アディのアトリエ~トリップでザールブルグで錬金術士~ 作:高槻翡翠
話が進んでいるような進んでいないような、改訂もどこからやるかとか
考えつつ、やっていこうかとは。
【アトリエ編】
アディシアとサマエルがエリーが住んでいる工房の前に行くとエリーが丁度、玄関から出るところだった。
時間は昼時を少し回っている。
「お待たせ。飛翔亭に向かおうか」
「酒場、恐くないかな」
「前に行ったときは平穏に終わったんだよ」
前に酒場に行ったのは朝頃だ。サマエルは錬金術士としての依頼を受けるときは金の麦亭の方に行くことにしているが、目的は昼食を食べることでもあるので、アディシアに付き合う。エリーの工房から歩いて数分、金属で出来た飛翔亭の看板が見えた。
ここ、とアディシアは指さす。
「始めて入るな」
サマエルが言う。
アディシアが先に飛翔亭へと入り、次はサマエルが入った。エリーはサマエルの後ろから入っている。
昼時だったので、酒場内は混んでいて、昼食を食べに来ている冒険者や、若い駆け出しの冒険者や二十代後半ほどの金属製の鎧を着けた冒険者や作業用の茶色い革製のエプロンを着けたままの職人が居た。
男ばかりだが、女も居た。
カウンター席と丸テーブル席があり、アディシアが空いた丸テーブルの席を見つけ、サマエルとエリーを促した。
真っ白なテーブルクロスが敷かれた席に人混みをかきわけながら辿り着くとアディシア達は座る。
背もたれにアディシアは寄り掛かった。
「いらっしゃいませ。あら、来たのね」
「こんにちは。フレアさん。依頼を見に来たんだよ。サマエル、エリー、フレアさん、飛翔亭の店主、ディオさんの娘さん」
カウンターにいたフレアに声をかけられ、アディシアはサマエルとエリーにフレアを紹介する。
アディシアのことを憶えてくれていた。カウンターから出たフレアにサマエルとエリーは自己紹介をしていた。
昼食を三人分、アディシアは注文する。金属製のコップを三人分テーブルに起き、注文を受けたフレアはカウンターへと戻った。
「優しい人……」
「たまにしか飛翔亭には居ないんだね」
「そうみたい」
フレアは優しそうな雰囲気であり、話しかけやすい。アディシアがカウンターの方を眺めるとディオやフレア以外にディオに雰囲気や髪型が似た男が居た。髪は黒く、鼻の下に黒い下向きの三日月型をした髭を生やしている。
「依頼って、出来るかな……」
エリーの声を聞いたアディシアがエリーの方を向いた。安心させるように彼女は笑う。
「出来るのをやればいいんだよ。店主さんが見繕ってくれるし、やらないとお金、入らないしね」
「アディは励ましているようで、励ましていないような……」
(……中身が現実主義者だからね……)
サマエルがコップの水に口をつけつつ、アディシアとエリーの会話を聞いていた。
アディシアは性格的にロマンチストのようでいて、シビアなところがある。
サマエルの方は店内の人間を観察している。雰囲気の良い酒場だ。
待っているとフレアがお盆に昼食を持ってきた。
「沢山、食べてね」
フレアがテーブルに料理や食器を並べていく。
昼食は細かいメニュー指定をせずにお任せを選んだ。並べられていくのはまず、テーブルの中央に三十センチの長さの細長い茶色いパン、バイスブロートが白い丸皿に載せられたものが置かれた。
刃が波刃になっているパン切りナイフも側に寄りそう。
次にアディシア達の前には半分に切られたヴルストや豚肉を炭火で焼いて切ったものやザワークラフト、マスタードが乗った皿が一つずつ配られた。揚げた<ベルグラドいも>が添えられた白身魚のフライや、スープ皿のアイントプフ、ややや大きめに切られたホウレンソウとベーコンのキッシュが小皿の上に乗せられて、最後に置かれた。配り終えたフレアは次の客の元へ行く。
「食べてから依頼について聞こうね」
「パンは俺が切るよ」
サマエルが左手でパン切りナイフを握り、皿の上にあるバイスフロートを手際よく薄く切っていく。
「サマエル、切るのが上手いね」
「得意なんだ」
切ったバイスフロートをサマエルは白い皿の上に並べる。エリーはサマエルの手際に感心しながらパンにヴルストとザワークラフトを乗せて一枚のパンで挟んで食べている。アディシアはナイフとフォークで白身魚のフライを切り、口の中に入れる。サマエルは肉をパンの上に乗せからマスタードとザワークラフトを乗せてそのまま食べた。
