私のココロの伝え方   作:真冬の三月ウサギ

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勧誘活動 吸血鬼の場合

午後の授業も終わり、放課後。

 勧誘のやり方を一つも思いつけなかった俺とこころは、校内を歩き回っていた。後で校門前に集合する約束なので帰る事もできない。

 中庭に出て空を見上げる。春らしく暖かくていい天気だった。それほど時間が経っていないからか、何人かの生徒がベンチに座ったりして無駄話に花を咲かせていた。他を見ると、どこぞの部活の部員がチラシ配りに精を出していた。その生徒は俺達に気がつくとわざわざ近づいてきてチラシを渡してきた。彼女は美術部の部員だったらしく、チラシには『私たちと真の美を追求しましょう!』という宣伝文句と共になにやら奇抜な、よく言えば前衛的な絵らしきものが描かれていた。美術部の部長を描いたらしいが、顔が緑色だったりして人間には見えない。美術部の部長は植物か何かなのだろうか。

 

「ちょっと、そこのキミ?」

 

 今度は後ろから声をかけられた。振り返ると、ショートの黒髪のボーイッシュな女子生徒が立っていた。制服のスカートを穿いていなかったら、完全に女子だと判別するのは難しいだろう。

 

「私ですか?」

 

 こころが訊ねると、その女子生徒は「そうだ」と頷いた。

 

「キミ、演劇に興味はあるかい?」

 

「演劇……ですか?」

 

 どうやらこころを勧誘しに来たらしい。懐かしい、俺も一年前はこうして勧誘されていたものだ。

 

「そう、舞台に上がり、自分ではない誰かを演じるのさ。とても楽しいよ?」

 

 こころが舞台上で演技している様子を思い浮かべる。が、ただ台本に書いてある台詞を読んでいるだけの姿しか思い浮かばない。

 

「どうかな、まずは体験入部でも……」

 

 どうにか入部してもらおうと頑張っている。だが、こころは既にオカ研に入部してしまっている。心変わりされては困るので早々に止めさせなければ。

 

「あの悪いんですけど、彼女はもうウチに入部してるんで」

 

 横から声をかけると、女子生徒はこころに確認した。

 

「それは本当かい?」

 

「ええ、本当です」

 

 こころが答えると、彼女は驚いたと言うように息を吐き、それから軽く溜息を吐いた。

 

「そう……か。じゃあ、諦めるしかないね。すまない、余計な時間を取らせてしまったね」

 

「潔いですね」

 

 案外あっさりと引き下がってくれた。もっと粘ると思っていたのだが。

 

「あんまりしつこいとかえって避けられてしまうからね……残念だな、美少女転入生って言うから急いで来たのに、まさか先を越されるなんて」

 

「どうしてそれを?」

 

「校内新聞に書いてあったのさ、『謎の美少女転入生現る』ってね……ほら」

 

差し出された新聞を見ると、そこには大きな見出しと共に、いつ撮ったのかこころの姿が写っていた。

 

「プライバシーの侵害にも程がある………ってか、仕事速すぎでしょこれ」

 

「新しい情報をいち早く、っていうのが新聞部のモットーらしいからね。既に入部済みっていうのはまだ知らないみたいだけど。プライバシーについては……ある程度は諦めてもらうしか」

 

そう言って女子生徒は苦笑した。彼女も似たような目に遭った事があるのだろうか。

 

「とにかく、そんな訳で今のキミには多くの生徒が注目してる。色々声がかかるかもしれないけど、まあ、頑張ってね」

 

と言って去っていくと思ったら、一度振り返って、

 

「それと、演劇に興味が出たらいつでもどうぞ。演劇部は兼部も大歓迎だよ?」

 

そう言って今度こそ歩いて行った。無理に連れて行かない分まだ良心的である。しかし言われてみると、さっきからすれ違う人々がこちらを見ていたような気もする。現に今も、座っている生徒がこちらを見て何やら話をしている。注目されているというのは嘘ではないようだ。できればあまり目立たないようにしていたかったのだが、こうなってはもうどうしようもない。正体がばれないように注意しよう。

 

「……あの、真人」

 

「どうした?」

 

 振り向くと、こころが横の方を指差していた。その方向を見ると、よく知る人物が歩いていくのが見えた。

 

「あれは……雲雀か?」

 

「そうみたいですね。ちょっと追いかけてみましょう」

 

