徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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オーバーロード二次 TSモモンガが逝く その5

 

 TSモモンガ様の休日

 

 

 「ふわぁ~~……。」

 

 TSモモンガ様の朝は遅い。

 時間にして大体8時頃に起き出す。

 本来なら睡眠も食事も必要ないのだが、それではメイドの仕事を奪ってしまうし、自分も少し位こうした人間らしい事を満喫するのも精神の平穏を保つためにも必要だと思ったのだ。

 色々言ったが、要は生前出来なかった贅沢な暮らしがしたいと言うだけの事だった。

 

 「ぁー……。」

 

 TSモモンガ様は朝に弱い。

 生前の肉体を元に人化の指輪の効果で構築された肉体は、その欠点すらもある程度は再現する。

 そのため、生前の彼女のやや低血圧な体質も受け継いでおり、どうにも意識が覚醒するのが遅いのだ。

 そこに、唐突にノックの音が響いた。

 

 「モモンガ様、失礼致します。」

 

 ドアを静かに開け音を立てないように入ってきたのは41人の一般メイドの一人だ。

 

 「おはようございますモモンガ様。最初にお着替えいたしますね。」

 「ぅ~~……。」

 

 TSモモンガ様の頭が僅かに上下したのを確認したメイドは、今まで着ていた青の地にデフォルメされた地球が印刷されたパジャマを脱がせ、紫色を基調としたローブへと着替えさせていく。

 着替えの際にはTSモモンガ様には一切の負担なくパジャマを脱がし、ローブを着せていく姿は成程熟練した匠の業に通じるものがあった。

 

 (うへ、うへへへへへ!待ちに待ったモモンガ様当番!それも休日の無防備で仕事の多い日!カァーもうたまりませんなぁ!)

 

 が、その内心は限りなく変態であった。

 が、彼女らを作った創造主らも皆変態だった事を考えると当然の事なので細かくは突っ込まない。

 

 「さ、鏡台前に移動いたしましょうね~。」

 「ん~~。」

 

 大分起きてきたのか、TSモモンガ様はメイドに手を引かれるままに鏡台付きの椅子へと座り、されるがままその柔らかな茶の長髪を櫛で梳かされていく。

 また、お湯でしめらせたホカホカのタオルで顔を丁寧に拭った上で、丁寧にスキンケア用の化粧水を塗っていく。

 本来アンデッド、それも最上位の死の支配者たるTSモモンガ様にそんなことは必要ないし、人化の指輪を外せば意味は無くなるのだが、「アンデッドと言えど女性なのですから、身嗜みには気を付けるべきかと」というアルベドを始めとしたシモベ女性陣の言葉によって、こうしてほぼ毎朝一般メイド達のお世話になっているのだった。

 とは言え、毎日毎朝デコレーションされるのは嫌なので、本当に簡単な化粧しかしないように厳命されている。

 だが、それが余計に当番となった一般メイドのメイクの腕前やセンスを試す事となり、余計にやる気を刺激しているのをTSモモンガ様だけが知らないのであった。

 

 「出来ました。」

 「ん、ありがとう。」

 

 その頃にはもうすっかりTSモモンガ様も起きている。

 柔らかな茶の長髪はストレートに腰まで延び、実年齢よりも常に下に見られてきた童顔は小動物染みていて見る者に保護欲を抱かせ、その穏やかで包容力を感じさせる笑みは母の様な祖母の様な安心感をシモベ達に与えていた。

 若干名その笑みを前にするとはしたなく下着内の湿度が上昇する者もいるが、それはさておき。

 そんなTSモモンガ様だが、小柄な体の割にしっかりと女性的な身体つきが紫色のローブの下から主張している。

 かつては栄養不足と時間不足で割と自分磨きがおろそかで、ちょくちょくオフ会をしていた他のギルメンの女性三名からは色々お小言を貰っていたのだが、今やそんな事は絶対に無いだろう程にTSモモンガ様は死んでるのに健康的な可愛らしさを持っていた。

 嗜好がロリなペロロンチーノ辺りが見れば、速攻でナンパをかましていただろう。

 が、その直後にぶくぶく茶釜に鎮圧されるまでがナザリックでのお約束なので、成功する事は無いだろうが。

 

 「じゃ、食堂行こっか。」

 「はい。」

 

