徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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オーバーロード二次 TSモモンガが逝く その4

 モモンガが方針を決めた後、先ず行った事は初日に玉座の間へと集めた7人へとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを配る事だった。

 

 当初、シモベ達はこれに大いに恐縮したものの、モモンガの「これから先、必ず必要になるから」、「死蔵させるのも哀れだから、貴方達に使ってほしい」という鶴の一声によりおずおずと受け取った。

 とは言え、必要なのはナザリック内だけなので、外出する時はアルベドかモモンガ、両者がいない時は他の名有りのシモベへと預ける事となっている。

 また、モモンガは15個の中で比較的重要度の低いワールドアイテムを外に出て作業する名有りのシモベ達全員へ持たせる事を決めた。

 これには流石のシモベ達も大いに反対したものの、「プレイヤー又はその遺産が存在するのなら、確実にワールドアイテムも存在する。その対策のためには絶対に必要な措置です」と断固として譲らなかった。

 常にない御方の強い声と正しいと思える理屈に、シモベ達も内心で大変恐縮しながら頷いた。

 それに対し、外出予定のシモベ一同は「何があろうと必ずやナザリックへ帰還し、御方にこの至上の宝物をお返しします」と誓った。

 が、これはモモンガの「ナザリック内の至上の宝物とは貴方達の事です。必ずや元気な姿で私の元に帰ってくるように」という言葉により涙腺崩壊して暫く使い物にならなくなってしまったが。

 これによりその士気を大いに高めたシモベ達は改めて御方への忠誠を誓うと共に、自身の全身全霊をもってモモンガ様のお役に立つ事を己に誓った。

   

 その士気に相応しく、シモベ達の仕事は素早く、的確で、卒がなかった。

 

 先ず、デミウルゴスがシャドウデーモンを中心とした多数の情報収集用の諜報部隊を組織し、近場の大都市であるエ・ランテルで大まかな地理情報を取得後、各地へと分散、その地から伝言のスクロールを活用して多くの情報を集め、精選し、確度を高めた状態でモモンガへと受け渡した。

 同時並行でこの世界にあるユグドラシルにはない多くの資源、それこそ現地住民すら見向きもしない雑草の類すら一つ一つ丁寧に採取・調査・記録し、図鑑を作る勢いでそれらを積み上げていった。

 

 第二にセバスとユリ、ルプスレギナは近場の都市であるエ・ランテルにて冒険者として登録、順当に仕事をこなしていった。

 が、ここで問題が起きた。

 この三人の内、特にセバスとユリはナザリック内でも極めて珍しい善性の存在なので、モモンガより「名声を高めるために、貴方達の良心の赴くままに行動しなさい」という破格の裁量を与えられている。

 なお、ルプスレギナは「何か見つけたら必ずユリと小まめに相談しなさい。バカな事したら黒棺=恐怖公とその眷属の住処に引っ越しさせます」という情け容赦ない言葉により、迂闊な行動は厳に慎むようになった。

 で、前者二人はその良心のままに行動した結果…

 

 エ・ランテル内の悪徳商人や腐敗貴族を秘密裏に始末しようとしていた。

 

 これにはモモンガも驚いた。

 そして、デミウルゴスからの報告により王国内の屋台骨ところか基礎すらヤバい腐敗ぶりに目を剥いた。

 だがまぁ、不愉快な連中が消え、裏社会がすっきりすれば、そこにデミウルゴスの商会が滑り込む事も出来る。

 そこでナザリック内で暇をしていたシャルティアを運送係に任命し、転移門/ゲートを利用して捕獲した悪人・罪人とその部下達をナザリックに連れ去り、人体実験コースへと送る。

 この際、そいつらが持っていた資産及び各種資料(顧客・商品リスト等)は全部略奪し、将来の商会設立のための軍資金とする予定だ。

 こうしてセバスとユリ、ルプスレギナの三人は昼は実力・人格・品格の三拍子揃った期待のルーキーとして仕事をし、夜にはエ・ランテルの悪党共にとっての死神として活躍するのだった。

 

 第三にアウラとマーレはナザリックの隠蔽工作終了後、トブの大森林内でナザリック二号店の建設に取り掛かった。

 こちらは最悪の場合が起きてナザリックを放棄してしまった際の第二の拠点として使用する予定だ。

 とは言え、食料やポーション類の多くはナザリック内で完全に自給できるが、この世界で入手できる資材とナザリック内のアイテムや資材を用いても、ナザリックと同等の設備を備える事は不可能だ。

