愛し方を知らない孤独な銀狼   作:鎌鼬

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第19話

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

「あっはっはっは!!!!ほぅらこちらだ、追い掛けてみせよ!!」

 

 

凍結された時間の中を風を切りながら駆けるのは無間の力を宿した神楽。己が法則で止まらない夜行に追い付き腕と背中から生えた刃を伸ばす。

 

 

吐菩加身依美多女(トホカミニミタメ)――祓い給え清め給え――

寒言神尊利根陀見 (かんごんしんりそんだけん)!!!!」

 

 

夜行の周りに呪の書かれた札が張り巡らされ、二十にも及ぶ次空断層が発生する。これが神楽の法則からクロノたちを守った仕掛け。一時的にその空間をこの世界から切り離すことで神楽の発言した遅滞の法則に抵抗してみせた。それでも誤魔化せない程の実力の差があるのは事実、如何に世界から切り離したところでそれは抗う程度の効果しか無く完全に逃げ切れている訳ではない。

 

 

神楽の手と鎌が次空断層に触れーーー拮抗も見せずにガラスの様に砕け散る。次空断層の防御と共に衝撃を相転移する絶対防壁も展開していたがそれすらも力任せに貫かれる。

 

 

「ーーー(オン)!!!!」

 

 

すべての防御が抜かれる直前に神楽の眼前に一枚の札が現れて夜行の呪と共に爆ぜる。それは神楽からすれば飛び散った火花程度の熱量しか感じさせないものだったが札の爆炎により神楽の視界が封じられ遅滞の法則を遮る。

 

 

その隙に夜行は新たな次空断層を展開しながら距離を取っていた。

 

 

彼らの戦いの場は時の庭園から飛び出し、次元の狭間と呼べる空間に移っていた。夜行は己が編み出した術によって宙を舞い、神楽は足場となる空間を遅滞の法則で凍てつかせることで跳んでいる。

 

 

「ーーーふむ、私の力を十とすれば……貴様の力は五千、いや万と言ったところか」

 

 

夜行は俗に言う天才と呼ばれる類の人間である。己の評価は間違えないし、例え格上の相手だとしても桁一つなら上なら打倒、桁二つ上であっても戦闘不能、もしくは封印することが出来る。その夜行が自分のことを神楽と比べて十と称したのだ。

 

 

だが、絶対的な実力差があろうとも夜行の顔からは薄ら笑いは消えていない。勝ち目などご都合主義の者でも無い限りは誰も望めないであろつこの絶対的な差。だが、夜行はタダで負けてやるつもりは無かった。

 

 

「さて、貴様は如何様にして堕ちた?絶望したか?裏切られたのか?それとも……怒りか?」

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 

夜行の言葉を掻き消すようにして神楽が吠える。それだけで次元断層の防御が幾つか砕け散った。特別何をした訳でも無い、ただ格が違いすぎるが故に神楽の叫びでさえ夜行からすれば攻撃に等しいだけだ。

 

 

「図星かな?そうかそうか、彼奴らに何か大切な者らでも傷つけられたのか?あの場には己のことしか考えぬ天狗道の住人のような輩がいたであろうからな」

 

 

暁夜行は転生者である。だが他の転生者とは違い、自ら進んで転生した訳では無い。生前天才と呼ばれていた彼は多くの偉業を成し遂げてきた、それを見たとある神がこの世界を見る為の端末として彼のことを強制的にこの世界に送り出したのだ。

 

 

陰陽師の家系として生まれ、夜行と名付けられた。そこで教わった術は前世では無かったのもで彼の興味を非常に引いた。だが、それだけだ。天才であるが故に家に伝わる秘術を容易く修得し、新たな術を十にもならぬ年頃で作り出す。それは普通の人間からすれば天才を通り越して化け物と認識される行いだった。

 

 

だから彼は望んでいるのだ。己がただの天才であると、化け物と呼ばれるこの身でも乗り越えられぬ様な存在がいることを、そしてその存在を乗り越えてさらなる高みへと至ることを。

 

 

だから夜行は蟻が蝉の死骸を運ぶのに例えて、自らを蟻と形容せざるを得ない強大な好敵手を求めた。そして目の前に、蝉と思わしき存在がいる。圧倒的劣勢の中でも夜行の内心は高揚していた。

 

 

