「AAAAAAAAAーーー!!!!」
第二の渇望を見出し、様変わりをした神楽が吠える。目も覚める様な白だった髪は燃える様な紅と赤銅色に変わり、背中からは禍々しい刃が翼の様に広げられている。
ーなんだこれは?
この神楽の姿を見たプレシアは驚愕する。事前にフェイトと愛莉から聞かされていた情報と全く違う姿になっているのだから。
愛莉は理性を無くし、高速の移動を行う獣を思わせる様な戦い方をしていたと言っていた。フェイトは理性を保ちながら自身を上回る高速移動をしてきたと言っていた。二人から得られた情報ではここまで明確な変化をもたらすとは欠片もなかった。愛莉からの情報はともかくフェイトからの物が嘘とは考え難い。アレはプレシアの言う事なら全て従うのだから嘘をついたとしても彼女にはなんのメリットも無いのだから。
情報には無い姿にはなったが高速移動による戦闘は変わらないはずだと考えてプレシアは神楽に仕掛けていた保険の魔法を発動させる。その魔法は重力、対象にかかる重力を数百倍にまで引き上げて拘束するという術式。使用された者は例外無く潰れてしまうために管理局から違法とされている魔法の一つだがプレシアには関係無かった。
だが、魔法を発動させたというのに神楽には変化が見られない。普通ならばまともに立っていられなくなるはずなのに神楽は平然と立ったまま。
甘いとしか言えない。神楽に与えられた魔の法は
それに気づかないながらも神楽の変貌のショックから立ち直った転生者たちが動き出す。ここに来て神楽が脅威となったことを悟ったからだ。対応が遅すぎると言われるかもしれないがそれを言うのは酷というものだろう。
投影によって編み出された古今東西の魔剣聖剣が射出される。
人々の願いが形となった神造兵器が振り下ろされる。
黒い霊圧が斬撃として放たれる。
九つの尾を持った狐が黒球を吐き出す。
陽炎の様に揺らめく荒武者が黒く燃える手裏剣を投げる。
二振りの双剣から16連撃が繰り出される。
空気を圧縮して作られたプラズマが猛る。
千の雷が落ちる。
目の前を覆い尽くす程の砲撃が発射される。
なるほど、常人であるのならこれらの攻撃を受けただけでチリも残さずに蒸発するだろう。
しかし、それは神楽には届かない。
「RuuuuーーーAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
神楽が吠える。それは始めにあげた己の変性を知らしめる様な物ではなく、己が覇道を叫ぶ咆哮。
創造『
そしてこの創造の効果は時間の引き伸ばしによる加速と停滞。使用者を加速させると同時に視界に入る存在の時間を強制的に停滞させる。つまり神楽が加速すればする程に視界に入る存在の時間は停滞させられる。
古今東西の魔剣聖剣も、人々の願いが形となった神造兵器も、霊圧の斬撃も、黒球も、手裏剣も、16連撃も、プラズマも、雷も、砲撃も、今の神楽も前では止まっているに等しかった。
世界を転生し、天上の存在である神から力を与えられた転生者たちは驚愕した。当然だろう、今彼らは全力で己が力を振るったというのにその全てが一人の停滞によって絡みとられたのだから。それは時間という絶対の論理で編まれた縛鎖。如何様な存在であれ万倍を超える重力を被せられたに等しいこの拘束から逃れられない。
蹂躙される生者の叫びさえ追い越して、無間地獄の力を得た復讐者が疾走を開始した。
廃墟となった教会の真上に当たる空中に一人の少年がいた。建物を一つ破壊し、そこに住まう人々を殺したというのに少年の顔からは表情が抜け落ちていた。
彼はあの夜、愛莉から神楽の姿を見せられた時に他の者と同様に言いようの無い嫌悪感を感じていた。しかし、それと同じ位に彼に同情の念も抱いていた。誰からも理由無く嫌われる神楽の事を彼は憐れんだのだ。それは普通の感性だと言えるが神楽の原因不明の嫌悪を知る者からすれば異常な感性とも言えた。
転生者たちが神楽の討伐を決めている中で彼だけは反対をした。理由も無くそんなことをするとは考え難い、まずはその理由を探るのが先決だと言い放った。それは正義感に燃える者や、神楽を倒して自分こそがこの世界の主人公だということを証明したい者からすれば裏切りや水を差されたに等しい発言だった。殺気立つ転生者たちを愛莉が言霊をチラつかせながら脅すことでその場を納めたが、その瞬間から彼は愛莉に目を付けられた。
集会の翌日、彼の家に愛莉がやって来た。そしてーーー愛莉の特典である言霊を使われた。ここまで強引な手段に出るとは思わなかった彼は言霊に逆らえずに愛莉に洗脳される。しかしそれは普通の洗脳とは違っていた。彼の精神はまだ囚われていない、彼の身体だけが囚われている。これは自分の思う様に動かなかったことに対する愛莉の報復だった。
そうして彼は愛莉の傀儡となり、囚われていない精神で囚われた身体が己の特典を使って神楽の関係者である者たちを殺す場面を見せつけられた。
