「ただいま~」
今住んでいる海鳴の町に立てられた教会、そこが僕の家であり、僕のことを引き取ってくれた神父様とシスターが勤めている場所でもある。信者用の礼拝堂のある正面ではなく住んでいる者たち用の裏口から住居スペースに入る。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま、シスター」
帰ってきた僕を迎えてくれたのはこの教会のシスターであるリザ・トリファさん。重たそうな本を積み重ねて運んでいるところで僕に気がつき、わざわざ足を止めて声を返してくれた。
「その本は…………また神父様の?」
「そうなのよ、あの人ったら珍しい本を見つけたらすぐに買ってきて…………もう書斎の棚は一杯なのに」
「今どこにいるの?」
「礼拝堂よ。良かったら顔見せてあげて」
「元からそのつもりだよ」
シスターから神父様の居場所を聞いて信者用の礼拝堂に向かう。礼拝堂に入るとなんというか締まった空気が出迎えてくれる。やはり宗教の中で神に祈りを捧げる場所というのはこういう物なのだろうか。
礼拝堂の奥に置かれた祭壇の前で、膝をつきながら祈りを捧げている男性がいた。祈りを邪魔するのは失礼だと思うので祈りが終わったタイミングを見計らって男性に声をかける。
「ただいま、神父様」
「あぁ、神楽君ですか。お帰りなさい」
僕のことに気が付いた神父様が柔らかい笑みを浮かべながら返してくれた。この人はこの教会の神父のヴァレリア・トリファさん。名前から気がつくかもしれないがシスターとは夫婦である。
「聞くまでも無いと思いますが一応念のため、学校はどうでしたか?」
「分かりきったことを聞かないでよ…………いつも通り、誰も彼もが嫌悪の目で僕のことを見てたよ。いつまでもあそこにいたら何されるか分からないから速攻で帰ってきた」
「そうですか…………悲しいですねぇ。こんなに可愛らしいというのにどうして周囲は貴方のことを嫌うのでしょうか?」
「分からないよ、でも宗教的に言ったら神から与えられた試練とかなのかもしれないね。その時は神殺しも厭わない所存だけど」
「ハハハ…………私とリザ以外の宗教家の目の前では言わないでくださいね。中世だと異端者と言われて処刑されてもおかしくないですから」
「そう考えると宗教ってホントキチガイだよね、別の神や神を馬鹿にするようなことを考えるだけで殺されるとか」
平和な今の世の中では考えられないが宗教が国並みの権力を持っていた頃なんて異端者狩りが普通だったはずだ。意見が合わなかっただけで殺すとか宗教マジキチガイ。
「ただいま」
「あぁお帰りなさい、テレジア」
「お帰りなさい、レア」
神父様と話しているときに後ろからひょっこりと現れたのは神父様とシスターの娘のテレジア・トリファ。年は僕の一つ上で僕ともう一人は彼女のことをレアと呼んでいる。あだ名みたいな物だ。
「神父様、神楽、お母さんが呼んでる。御飯出来たって」
「テレジア、いつも言っていますけど私のことは『お父さん』と呼んでください。もしくは『パパ』でも可です」
「嫌」
「おうふ…………」
「一言で撃沈…………相変わらずレアは口がキツいね」
父親なはずなのにいつまで建っても神父様呼びされている。シスターは母親呼びなのにどうしてだろうか?撃沈している神父様を置いて食堂にレアと食堂に向かっている時に気になって聞いてみた。
「ねぇレア、どうして神父様のことをお父さんと呼んであげないの?シスターのことはお母さんって呼んでるのに」
「…………だって、恥ずかしいから」
恥ずかしそうに頬を赤らめて呟いたレアの言葉は嘘を言っているように思えなかった。神父様が聞いていたら狂喜乱舞していただろうがこの場にいるのは僕だけ、そして僕はこの事を神父様に伝えるつもりは無いので事実はレアが伝えようと思わない限り神父様に伝わることはない。
「乙女心っていうのは複雑だねぇ…………」
「えっへん」
「いやいや、そこ胸を張るところじゃないから」
そんなことをしながら食堂に着くとテーブルの上に並べられた料理、そして料理するために着けていたであろうエプロンを畳みながら台所から出てくるシスターと車イスの少女の姿があった。
「あっ神楽君、レア、お帰り」
「ただいま」
「ただいま、はやて」
車イスの少女の名前は八神はやて、両親が事故で亡くなって親戚もいなかったために引き取られた少女である。年は僕の一つ下だが今年の六月に誕生日なのですぐに追い付かれることになる。僕とほぼ同時期に引き取られた嬉しくない同期でもある。
「へぇ、今日ははやても作ったんだ」
「そうや、うちは足がポンコツで動かせなかったから行けなかったけど新学期やからな。そのお祝いや」
「はやてとお母さんの料理は美味しいから好き」
「まったく、テレジアも早く覚えた方が良いわよ」
「お、お湯注いで作るのなら完璧だから…………(震え声)」
「レア、それ料理とは言わないよ」