『ワカサギのフィッシュ&チップスね。味を変えたかったら、ビネガーをかけたら?』
(……アレが、欲しい。アレ……)
『コレを揚げたのは植物油だから、アレを作るための全ての材料があるわ』
リアの声が耳の底から聞こえる。リアはアディシアが感じている味を分析し、アディシアが欲しがっているものが出来ると告げた。
(作るんだよ)
物足りない。
アディシアは決意をするとテーブルの上に置かれたビネガーの入ったオイルボトルを手に取り、フィッシュ&チップスに適量かけた。
「昼ご飯が豪華だね……」
外を写している表示窓を眺めていたコウが言う。
休むために椅子の背もたれに体を預けた。やるべき仕事は作業するための術式を組んだので、
術式任せにしていれば片付いていくため、暇であった。
宿主が飛翔亭に来たのはこれで二回目、食事も二度目だが、前回よりも出されたメニューが増えている。
「ヨーロッパ系は昼食が一番豪華なんですよ。午後からの仕事とかもあるので大量に食べ、
朝や夜は簡単なものですませます。コウさん、食事については疎い方ですよね」
横に立ち、右手に本を持ちながら話すのはオルトだ。髪の長い少女の側に居る三人の男が描かれている表紙の本であり、読んでいたところを右手の人差し指で挟んで持っている。
「”昔”はブロックばかり食べていたからね。不死英雄になってから食べる必要も無くなったし。あのパン、黒くないんだね。ドイツパンなのに」
ブロックとは言っても石のことではなく、遺伝子調整を受けた小麦を加工して作ったブロックだ。
コウが生きていた世界は人々が宇宙に進出し、科学技術が発達しすぎていて、食べ物も効率が優先さて何でも遺伝子操作をすれば出来ていた。遺伝子改造小麦一種類で十二分に食卓がまかなえていたのである。
改造された小麦は何処でも栽培が出来た上に収穫量も大きく、栄養価も高かったし、味も加工すればどんな味にも出来た。
『ドイツのパンが全部黒いとか言ったら、ヴェンツェルが怒るし、場合によっては撃つよ。ライ麦パンのことだろうけど』
「それかな。ドイツはパンの種類、かなりあるんだよね」
コウの側に五センチほどの黒一色の表示窓が開き、ルイスイの声だけがそこから聞こえた。
この場に居ないドイツ人は自国についての勘違いがあると、ところによってはワルサーP三十八を撃ってくる。
仮に当たったところで激痛が来るだけで死にはしないが。
「ザールブルグは南ドイツに似ているので、小麦の割合が大きいでしょう。もっと北に行けば、ライ麦もあるかも知れませんが。ドイツのパンは数百種類を超えています。ヴェンツェルが好きなのはコミスブロートですね。アレはライ麦九割なので慣れないと口に合わないですけど」
ドイツのパンと言えば黒いという印象があるコウだったが、パンが全てが黒いわけではない。
ライ麦は寒冷地でも育つ麦で、栄養価が高い。表示窓を開いてデーターを見直してみるが、
ザールブルグは一年を通して気温が余り変わらず、寒くもないため、ほぼ小麦が作られている。
追加検索で調べたが、コミスブロートはライ麦が九割以上使われているパンで、ドイツの軍用パンだ。
非常に腹持ちが良いとある。
「その手のパンって、前に適当に読んだ日本の小説で美味しくないってあったな。岩みたいに硬いパンとか」
『例えばフランスパンのバケットとか外側は硬いけど、中身も人間を撲殺できるぐらいに硬い訳じゃ無くて、しっとりとしてまだ柔らかいんだよ。……ヨーロッパからすれば日本のパンは柔らかすぎるし』
「……人を撲殺できるぐらいに外側が硬いパンってどう食べるんだい?」
「乾きものになるパンですね。薄切りにしてスープに付けたり、またはスープと煮込んで食べたり、もしくはバターとかジャムとかクリームをつけたり、あるいは色々乗せて食べます。北ドイツ系のパンは硬いですが、保存のために硬いんですよ」
オルトが左手で映画スクリーンほどの大きさの表示窓を指さすと宿主がザワークラフトをのせたパンを食べている。
『ヨーロッパだとパンは皿代わり。宿主もパンを味わうと言うよりパンに乗せたザワークラフトを食べている』
日本では分厚い食パンにジャムを塗るかそのまま食べているが、とても柔らかいパンであるため、それでも食べられるのであり、ヨーロッパ系のパンは硬いため薄切りにしなければずっと噛み続けなければならない。
