愛し方を知らない孤独な銀狼   作:鎌鼬

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第14話

 

 

「……リザ、信、神楽は見つかりましたか?」

「いいえ、見つからないわ」

「こっちもだ」

 

 

夜の帳が下りて暗くなった教会の中で蝋燭の灯りだけを頼りに話している者たちがいた。ヴァレリア、リザ、信の三人である。彼らが探しているのは言うまでもないと思うが神楽だ。連休中に突然姿を消した彼のことを三人は必死になって探している。

 

 

「魔法使って探しているが痕跡があったのはこの教会の敷地内だけ。他にも無いかと町中駆け回ったけど見つからない……こりゃあもしかすると別次元に連れて行かれたかもしれない」

 

 

唐突に姿を消した神楽の消息は掴めていない。いくら探しても見つからないことから信は神楽は地球にはいないのでは無いかと考えた。普通ならばそれは妄想だと切り捨てられるだろうがこの世界ではあり得ない話では無い。彼らがいる地球、それとは別に魔法という文化が栄えている別次元がある世界なのだ。いくら探しても見つからないならば地球ではない世界に連れて行かれたかもしれない。魔法に関わっている信はそう考えた。

 

 

「あり得ない、そう切り捨てられれば良かったのですが」

「あり得ない話じゃないからな。神楽は俺と同類連中を殺している、それが連中の琴線に触れて拐われたってのはあり得無くない。もしそうなってるならこっちはお手上げだ。なにせ別次元は山ほどある、そん中から神楽の居場所を探すだなんてボートで海図もコンパスも無しに地図にも載ってないような小島を見つけろって言われているようなもんだ」

「だったら……!!だったら!!このままあの子を見殺しにしろって言うの!?」

 

 

信の物言いにリザが怒りの声をあげる。リザは血の繋がりの無い神楽のことを我が子同然にも思っている。テレジアという実子とはやてという神楽と同じ孤児ががいるが向ける愛情に優劣は無い。

 

 

あの子を守ると決めた。

 

あの子を救いたいと願った。

 

その想いに偽りは無い。

 

 

故に神楽のことを見捨てるとも捉えられるようなことを言った信に怒りを向けた。

 

 

「はぁ?神楽を見殺しにする?……冗談キツイぜ、シスター」

 

 

それに信は同じように怒りで返した。確かに自分の言い方が悪かったかもしれ無い、神楽のことを見捨てると言ったように思われるかもしれない。リザの気持ちを理解しているつもりだが神楽のことを見捨てるのかと言われて信は黙っていられなかった。

 

 

「あいつは俺のダチだ。困ってるなら助けてやるし捕まってるなら助けてやる。見捨てるなんてしてやるかよ」

 

 

信にとって神楽は友人であると同時に恩人であるとも言える。望まない生を押し付けられて白黒にしか見えなかった世界に色を着けてくれた友人(おんじん)、そんな神楽を見捨てるなど信は欠片も考えていなかった。

 

 

例え手足がもげようとも、

 

例え万を超える敵が立ちはだかろうとも、

 

 

神楽のことを助けると、信は本気で思っている。

 

 

互いの気持ちを理解しているつもりだったが神楽が見つからなかったことの苛立ちからリザと信の間に不穏な空気が漂う。どちらも間違っていないと分かっているから何も言わなかったヴァレリアがパァンと柏手を叩いてその空気を霧散させる。

 

 

「リザ、信、落ち着きなさい。二人の気持ちはよくわかります。ですが今は言い争っている時ではありません」

「……そうね、ごめんなさい」

「いや、こっちも言い過ぎた」

「さて……もしも神楽が信の言った通りに別次元に連れて行かれたと仮定してですが、それを追いかける方法がありますか?」

 

 

ヴァレリアは信に尋ねる。町中を探し回ったというのに神楽の痕跡は見つからなかったということは信の言ったことに現実味が帯びてくる。つまり神楽はこの世界では無い別の世界に連れて行かれたと。だからヴァレリアはそう仮定して話を進めることにした。

 

 

「……俺には難しいな。俺の能力はあくまで戦闘に特化したものだ。それ以外となると出来なくは無いがどうしても劣っちまう」

「そう、ですか……」

 

 

信の言葉にヴァレリアは分かりやすく落ち込んで見せた。いつものヴァレリアならば笑顔を崩すことなく対応出来たかもしれないが神楽のことが精神的にきているからなのか感情が表に出る様になっていた。

 

 

「そう落ち込むなよオッサン」

 

 

そんなヴァレリアに向かって信は励ます様にそういった。その顔にはヴァレリアと違い落ち込んでいる様な気配は見られない。

 

 

「確かに俺には無理だと言ったさ。だから、俺以外のそういう事が出来る奴を使えばいい」

 

 

そう言った直後に教会の扉を叩く音が聞こえた。リザはヴァレリアの顔を見て、ヴァレリアは許可を出す様に頷きを返す。そしてリザが教会の扉を開くとそこには二人の少年がいた。

 

 

一人は桃色の髪をして巨大な瓢箪を背負った少年。一番目を引くのは瓢箪だろうが少年の目元には年不相応な隈がクッキリと出来ていた。

 

 

一人は茶髪を逆立ててピンクのサングラスをかけた少年。

 

