愛し方を知らない孤独な銀狼   作:鎌鼬

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第17話

 

 

ヴァレリアが転生者を聖槍で屠っていたのと前後して、プレシア・テスタロッサの拠点である時の庭園では戦闘が行われていた。

 

 

十字架の刻印が施された黒銃を撃つのは信、装填数である六発を一息の間に放つと瞬きよりも速く装填を済ませてさらに撃ち放つ。

 

 

「スゥゥゥゥゥパァァァァァァァ銀色の足ィィィィィィイ!!!スペシャぁァァァァァァル!!!」

 

 

その近くで蹴り砕いているのは信が雇っている転生者の篝。彼は足に紫の装甲を着けて飛び蹴りを全力で放っていた。

 

 

「クソッ!!予想よりも数が多すぎるだろうが!!」

「文句言ってる暇があるならその分働きやがれ!!金払わねぇぞ!!」

「わぁってるよ!!」

 

 

二人の声から感じられるのは苛立ちと焦り。彼らの目的は転生者たちに捕らえられた神楽を救出する事なのにそれを阻む存在がいるからだ。

 

 

その正体は機械兵。プレシアが護衛目的で製造した命の無いカラクリ。その存在があることは二人は知っていたのだが……予想していたよりも数が多く、そして強い。その理由はプレシア側に組していた転生者。その転生者の得点は機械の改造に関する事でそれでプレシアの機械兵を強化、増強していたのだった。

 

 

二人の顔からは僅かながら疲労の色が見えるものの傷はついていない。倒せない強さでは無いのだがそれでも数の暴力に徐々に押されてしまっていた。一を倒せば二現れる、二を倒せば四現れる。減るよりも早く増えていく機械兵の存在が余計に二人から余裕を奪う。

 

 

「ーーー二人とも、退がって」

 

 

埒があかないと考えたのか二人に下がる様に指示して前に出たのはリザ。いつも着ているシスターの服装では無く威圧感を感じさせる軍服を着ていた。女性用らしく足を曝け出す様に大きく開けられたスリットからは男を誘う様な艶かしい足が見える。そして腕には黒円卓が刻まれた腕章が付けられていた。

 

 

この服になったのはリザなりの意思表示だと言えよう。神楽を愛するシスターとしてのリザ・トリファとしてでは無く、かつて魔人の集団に属していた頃のリザ・ブレンダーとして戦うという決意の現れ。水銀の蛇につけられた大淫婦(バビロン)の魔名を思い出しながらリザは詠った。

 

 

ーーーDaß sich die Himmel regen (天が雨を降らすのも)Und Geist und Körper sich bewegen (霊と身体が動くのも )

 

 

ーーーGott selbst hat sich zu euch geneiget (神は自らあなたの許へ赴き)Und ruft durch Boten ohne Zahl (幾度となく使者でもって呼びかける )

 

 

ーーーAuf,(起きよ) kommt zu meinem Liebesmahl(そして参れ 私の愛の晩餐へ )

 

 

形成(Yetzirah)ーーー蒼褪めた死面 (Pallida Mors)

 

 

暗闇に一つの仮面が浮かび上がる。無機質な画面でありながらそこから放たれる威圧にはどこか死を感じさせるという矛盾があった。実際それは間違いでは無い。リザの永劫破壊(エイヴィヒカイト)の聖遺物は蒼褪めた死面、それは彼女のかつての業によって死んだ赤子の死体の皮膚から作られた仮面だからだ。本当ならば目を逸らしたくなる程に深い業であるが、リザは決して目を逸らさない。彼女はこの業を受け入れると決めているし、もう二度と同じ事を繰り返さないと誓っているのだから。

 

 

そして暗闇からそれは現れた。顔は蒼褪めた死面を着けているのでわからないが常人を遥かに超える巨体の肌色は生きているとは思えない土気色だった。そう、それは生きてはいない。それの魔名は死を喰らう者(トバルカイン)、かの黄金の獣が振るう聖槍のレプリカを創り出した事で呪いを背負う事になった一族の成れの果て。偽槍に魂を喰われながらに解放される事の無い死体だった。

 

 

「■■■■ーーー」

 

 

命亡き死者が動き叫ぶという矛盾。そのカラクリはリザの蒼褪めた死面にある。彼女の形成の効果は死面を着けた死体の操作。死者の冒涜と蔑まれるだろうが彼女にとってはその蔑みの声などどうでも良かった。

 

 

「■■■■■■■ーーー!!!!!!」

 

 

トバルカインが吠え、手に持った身の丈程の巨大な剣を振るい機械兵を粉砕していく。互いに命の無い使われるだけの存在ではあったが直接指示を受けているトバルカインの方に軍配が上がったようだ。信と篝が砕くよりも早く、出撃している機械兵を塵にしていく。

 

 

「すっげぇ……」

「……」

 

 

篝は純粋にトバルカインの戦闘能力に驚いている様子だったが信はトバルカインを操っているリザに恐怖していた。リザの顔は無表情ながらにもその美貌は失われていない。それでも彼女から感じられる感情は憤怒、その姿は我が子に害をなされて怒り狂う鬼神母子を連想させた。