 そして、朝食のために食堂へと移動する。

 廊下を歩けば、通りかかったメイドや使用人達が一斉に壁際についてお辞儀をしていく。

 それをこそばゆく思いながら、TSモモンガ様は「お疲れさま」と言って、仕事を邪魔しないように少しだけ足早に通り過ぎていく。

 その声と様子に、全てのメイドと使用人達が「至高の御方が我々を気遣ってくださる…!」と内心で感動し、その思いに報いるべく今日もまたしっかりと仕事をするのだった。

 

 「皆、おはよう。」

 「「「「「「おはようございます!」」」」」

 

 基本、メイドと使用人達は三交代のシフト制で24時間常に誰かが仕事をしている。

 これは御方から緊急の要件が発生した場合のためだが、今の所それが活用された事はない。

 既に朝食のラッシュの時間も終わり、これから休み時間か今日は休日というゆったりした者達のみが席に就いていた。

 が、そんな彼彼女らは今は全員が椅子から飛び上がり、直立不動で御方へと挨拶していた。

 

 「楽にしてていいわよ。私もゆっくり食べてるから。」

 「「「「「は!ありがとうございます!」」」」」

 

 最近では休日ごとの恒例行事となりつつある朝の出来事を終え、モモンガはゆっくりと食堂の朝食バイキングへと足を向けるのだった。

 

 「頂きます。」

 

 元々TSモモンガ様はウルベルトと同様、食事というものに価値を見出していなかった。

 それは彼女が母親が亡くなって幼くして働かねばならず、企業の走狗たる身では余り貯蓄も出来ず、ユグドラシルを始めてからは重課金の廃人勢の一員となってプレイしていたからだ。

 つまり、食事にかける時間も金も無かったのである。

 辛うじて必須栄養位はサプリ等で取っていたものの、それで全てどうにかなる訳もなく、彼女はほぼずっと栄養不足状態だった。

 

 「ん~~美味し~~。」

 

 しかし、今は違う。

 リアルではもう富裕層すら味わえない程の美味なる食事をおなか一杯食べれるのだ。

 とは言え、立場もあるし、良い年した女性という事もあって口いっぱいに頬張るという事はしない。

 まるで小動物の様に、ちまちまと少量ずつゆっくりと味わってTSモモンガ様は食べていく。

 その様子に同じメニューを食べようとシモベ達がまたバイキングに並び、TSモモンガ様の幸せそうなお声に料理長と副料理長以下調理スタッフが厨房で無言のままガッツポーズやコロンビアのポーズを取っているが、TSモモンガ様は目の前の料理に夢中で気付かない。

 

 「何ていうかね……食べる時は誰にも邪魔されず自由で……なんというか救われてなきゃあダメなのよ。独りで静かにゆっくりと……。」

 

 初めて食堂を利用して食事しようとした時、常に複数のメイドと使用人が控え、副料理長がワインボトルを持ってスタンバっており、とてもではないが本当の意味でゆっくりとは出来なかった。

 無論、それが支配者として必要なのは分かるのだが、休日位は好きにゆっくりさせてほしいと思っているTSモモンガ様は夕食時以外はそうやって控える事を禁止した。

 やはり彼女も女性、美味しいからと色々取って食べている所を見られたくないのだった。

 

 「ご馳走様でした。今日も美味しかったわ。」

 「またのご利用をお待ちしております。」

 

 食堂を出る際、態々見送りしてくれる副料理長に褒め言葉を告げて、TSモモンガ様はまたゆったりとした足取りで今度は第十階層へと移動していく。

 目的は一つ、最近よく行く最古図書館だ。

 

 「こんにちはカジット。調子はどう?」

 「これはモモンガ様。おはようございます。先輩の司書殿らに教えていただき、先日は遂に第四位階に到達いたしました。」

 「あら、思ったより早かったわね。その調子で精進するように。」

 「ははー!御方のお言葉、有り難く頂戴いたします。」

 

 書籍の貸し出し等を行うためのカウンターには、先日司書見習いとして入ってきたカジットがいた。

 高位アンデットへの転生を目論んでいたカジットは、今はすっかりこの最古図書館の従業員と化していた。

 利用者が来れば司書見習いとして、それ以外は司書達と時折デミウルゴスやパンドラズ・アクター、そしてTSモモンガ様を交えて魔法の開発、或いは修練を積んでいく。

 これにより、元々努力していた下地もあってカジットは急速にその位階を上げていた。

 もし帝国の逸脱者ことフールーダー・パラダインがこの光景を見たら、喜んで土下座して参加を請うていただろう。

 

 「今日はどの様な本に致しましょうか?」

 「そうね……前に借りた経済学入門書と…ファンタジー系のラノベで司書長のおすすめをお願いできる?」

 「畏まりました。少々お待ちくださいませ。」

 

