愛し方を知らない孤独な銀狼   作:鎌鼬

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第13話

 

 

聖句を唱え終えた瞬間、フェイトとアルフは神楽の雰囲気が一変したことに気づいた。先ほどまでのこちらを小馬鹿にしていたような空気は無くなり、2人に強い敵意と殺意を向けている

 

 

『フェ、フェイト!!一体何があったんだい!?』

『わ、分からないよ!!いきなり纏っている空気が変わった!?』

 

 

神楽の雰囲気が変わったことによる動揺を顔には出さぬが念話ではその動揺を隠しきれていなかった。

 

 

2人は知らなかった。フェイトが脅しで教会を傷つけようとしたことが、神楽にとっての逆鱗であることを。

 

自らを受け入れてくれる人間たちが住まう空間を壊そうとしたフェイトの行動が神楽の怒りを買ったことを。

 

 

唐突に雰囲気が変わった神楽にフェイトとアルフが動揺している中で神楽の心中はーーーーーーーー意外かもしれないが落ち着いていた。

 

 

(周りがよく見える……前に暴走した時は何がなんだか分からなくなる程に激昂していたのに)

 

 

正確には激昂していたのでは無く周囲にあるもの全てを憎悪していたのだ。ただそこにあるだけで憎い、空気でさえ纏わりつく感覚がどうしようも無く気持ち悪かった。しかし今の神楽は落ち着いていた。前回の暴走の時には周囲に手当たり次第にばら撒いていた憎悪と殺意を冷静に、彼が愛する者たちの住まう教会を傷つけようとした2人に向けている。

 

 

神楽が僅かに前傾姿勢になる。それを見たフェイトとアルフは動くと直感的に察知して構える。

 

 

そしてーーーーーーーー神楽の姿を見失った。

 

 

「えっ……?」

 

 

目を離していないのに神楽の姿を見失ったことでフェイトが抜けた声をあげる。

 

 

「フェイト!!」

 

 

アルフの慌てたような声と同時に銃声が響き渡る。フェイトが反射的に後ろを振り返ればそこには障壁を張ってフェイトを庇っているアルフと銃口をこちらに向けている神楽がいた。

 

 

「アルフ!?」

「このくらい、平気さ!!」

 

 

心配そうに声をあげたフェイトにそう返したが防ぎきれなかったのかアルフの肩からは血が流れ逆の手で撃たれた傷口を押さえていた。傷は深くは無さそうだがこれでは戦うことは難しいだろう。

 

 

(ちょっと待って……傷?)

 

 

アルフの傷を見てフェイトは疑問に思った。神楽の銃は間違いなくデバイスである。デバイスには魔法によって相手が傷付かない様にする非殺傷設定を行う事ができる。衝撃による気絶こそは避けられないがそれがあるから加減をする事無く全力で攻撃する事ができるのだ。フェイト自身もそうだし、前に戦った高町なのはも魔法は非殺傷設定をして使っていた。

 

 

だというのに神楽は非殺傷設定を行う事無く、こちらをこちらを殺しにかかって来ている。

 

 

それを理解してしまった瞬間、フェイトは言いようの無い寒気に襲われた。

 

 

フェイトは母親によって用意された家庭教師役が認める程の戦闘技能を持っているがそれはデバイスによる非殺傷設定を前提としたもの。対して神楽は戦闘技能自体はそう優れたものでは無い。自らの意思で戦ったのはヴィーヴィーを手にした夜の一度だけ、今回の戦闘で二度目だ。神楽自身には射撃の経験など無く、撃つ際にはヴィーヴィーによる補助が欠かせ無い。それでも、神楽には殺人(さつりく)の経験がある。自分たちに襲いかかってきた転生者たちを情け容赦無く物言わぬ死体に変えた事がある。

 

 

殺し合いの経験があるか、否か。例え客観的に見てどれ程フェイトが優れた戦闘技能を持っていたところで殺しをした事が無い時点で殺し合いの場では三流以下。逆に神楽は技能こそ欠片も持ってい無いが殺し合いを経験し、生き残っているという事実は一流と言える。

 

 

相手を殺してでも生きるという覚悟の有無が、フェイトを鈍らせる。

 

