「んぁ……」
ふと感じたさむさから眼が覚める。思わず二の腕の辺りを摩りながら体を起こして辺りを見回すと今いる場所はリビング、周りには神父様とシスター、レアにはやて、そして信が寝転がっていた。確か昨日は……そうだ、今日が休みのひだからってゲーム大会しようとかレアとはやてが言い出したんだっけ?付けっ放しになっているテレビを見るとゲームのキャラクターである魔王とよばれるキャラが立っていて、エイコーだかハルミツだか呼ばれているキャラが死んでいた。
「時間は……5時半か」
時計を見ればまだ早朝の時間帯だったが不思議と眠気は無く、気分的にも二度寝したいとは思わなかった。
「そういえば朝の景色ってどんな感じなんだろう?」
頭の中に湧いて出てきた素朴な疑問、寝起きということで深く考えること無く、雑魚寝で硬くなった体をほぐしながら玄関に向かった。
「う〜ん!!夜も良いけど朝の空気も悪く無いね」
薄っすらと靄のかかる朝の雰囲気を味わいながら体を伸ばして感想を口にする。朝特有なのかひんやりとした空気が心地よく寝惚けた頭を起こしてくれる。
今は5月。5月といえば大型連休があったりする月なのだが誰彼構わずに嫌悪をばら撒いてしまう僕という存在のせいで基本的に家に篭ってゲームをすることになっている。いつもなら5人なのだが、今年はそこに信が入って6人でだった。
あの夜の転生者たちの襲撃から時間が経っているが、それ以降あいつらは接触しようとする気配を見せてこない。僕はこれで終わってくれれば良いなと希望的観測を望んでいるが神父様と信は何か大きな行動をする前触れなのでは無いかと警戒している。
「はぁ……どうしてこうなっちゃったのかな……」
厄介事しか運んで来ないジュエルシードの入っている左目を眼帯の上から撫でる。まぁ信という友達が出来たりもしたので悪いことばかりでは無いかもしれないが悪いことしか起こってないのでどうしてもそちらに眼がいってしまう。幸いなことに厄介事は僕たちの手で何とか出来る程度なのだが……もし、戦うことが出来ないレアやはやてに行ってしまうとなると……
「……っ!!」
ゾッとする、背骨の代わりに氷柱が差し込まれたような寒気が走る。それは起こり得る可能性の一つ。無力な2人が転生者やジュエルシードに抗う術など持たない。そんな未来を想像してしまうだけで言いようの無い不安に襲われる。嫌われていた僕のことを優しく包み込んで受けれ入れてくれた2人、そんな2人が居なくなるという起きて欲しく無い起こり得る可能性の一つ。
「……もし、もしも……そんなことが起きてしまうようなら……」
僕はきっと壊れてしまうだろう。レアとはやてがいたからこそ今の僕があるのだ。そんな2人が居なくなってしまえば僕が僕であれるとは思えない。
「だとしたら……」
僕がするべきことは一つだけだ。
2人を、守る。
僕を受け入れ愛してくれる2人を穢し、壊そうとする存在を一片の容赦も見せずに轢き殺す。
僕の陽だまりを、日常を奪う者を鏖殺する。
それが
「……うぅっ!!寒くなってきた」
5月とはいえどまだ早朝は寒い。家に戻り、ココアでも作って飲もうと考え、踵を返した。
そして不意に感じるざわつき、それは過去に何度も体験したことのある危険が迫っていることを報せる警報。それに従って迷うこと無く転がるようにしてその場から離れる。すると転がっている最中、体一つ分どうにか移動出来たあたりのところで上から何かが僕のいた場所に落ちてきた。地面が砕けて小規模ながらにもクレーターが出来ているところを見ると相手は僕のことを殺すつもりだったらしい。
「ちっ!!外したか!!」
襲撃者は頭と腰から明らかに人の物ではない犬の耳と尻尾を生やしている女性。痛々しい人だと思ったが作り物では無いらしく時折本物のように動いている。
次に感じたのは閉じ込められた時のような閉塞感、どうやら結界を展開されたようだった。
「ヴィーヴィー」
『了解です』
タグと呼ばれるプレート付きのネックレスになっていたヴィーヴィーを起動させてあの日の夜の様な軍服姿に代わりに、手に銃を持つ。そして目の前にいる女性に銃口を向けるのでは無く、銃を頭上に持って来て交差させた。
「クッ……!!」
やって来たのは頭上からの一撃、交差した銃と振り下ろされた鎌がぶつかり合って火花が飛び散る。鎌を持つのは奇襲が失敗に終わって悔しそうに顔を歪めている金髪の少女。膠着しても旨みが無いと分かっているのか金髪少女は弾かれるようにあっさりと僕から離れて犬耳の女性の隣に立った。2人分の気配を感じたことから何か繋がりがあると予測していたけどどうやらこの2人は仲間らしい。
「こんな朝早くから何の用かな?」
手にしている銃が歪んでいないか確認しながら無警戒のようなフリをして話しかける。心の内では2人のことを警戒してるが信や神父様がいる教会の近くで襲撃をしてきた、つまりはどちらかが結界が張られたことに気がつくはず。一対ニでも負けるつもりは無いがここは万全を期す為に時間を稼ぎ、助けが来るのを待った方が良いと判断した。
「……貴方が持つジュエルシードを渡して下さい」
少女が口にしたのはやはりと言うべきかジュエルシードの名前だった。どうやら彼女たちは前に襲ってきた転生者たちのように僕と信への復讐ではなくジュエルシードが目当てのようだ。
「まぁたジュエルシード……こんな危ない物を集めて何がしたいのさ?」
「……貴方にそれを教える理由はありません」
「フェイト!!こんな気持ち悪い奴早くとっちめてジュエルシードを奪ってやろうよ!!」