精神は嘆く。何故ここまでする必要があるのかと。
身体は泣く。愛莉の命令通りに動く傀儡と成り果てて、嘆く精神に引かれる様に。
無表情で涙を流しながら、ただ彼は自分が壊した教会を見下ろしていた。
「ーーーやれやれ、もしもと思いましたがまさかここまでするとは」
その時、瓦礫が動きそこから一人の聖職者が現れた。金髪でメガネをかけている神父が困った様な顔で服を叩きながら無傷で這い出して来たのだ。更に退かされた瓦礫の下から半球体の砂が現れてる。砂が崩れるとその中には眠っている二人の少女と目元に濃い隈を作り、大きな瓢箪を背負った桃色の髪の少年がいた。
「あ〜あ、完全に壊されましたね……ここまでやられたら修理じゃなくて建てた方が早そうですよ本当に」
「俺を残らせたのもこれを見越してのことか?」
「えぇ、逆恨みでここを襲われる可能性が否定出来ませんでしたから。テレジアとはやてを守るために残らせました。貴方はそのまま二人を守っていてください、私が片付けましょう」
神父は教会のことを残念そうにそう言いながら桃色の髪の少年に指示を出し、空中にいた少年に目を向けた。
「貴方が、これをやりましたね?」
「ーーー」
「答えない……いや、答えられない?操られているのですか?」
神父の問いに答えずに少年は片手を神父へと向ける。その一動だけで神父に向かって雷が落ちた。
少年の得た特典は
数億Vの電流が指向性を持って神父に落ちる。それだけでは止まらない。さらに身を切り裂く様な竜巻が、成人男性よりも巨大な雹が、神父へと向かっていく。これは遠くからこの光景を見ていた愛莉の指示だった。愛莉は神父の異常なまでの硬さを知っている。だからこそ過剰なまでの攻撃を向ける。
それを知らない少年は嘆くことしか出来なかった。
もう良いだろう、もう辞めてくれ、自分に人を殺させないでくれ、もうこれ以上、人を傷付けさせないで。
誰にも届かない慟哭は、少年の目から流れ出る涙で証明される。自分の力で自分の望まないことをさせられる事を嘆き、少年は望んだ。
ーーー誰か、自分を止めてくれ。誰か、自分を殺してくれ。操られて、誰かを傷つけてしまうこの道化を、誰か止めてくれ。
しかしその望みは誰にも届かない。魂の慟哭など誰の耳にも聞こえない。少年の望みは叶う事なく、神楽の関係者を殺すための傀儡として動く未来しかないーーーはずだった。
ーーー
ーーー
天災の轟が木霊する中で、祈りの声が聞こえた。その祈りを捧げているのは他でもないあの神父だ。彼は、生命の存在を否定する様な天災の中で祈っている。
ーーー
ーーー
ーーー
それはそうだ、彼の者は人ではない。水銀の蛇に与えられた永劫破壊の法に触れ、その身を魔に堕とした邪なる聖者と呼ばれた存在である。
思い出す、あの時の自分を。彼の黄金の獣に膝をついて同じ渇望を幻想していた時の自分を。
ーーー
蛇の永劫破壊などこの世界では使うつもりは無かった。だが、自身が愛すると決めた神楽が彼らによって囚われ、愛するテレジアとはやてが危機に晒された今では、その様な物は無価値に等しい。
愛する者たちを守る為に、ヴァレリア・トリファは今一度幻想の渇望を溢れ出した。
ヴァレリアの胸から槍の穂先が生える。そして彼に降りかかっていた天災の一切が掻き消された。
これは彼の黄金の獣が振るっていた聖人を貫いた至高の聖遺物。彼と同格の存在であるならばまだしも、人の身で再現される神の怒りなどこれの前では児戯に等しい。
そして至高の聖遺物が放たれた。光さえも置き去りにする速度で飛翔する槍は少年の胸を貫き、立ち込めていた暗雲さえも払う。
ーーーありがとう。
ただ使われるだけの傀儡の存在から解放された少年は自分を殺してくれたヴァレリアに感謝の言葉を送った。それは天上の存在の気まぐれか、聞き間違いかと思う程にか細い音でヴァレリアの耳に届く。
「……Amen」
それを聞いたヴァレリアは迷う事なく、傀儡であった少年に安らかな眠りを願って祈りを捧げた。
フィナー蓮神楽君爆走開始。これは前までの白騎士創造と違って本物の創造です。
違いを説明してしまえば白騎士創造はジュエルシード五つで再現された不完全な創造、フィナー蓮はジュエルシード二十一個で再現された完全な創造となります。前者は身体能力が強化されていますが霊的装甲が無い不完全な創造と作者の中では考えています。
そして皆様お待ちかねの変態神父様による白鳥YO☆です!!死亡フラグになんてさせませんよ!!(ガチトーン)
教会防衛は神父様とミッドチルダの転生者二人組の片割れの阿武斗の二人でしたが一撃で教会を崩壊させられたので阿武斗が予め眠られていた熊本先輩とはやてを守り、神父様はそのまま埋まっていました。神父様の扱いが酷い?これが普通なんですよ。
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