愛し方を知らない孤独な銀狼   作:鎌鼬

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第10話

 

 

「…………誰?」

『ここです、バイクに引っ掛かってる物です』

 

 

何も出来ない自分に歯軋りをしているとボーカロイドのような無機質な女性の声が聞こえてきた。言われた通りにバイクを探してみるとそこには妄想を爆発させたようなデザインのアクセサリーが引っ掛かっていた。

 

 

『はじめまして、私は貴方が轢き殺した者のデバイスだった物です』

「轢き殺した…………?あぁ、あの魔法使いの杖みたいなの持った奴?で、デバイスってなに?」

『転生者であるのにご存じ無いのですか?』

「生憎、神様とやらには出会った記憶は無いもんでね」

『そういうことでしたか…………デバイスというのは、魔導師という魔法使いが魔法の発動を円滑にするための武器だとお思いください』

「まんま魔法使いの杖だと思っても?」

『認識としてはそれで間違いありません』

「ふーん…………そのデバイスが何の用?御主人様殺した僕を罵倒するつもりなの?」

『いいえ、あの主には見限りを着けておりましたので、寧ろ殺してくれて万々歳でございます』

 

 

デバイスと名乗ったそのアクセサリーは元の御主人様についての罵倒を始めた。やれ偽善だとか、やれ自分に酔っているだとか。

 

 

「…………愚痴が言いたいならそのまま喋ってれば?」

『すいません、無駄話が過ぎました…………貴方がよろしければですが、私の新しい主になっていただけないでしょうか?』

「…………は?」

 

 

間抜けな声を出してしまったが仕方がない。今さっき御主人様を殺されたデバイスが、御主人様を殺した相手に仕えたいと言ってきているのだ。何か裏があるのではないかと警戒しない方がおかしい。

 

 

「御主人様殺した僕に主になれ?冗談きついよ。主殺した相手に仕える従者がどこにいる?」

『ここにいます。正直に言えばあんな偽善ぶった奴よりも貴方のような可愛らしい方に使われたかったです』

「うっわ…………欲望全開…………ってちょっと待って」

『放置プレイですか?いくらでも待ちますとも』

「うん、黙れ」

 

 

ネジが十本ぐらい外れたような言葉の前に…………僕のことを可愛いと言った?気持ち悪いではなく?

 

 

「ねぇ…………僕を見てどう思う?」

『人形の様に可愛らしい御方だと思いますよ。デバイスではなく肉体が持てるのならペロペロしてしまいたいぐらいです』

「…………気持ち悪いとか、思わないの?」

『貴方のような可愛らしい御方をどうして気持ち悪いと思えますでしょうか。寧ろ前の主の方が私にとって生理的に合いません』

 

 

あの日の夜に出会った奴が話し掛けていた物…………あれがデバイスだとするのなら、デバイスも僕のことを気持ち悪いと口にしていた。それなのにこのデバイスは気持ち悪いと思っていない…………僕を嫌わないでくれる。

 

 

「…………君の主になれば、戦う力を得られるの?」

『その質問には肯定で答えさせていただきます。貴方が私の新しい主になると言うのなら、私は貴方の力となることを誓います』

「なら、主になる。だから僕に力をくれ」

『yes、my master』

 

 

デバイスを手に取る。アクセサリーの中心にあった宝石が光り、足下に魔法陣が浮かび上がる。

 

 

『記憶、人格プログラムを除いたすべてのプログラムを削除。貴方の名前を教えてください』

「如月神楽」

『マスターネーム如月神楽…………登録完了。新たな私の形と、バリアジャケットの登録をお願いします。思い描いてください、貴方が思う強いものを』

 

 

デバイスにそう言われて思い付いたのはーーーーーーーーーーこのバイクに跨がり、黄金の爪牙となって阻むものを轢殺する、白い彼の姿だった。

 

 

バイクで轍に変え、二丁の銃を握り、黒い軍服に身を包んだ僕に似た彼の姿を出来る限り鮮明に思い出す。

 

 

『…………思考の読み取り完了、反映します』

 

 

魔法陣の光が強くなり、思わず目を閉じる。そして光が収まって目を開いた時…………僕の姿は彼と瓜二つになっていた。

 

 

黒い軍服に身を包み、両手には大きめの銃が握られている。

 

 

