんてまったくつながっていない。一応一緒に暮らしてはいるものの、まだ理解しきれていない部分も多い。分かっている事と言えば相当な怠け者という事くらいか。理解の度合いで言えば雲雀の方が何倍も深い。

 

「いや、やめておこう」

 

「どうして? 僕なら平気だよ、先輩の事もよく知ってるし」

 

「違う、そうじゃない。確かにこころとは親戚だが、その、あんまり付き合いのない親戚でな。ほら、住んでた国も違うし」

 

「ああ、こころくんは海外にいたんだったね。じゃああんまり関わりもなかったか」

 

「まあな。悪い」

 

「いいよ。こっちこそいきなりごめんね……あ、一応言っておくけど、別に真人君と組みたくないわけじゃないからね」

 

「ああ分かってる、分かってるとも」

 

 とりあえずこの場は無事に誤魔化せたようだ。ほっと胸をなでおろす。

 

「そっか、あんまり付き合いがないんだ。結構似てると思うんだけどなー」

 

「似てるって、どの辺が?」

 

「表情が硬いところとか?」

 

「え、俺あそこまで無表情なのか?」

 

「会ったばかりの頃はあんな感じ……いや、もっとひどかったかも。身内のお葬式の時だってもっとマシな顔するってくらいに」

 

「マジか……」

 

 アンドロイド以下だった一年生の俺って一体。どんな悲壮感漂う表情をしていたのだろうか。今はもうちょっとまともになっていることを願おう。

 

「大丈夫、今はもっとマシだから。知り合いのお葬式くらいの顔にはなってると思うよ」

 

「お葬式レベルからは抜け出せてないのか……」

 

「だって、真人君が普通に笑ってるの見たことないし」

 

「そうだったか?」

 

「うん、笑っててもなんかぎこちないっていうか、作ったような笑い方だった」

 

 自分では自然に笑えているように思っていたが、周りから見ればバレバレだったようだ。固まった表情はそうそううまく動いてはくれないらしい。

 

「まあまあ、最初は作り笑いすらなかったんだから、その時と比べたらだいぶマシになったと思うよ?」

 

「そんな最悪の時期と比べられてもな……」

 

「どんなマイナスからだったとしても進歩は進歩だよ。続けていればいつかきっとプラスになる時が来るさ」

 

「先は長いな」

 

 雲雀がかもね、と笑う。俺もいつかこの雲雀みたいに自然に笑えるようになればいいのだが。

 

「逆に、お前は全然変わってないよな」

 

「え、僕?」

 

 こっちの話ばかりだったので今度は向こうの話を振ってみる。

 

「その格好も話し方も、全然変わってない」

 

 周りから何を言われても自分のあり方を変えないというのはある意味尊敬できる。だからと言って真似したいかどうかはまた別の話ではあるが。

 

「これか……ああ、そうだね」

 

 冗談のつもりで話したつもりだったが、雲雀の顔が曇った。何か気になる部分に触れてしまったのだろうか。

 

「雲雀……?」

 

「え? ……ああ、ごめん。考え事をね」

 

「考え事?」

 

「うん、ちょっと。最近、いろいろ思うところがあってね」

 

 そう言って雲雀はこちらを向いてさっきとは違う、そう、ちょうど俺がしていると言っていた作ったような笑いを浮かべた。何か言おうと思った時には雲雀は前を向き、何かを考えるように遠くを見つめていた。しばらく沈黙が続き、また雲雀が口を開いた。

 

「……ねえ」

 

「どうした?」

 

「……僕も、変わった方がいいのかな」

 

 それはおそらく、その格好の事を指しているのだろうと予想できた。変えた方がいいだろうとも思ったが、なんとなく、そう簡単にはいかないものなのだろうかという考えが浮かび、結局口には出せなかった。俺が答えに詰まっていると、雲雀はまた、今度はいつものように笑った。

 

「……おっと、ごめん。あんまり気にしてくれなくていいよ、ただなんとなく気になっただけだから。それよりほら、そろそろ練習を再開しないとみんなに怒られちゃうよ」

 

 雲雀に促され再び足を縛る。練習を再開した後も、しばらくは雲雀の問いと表情が頭に残っていた。あの質問には、どういう意図があったのだろうか。

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