愛し方を知らない孤独な銀狼   作:鎌鼬

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お待たせしました、なんとか投稿です。




第11話

 

 

「さてーーーーーーーーーー裁きの時間だぜ?」

「泣き叫べ劣等。今夜、ここに神はいない!!」

 

 

信がコンクリートを蹴り、神楽がバイクのエンジンを吹かして駆け出す。赤い籠手を着けた少年はいまだに現状を理解できていないのか動かなかったが、そばにいた三本の刀を持った少年と手から炎を出した少年が二人に遅れて動いた。

 

 

「火龍の鉤爪!!!!!」

 

 

神楽に向かったのは手から炎を出した少年。バイクに乗る神楽に向けて炎を纏った手を突き出す。

 

 

「ソォイッ!!」

 

 

それを見て神楽はバイクの前輪部分を持ち上げて炎を纏った手にぶつけた。そしてバイクの前輪と炎を纏った手がぶつかりーーーーーーーーーー炎を纏った手が弾けた。

 

 

説明など必要ないかもしれないが一応説明させて貰おう…………炎を纏った手よりも、神楽が乗るバイクの方が強かった、それだけのことである。

 

 

「もう、一丁!!」

 

 

神楽の攻撃はこれだけでは止まらない。持ち上げた前輪を落とし、今度は後輪を持ち上げてその場で半回転する。元の重量に遠心力が加わったバイクの後輪が手が弾けたことで唖然としている少年の顔面にぶつかり、パァンと小気味の良い音をたててトマトのように弾け飛んだ。

 

 

「ありゃ?泣き叫ぶ暇もなく逝っちゃったの?期待外れだなぁ~流石は劣等、自分の力も弁えずに向かってくるとか!!」

 

 

頭を無くしたことで崩れ落ちた少年の遺体を目の前にして神楽は笑う。今宵一時、夢の中で現れるあの黄金の爪牙を名乗る少年になると決めたのだ。であるならば、どれ程酷い死を与えようとも彼のように高笑いをしなければならない。

 

 

殺したという事実に対する嫌悪感も罪悪感も無いまま、神楽は夢の中で現れる彼のように自分が轍に変えた死骸の前で笑っていた。

 

 

「一刀流居合い!!」

 

 

刀を持った少年が信に向かい合い、抜き出していた刀を三本ともしまいその内の一本を構えた。

 

 

「獅s」

「アホかお前」

 

 

そして信は弾丸を刀を持った少年の眉間に見舞う。何時撃ったのか知覚できない程の早撃ちだった。

 

 

「敵の前で獲物納めるとかマジないわ~いや、居合い自体をディスってる訳じゃないのよ?そういう技法が昔っからあって、それが今にも伝わってると考えたら素直にリスペクトしてるよ?でもよ…………命の取り合いしてる中でやんなよ。しかも飛び道具持ってる奴の前でやるとか、マジ頭イカれてるよ、お前。それとこれだけ言わせてくれや。銃は剣より強し…………ん~名言だねぇ~」

 

 

銃口から出る煙に息を吹き掛けながら信は眉間に穴を開けて倒れている死体を見下しながらそう告げた。

 

 

神楽と信によって連れてきた二人を瞬殺されたことで赤い籠手を着けた少年の意識がようやく戻ってくる。

 

 

「なんで…………なんでだよ!!転生者一人殺すだけの簡単な仕事じゃないのかよ!?」

 

 

少年は自分こそが主人公だと思い込んでいるタイプの転生者だ。なのはの周りに煩い転生者たちが飛び回っていると思っていたが所詮は踏み台だと見下して彼らのことを侮っていた。そんなときに仲間の一人から原作を壊そうとしている転生者の存在を聞かされ、『お前にしか出来ないことだ』と言われ、主人公たるこの自分に任せろと意気揚々と戦いに向かった。心配してなのか他にも転生者たちを連れていかされたが、どうせ自分を映えるための演出装置にしかならないと内心では見下していた。

 

 

その結果、連れてきた転生者たちは全滅。自分も窮地に立たされている。

 

 

念話で話を持ち掛けてきた奴に文句を言いたかったがそんなことをすれば殺されることは目に見えて分かっている。

 

 

だからこの転生者は、戦うことを選んだ。

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker !!!』

 

 

少年の体が光輝く。そして光が止んだときにそこには全身に赤い鎧を纏った少年の姿があった。

 

 

「禁手使えるとか…………面倒なことしてくれるなぁ」

「あれ何?それに禁手って?」

「あれは『赤龍帝の籠手』(ブースデッド・ギア)って言うのの第二形態の『赤龍帝の鎧(ブースデッド・ギア・スケイルメイル)って言うのだ。効果は自身の力の倍加だっけ?要するに放置すればするほど強くなる。上限はあるだろうけど面倒なことには変わり無いな」

