結界によって現世とは隔絶された世界の中で響くのは発砲音。六回鳴り響き、そして一息よりも短い間で再び六回鳴り響く。
「Fahr’hin,Waihalls lenchtende Welt! 」
「速いなぁおい!!」
その現場で舞うのは白の少年神楽と黒の少年。赤い軌跡を残しながら高速で動き回る白神楽に目掛けて黒の少年が手にしている黒い銃の銃口を向けて引き金を引く。しかし弾丸は神楽に当たることはない。迫り来る弾丸を神楽は嘲笑うかのように加速して避ける。
「End’in Wonne, du ewig Geschlecht!」
「当たらねぇな…………例えで言ったのにマジもんの獣かよ」
「ちょっと!!当たってないわよ!!」
「あ?うっせぇぞガキが」
黒の少年は足にすがり付き、ヒステリック気味に騒ぐ愛莉を目を向けること無く蹴り飛ばした。蹴られた愛莉は近くにあったゴミ置き場に頭から突っ込む。
「超加速に回避能力の上昇か…………?ならこいつならどうだ?」
黒の少年は冷静に神楽の戦闘能力を見極め、それに適した弾丸を放った。
弾丸の速度は変わらず、神楽の動きを先読みして放たれた弾丸は神楽の正面に向かいーーーーーーーーーー当たる瞬間に加速した神楽にかわされた。
「ァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
酷く耳障りな金切り声をあげながら、神楽は弾丸を撃ち尽くした黒の少年に目掛けて突貫する。弾丸は尽きていて、込めなければならないがそれよりも神楽が接近して黒の少年を抉る方が早い。
そうして神楽が黒の少年を抉ろうと手を伸ばしーーーーーーーーーー
「アァ!?」
背後からやって来た弾丸に四肢を撃ち抜かれた。発砲音など無かった。完全に予期せぬ方向からの一撃をかわすことが出来ずに神楽は地面に崩れる。
「やっぱりな、回避能力は高いし速度も速い、だけど知覚外からのだと避けられないみたいだな?冷静になってる奴なら未だしも、お前みたいにぶっ飛んでると周りを見る余裕も無いってか?」
そう、神楽の加速と回避はあくまで神楽が認識しているからどんな攻撃でも避けることが出来るのだ。今までの転生者たちは馬鹿みたいに真っ正面から神楽に向かっていってその加速と回避によって皆殺しにされた。 しかし黒の少年は傲ること無く、侮ること無く神楽の能力を見極めて神楽に弾丸を当てることに成功した。
そしてこの弾丸が、神楽が暴走してから初めて当てられた攻撃でもある。
「やったの!?」
「フラグ立ててんじゃねぇよ!!」
神楽が倒れたことに気がついた愛莉が被ったゴミを払いながら黒の少年に尋ねたがそれは余計なことだった。黒の少年の注意が愛莉に反れた一瞬の隙を突き、神楽は倒れたままの状態から大きく飛び退き獣のように身を低くした。撃ち抜かれた四肢の傷は塞がっているが神楽は初めて自分に当てた黒の少年のことを警戒しているのだ。
「ァァァァァァ…………」
「余計なことしやがって…………だけどまぁ、対処法は分かった。知覚外からの攻撃、あとは必中技ってところだな…………
黒の少年の手にしていた銃が光輝き、弓のような形になり、少年が矢に当たる部分を引く。そして黒の少年の背後から蝶のような仮面を被った女性の上半身が現れて、人には出すことの出来ないはずの声量で歌った。
「アァ!?」
その歌を聞いた神楽は体が硬直するのを感じた。動かす意思はあるというのにまるで体が自分の物では無くなったかと思うほどに動かない。
「
そして原罪の矢は神楽を貫くーーーーーーーーーー
「やれやれ、近頃の子供は物騒ですね。そのような物を持っているとは」
ーーーーーーーーーーことは無かった。神楽と原罪の矢の間に現れた男性が腕一本で原罪の矢を受け止めたからだ。
「嘘…………」
「へぇ」
原罪の矢を受け止められたことに驚く愛莉と原罪の矢を受け止めた男性を興味深そうに見る黒の少年。間に割ってきた男性は金髪で、人の良さそうな笑みを浮かべ、カソック衣装に身を包んだ神父だった。
「御宅、そいつの関係者?」
「えぇ、この子の保護者を務めさせてもらっていますヴァレリア・トリファと申します。以後、お見知りおきを」
「なんで…………なんであの一撃を受けて無傷なのよ!?」
「無傷じゃありませんよ?ほらここ、少し擦りむけてしまいました」
「ハハッ!!あれ喰らって擦りむけただけとか、オッサン防御堅すぎだろ!!」
ヴァレリアが原罪の矢を受け止めた腕を見せると確かに僅かに赤くなっているところが見えた。あれだけの一撃を受けて擦り傷だけというのは理不尽としか言えないのだが、それを放った本人は可笑しそうに笑っている。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「っと、そうしている場合じゃありませんね」
「アァーーーーーーーーーーアァーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「大丈夫ですよ神楽、ここに貴方を虐める者はいません。例えいようとも、私が貴方のことを守ってあげますから。どうか泣かないでください」