『ふぅ…………良い仕事をしました。ショタが軍服コスとか私得です』

「お願いだから日本語で話してくれないかな?僕、君の言ってることの半分も理解できて無いんだけど」

『良いのですか?ショタ×軍服についての萌を私に語らせれば世界が回帰を要するほどの時間を必要としますが?』

「なら良いや」

 

 

とにかく、これで力は手に入れられた。腰に付けられていたホルダーに銃を差し込み、バイクに跨がってエンジンを噴かす。

 

 

『そう言えば、あと一つ必要なことを思い出しました』

「まだ何かあるの?」

『名前を、私に新しい名前をください。よろしければ愛称と共に』

 

 

名前ね…………確かに名前が無いのは辛いだろう。デバイスというのはこれの総称であって正式な名前ではないのだから。

 

 

僕は彼を見たとき、狼のようだと思った。

 

殺意を撒き散らしながら、白髪を振り乱し、

 

黄金の爪牙たらんとした彼の姿。

 

 

だったら、つける名前はこれが良いだろう。

 

 

「ヴァイス・ヴォルフ。愛称はヴィーヴィー」

白い狼(ヴァイス・ヴォルフ)、そしてその頭文字からヴィーヴィー(W・W)…………登録しました』

 

 

ヴィーヴィーの声と共に銃が鈍く光り、銃身にW・Wと狼の刻印が刻まれた。

 

 

「ふぅ…………」

 

 

僕は彼と似ている、しかし同じではない。

 

彼のように人を楽しみながら殺すことは出来ない。

 

だけど、そんな僕だけど、

 

どうか、貴方の様に振る舞うことを許してほしい。

 

初めて出来た友達のために、貴方の名前を汚すことを許してほしい。

 

僕らに悪意をもって触れようと言うのなら、

 

僕はその悪意を殺意をもって対峙しよう。

 

今宵この一時、僕は彼のように最速の殺意となろう。

 

 

「ーーーーーーーーーー天にまします我らの父よ」

 

 

感覚が切り替わる。今までがまるで寝起きで鈍っていたよう。五感すべてが鋭敏になり、研ぎ澄まされた感覚が敵の接近を教えてくれる。

 

 

「願わくは、御名の尊まれんことをーーーーーーーーーー」

 

 

そして僕はバイクのアクセルを回した。

 

 

敵を轍に変え、友達を救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーー何のつもりだ?快楽主義者、お前があれを逃がすために殿を勤めるなんて。ついに頭がイカれたか?」

 

 

逃げたかと思えば戻ってきた綾木信を前にして、左腕に赤い籠手を着けた少年が見下すように言った。その少年の左右には三本の刀を構えた少年と手から炎を出した少年が控えている。

 

 

数だけで見れば一対三の状況の中で、信は余裕を見せつけるかのように黒い銃にゆっくりと弾を籠めていた。

 

 

「快楽主義者ねぇ、まぁそう呼ばれるのは仕方がないか。お前らとは違って俺は望まずしてこの二度目を与えられたんだ。何もかもが二度目のつまらない人生…………だったら楽しみを求めて何が悪い?どこかの誰かも言ってただろ?『退屈は魔女をも殺す毒だ』ってな」

 

 

弾籠めを終えて、信は銃身を元に戻した。

 

 

信は他の転生者たちとは違い、転生を拒もうとした。一度しか与えられないものだから楽しめるというのに二度目など与えられても楽しめない。一度クリアしたゲームで二週目を始めた時にどうしても作業的になってしまうような感覚を、信は二度目の生を与えられた時から感じていた。

 

 

「それなのによ…………俺、あいつと遊んでる時楽しかったんだわ。与えられて、デジャヴを感じる二度目の人生の中で、あいつと遊んでる時は初めて遊んでる時のように楽しかったんだよ…………だったら、それを守ろうとして何が悪い?この下らねぇ二度目の人生の中で、初めて出来たダチを助けようとして何が悪い?」

 

 

そう言って信は赤い籠手を着けた少年に向かって銃口を向ける。神楽が信のことを友達だと思っていたように、信もまた神楽のことを友人だと思っていたのだ。

 

 

『マスター、通信が来ています』

「凶獣を追わせた別動隊からか…………冥土の土産に聞かせてやろうか?」

「おう、聞かせてくれや。どうせ逃げられましたっていう報告だろうけどな」

「減らず口を…………ディバイン」

『yes』

 