 

例え相手が殺し合いをした事の無い三流以下であろうとも神楽にとっては関係の無い事だった。

 

 

フェイトとアルフがどの様な目的があってジュエルシードを集めているのかは知らない。知るつもりも無い。ただ、目の前で生きている肉塊2つ(フェイトとアルフ)が彼を受け入れ愛してくれる者たちが住まう空間を傷つけようとした。その事実を持って、殺戮しようと動く。

 

 

神楽の姿が再び消える。それに気がついたフェイトがとった行動は高速機動による戦闘。神楽の移動が転移では無く高速移動によるものだと察しをつけて自分の土俵である高速機動で戦う事を選んだ。

 

 

魔力による身体能力の強化のレベルを上げて神楽の姿を捉える事に成功する。確かに神楽の移動は速いがそれでも追いつけ無い速度では無かった。ソニックムーブによる高速移動で駆ける神楽に追いつき、自身のデバイスであるバルディッシュを振りかぶる。タイミングは完璧、振り抜いたバルディッシュの斬撃は神楽にぶつかる事は避けられ無いと思われた。

 

 

しかし、ここにいるのは真なる『最速の殺意』に成った神楽である。

 

 

間違いなく当たると思われた一撃はーーーーーーーーなんの手応えも無く空を斬り裂いた。

 

 

「っ!?」

 

 

間違いなく当たると思われた一撃が当たらなかったことでフェイトは思わず声をあげそうになったが神楽の銃撃による衝撃を受けて苦痛な声をあげた。攻撃を察知してくれたのかバルディッシュが判断して展開した障壁によって銃撃は防げたがフェイトの心中にあるのは混乱だった。

 

 

(そんな!?さっきのは間違いなく当たったはずなのに!?)

 

 

神楽が余裕を隠していたのかと思いフェイトはさらに速度を引き上げる。自身の持てる最高速度、家庭教師役でも見失う程の速度で神楽を撹乱しようと動き回る。第三者がそれを見ていたなら誰もがフェイトの姿を見ることは出来なかっただろう。後に残っている黄色い軌跡だけがフェイトがいることを証明する。

 

 

だがーーーーーーーー神楽はアッサリと、嘲笑うかのように最高速度で動くフェイトを上回る速度で動いて見せた。

 

 

(この子…私よりも速い!?)

 

 

自信のあった高速機動すらもアッサリと上回る神楽にフェイトは心が折れかける。

 

 

神楽は確かに速いがそれだけでは無い。

 

 

死世界・凶獣変生(Niflheimr Fenriswolf)永劫破壊(エイヴィヒカイト)において創造と位置付けられている位階に定められているそれの能力は相手を上回る速度で動けること。『他者との接触を拒む』という渇望が元になって生まれた異能。例え相手が光の速さで移動しようとも、神楽がそれを知覚している限り神楽は光の速さを上回る速度で動ける。

 

 

つまりはーーーーーーーーフェイトが高速で移動すればするほどに神楽は速くなる。

 

 

そのことを知っているのは現在その力を振るっている神楽だけ、神楽の力のことを知らないフェイトはただ焦ることしかできない。

 

 

『フェイト!!』

「っ!!」

 

 

唐突にアルフから念話が届くがフェイトは瞬時にその意図を察する。持てる力を全て振り絞っての神楽への特攻、そしてバルディッシュを全力で振るう。当然のごとくその一撃は躱され、神楽はフェイトの頭上から銃を構える。

 

 

「オラッ!!」

 

 

しかしそこにはアルフがいた。神楽の動きを直感で予想しての先回り。いかに速く動こうとも戦い用はある。長年連れ添っていた2人だから出来た不意打ち染みた連携はーーーーーーーーアッサリと、アルフの動きを上回る速度で回避された。

 

 

「なっ!?グゥッ!!」

 

 

背後を取られて銃撃を放たれるも今度は障壁が間に合い直撃することは無かった。しかし、最初の攻撃よりも威力を重視したのか重たくなった銃撃の衝撃を殺しきることは出来ず、アルフは弾き飛ばされフェイトを巻き込みながら地面に叩きつけられる。

 

 