「なら短期決戦ってことで」

「意義なし」

 

 

禁手(バランス・ブレイカー)を見てなお態度を崩さない二人の姿を見て少年は苛立ちを募らせる。まるで自分など眼中に無いと言われているようで主人公だと思い込んでいる少年からすれば気に食わなかった。

 

 

「クソッ!!余裕ぶってもそうはいかねぇぞ!!」

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost !!!!』

 

 

鎧から機械的な声が上がると共に少年が地面を砕きながらそこ場から駆け出した。数度の倍加を繰り返して上昇した力は凄まじい。音を置き去りにして不快感を漂わせている神楽に目掛けて拳を振るう。少年は反応していない神楽を見て、顔を隠した鎧の下で神楽の顔面が弾け飛ぶ姿を想像して思わずにやけて仕舞う。

 

 

しかし、忘れてはならない。神楽は今宵一時、最速の殺意であることを誓ったのだ。

 

 

であるならば…………音速を越える程度の一撃を貰うはすがない。

 

 

「ーーーーーーーーーーは?」

 

 

捕らえたと思った拳は空を切る。そこには神楽の姿は愚か神楽が乗っていたはずのバイクの影すらなかった。

 

 

「遅いよ」

「グギッ!?」

 

 

呆気にとられていた少年の背後から衝撃が襲う。体制を崩されながらも何とか背後を確認するとそこにはバイクの前輪を持ち上げている神楽の姿があった。

 

 

「おいおい、俺のことを忘れてくれるなよ?」

「グァッ!?」

 

 

少年の意識が神楽に向いた一瞬の隙に信が銃の引き金を引く。響いた音は一度だけ、しかし放たれた弾丸は六発。何れもが関節などの鎧の脆い部分に当てられる。

 

 

「なめ、るなぁ!!!!」

 

 

神楽には当てられないと判断したのか、少年は信に狙いを定めて突貫する。固く握り締めた拳を力任せに大振りに振るうだけのパンチ。武術の経験など欠片も感じられない喧嘩もしたことのないような初心者の放つパンチ。

 

 

確かに信には神楽のような脅威的な速さは無い…………だが、思い出して欲しい。

 

 

信は、かつてジュエルシードを埋め込まれて暴走し転生者たち相手に虐殺していた神楽相手に、無傷で戦っていたと言うことを。

 

 

「クハッ、おせぇよ」

「なっ!?」

 

 

少年の拳が空を切る。しかも信は余裕を持った回避ではなく、鼻先で擦れるようなギリギリの回避で避けたのだ。驚きに一瞬動きが止まるもののすぐに正気に戻りもう一度拳を振るう。しかしそれすらも信は先程と同じ様に擦れる程度のギリギリの回避で避けてみせた。

 

 

信は断罪者(ジャッジメント)という武器と聖母ノ柩(グレイブ・オブ・マリア)という特別な遺体を持っているものの、その身体能力自体は常識的な範疇で優れている程度で目を見張る程に飛び抜けている訳ではない。なら、何故暴走した神楽相手に無傷で戦い、倍加された少年の攻撃を余裕を持って回避出来ているのか?

 

 

それは一言で言ってしまえば…………勘である。信は暴走した神楽の攻撃も、少年の拳も正確に目で追えている訳ではない。ただ直感で『多分こんな風に攻撃をしてくるのだろうな』と感じ取り、それに従って避けているだけなのだ。

 

 

言葉にしてしまえばそれだけのことと笑われるかもしれないがそれだけのことで傷を負っていないのは事実、鎧から機械的な声が上がり少年はさらに倍加されていくがそれでも信に決定的なダメージを与えることは叶わない。それどころか人を小馬鹿にするような笑みを浮かべながらわざと擦らせるような回避を続けている。

 

 

「ブンブンブンブン振り回すだけとか、扇風機か何かか?どうせやるなら今じゃなくて夏場にやって欲しいね」

「クソッ!!なんでだ!!なんで当たらない!?」

「あぁそうそう、一つ忠告だ…………周り見てないと、痛い目見るぞ?」

「何!?グァッ!?」

 

 

背後から白銀の鎖が伸びて少年の首を締め上げる。真っ正面から向かってきた物ならばいざ知らず、背後からという不意打ちに近いそれを回避する手段を少年は持っていなかった。

 

 

「凄いね、これも魔法ってヤツなの?」

『ハイ神楽様。こちらはチェーンバインドと言う主に拘束用に用いられる魔法です。それではこのままあれを西部劇のワンシーンや世紀末の使者のように引きずり回してやりましょう』