 

赤い籠手を着けた少年のデバイスが、その場にいる全員に聞こえるようにスピーカー機能をオンにして通信を繋いだ。赤い籠手を着けた少年は神楽を捕らえたという報告を期待して、信は神楽に逃げられたという報告を期待して。

 

 

しかし…………繋がれた通信は、どちらの期待も裏切るものだった。

 

 

『こ、こちらスタンド部隊!!どう言うことだ!?話が違うぞ!?』

「な!?ど、どうした!?」

『あいつの能力は高速移動だけじゃないのか!?クソッ!!クソッ!!クソッ!!』

「落ち着け!!何があった!?」

 

 

慌てて自分の言いたいことだけを伝えてくる相手をどうにかして落ち着かせようと赤い籠手を着けた少年が話しかけるが相手の興奮は治まるどころかさらに高まる。

 

 

『全滅だ!!スタンド使いと!!魔法使いたちが!!俺だけを残して全部!!あいつに殺された!!』

「なっ!?」

「へぇ」

「馬鹿野郎!!冗談はよせ!!」

『冗談なものか!!全員!!あいつに!!殺された!!バイクに轢かれたり銃で撃たれたり…………!!どう言うこt』

 

 

通信相手の言葉はそこで途絶えた。しかしまだ通信は繋がっており…………そこから聞こえてくるのは銃声とエンジン音、そして通信相手の物と思わしき絶叫。

 

 

肉を潰し、骨を砕く生々しい音を聞かせられ、通信は途絶えた。

 

 

「なんで…………!!あいつの能力はただの高速移動だけじゃ…………!!」

「ハッ!!流石は俺のダチだ!!やってくれるじゃねぇか!!」

 

 

予想外の出来事に焦りを隠せない赤い籠手を着けた少年に対して、信は楽しくて仕方がない様子で笑っていた。

 

 

そして…………遠くから低く唸る獣のような音が聞こえた。

 

 

「この音は…………!!」

 

 

炎を出した少年がその音を聞いて狼狽える。徐々に近づいてくるその音…………そこで彼らはこの音がエンジンの音だと気がついた。

 

 

「イィィィィィヤッフォォォォォォォォォォイィィィ!!!!!!!」

 

 

民家の屋根を道にして、軍事用のバイクがこの場に乱入した。バイクに乗るのは黒い軍服に身を包み、医療用の眼帯を着けて銀に近い白髪を振り乱した神楽だった。

 

 

「よぉ神楽、俺逃げろって言ったよな?なんでここに来てる?」

「…………友達見捨てて逃げられるほど僕は薄情じゃないからね。安心して、デバイスっての拾ったから」

『はじめまして、神楽様の御友人ですね。私は神楽様のペットのヴァイス・ヴォルフともうします。気軽にヴィーヴィーと御呼びください』

「ねぇ信、僕ヴィーヴィーの言ってること半分も理解できて無いんだ。だから後で教えてくれない?」

「神楽…………世の中には知らない方が良いことがあるんだ。そして…………やっぱ持つべきはダチだよな!!」

 

 

自分の近くにバイクを止めた神楽に、信は嬉しそうな笑みを浮かべながら肩を組んだ。突然のスキンシップに神楽は驚いているものの満更でもない様子だ。

 

 

「デバイス…………だと…………!?隠し持ってたのか!?それとも奪ったのか!?」

『神楽様、あれが敵ですか?』

「うん、そうなるね」

 

 

狼狽える三人の姿を見て、神楽は夢の中で見た彼のように顔を笑みで歪ませた。それを見て信は少し驚いたが…………神楽同様に笑みで顔を歪ませてそれを消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてーーーーーーーーーー裁きの時間だぜ?」

「泣き叫べば劣等。今夜、ここに神はいない!!」

 

 

快楽主義者と凶獣が、敵に牙を向ける。

 

 

 





神楽、デバイス入手。性格がかなりぶっ飛びました…………ギャグキャラがね、欲しかったんだよ…………

信の友達発言。神楽だけではなく、信も神楽のことを友達だと思っていたようです。でないと尻に物を突っ込まれようとも会いに行きたいと思わないよな…………

あ、スタンド使いと魔法使いたちは全員撃ち殺されたり、轢き殺されたりしました。


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