「アハッ」

 

 

重なり合って地面に倒れている2人に向かい神楽は銃口を向けて引き金を引いた。だが飛び出したのは弾丸では無く鎖、その鎖はフェイトとアルフの首に絡まる。

 

 

「アハハッ」

 

 

そこからの光景はもはや蹂躙と言うしか無かった。どこからどう見ても子供の体躯である神楽が腕を振り回す。それだけでフェイトとアルフの身体は振り回される。そして神楽はまるで2人を人形でも振り回しているかの様に地面に、壁に、木に、教会に被害が出ない様に叩きつけた。

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!」

 

 

鎖に首を絞められて苦しそうに呻く声が心地良い。

 

鎖から伝わる手応えが心地良い。

 

そして何よりーーーーーーーー大切な陽だまりを、自分を愛してくれる者たちのいる空間を奪おうとした奴らが無力に蹂躙されている姿を見るのが気持ち良かった。

 

 

 

だが神楽には甚振って楽しむ様な趣味は無い。確かに蹂躙される2人の姿を見るのは心地良かったがあくまでもそれは途中経過でしか無い。2人をハンマー投げの様に振り回して投げ飛ばす。投げ飛ばされた2人は教会の敷地内から飛び出して道路に出る。

 

 

暖かな空間を汚さぬ様、教会の外で殺すためだ。

 

 

蹂躙されて抵抗する力を無くした2人に神楽は近づく。顔に浮かべているのは満面の笑みだがその眼には陽だまりを壊そうとした2人に対する憎悪が見える。

 

 

「死ね」

 

 

そして倒れている2人の頭に銃口を押し当てて引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『動くな』」

「なっ!?」

 

 

しかし引き金は引けなかった。どこからか聞こえた声に従うかの様に身体の自由が奪われた。いくら神楽が引き金を引こうとしても1㎜も動かない。それどころか神楽の周囲に砂が集まってきた。始めは砂埃かと思うほとだったが次第に量を増していき、神楽の身体に纏わりつきーーーーーーーー

 

 

「砂縛柩」

 

 

グシャリと何が潰れる様な音が砂の中から聞こえた。一度だけでは無く二、三度グシャリグシャリと砂の中から音が聞こえ、砂が退けられた場所には全身の骨を砕かれた神楽がいた。意識は無いもののまだ生きているのは永劫破壊(エイヴィヒカイト)の加護のおかげか。それでも神楽は動けなくなったという事実には変わりない。

 

 

「大丈夫かしら?」

 

 

何が起きたのか分からずに混乱しているフェイトとアルフにバリアジャケットに身を包んだ少女が近づいた。

 

 

「あな、たは……」

「おい、役目が終わったなら俺は帰るぞ」

 

 

助けてくれたことには感謝しながらも素性の知れない少女に警戒しながら尋ねるが、上から現れた巨大な瓢箪を背負った少年に少女の注意が行ってしまう。

 

 

「助かったわ」

「ふん……にしてもこいつも不幸だな。こんな奴らに眼をつけられることになるとはな」

「何、文句でも言いたいのかしら?」

「別に無い、俺はお前から依頼を申し込まれて受けただけだ。報酬を忘れるなよ」

 

 

そう言って瓢箪を背負った少年はフェイトとアルフに眼もくれずにその場から立ち去っていった。少年の態度が気にくわないのか少女は苛立たしげな顔付きになるがフェイトとアルフがいることを思い出して直ぐに笑顔を作った。

 

 

「ごめんなさいね、あいつは気難しい奴だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は鈴宮愛莉(すずみやあいり)、こいつのことに付いて詳しく話がしたいわ。誰かジュエルシードに詳しい人について知らないかしら?」

 

 

 





神楽(創造)VSフェイト&アルフの対決は乱入こそありましたがほとんど神楽の勝ちです。そりゃあ相手よりも速く動ける白騎士の創造相手に速度で挑もうだなんて無茶ですわ。

そして久しぶりに登場の転生者鈴宮愛莉。神楽を排除しようという考えは変わっていません。そして瓢箪を背負った少年は転生者です。彼が神楽のことをどう思っているかは……皆様の想像にお任せします。

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