 そのため、このナザリック二号店を叩き台に、将来的にはもっと発展した拠点を作成する予定だ。

 また、こちらも暇をしていたシズ・デルタとエントマ・ヴァシリッサ・ゼータらを手伝いに出している。

 シズはナザリック内の全ギミックを知っているため、本来なら外に出す事は無いのだが、先日のニグンらにかかっていた機密保持の魔法をパンドラズ・アクターと最古図書館の司書らと共に解析、発展させた機密保持の魔法をかける事で解決とした。

 その効果は本人が拒否する中、無理矢理情報を吸い出されかけていると判断した場合に発動、本人を中心に爆発が起きるというものだ。

 その威力は本人のその時のHPの10倍という破格のもので、将来的に最下位のシモベに自爆・特攻魔法として施し、捨て駒として使用する事を目的に研究する事が決定された程だ。

 モモンガにより「このテープは自動的に消滅する魔法」と命名されかけたが、パンドラズ・アクターから長過ぎるからとダメ出しされ、結局「スパイのお友/スパイズフレンド」とされた。

 微妙なブラックジョークに、後で本人が身悶えする事になるだろうが、それはさて置き。

 こうして外に出たシズはその知識を活かしてナザリック二号店の建物の建築全般を担当し、エントマはその内部に使用する魔法トラップの敷設、アウラとマーレは第六階層の獣系モンスターとゴーレム達を率いてナザリック二号店予定地の伐採や整地、周辺へのトラップの敷設や警戒網の設置等、多くの仕事を堅実にこなしていくのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「どうしよう…。」

 

 第9階層の中にある執務室、そこでモモンガは頭を抱えていた。

 

 「ぜんぜんわかんない…。」

 

 原因はデミウルゴスから上げられた大量の情報が記載された書類だった。

 それは極めて多岐に渡り、この世界に存在するあらゆる現象や物品、動植物を纏めたものであり、読み解いて適切な判断を下すためにはどう考えてもモモンガ一人では知恵も手も時間も足りなかった。

 

 「うぅ、一介のOLには荷が重いよぅ…。」

 

 彼女は小卒であり、その後は企業の走狗としてOLとして生きてきた。

 給料の過半をユグドラシルに突っ込み、リアルでは死んでないだけで生きる意欲の少ない、それでも任された仕事だけは精一杯やろうと頑張る可愛い童顔系OL(意外とある方)だった。

 セクハラの回避方法や上司からのパワハラ、悪質な客からのクレーム対処に資料整理にお茶くみ等は出来ても、専門分野外に関してはさっぱりだった。

 

 「だめ、諦めちゃだめだよ私。よし、ここは最古図書館の司書達に重要度と分野別に分けてもらって、そこから必要な指示を出してみよう。」

 

 現状、事務仕事が出来る者が限られているため、そういった業務に慣れている司書達にやらせるのは理に適っていた。

 先日の機密保持魔法の解析と改良においても彼らは実によくやってくれた。

 同じオーバーロードでデミウルゴス程の頭脳ではないとは言え、通常通り蔵書の管理だけをさせるには余りにも惜しい人材だった。

 

 「でも、全員連れてくるのはダメだよねぇ…。」

 

 彼らの蔵書の主な貸し出し相手は同じシモベ達だ。

 モモンガは今まで365日年中無休だったシモベ達に「七日に一日は休暇を与え、月一で給与を与える」と新たなルールを設定した。

 これに対し、シモベ達は困惑したものの、続くモモンガの言葉で掌を返した。

 

 「給与を貯めて、ギルメンの皆の思い出のブロマイドとか買ってみたくない?その後はそれを眺めたり自慢したりしても良し。何なら最古図書館でタブラさんやペロロンチーノ、やまいこさんやブルーさんが仕入れてきた本を読むのも楽しいよ。」

 

 ブロマイドは以前入手したカメラ機能を持った水晶やアイテムから現像したもので、蔵書に関しては著作権切れしたものをギルメン達が何十万冊と仕入れているので飽きが来ない。

 中にはアニメや映画の原作となった小説に漫画等もあり、文字が苦手なシモベでも大丈夫だ。

 もう掌にモーターでも仕込んでるんじゃないかってシモベ達の掌は高速回転しまくった。

 特に41枚の個別ブロマイド、複数人のギルメンが写った題名付きブロマイド等の売れ行きは凄まじかった。

 何かこう、往年の遊戯王カードを買い漁る小学生を彷彿とさせる光景だった。

 こうして古代図書館もナザリック常駐組の重要な娯楽施設として機能しており、司書達に他の業務を任せるという事はそれだけ本業を圧迫する事となるのだった。

 