足が使えないというハンデを持っているが家事を完璧にこなせるはやてに対してレアは家事が出来ない。いや、出来なくはないが一人でさせたら酷くなることが多々あるのだ。なのでレアに家事をさせるときには僕が一緒にすることになっている。その為かレアを差し置いて僕の家事スキルはメキメキ上達している…………悲しいなぁ。
「そう言えばヴァレリアは?一緒にいたのでしょう?」
「神父様なら礼拝堂でうちひしがれてるよ。レアの口撃で」
「はぁ…………あの人ったら、いつまで経ってもメンタル弱いんだから…………呼んでくるから少し待っててね。遅くなるようなら先に食べてていいから」
そう言ってシスターは食堂から出ていった。残されたのは僕ら三人とテーブルの上に並べられた料理。だけど誰もそれに手をつけようなんて考えていない。基本的にこの家ではどうしても外せない用事でも無い限りはみんな揃って食事を取るようにしているからだ。誰かが決めたという訳ではないが自然とそうしている。
「にしても作ったね。はやてはどれを作ったの?」
「このサラダと生姜焼きと海老フライやな、後は全部リザさんが作ったで。レアも作れるようにならないけんな」
「ぐぬぬ…………これで勝ったと思うなよ」
「もう勝負着いてるから」
その後、シスターが頭にコブを作った神父様を連れてやって来たので食事を始めた。はやてが作った料理もシスターが作った料理も、どれも美味しかった。
「私の鋼牙に跪くがいい」
『
「クックック!!うちの逆十字に勝てると思ってるんか!?」
『俺の糧となれ』
「よろしい、ならば僕は魔王となって試練を与えよう!!」
『我も人、彼も人、故対等基本であろう?』
食事を終えた僕たちはテレビの前を陣取って『戦神館シリーズ』と呼ばれているゲームをしていた。ジャンルはよくあるような格闘ゲームだがそのキャラの個性が良いとの評判のゲームだ。レアは鋼牙と呼ばれる銀髪の少女、はやては逆十字と呼ばれる細身のスーツの男性、僕は魔王と呼ばれる軍服の男性を選んでトーナメント形式の対戦をしていた。
プレイヤーよりもNCPの方が多いのでNCP同士の試合も当然のように出てくる。それを飛ばすことも出来るのだが今日は飛ばさずに観戦しておくことにした。
「ねぇねぇ神楽君、どうしていつも魔王使っとるん?他のキャラもあるんにどうしてや?」
「それは私も気になった。教えて」
「ん~?そんな考えたことはないけど…………」
テレビの画面で殴りあっている金髪ガングロの男性と制服を来た少女の試合を見ながら僕が魔王をよく使っている訳を答えた。
「魔王ってさ、人間大好きじゃん。この人なら僕のことを嫌わないでくれるんじゃないかって思ってさ…………それから愛着沸いて使ってるんだ」
魔王と呼ばれる軍服の男性は人間をどこまでも信じ、そして愛していた。そんな彼なら僕のことを嫌わないでくれるんじゃないかと思っていた。理由にしてみたらそれだけのこと。でも、この家の人たち以外から嫌われている僕からしたら例え想像の人物であっても可能性があるならすがりたいと思っているのだ。
「…………神楽君」
「…………神楽」
僕の答えを聞いたレアとはやてが左右から僕に抱き付いてくる。他人から拒絶されるだけの僕を二人の温もりが包んでくれる。
「安心して、うちは神楽君のこと嫌いにならへんから」
「私も同じ、神楽のこと嫌いにならないから安心して」
「…………ん、ありがとう」
他人に触れる機会があるとしてもそれは殴られる時だけ、他人に語られる機会があるとしてもそれは罵詈雑言を吐かれる時だけ。だから、そんな僕を優しく抱き締めてくれ、そして優しい言葉をくれる二人の気持ちは言い表せないほどに嬉しかった。
「…………あ、はやて、逆十字が盲目打ちにフルボッコにされてるよ」
「え?…………ってあぁ!!うちの逆十字がぁ!?おのれ盲目打ちぃ!!」
「ざまぁ」
「あれ?レアの鋼牙の試合ってはやての前じゃ無かったっけ?」
「…………ファ!?」
なんとか盛り返そうとはやては努力したものの、流石に七割削られた状態からでは勝てるわけが無くはやての逆十字は負けてしまった。試合表を見るとレアの鋼牙は顔芸と呼ばれる女性キャラに負けていた。
二人が同時にやり直しを要求してきたので僕はそれを受け入れるしか出来なかった。
日常回で神楽の家族紹介も兼ねました。
↓人物紹介
ヴァレリア・トリファ
教会の神父。金髪の長身で眼鏡をかけていつも柔和な笑みを浮かべている。
リザ・トリファ
教会のシスター。スタイル抜群でレアとはやてはいつかあんな体になりたいと頑張っている。ヴァレリア神父とは夫婦。
テレジア・トリファ
みんな大好き熊本先輩。ヴァレリア神父とリザの実子。神楽とはやての一つ上だがそんなことは気にしていないし、誰も気に止めていない。時々変な電波を受信する。
八神はやて
関西弁の車イスの少女。両親を事故で亡くして天涯孤独になったことでヴァレリア神父に引き取られた。実家は残っている。
こんなところですかね。そしてこのキャラたちは現時点で唯一神楽のことを嫌わない人物でもあります。
感想、評価をお待ちしています。