ザールブルグのパンもヨーロッパ系のパンであるため、日本と比べると硬い。
「パンは解った。出されてるアイントプフって……スープの一種だろうけど」
『アイントプフはドイツのスープだ。意味は”鍋の中に投げ込んだ”で、各地方や各家庭で味が違うね。今回は……人参と<ベルグラドいも>にタマネギと……』
「……<ベルグラドいも>、使いすぎじゃないのかな」
「腹持ちが良いし栄養価も高いんですよ。芋系は」
スープ系の料理はどの地方にもある。ドイツの家庭の味を表すのがアイントプフなのだろう。
キッシュについては知っている。総菜系のタルトだ。パイ生地に生クリームと卵で作ったクリームを流し込み、好みの具を加えてオーブンで焼き上げるものだ。
コウは右手で表示窓を出すと指先で操作してテーブルの上に宿主が酒場で食べたメニューを出していく。
「意味はないけれど、食べてみるか」
「私も食べます。ルイスイも来てくださいよ」
『発掘も一段落したし』
話しているうちにコウは酒場の料理を食べたくなったのだ。
オルトが横から手を伸ばし、表示窓を操作して、コミスブロートも皿に載せて出す。瓶に入った無塩バターもだ。
椅子も二脚追加された。
アディシアは昼食を食べ終わる。完食した。
「食べた、食べた。……フラウトの演奏だね」
サマエルは水を飲んでいるし、エリーはキッシュを食べていた。
ザールブルグに来てからもアディシアとサマエルは一日三食をしっかり取るようにしている。
イタリアにいたときはイタリアの食事スタイルで食べていたが、日本でのスタイルをザールブルグでもやっているのは習慣だ。
酒場ではフルート奏者の女性がフルートを演奏し始めていた。
フラウトとアディシアが言うのはイタリア語でフルートのことをフラウトと言うからである。
「憧れるな。フラウトを吹けるのって」
ザールブルグでもフラウトはフラウトと言うようだ。アディシアはイタリアにいた頃に楽器は習ったがピアノとヴァイオリンだ。
今は弾いていないし自分よりも上手いのが日本に居た。
「練習をすれば吹けるようにはなるだろうけど、アレってどこで売ってるんだろう」
「あのフラウトは錬金術で作ったのよ」
(万能だな。錬金術……)
フレアが話しかけてくる。食事をしている間に酒場のピーク時間は過ぎてしまっていたらしく、人は以前より減っていた。
楽器屋でフラウトを買うと想っていたアディシアだが錬金術で作ったようだ。
「依頼についてそろそろ聞こうか」
酒場で食後を過ごしたかったがサマエルが促してくる。のんびりしようとすれば何時までも居座れるからだ。
アディシアは頷くと席を立つ。依頼を聞いたり、情報を集めたりしてから、昼食代金は払うつもりだ。
カウンターの方へ行くとディオが居た。
「こんにちは。食事、美味しかったんだよ」
「美味そうに食ってたが、食事だけが目的じゃないだろう」
「錬金術士としての依頼を見に来て……と、その前に、こっちがサマエルでこっちがエリー」
食事は美味しかった。外食の候補として入れておく。サマエルとエリーをディオに紹介すると二人が名乗る。
始めて飛翔亭にアディシアが来た時にしたような説明をディオは二人にしていた。
『下僕は金の麦亭で依頼を受けるけど、基本的なところは変わらないから』
「出来る依頼をきちんとやること……」
「これが出来そうな依頼のリストだ」
ディオが紙の束を渡す。
自分達がアカデミーに入学したばかりというのは伝わっているので、出来そうな初心者向けの依頼が書かれていた。
「<オニワライタケ>の採取とかなら出来そうかな。近くの森だし」
『調合をしなさい。<中和剤(緑)>と(青)と<蒸留水>なら出来るわよ』
リアが魂の底から声をかけてくる。出来るとリアが言うが作ったことはない。これから作っていくことにはなる。
本を読んだし器具もあるので作ろうとすれば出来そうではあるが、レシピを知っているだけだ。
(無理しない程度が良いよね。抱え込みすぎたら危険)
<中和剤(緑)>の材料である<魔法の草>と<蒸留水>や<中和剤(青)>の材料である<ヘーベル湖の水>は、アカデミー入学前に採取してある。
「名前が分からないものは除外して、やれそうな依頼を見つける。次は日数と相談だね。
