「え、オカ研?」
パンにかじりつきながら日向が言った。
あれから一夜明けたが、いい案が見つからなかったため、とりあえず知り合いにだけでも声をかけておくことにした。そんなわけで昼休み、俺とこころと日向の三人で昼食ということになった。
「オカ研ねぇ……俺別にオカルトとか興味ないんだけど」
「いや、オカルト研究部じゃない、オールドカルチャー研究部だから。別にオカルトに限らず、古いものなら何でもいいんだ」
「うーん……」
「何か無いか?歴史とか、UMAとか……」
「うーん……あ、そう言えば!」
日向がぽんと手を叩く。何か思いついたらしい。
「俺昔、忍者にあこがれてたんだよなー」
「忍者?」
「そうそう。小学校の時とか、卒業アルバムの将来の夢に忍者って書いてたんだぜ?」
「そうだったのか、知らなかったよ」
古いものだし、それなりに調べることも多い。研究部としても十分だ。
「忍者ですか。私知ってますよ」
隣で黙々とクリームパンを食べていたこころがいきなり入ってきた。意外にも忍者を知っているらしい。
「え、そうなのか……ですか?」
ぎこちない調子で日向が返す。昨日よりはだいぶましだが、まだ普通に話すことはできないようだ。いったいこころの何が彼をそうさせるのか。
「ええ、知ってますよ。前にネットで見たことがあります」
口の周りについたクリームを舐め取り、こころは自分の知っている忍者について語り始めた。
「忍者というのは、古代日本に伝わる暗殺集団の事です」
まず前提条件がおかしかった。確かに忍者は暗殺もしただろうが、別に暗殺集団だったなどということはない。
「彼らは闇に紛れ、身体中に隠し持ったクナイ、シュリケン等の武器で標的を抹殺するんだそうです。また、超人的な身体能力を備え、さらには姿を消す、空を飛ぶといった特殊能力を持つ恐るべき集団……で合ってますよね?」
合っててたまるか。一緒に聞いていた日向の顔を見ると、頭に大量の疑問符を浮かべているような顔をしていた。ここまで聞いていて分かったことは一つ。こころが今話しているものは忍者ではない、NINJAだ。忍者に対する憧れとか恐れとかその他諸々を混ぜたりして生まれたクリーチャーだ。
「……え?忍者?忍者って……あれ?それが本物の忍者なのか?じゃあ今まで信じてた忍者は……あれ?真人、忍者は空を飛ぶのか?」
「飛ばないぞ、気を確かに持て!」
日向がNINJAに侵食されかけていた。伝説を聞いただけでこうなるとは、恐るべし、NINJA。
「……ハッ!?悪い、今おかしなイメージが頭の中に……」
「それはいい、忘れろ。とにかく、忍者に興味があるなら、オカ研もいいと思うんだが」
話を強引に戻す。これ以上話を続けたら日向がNINJAにのっとられてしまう。
「オカ研か……悪い、ちょっと考えさせてくれ、ごめんな」
「いや、気にするな。やっぱりいきなりだもんな」
さすがに一発で完了、というわけにはいかないようだ。仕方ない、これも想定内だ。
「しっかし大変だよな、あと一人いないと廃部だなんて」
「大変だと思うんなら、ぜひ入部してもらいたいんだがな」
「考えとくって……で、他に誰か声かけたのか?」
「いや、お前が最初だ」
このクラスに個人的に勧誘できる人は日向しかいないし、もう一人いる友人は雲雀と同じクラスだった。雲雀もそいつを知っているので、そっちはそっちでやってくれているだろう。
「へぇ。他に声かける予定の奴は?」
「……いない」
「だろうな……しょうがない、俺も知り合いに聞いといてやるよ」
「本当か!?」
この提案は非常に嬉しい。日向はかなり顔が広い。多くの人に伝われば、それだけ興味を持ってくれる人が見つかる可能性も上がる。日向はにっと笑って親指を立てて見せた。
「あったりまえだろ、友達は助け合うもんだからな!」
友情とはなんて素晴らしいんだ、と思ったが、さっきから日向の視線がちらちらとこころの方を見ているのに気づいた。多分ここで友達想いで優しいところを見せてアピールしようって魂胆だったのだろうが、当の本人はクリームパンを食べることに必死で日向の話など聞いてはいなかった。