 「うぐぐ……やっぱりパンドラにもこっちを手伝ってもらった方が良いよね…。」

 

 司書達の過半数とパンドラズ・アクターを加え、漸くモモンガというナザリックの最高指導者は仕事をこなせるようになるのだった。

 

 『モモンガ様、お忙しい所を申訳ありません。』

 『あらセバス。何か問題が発生したの?』

 

 そこに突然エ・ランテルにいる筈のセバスから伝言/メッセージが届いた。

 

 『実はこちらで元漆黒聖典の第九席次とズーラーノーンなる秘密結社の幹部を捕らえました。』

 

 その内容に、瞬時にモモンガの中のスイッチが鈴木悟子からモモンガへと切り替わった。

 

 『捕獲したのは二人だけ?今その二人の状態は?』

 『彼らの部下達に関してはエ・ランテルの墓地で大規模なアンデッド召喚を行おうとしていたので鎮圧しました。幹部二人は利用価値がある可能性が高いと判断しましたので制圧し、睡眠/スリープをかけた上で拘束しています。またこの世界基準では強力なアイテムを二つ保持していました。』

 『よろしい。シャルティアを向かわせますので、その二人とアイテムは彼女に渡して貴方達は事態の沈静化と通常任務に移りなさい。』

 『畏まりました。』

 

 こうして、ナザリックに新たな情報源と人的資源が追加されたのだった。

 

 

 ……………

 

 

 クレマンティーヌは心底恐怖していた。

 家族に虐げられ、兄とは比較され続け、任される仕事も汚れ仕事ばかり。

 自分の中の加虐性と殺人嗜好に折り合いを付けられず、ただただ鬱憤ばかりが募る日々だった。

 そんな法国での暮らしに愛想が尽きて、適当に警備を担当していた闇の巫女姫から法国の秘宝の一つである「叡者の額冠」を強奪し、以前から繋がりのあったズーラーノーンを隠れ蓑に法国の目の届かぬアークランド評議国までスケリトルドラゴンを用いて逃亡する予定だった。

 

 「ご機嫌よう。よく眠れたかしら?」

 

 そこは玉座だった。

 豪華絢爛の限りを尽くした、法国の神殿や帝国の宮城でも足元にも及ばない様な、正に王者のための玉座の間だった。

 

 「人間風情が、モモンガ様のお言葉を無視するなど…!」

 「ヒッ」

 

 殺気立つ黒いドレス姿の少女、その牙と肌の色から吸血鬼と思われる少女が低い声で怒りを露わにする。

 それにクレマンティーヌは怯える事しか出来ない。

 玉座に座るエルダーリッチと思われる女王に吸血鬼の少女、そして無言を貫く水晶か氷の様な蟲人の戦士。

 それらを見た時、クレマンティーヌは自身の生存を諦めた。

 自身もまた優れた戦士だからこそ直感的に理解できたのだ。

 この場の異形達の誰もが自分とは隔絶した実力者、漆黒聖典隊長やともすれば番外席次にすら匹敵或いは凌駕すると悟ったのだ。

 

 「貴方達の情報は既に搾り取らせてもらったわ。元漆黒聖典第九席次、疾風走破のクレマンティーヌ。そちらはズーラーノーンの十二高弟のカジットだったかしら?」

 

 そこで初めてクレマンティーヌは横を見た。

 玉座の前に転がっていた自分の隣、そこには一緒にいたカジットの姿があった。

 

 「貴方達の脳から搾り取った情報はとても有意義でした。それこそお礼を言いたくなる位には。」

 「貴方達の脳、と~~っても美味しかったわ~ん。」

 

 そして、背後からの声に後ろを振り向くとゾッとした。

 直立する巨大な白いタコにも似た醜悪な生物がくねくねとしながら自分達の脳を食べた感想を言っているのだ。

 きっと如何なる狂人でもこんなものと出くわしたら自分の様に身も心も凍り付くだろう。

 

 「おお、お礼って言うなら助けてくれませんかねぇ?」

 

 声が震えているのは分かったが、それでも今何か言わねば殺される。

 蘇生も何も期待できないが…否、こいつらにここで死んでも食われたり扱き使われるよりは死んだ方がマシだとクレマンティーヌは思った。

 