「アァ…………あぁ…………」
ヴァレリアの語りかけで正気を取り戻したのか、神楽は狂気に満ちた顔から親とはぐれて泣き出しそうになっている子供の顔になる。そして神楽のことを見ていた黒の少年は、神楽が声を出さずに口を動かしていることに気がついた。
ーーーーーーーーーーお願い…………僕を抱き締めて…………僕を愛して…………
実際には声に出していないが、黒の少年は読唇術で神楽がそう言っていると分かった。そして神楽はヴァレリアの腕の中で意識を失う。
「さて…………この後の始末はこちらでします。貴方方はどうぞお引き取りください」
「っ!!待ちなさい!!貴方、この現場が見えないの!?そいつがここで死んでる人みんな殺したのよ!!」
愛莉が地面にある遺体を指差した。それは暴走していた神楽が虐殺した転生者たちの遺体。現場を見れば神楽がやったというのはわかるはずなのにそれを追求しようともしないヴァレリアを見て叫んだ。
「なら警察にでも行きますか?神楽が彼らのことを素手で殺したと?そんなことを話しても笑われるのが落ちですよ」
確かに彼らを殺したのは神楽である。しかしそれは非常識の範疇の話だ。常識の中で生きている者たちに話したとしても信じられるはずがない。
だというのにギャアギャアと騒ぐ愛梨を見かねたのか、黒の少年が愛梨の首筋を思いっきり銃底で殴った。その一撃で愛莉は意識を失い、その場に崩れ落ちる。
「うるせぇんだよ。悪いなオッサン、邪魔しちまったな」
「貴方は彼女のように騒がないのですね?」
「オッサンの意見に賛成しただけさ。それにこいつが煩かったのは本当の事だし…………それに、そいつにも事情がありそうだしな。だけど、後日詳しい話を聞かせてもらうぞ?」
「えぇ、当事者の貴方に隠すのは難しいでしょう。教会で、私はそこにいますから」
「明日にでも行かせてもらうさ…………俺は
綾木信と名乗った黒の少年はそう言ってその場から立ち去った。それを見届けたヴァレリアも神楽を抱っこしながら、その場から立ち去ろうとする。
「それにしてもオッサンオッサンってそんなに連呼しなくても…………私ってそんなに老けてますかねぇ?」
地味に綾木信から言われたオッサンという言葉に傷ついている様だった。
「戻りました」
「ヴァレリア!!神楽は!?」
教会に帰り、礼拝堂から入ったヴァレリアだったがそこにはリザが待っていた。心配そうな顔をして神楽の安否を尋ねるリザにヴァレリアは腕の中で眠っている神楽の姿を見せる。
返り血や目から流した血で汚れている神楽だったが大きな怪我をしていないことに気づいてリザは安堵のため息を漏らした。
「よかった…………」
「安心するのは早計かも知れません…………神楽が
ヴァレリアの言葉を聞いてリザは安堵の表情から絶望の表情に変わる。
「そんな…………!!」
「彼がシュライバー卿の転生体なのか、それともシュライバー卿と同じ渇望を持っているのか定かではありませんが…………神楽がシュライバー卿の創造を使っていたことは事実です」
「まさか…………副首領がこの世界に?」
「いいえ、神楽の使っていた
自分たちと同じ存在になってしまったとヴァレリアから言われたリザは寝ている神楽の頬を撫でながら涙を流した。そして、決意に満ちた顔に変わる。
「もう、あの時のように見捨てない。血塗られた道を歩かされることになろうとも、私がこの子を守ってみせる」
「リザならそう言うと思っていましたよ。私も同じ考えです。もう間違えません。何を守り、何に立ち向かうのか…………あの時のように間違えたりしません」
夜の礼拝堂で、ヴァレリアとリザは自分たちと同じ存在になってしまった神楽の顔を見ながら誓いを立てた。
ヴァレリアは決して間違えないと。
リザは決して見捨てないと。
彼らが知る者と同じ渇望を抱いた少年に誓った。
暴走神楽vs転生者、ヴァレリア乱入、ヴァレリアとリザの決意でした。
暴走神楽と転生者こと綾木信の対決はヴァレリアの乱入でうやむやになってしまいましたがほぼ信の勝ちと言ってもいい展開。これは純粋に神楽の創造の出力不足。ジュエルシードによって強引に形にされたから本来の創造よりも出力も格も落ちてしまっています。本来の創造だったら圧勝でしたけど。
ヴァレリアのチート防御で原罪の矢を受け止める、そして負傷は擦り傷程度。これはヴァレリアを傷つけた信を誉めるべきなのか…………それにしてもヴァレリアさん堅すぎぃ!!
後あの現場に愛莉は放置され、ヴァレリアが離れた公衆電話から警察に通報しました。
ヴァレリアとリザはお察しの通りにdies ireaからやって来た二人です。√は先輩√から。
そして綾木信の簡易プロフィールどうぞ↓
綾木信
特典:
黒い服と帽子を纏った少年。転生には乗り気では無かったが無理矢理させられたらしい。立場としては中立だが面白そうだと思ったら首を突っ込む快楽主義者でもある。特典は鬼畜神父のイノセンス、使いこなせないとダサいという理由から十分に使いこなせている。
こんな感じですね。
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