夜行の背後に巨大な曼荼羅が浮かぶ。それは夜行を中心に立てた一つの世界、彼の定めた法則で支配された一つの宇宙。独立した一つの世界とも言えるそれは神座に辿り着いた存在から太極と呼ばれる物だった。だが、定めた法則で支配されたはずの太極だが夜行のそれには色……いわゆる指向性が無かった。それは夜行が己の色を理解しないままにこの頂きに至ってしまった証拠。だからこそ、夜行は無形の太極を染められる程の好敵手を望んでいる。

 

 

「ざんざんびらり、ざんざんばり、びらりやびらり、ざんだりはん

つくもふしょう、つかるるもふしょう、鬼神に王道なし、人に疑いなし

 

総て、一時の夢ぞかし

 

ここに天地位を定む

 

八卦相錯って往を推し、来を知るものは神となる

 

天地陰陽、神に非ずんば知ること無し 」

 

 

夜行にしか出来ない夜行だけの咒を紡ぎ出し、それに合わせて太極が揺らめく。すると太極がその形を変えて新たな形にへと組み替えられる。太極の中心から伸びた一筋の光が次元の狭間に穴を開けて新たなる空間にへと繋げる。そして夜行が躍らせる十指が虚空に光の尾を引いて太極を何層にもなる立体の大曼荼羅へと形を整える。

 

 

太極により開けられた穴は徐々に広がっていき、直径数キロ程のサイズになるまで広げられた。最後に、咒力の密度は幾何学的に膨れ上がり、咒法が励起される。

 

 

「計都・天墜ーーー我が蝉となる者なら、この程度超えられるであろう?」

 

 

そして開いた穴から夜行の呼びかけに答えるかのごとく、計都彗星の威容が宙の果てから燃える大火球と化して迫り来る。 呼び出された計都彗星は彼らの近くで漂っている時の庭園よりも一回りは大きい。一個人に対して使う術にしてはあまりにも大袈裟すぎる。

 

 

だが、ここにいるのは餓鬼道の後押しを受けて至った無間の赤子、この程度で揺るぐ存在では無い。

 

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang(血 血 血 血が欲しい)

 

Donnons le sang de guillotine(ギロチンに注ごう飲み物を)

 

Pour guerir la secheresse de la guillotine(ギロチンの乾きを癒す為)

 

Je veux le sang, sang, sang, et sang(欲しいのは血 血 血)ーーー」

 

 

神楽の口から静かに語られるのはギロチンのリフレイン。そして神楽の背後に全身を拘束具で縛られ、目隠しをされた3メートルを超える痩躯の人物が現れる。

 

 

「ーーー罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)!!!!」

 

 

神楽の叫びと共に痩躯の背後から神楽の背中から生えている刃と似通った痩躯の身の丈を超える大きさ刃が複数現れて射出される。だがそれと同じなのは見た目だけ、それに宿った神威は比べ物になら無い。

 

 

夜行の放った計都彗星をまるでバターの様に切り裂きながらその奥にいた夜行を次元断層の防御ごと切り裂く。生きているのは運が良かったとしか言いようが無い。僅かにでも立ち位置がずれていれば夜行は肉片にされていた。

 

 

夜行は痛みと喜びで顔を歪ませながら神楽を見ようとしーーー遅滞の法則に囚われた。抵抗していられた次元断層の防御が切り裂かれたのだから当然の結果であると言えよう。

 

 

「シーク・イートゥル・アド・アストゥラーーー」

 

 

遅滞の法則に囚われた夜行に向かい静かに呟く。それに呼応する様に痩躯の口が開き、高密度のエネルギーが収束されていく。遠目から見てもその危険性が理解出来る。神楽はそれを夜行に放とうとしていた。

 

 

「ーーーセクゥェレ・ナートゥーラァァァァァムッ!!!!」

 

 

そして放つ為の最後の一文が語られた瞬間、痩躯の頭部目掛けて光の矢が飛んできた。神楽の知覚外から放たれたそれに反応出来る訳がなく痩躯に命中、砲撃は見当違いの方向に放たれた。

 

 

「ーーー神楽ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

そして、時の庭園から友人の声が聞こえた。

 

 

 





神楽VS夜行、神楽圧勝。実力が違い過ぎる上に夜行の決め手が無いからしょうがないね。

リフレインの時に現れたのは神楽の随神相。餓鬼道と無間のバックアップありだから夜都賀波岐の様に擬似神格として随神相を出させました。ただし神格としては下の下の下、かなり弱い部類になります。


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