 「良いわよ。但し、貴方には現地ガイドとして役に立ってもらいます。」

 「いっくらでもお任せください!」

 

 だが、思ったよりも好感触な答えに内心でガッツポーズを取った。

 よし、これで一先ず命の保証はされたな、と安心したのだ。

 

 「さて、カジット。貴方はどうしますか?」

 「わ、ワシは…」

 

 黒いローブに身を包んだ死体の様な男は、大いに迷った末に口を開いた。

 

 「母に、会いたいのです。」

 「しかし、レベル1の普通の人間、それも何十年も前に死んだ人間相手にそれは難しい。」

 「はい。それが出来る魔法を開発するために、先ずは高位のアンデッドになろうと致しました。」

 

 カジットは悟っていた。

 この方は己の願いを叶える力を持っていると。

 

 「うーん、直ぐにできそうなのは……死者からの手紙/レターオブデッド!」

 

 モモンガの声に応じ、中空から手紙が降ってきた。

 これはユグドラシル内のイベント用魔法であり、元はNPCの少年の亡くなった祖母の遺言を伝えるために使用された。

 イベントさえ終わってしまえば無用の長物なのだが、モモンガが死の支配者ロールのために敢えて残していた魔法の一つだった。

 

 「おおおぉぉぉぉぉぉ…!」

 

 手紙を受け取り、急ぎ開封したカジットの目の前に母親の姿が浮かび上がり、母親の声で手紙の内容が朗読されていく。

 それは母が子を思う、当たり前の言葉だった。

 どうか自分の事は忘れて、平穏な幸せを掴んで、幸せになってほしいという在り来りの言葉。

 だが、それでカジットには十分だった。

 

 「ワシは、ワシは今まで何という事を……!」

 

 知らぬ間に一度死に、死の宝珠からの洗脳が解かれたカジットは元の極普通の人間へと戻っていたのだ。

 

 「まぁ貴方には情状酌量の余地があります。このナザリックに尽くし、より多くの人に役立つ魔法を開発なさい。それが貴方に出来る善行です。」

 「ははぁ!このカジット、全力を尽くします!」

 

 こうして、現地基準で優秀な死霊系魔法詠唱者をゲットしたのだった。

 

 「ナーベラル・ガンマ。カジットを司書達の所へ。そこで彼らと共に研究してもらいましょう。」

 「は、畏まりました。下等生物、私に付いてきなさい。」

 「はは!」

 

 こうしてカジットは退場したが、その背をクレマンティーヌは羨ましそうに見ていた。

 

 「さてクレマンティーヌ。貴方には早速ですが訓練を受けてもらいます。コキュートス、ペストーニャ!」

 「此処二。」

 「はい、ここにいます…ワン。」

 

 先程からいた蟲人の戦士に加え、犬の着ぐるみを被り、メイド服を着たUMAが現れたのに対し、クレマンティーヌは内心でまた化け物かよ!勘弁してー!と叫んでいた。

 

 「両名は円形闘技場にてクレマンティーヌを鍛えなさい。幾ら死んでも構いません。復活を多用して何としてもLv40まで彼女を鍛えなさい。このままでは戦力不足過ぎます。」

 「「畏まりました。」」

 

 その言葉にクレマンティーヌの顔が盛大に引き攣る。

 どう考えてもこの後の自分は地獄が待っていると理解したからだ。

 

 「あの~つかぬ事をお伺い致しますが、復活ってどんな魔法なんでしょうか~?」

 

 猫なで声のクレマンティーヌに対し、ペストーニャが答えた。

 

 「復活は蘇生系魔法の上位魔法で、デスペナルティが一切発生しません…ワン。」

 「わーお。」

 

 つまり、このどう見ても格上の蟲人と戦い続け、殺され続けろという事だった。

 が、逆に考えればリスク無しで短期間に強くなれるという事でもある。

 

 「お手柔らかにお願いしまーす…。」

 「安心シロ。最初ハ得物ヲ一本ダケ二シテヤロウ。」

 

 

 

 

 

 この後、クレマンティーヌはコキュートスと訓練を続け、三日間の内に217回死亡と蘇生を繰り返し、そのレベルを大幅に上昇させた。

 なお、本人はその時の出来事を黙して語らず、余程のトラウマになっている事だけが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なお、漆黒の剣一行は無事。
 誘拐騒ぎ起こる前にセバス達が対処したから。
 ポーション屋の二人とはカルネ村への護衛で仲良くなってます。

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