犬耳の女性は僕に向ける嫌悪感を隠そうともしないでフェイトと呼んだ少女に悪びれた様子も見せずにそう提案した。どうやら彼女も僕に嫌悪を抱く類の人物らしい。それに関してはなんら思うことは無い。ずっと言われ続けていたことだからもう慣れた。信やヴィーヴィーが特別であっただけで、僕からすればこれが当たり前で普通の事なのだ。
「渡してくれませんか?」
女性からの声には反応しないでフェイトは淡々の機械的に尋ねただけだ。ジュエルシードは僕の身体の中に入って今は僕の左目になっている。それを渡そうとすれば僕は左目を抉り出さなければならない。自分から自分をいたぶる様な趣味は持ってい無いので正直に渡したくないと言うしかないな。
「嫌だよ?なんで見ず知らずの君たちに渡さなくちゃいけないのさ」
「……そうですか。だったら」
『photon smasher』
鎌からマシンボイスが聞こえ、黄色い球弾が真っ直ぐに
「っ!?」
それを見て全力でその場から駆け出す。こううんにも球弾はさほど速度に乗っていなかったので追いつく事が出来、それを蹴り飛ばして別の方向に飛ばす。反射的に動いてしまったせいか触れてしまい吐き気を催してしまうがそんなことはどうでも良い。今重要なのはこいつが教会を狙ったということだ。
「……ねぇ、今のはどういうつもりなのかな?」
結界が張られているから直接的な被害は出ないと思うが信が物によっては結界を張っていたとしても被害が出ることがあると言っていた。もし今張られているのが後者だったら教会はさっきの球弾で壊されていた。
「貴方がジュエルシードを渡さないのならその建物を破壊します」
などと、フェイトはそれがさも当然であるかの様に告げた。
ジュエルシードを渡さなければ教会を壊す?
あんな宝石の為だけに僕の陽だまりを壊そうとするのか?
何様のつもりだ。
何の権利があって僕から温もりを、
僕を愛してくれる人たちの居場所を奪おうとするのか?
あぁ、こいつは敵だ。あの自分から手を出して来ておいて噛み付かれたことに被害者面をして騒ぎ立てている転生者たちと同じだ。
ならば殺さなければならない。
最速の殺意の皮を被るまでもない。
こいつは、こいつらは僕自身の殺意で殺さなければならない。
その時、僕の中から何かが噛み合う様な音が聞こえた。
フェイトは母から命じられて使い魔であるアルフとともにジュエルシードを集めていた。途中で高町なのはという地球の魔導師と戦闘になることになったが今のところは順調と言っても差し支えない様なペースで集められている。
そんな中、街の中にある教会から複数個のジュエルシードの反応が見つかった。それは神楽の中にあるジュエルシードの反応で、本来ならば信の張った結界やリザの施した封印によって感知されないはずなのだがゲーム大会の疲れからか隙が出来てそこをフェイトに悟られたのだ。
いきなり6つも反応が見つかったことに驚きながらもフェイトはアルフとともにジュエルシードの確保に向かう。するとそこにいたのは真っ白な髪をした少女の様に見える少年。朝靄と相まって幻想的にも見えるのだが少年から発せられる正体不明の嫌悪感が全てを台無しにしていた。
ジュエルシードの反応は少年から、それが判明するとフェイトとアルフは互いの顔を見て頷き、嫌悪感から来る吐き気を堪えながら強襲を仕掛けた。
強襲は失敗、さらに少年は魔導師だったらしくデバイスを取り出して戦い慣れている様な立ち振る舞いを見せてる。結界を張ったとはいえど時間をかけていれば再び高町なのはが現れるかもしれない。
だからフェイトは強引な手段を選んだ。少年の住居と思わしき建物に向かっての魔力スフィアを用いた攻撃である。魔力スフィアは一つ、見せつけるためにわざと速度を落とした物だったが少年は過剰な反応を見せて魔力スフィアを弾いた。フェイトはこれだと思い、少年にジュエルシードを渡さなければ教会を攻撃すると告げた。
それが、少年のーーーーーーーー神楽の逆鱗に触れるとも知らずに。
「……お前も、なのか?」
「えっ?」
フェイトの要求に対して神楽は応じるのでも断るのでもなく疑問で返した。予想していない反応にフェイトは抜けた声で返してしまう。
「お前も……僕から奪おうとするのか?」
神楽は顔を俯かせているので表情は分からない。手には銃が握られているがそれもだらりと下げられていてフェイトたちには向けられていない。
「暴力には慣れている、それが普通だったから。
罵倒には慣れている、それが当たり前だったから。
僕を嫌おうとするならば好きにするといいさ、そんなものはすでに慣れている。
だが……僕から陽だまりを、彼らといられるこの場所を奪おうというのなら話は別だ」
神楽の顔が挙げられる。フェイトは神楽の顔を直視してしまった。
怒りと悲しみの入り混じった、狂気の顔を。
「全員、慈悲も無く轢殺する」
神楽の口から聖句が紡がれる。
嫌悪する者からの拒絶と愛してくれる者への接触を望む渇望。
嫌悪する者などどうでも良い。しかし、愛してくれる者に危害を加えようとするならば、その全てを轢殺して轍に変えてみせることを誓う。
そしてここに、神楽は皮を被って演じたのでは無く、真の『最速の殺意』に成った。
ケータイ変えてiPhoneで投稿です。慣れていないので間違っていたらすいません。
時間系列的には温泉でのなのはVSフェイトが終わった辺り、管理局が介入する前です。やや話の展開が強引だったかもしれませんがこうしないと進まないので……(目逸らし)
感想、評価をお待ちしています。