「モチロン!!」

 

 

ヴィーヴィーの銃口から伸びた鎖に繋がれた少年の姿を一別して神楽はバイクのアクセルを回す。獣の唸り声のような低い音を立てながらバイクは少年を引きずりながら発進した。少年はなんとかチェーンバインドから逃れようともがく、しかし力任せに引き千切ろうとしてもチェーンバインドは砕けない。それはそうだ、ジュエルシードという規格外な物体を数個取り込んだ神楽の魔法が高々数度の倍加をした程度の少年の力で千切れる訳がない。チェーンバインドが千切れないと理解した少年が引きずられている体制から建て直そうとする、がそれすらも神楽が絶妙なタイミングでバイクの加速減速や進路の変更をするために叶わなかった。

 

 

「よ、いっしょっとぉ!!!!」

 

 

十分な速度に至ることが出来たのか、神楽はバイクの前輪を持ち上げて叩き付け、そこを軸にして強引に車体その物を百八十度回転させた。それによって引きずられていた少年は遠心力によって引っ張られて上空に投げられる。いつの間にかヴィーヴィーの銃口から伸びていたはずのチェーンバインドは外れており、少年の全身に絡み付いていた。

 

 

「後は任せるよ、信」

「オッケイ神楽、俺に任せな」

 

 

神楽の言葉に返事を返しながら信は銃から弓のような形に成形された光を手にして鏃を少年に向けていた。自由な時であるならばともかく、チェーンバインドに縛られて動くことの出来ない少年にこれから逃れられる手段はない。

 

 

「念には念を、だ。『原罪の矢』、レベル3までいっといてやるよ」

「や、辞めろ!!お前たち、俺が誰なのか分かってるのか!?主人公だぞ!?俺を殺したらこの先の物語全部破綻してしまうぞ!?分かってるのか!?」

 

 

信の弓矢が脅威であることに気づいたのか少年はチェーンバインドから逃れようともがきながら惨めな命乞いを始めた。

 

 

「あ?知らねぇよ。命乞いなら他所でやりな」

「主人公?何それ?死にたくないと今さら言うとか。だったら戦場(ここ)に来るんじゃ無いよ」

 

 

しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、命乞いをしている少年に信と神楽から返ってきたのは冷たく無慈悲な物だった。そも、二人が戦っている理由は『向こうから手を出してきたから』という受け身的な理由だった。

 

 

そうなら、特別な事情でも無い限りは手を出してきた下手人を逃すわけが無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つー訳だ、逝け」

「じゃあね、どこからの誰かさん。お願いだからヴァルハラになんて辿り着かないでよ?」

「辞めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

 

少年の悲痛な叫びを掻き消すように原罪の矢は放たれ、この周囲を覆っている結界に穴を空けながら少年を塵一つ残さずに消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告です、赤龍帝とその他の転生者たち全員がやられました」

「うん…………見ていたから分かってるよ」

 

 

黒髪の少年が向かってきた転生者たちを皆殺しにしてハイタッチをしている神楽と信の姿を映している映像を見ながらそう返した。人を殺して喜んでいる二人の姿を見て何か思うことがあるのか、黒髪の少年の手は固く握り締められ、そこからは血が流れていた。

 

 

「…………二十人の転生者がやられましたがこれで奴等の力を測ることが出来ました。どうかご理解を」

「分かっている、これも正義を成すために必要な犠牲なんだ…………彼らもきっとわかってくれるはずだ…………だけど…………!!僕はお前たちを許さない!!人を殺して喜んでいるお前たちを!!絶対に許さない!!」

 

 

黒髪の少年はそういいながら死体の転がる現場から逃げている神楽と信の姿を憎しみの籠った目で睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やはりあの程度では駄目だったか」

 

 

結界の上空から、神楽と信の姿を見下ろしている金髪の少年がいた。二十人の転生者を殺した二人の姿を、その少年は憎悪ではなく興味深そうに見ている。

 

 

「にしてもあやつら、悪くはない力を持っている…………これならば、あやつらに塵掃除を任せるのも一興よなぁ…………」

 

 

二十人の転生者を殺した二人に対してそう評価した金髪の少年は、何かを企んでいるような笑みを浮かべながらその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





合間合間にちょびちょびと書いていたのがようやく完成しました。


待たせてしまったことに謝罪を、そして私の作品を心待にしている読者様たちに感謝を、この場を借りて言わせていただきます。


ご迷惑をお掛けしました。

そして私の作品を楽しみにしてきただきありがとうございます。


感想、評価をお待ちしています。


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