 

「来たな、『我愛羅』に『クーガー』」

「『我愛羅』と呼ぶのは辞めろと言ったはずだ。俺には阿武斗という名前がある」

「俺の事も『クーガー』じゃなくて篝と呼んでほしいねぇ。ま、格好は意識してやってるけどよ」

 

 

阿武斗と篝と名乗った少年たちだが信は謝るどころか二人の事を無視してヴァレリアとリザに二人の事を説明し始めた。

 

 

「こいつらは今言った別次元の世界の一つで何でも屋をやっている連中だ。職業柄追跡とかもお手の物だろうからこいつらを呼んだわけだ」

「なるほど……」

「本当に大丈夫かしら?」

 

 

信の説明から二人なら神楽の居場所を突き止められるそうなのだがヴァレリアとリザの反応は良いものではなかった。それはそうだろう。突然神楽と同い年くらいの子供が現れて探すと言われても不安でしかない。

 

 

「まぁやるだけやってみようぜ?あ、これが探して欲しい奴の写真な」

 

 

二人の反応に苦笑しながら信は一枚の写真を阿武斗と篝に差し出す。そこに写っているのは連休中に撮った写真。はやてが車椅子から飛び降りて前から、テレジアが後ろからのしかかるように神楽に抱き着き、それを見て微笑んでいるヴァレリアとリザ、カメラのタイマーをセットして戻っている途中に石に躓いて中に浮かびながらもカメラに向かってダブルピースをしている信。この教会にいる全員が持っているそれを二人に渡して抱き着かれている神楽を指差した。

 

 

「どれどれ……へぇ、可愛い娘じゃないか」

 

 

篝がヒューっと口笛を吹きながら神楽のことを褒めているが……それは神楽のことを女だと思っているからである。確かに神楽は初見では少女と間違っても仕方のない容姿をしている。信は篝の勘違いに気づいたが……面白そうなので黙っておくことにした。

 

 

そんな中で……阿武斗の反応が目に付いた。何を言うでもなくじっと写真に写る神楽の顔を見ている。元々が無表情で分かりにくいところがあるがその様子に信は阿武斗は何か知っているのではないかと予想した。

 

 

「おい阿武斗、どうかしたのか?」

「こいつのことは知っている……この間依頼でこいつの捕獲を手伝わされた」

 

 

阿武斗の一言で教会内の空気が変わる。信は阿武斗の額に銃を突き付け、ヴァレリアとリザも先程までの表情を消して仇を見るような目で阿武斗を睨んでいる。さらに教会の目立たないところにあった施錠されていて入れないようになっていた扉の施錠が外れ、そこから得体のしれない気配が漂っている。

 

 

「テメェ……知っていることを詳しく聞かせろ」

「地球にいる同類から依頼があった。暴走した転生者がいるからその捕獲を手伝って欲しいとな。依頼人については守秘義務があるから言えないが……そいつはこいつを連れてフェイト・テスタロッサと共に転移していった。恐らくは時の庭園に連れて行かれたのだろう」

 

 

誰が依頼してきたのかは告げずに阿武斗は神楽の行方を答えた。阿武斗と篝は何でも屋で生計を立てており、『命に勝るものは無し』『金払いの良い客には絶対服従』というスタンスで経営している。だからヘタなことを言えば殺されると理解していたから素直に答えることにした。

 

 

「時の庭園?……そうか、神楽にはジュエルシードが宿ってたな、それが目的か」

 

 

神楽のことを怨んでいた転生者がどうしてフェイト・テスタロッサと転移していったか疑問に思ったが答えは直ぐに出た。神楽の中にはジュエルシードがあり、フェイト・テスタロッサはプレシア・テスタロッサの命令でジュエルシードを探している。つまり神楽ごとジュエルシードをプレシア・テスタロッサに渡すつもりなのだろう。故に殺害ではなく捕獲。不幸中の幸いと言うべきか、今の所は神楽に命の危険は無いことを知ることができた。

 

 

「阿武斗、篝、今回の件は見逃してやる。それに金も払ってやる」

 

 

神楽の居場所を知ることは出来たがそこにいる敵勢力は未知数。原作ならば警備用の機械人形がいる程度だったがおそらく転生者の介入が考えられる。

 

 

「だから手伝え、時の庭園から神楽を助け出すのを」

 

 

だから信は神楽を拐った要因の一つである阿武斗とイマイチ状況が飲み込めていない篝にそう持ちかけた。

 

 

 

 

 






神楽誘拐後の信たちの反応でした。時間的にはなのはとフェイトの決闘の前夜ですね。つまり決闘のある辺りで……

リザと信の心境は大体こんな物です。描写はしていませんがヴァレリアの心境も同じです。つまり全員ブチ切れる一歩手前、何かキッカケがあればプッツンします。

今回登場した阿武斗と篝はミッドで生まれた転生者で、ミッドの方で何でも屋を経営しています。地球には依頼や、息抜きの休暇で来るので地球産の転生者の中では知られていたり知られなかったりとマチマチです。信とは休暇で地球に来ていた時に知り合いました。それでも知り合いの関係です。

さて、そろそろ無印も終盤にきましたね。満足いく終わり方に私は出来るのでしょうか?

感想、評価をお待ちしています。


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