この<中和剤(緑)>の依頼が良いかな。四つだし、明日には中和剤の授業をやる。日数にも余裕があるから」
「<魔法の草>だったら貰ってたし、授業でも教えてくれるなら出来そう」
「それとこの採取の依頼とか……」
隣ではサマエルがエリーに依頼について話していた。サマエルは金の麦亭で依頼を受けるため、アドバイスに徹している。
アディシアも依頼書の中から<中和剤(青)>と<蒸留水>の依頼を取る。<中和剤(青)>は五つで、蒸留水は三つだ。
銀貨を数えると<中和剤(青)>は銀貨百五十枚で、<蒸留水>の方は銀貨百二十枚だ。
(考えてみれば……依頼の相場、って曖昧だよね。材料は外で取ってくれば無料だしさ)
『良い品質のものを収めるの前提だけど相場自体は決まってはいるでしょう。時価になるけど。さすがに相場に見合わないものは酒場も置かないわ。駆け引きも入るけれど……』
(駆け引き、ね)
『錬金術よりも難しいかも知れないわよ。自分の腕前の売り方も思案しないといけないから』
アディシアも暗殺時代の時は任務をこなすことで金を手に入れては来たが、組織からすれば安い金で使い潰しも出来た。
そうならなかったのは裏で様々なことがあったのだろうとは想う。
酒場は依頼された依頼を仲介料を取って受けるが、酒場からしても妙な依頼を受ければ信用問題だし、収められた品物の品質が悪くても信用問題に関わる。対策はいくつも打ってはあるだろうが。
(安売りするなとかにしろ、強いプライドを出せるのは本人に自信があってなおかつ必要とされることだから……)
『酒場の依頼、ここは依頼も吟味しているだろうから、受けるに足るものではあるわ』
「これとこれ、受けます」
錬金術の腕前を上げることと名声を上げることは今回の場合はイコールに出来る。良い品物を納めればいいのだ。
難しいがやるしかないのがアトリエ生である。ディオはアディシアが出した紙に受諾の丸い判子を押していく。
「期限は守れよ」
<中和剤(青)>の方は期限が十五日、<蒸留水>の方は期限が十三日だ。上手くいけば余裕である。
「わ、私もこの依頼を……」
エリーが出した紙には<中和剤(緑)>を五つ作る依頼と<オニワライタケ>を六つ採取する依頼だった。
受諾の紙を受け取り、エリーは息を吐いた。
「クーゲル叔父さんも依頼をしているのだけど、見る?」
フレアが言う。アディシアは頷いた。
「ディオさんとどう違うの?」
「ワシの依頼は、貴族からの依頼になる」
「貴族からの依頼か……」
「叔父さんは元聖騎士だから、その時のコネでね」
叔父さんだから、ディオの兄弟だろう。顔立ちもよく似ている。クーゲルが何枚かの紙を渡してきた。
聖騎士というと青い鎧だ。アディシアが紙を読んでいく。エリーとサマエルも横から覗き込むが、依頼は曖昧だ。ディオの依頼では欲しいものの名称が書いてあったが、こちらは『滋養強壮の薬』や『疲労回復の薬』などだ。『珍品・貴重品』ともある。
「『滋養強壮の薬』とか言うとロブソン村だとおばさん達が<ほうれん草>が良いって」
「そのまま<ほうれん草>とか出すと依頼料はくれてもこちらの評判が悪くなるんじゃないかな。貴族だし珍しいものを好むだろうから」
(……養命酒とか)
(錬金術で作れるなら、それで良いんじゃないかな……)
日本のテレビで見た薬酒を言うとサマエルが返してきた。声をリアが届けたようだ。
『今の状態でいけるなら珍品・貴重品と宝石類かしらね……持ってるストックを出せば』
(アレも目立つし……ただ、珍品・貴重品なら採取で拾いそうだよ。どれが貴重品か不明だけど)
まだまだアディシアには知識が足りないが、資金繰りに困ったときに受けられそうな依頼は見繕っておく。
「見分けが付くなら『珍品・貴重品』辺りかな。実力が付いてからだろう。評判が大事だし」
「サマエル、評判とか気にするね」
「人の噂も七十五日とかあるけど、背に腹は代えられない状況にならない以外は地道にやる方が安全だ」
『下僕。補足をしておくと七十五日は一季節分のことを言うのよ』
エリーはサマエルの意見を聞いている。リアの忠告はアディシアとサマエルの耳にだけ届い た。
評判は落とせばあげることは困難だ。
「出来そうな依頼は無いから、遠慮しておく。けど、来るときにチェックはするんだよ」