「……あー、まあ、なんだ、悪いな。マイペースなやつなんだ」
「え!?べ、別にぃ!?何にも期待してなんかないしぃ!?」
必死で取り繕う日向。だが、慌てすぎてバレバレだった。
「分かった分かった。ま、よろしくな」
「お、おう、任せとけ!」
どんと胸を叩いて見せた。見ていて本当に面白い。部活も一緒にやりたかったのだが、無理に誘うわけにもいかないのでしょうがない。まあ考えておくと言っていたから、期待して待っておこう。
となると、次の問題は放課後の勧誘活動をどうするかだ。他の二人は放課後に活動するらしいし、俺も何かしらやっておかないと文句を言われるだろう。
「なあ、こころは放課後どうするか決まったのか?」
ちょうどパンを食べ終わったこころに聞いてみる。だが、いい返事は返ってこなかった。
「いいえ。残念ながら、何も思いつきませんでした」
これは仕方ないだろう。知り合いも少ないし、何より対人経験がほとんど無いこころには、いかに人の興味を惹きつけるか、というのは難しい問題なのだろう。そう思っていると、急にこころが立ち上がった。
「どうかしたのか?」
「ちょっとその辺を歩いてきます。校舎がどうなっているのか把握しておきたいので」
そう言って教室から出て行ってしまった。少し心配ではあるが、校舎も特に複雑という事もないし、よほどの事がない限り正体がばれることもないと思うので放っておくことにする。何より食後すぐには動きたくない。
「……はあ、それにしても、真人はいいよなあ」
こころがいなくなったあと、日向がため息混じりにそう言った。
「何がだよ?」
「だってあんな可愛い女の子と一つ屋根の下で暮らしてんだろ?すっげえうらやましいわ」
「いや、別にうらやましがられる事なんて何も無いぞ?」
「そうなのか?」
「ああ。それに、一緒って言ってもまだ一晩だけだ。まだお互いなんにも知らない」
「そうか……ちなみに、家ではどんな感じなの?」
「うーん……刺激的な?」
二重の意味で。あの日見た下着姿と電撃の刺激は多分一生忘れない。
「刺激的って……え、何?一晩でもうそんな関係まで行っちゃったの?」
俺の言葉を随分と間違った方向へ解釈したらしい日向。まあ、わざとそうなるように言ったんだけれども。
「いやあ、本当激しかったな、一瞬意識が飛びかけるくらいだったよ」
電撃が。それはもう容赦がない攻撃だった。
「そんなに!?あんな大人しそうなのに……」
「ああ、もうやめてくれって言っても止めなかった」
土下座しても許してもらえなかった。腕を押さえてみたが、そこからも電撃を出せた。全身帯電可能というのはさすがに反則だと思う。
「そうか……そうか……」
何故か顔を真っ赤にしてそっぽを向く。それは恐ろしい電撃の話をしていただけなのに、どうしてそこまで顔を赤くしているのか、まったく理解に苦しむ。
……と、そろそろ飽きたし、後に問題を残しては困るので誤解を解いておかなければ。
「ああ、本当に恐ろしかったぜ、あの攻撃は」
「え、攻撃?」
「ああ、それはもうひどい目に遭った、ひっぱたかれたりとかしたし。大人しそうに見えて、怒ると怖いんだ」
「あー、そう、なんだ」
一度顔色が元に戻って、それからまた赤くなる。実に分かりやすい人間だ。
「……お前、もしかしてわざとやってた?」
「何をだ?」
「わざと誤解するように言ってただろ?」
「いや別に、ありのままを言っただけだ。それで、お前は一体何を想像してたんだ?」
「お前……」
「まあ冗談だよ、そう怒るなって。あとでジュース奢ってやるからさ」
あんまりやり過ぎると協力してもらえなくなったり友情にヒビが入るかもしれない。友達は大事にしないとね。
「……はぁ、まあいいや。後で絶対奢れよ」
何とか許してもらえた。友情崩壊の危機は無事去ったらしい、よかったよかった。
「ったく、お前の冗談はたちが悪いんだよ、普通の顔で話す分特に」
「はは、悪い悪い」
残念ながら、そんな感情豊かな顔はできないんでね。
その後もなんだかんだくだらない会話をしながら昼休みを過ごした。放課後の活動についてのいい案は、結局思いつかなかった。