 

 

「(こぇえ……)」

 

 

リザのことを怒らせないようにしようと誓う信だった。

 

 

トバルカインが機械兵を破壊しながら進むと階段が現れた。その階段は上に向かう物と下に向かう物の二つに分かれている。

 

 

「ーーー別れましょう、私は上に行くわ」

「あいよ、俺らは下だ。篝、ついて来い」

「了解!!」

 

 

そしてノータイムで決めてリザとトバルカインは上に向かう階段を登り、信と篝は下に向かう階段に飛び込む。これは上と下のどちらに神楽がいるのか分からないために取った手段。本来なら別れることなく進むのが良いのだろうがもしも向かった先に神楽がいなければ悪戯に時間を消費するだけになる。リザと信は互いの心配をそんなにしていなかった。リザには機械兵を簡単に粉砕するトバルカインが付いているし、信は篝と一緒なら機械兵にも遅れを取らないと確信しているからだ。

 

 

彼らの目的は神楽の救出、故に迷う事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして十分程時間が経ってから、新たな来訪者が時の庭園に現れた。彼らは時空管理局という集団に所属している魔導師で、犯罪者であるプレシアを逮捕するためにやって来たのだ。その中には地球出身の魔導師である高町なのは、プレシアの娘であるフェイト・テスタロッサ、そして転生者たちが数人混じっている。

 

 

「これは……」

 

 

この集団を指揮している執務官のクロノ・ハラオウンは時の庭園の惨状を見て唖然としていた。目の前にあるのは粉砕されて動くことの無い機械兵の残骸。天井が見えない程に高い廊下には無数の弾痕と何かで斬ったような跡が残っていた。

 

 

「……誰かが先に来ているのか?」

 

 

この痕跡は間違いなく戦闘の起こった後だという証明。そのことから機械兵に迎撃されるような人物が自分たちよりも先に来ているとクロノは予想した。

 

 

「ーーーなのはとタケル、チットとサトリは上に向かってここの動力源の封印を。僕とフェイトと夜行と凪は下に向かってプレシアの捕獲に行く」

「うん!!」

「あぁ!!」

「へーい」

「分かりました」

「はい」

「心得た」

「了解!!」

 

 

彼らはクロノの指示に従って時の庭園の動力源がある上に向かう者とプレシアを逮捕するために下に向かう者とに別れる。

 

 

本当ならまとまって行動したかったのだがプレシアの目的を知った今ではそんな悠長なことを言っていられなかった。プレシアからの次元跳躍魔法で気絶したフェイトを起こして尋問した結果、プレシアがアルハザードに向かおうとしていると判明したのだ。それはお伽噺で語られるようなあやふやな存在で、本当にあるかどうかも怪しい。だがプレシアはあると確信している様だったのだ。そんなものがあるとするなら次元の狭間にあるとしか考えられないと智慧者である夜行は言った。普通では辿り着けないだろうが……ジュエルシードを使って次元震を起こし、無理矢理に穴を開ければ可能性があるとも言ったのだ。そんなことをすれば今現在存在している世界にどんな影響が及ぶか分からない。だが決してプラスにはなることは無いとだけは理解できた。

 

 

なので時の庭園の動力源を停止させ、僅かでも次元震の規模を抑えようとしようとして二手に分けたのだ。

 

 

「(しかし……)」

 

 

クロノは付いてきているフェイトをチラリと見る。本当ならば実行犯である彼女をこの場に連れてくることはしたくなかったのだが時の庭園の案内役にしようと夜行を除く者たちから提案されたので仕方なく連れて来たのだ。デバイスを持っていていつ裏切るか分からないフェイトだったが執務官である自分と夜行と凪がいれば鎮圧に問題無いと判断している。ただ、夜行はどこか快楽主義の嫌いがあるので数として数えるのは不安になるのだが。

 

 

「(それに……この胸騒ぎはなんだ……?)」

 

 

クロノの心中にあるのは訳の分からないざわつき。何があるのか分からないがこの先には何か良くない出来事が待っているとクロノは予感していたのだ。もっとも、そんな何も確証の無いことで足を止めるわけにはいかないとクロノはプレシアの元に向かっているわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

どちらにしても、何にしても、この物語は確実に終わりにへと向かっている。

 

 

 






リザ、信、篝サイド。基本的には無双だが数の暴力で押し込まれてた。そこにトバルカイン投下してゴリ押しで進む。

リザたちに遅れて主人公と時空管理局と転生者勢がやってくる。タケル、チット、サトリは管理局所属の転生者。夜行と凪は地球出身の転生者。夜行以外の四人はオリ主的ポジションで、夜行はただ面白そうだからという理由で原作介入しているだけ。

あと神楽がプッツンした所為でアリシアが登場していないのでフェイトはプレシアから自分がアリシアのクローンであるとネタバレされていない。これは幸せなのかな?

どちらにしても多くても五話位で無印編は終了の予定です。

感想、評価をお待ちしています。


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