「私も、出来そうな依頼は無いし……。これで、依頼も見終わったし、受けたから後は……」
会話が終わりそうであったが、終わらせるわけにはいかない。アディシアには聞いておかないといけないことがある。
「昼食代を払うだけとしたいけど、採取先の情報が欲しいんだ。ここから比較的近いところで」
『<フェスト>が取れる場所、聞いて』
「――<フェスト>が取れる採取先、教えて下さい。情報量は昼食代に含めて置いて欲しいです」
アディシアが白地図を取り出した。リアの助言を受けたのは情報を絞り込むためだ。<フェスト>を出したのは、ヘーベル湖や近くの森には<フェスト>が無く別の場所にありそうだったからだ。
砕けば<研磨剤>を作ることの出来る<フェスト>は依頼リストにもあった。受けなかったのは日数の問題で、中和剤の類を作ってから残っていたら受ければいいかと言うぐらいだ。
<研磨剤>は<フェスト>を乳鉢で砕いていくだけで出来るが細かく砕くのには時間がかかる。
カウンターテーブルの上に置かれた白地図をディオは指さした。
「<フェスト>が取れるのはストルデル川だな。薬草や鉱物も結構取れる。往復で四日ほどで行けるな……」
「前はストルデルの滝があったが、凶悪な魔物が出て、王室の方から立ち入り禁止令が出ている。取れるものは、さほど変わらないようだが」
「お前達も地図を出せ。書き込んでおこう」
ザールブルグ周辺の地図にディオが羽根ペンとインクで道を書き込む。ストルデルの滝の水がストルデル川に流れている。
ディオがサマエルとエリーの地図にも道を書き込んでくれた。
「ストルデルの滝辺りには盗賊が出る。冒険者を雇ってから行くことだ」
クーゲルの忠告にエリーが驚く。盗賊と聞いたからだ。アディシアとサマエルが行ってみたヘーベル湖の道筋には盗賊が出なかったが、ストルデル川は違うようだ。
(人間が相手か。雇うかどうかは行くときに考えるんだよ)
(俺とアディで突破は可能だろうけど……)
アディシアは人殺しが出来るが、仮にエリーと共にいた状態で人殺しとかして見れば、引かれることは間違いない。
どのみち、まずは依頼をこなさなければいけないのでストルデル川へ行くのは後になる。
「ありがとうございました。お勘定は、いくら?」
「代金は……」
フレアが代金を教えた。三人で分割したが全部で銀貨百五十枚だった。これには、
『三人で聞いたのもあるから割ってくれたんでしょう。一人頭、銀貨五十枚』
(それぐらいはあたしも計算できる)
カウンターテーブルの上にアディシアは銀貨を置いて、サマエルとエリーも銀貨を置いた。
飛翔亭を出る。
「ご飯、美味しかった。依頼の受け方も解ったし、アディもサマエルも何か手慣れてるね」
「エリーも慣れるよ。アディ、俺は金の麦亭に行って依頼を受けて来たい」
「その辺を散策してるんだよ。エリー、サマエルが帰ってきたら近くの森に行こう」
「待ってるね」
サマエルと飛翔亭前で別れたアディシアとエリーは散策をすることにした。飛翔亭を離れ中央広場に出たとき、アディシアは気がついたように言った。
「予定とか勝手に決めちゃってるところがあってごめんね」
「良いよ。助かってるし。依頼についてとか、解ったから……。アイントプフも美味しかった」
「美味しかったよね。外食ばかりもお金がかかるけど、たまには食べたいし」
余り遠くには行かないようにアディシアは歩いた。エリーにも気を配るようにしている。
適当に歩いているとカロッサ雑貨店が目に入ったのでアディシアは中へと入った。
「いらっしゃいませ。――アディとエリー」
「? どうしたの? それ」
「父さんの知り合いが買ってくれって大量に……」
店の中に入るとロスワイセが手提げバスケットを抱えていた。その中身をアディシアは聞いて、ロスワイセが答える。
「こんなに……」
やけに多い『それ』をエリーも見た。いくらなんでも多い。慎重にロスワイセはバスケットの中身を扱っている。
『――アディシア』
リアが言う。アディシアは店内を確認。
それから屋敷の台所にある調味料も思い出す。作りたいものの材料の一つが大量にあった。
アディシアは財布を取り出すと、ロスワイセに詰め寄った。
「それ、いっぱい、頂戴」
【続く】
後編は五月までにかけると良いな……。
アディとサマエルの距離感が解りづらいとか改訂したい。