 雲雀が何をしているかも気になるし、あまり一箇所に留まりすぎてまた声をかけられても面倒なので追ってみることにした。

 少し距離があったからか、追いかけるのは苦労した。時々見失いつつもついていくと、広場にあるステージに立っている姿が見えた。あのステージは特別な時期にのみ設置されるもので、この時期意外にも生徒会の選挙や文化祭の時期にも設置されるものだ。どうやら雲雀はあそこでオカ研の宣伝をするつもりらしい。広場にはまだ部活に入っていない新入生や興味本位の学生達が多く集まっているので、効果も十分あるだろう。雲雀が備え付けのマイクを手に取り軽く咳払いをする。

 

「あー、早速だが諸君、諸君らの中に、世界の真理を追究しようとする人はいるか?」

 

 いきなり意味の分からない事を言い出した。集まっていた人も顔を見合わせている。

 

「この世界には、未だ解明されていない奇妙奇天烈な事柄が数多く存在する。我々は、それらの正体を明らかにするため日々研究を重ねているのだ!」

 

 してません。大体毎日皆で集まって話したり遊んだりしているだけです。というか、この説明ではオールドカルチャー研究部というよりオカルト研究部のように聞こえてしまう。その辺は理解しているのだろうか?

 

「もしこの中に我々と共に探究したいと考える者がいるならば、ぜひオカ……オールドカルチャー研究部に入部していただきたい。我々はこの世界の真理を解明せんとする同胞を決して拒んだりはしない。さあ、共に真理の扉を開こうではないか!」

 

 オカルト言いかけたぞあいつ。もう集まった人々は呆然としている。無理もない、長い付き合いの俺でさえ意味が分からないのだから。雲雀は本当に部員を集める気があるのだろうか。呆然としている聴衆をよそに雲雀は続ける。

 

「……さて、僕の説明だけでは十分に理解できない方もいるだろう」

 

 多分誰一人理解できていないと思う。そもそも説明が間違っている。不適に笑い雲雀が続ける。

 

「しかし、実に運がいい……いや、これも必然か。ちょうどこの場に我が同胞が来ているようだ。彼にも説明してもらおう」

 

 雲雀と目が合った。

 

「紹介しよう。彼こそ我が同胞、桔梗坂真人君だ!」

 

 雲雀が俺を指差し、聴衆の視線が一気にこっちに集中する。その瞬間、こころの手を掴んで駆け出していた。

 

「ちょっ、真人君!?」

 

 困惑した雲雀の声が聞こえたが無視する。あの状況で雲雀の知り合いとして話をしたら、ただでさえ灰色な俺の学園青春ライフが完全に崩壊する。

 

「ちょっと待ってよ、どうして逃げるのさ!?」

 

 あそこで話していればいいのにわざわざ追いかけてきた。どうしても俺にステージで話をしてほしいようだ。

 

「追ってくるな!そんなに俺の青春学園ライフをぶち壊したいのか!」

 

「意味が分からないよ、ちょっと話をするだけじゃないか!」

 

「そのちょっとが致命的なんだよ!」

 

 言い争いながら全力で逃げる。雲雀も諦めずにしつこく追いかけてくる。とんでもない執念である。

 

「ああもう……こころ君、ちょっと真人君を押さえて!」

 

「了解しました」

 

 こころが腕にしがみついてくる。手をつないでいるだけならまだ走れたが、さすがにしがみつかれてしまうとそう速くは走れない。振りほどこうとするが、こころも負けじと腕を強く掴んでくる。

 

「離せ、お前はどっちの味方なんだ!?」

 

「少なくとも、他人を騙すような人の味方ではありませんね」

 

 まだ昨日の事を根に持っているらしい。しつこい奴だ。

 

「離してくれ、後でチョコあげるから、な?」

 

「昨日もそうやって騙しましたよね、もうその手には引っかかりませんよ」

 

 よほど信用されてないらしく、まったく手を緩めてくれない。

 

「くっ……仕方ない、分かった。今日の帰り、高いチョコを買ってやる。だから、頼む」

 

 高いチョコ、と聞いてこころが反応する。腕にくっついたまま、上目遣いで顔をしばらく見た後、

 

「……本当ですね?」

 

「ああ、本当だ」

 

 予想外の出費だが仕方ない。それで俺の学園生活が守られるなら安いものだ。

 

「……分かりました、約束ですからね?」

 

 こころが手を緩める。手を一気に引き抜き脱兎の如く駆け出した。

 

「あと、ついでに雲雀を引き止めておいてくれ!」

 

 こころは今度は雲雀にしがみついて動きを止めていた。

 

「うわっ、何をするんだ!」

 

「仕方ないんです、高いチョコのためなんです」

 

こころの扱いに困っている雲雀を確認して、俺は必死で逃げた。こうして、俺の学園生活は一応守られたのだった。

 後で思ったのだが、俺ではなくこころに話してもらえばよかったのではないだろうか。

 

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