 言って、カジットは今月のおすすめの本とTSモモンガ様が前回借りた本を素早く検索する。

 その様子はもうすっかり作業に慣れており、その動きには一切の迷いがない。

 

 「では少々お待ちくださいませ。直ぐに持ってまいりますので、こちらの椅子へお座りくださいませ。」

 「うん、ありがとう。」

 

 カジットの勧めてくれた一番派手でふかふかの椅子(勿論御方々専用)にTSモモンガ様は座って素直に礼を言う。

 それに恭しく礼をしてから、カジットは足早に、しかし一切足音も埃もたてず、まるで暗殺者の様に素早く歩いていった。

 

 「んー……。」

 

 TSモモンガ様が最古図書館を見回す。

 埃一つなく、また蔵書を傷めない様にしっかりと温度や湿度が管理されたこの場所は、TSモモンガ様のお気に入りの場所だった。

 それは嘗ての41人の友が残してくれたナザリック、その中でも彼らの趣味がNPCと並んで如実に示されている場所でもあるからだ。

 たっち・みーや武人武御雷なら武術関係、ヘロヘロやホワイトブリムならメイド関係、ブループラネットなら自然関係、ペロロンチーノならエロゲ原作の全年齢版とクソ運営を騙して仕入れた18禁の薄い本や小説各種、そしてタブラや死獣天朱雀、やまいこ等はかなり広範囲の分野の書籍をほいほい突っ込んだため、ここの蔵書はリアルの旧国立図書館(富裕層向けの紙媒体の娯楽施設及び資料保管施設)並みの蔵書を誇っている。

 また、一部には映像作品や漫画等も結構な数存在するため、活字が苦手なものも結構な頻度で利用している。

 

 「やっぱり、皆に感謝だよね。」

 

 ぽつりと、TSモモンガ様の口から独白が零れる。

 こうして一人だけでいると、どうしてか皆の事が思い出される。

 自分を置いて逝ってしまった、41人の友達。

 皆との時間は、独りぼっちだった彼女の人生の中で最も輝いた尊い時間として色褪せる事なく刻まれている。

 それがたとえ末期の瞬間だとしても、彼女は正確に覚えていた。

 

 「お待たせ致しました。こちらご注文の本でございます。」

 

 そうやって物思いに耽っていると、カジットが目的の本を持って戻ってきた。

 

 「どうぞ。こちらが先日借りていた経済学入門書および司書長おすすめの「小鳥遊さんちのメイドラキュラ」となります。」

 「ありがとう。」

 「またのご利用をお待ちしております。」

 

 そして、受け取った本をアイテムボックスに入れると、TSモモンガは入り口まで見送ったカジットの言葉を背に最古図書館を後にした。

 

 「………。」

 

 寝起きとはまた違った、茫洋とした眼差しのまま、TSモモンガ様は第九階層のロイヤルスイート、その廊下へとやってきた。

 そして、無言のまま廊下をゆっくりと歩いていく。

 その視線は各ギルメンの私室へのドアに、プレートと共に貼られたギルメン達のブロマイドへと向けられていた。

 

 「………。」

 

 ゆっくりゆっくりと、まるで忘れてしまわない様に、過去を懐かしむ様に、ギルメン達の遺影の様なブロマイドを目に焼き付けていく。

 ゲーム時代から、何時しか日課となってしまったこの行動。

 未だにTSモモンガ様の心から、友を失った悲嘆は消えていなかった。

 否、きっとこの悲嘆は彼女の最も奥深い所へと刻まれてしまっていた。

 故にこそ、彼女はずっとこの行動を繰り返すのだろう。

 たとえ何百年と時が過ぎ去っても。

 

 「……我ながら、未練がましいよね。」

 

 そして、廊下の突き当りにまで来てから、彼女は漸く足を止め、自分の私室へと足を進めた。

 

 「さ、今日も勉強しなくちゃ。」

 

 支配ではなく、あくまで商売という形で人々から気持ちよくお金を出してもらう。

 現状はその方針でナザリックの維持・発展費用を稼ぐ予定であるため、TSモモンガ様自身がちゃんとした経済の知識を持たねばならない。

 元営業職の経験があるとは言え、やはり系統化した知識は必要なのだ。

 下手にデミウルゴスに全権を任せれば、利益は出るがえらい惨状が広がる可能性があるため、ちゃんと一定の所で止めるための知識は必要だった。

 

 「夕食まで5時間……まぁその間位は大丈夫かな、うん。」

 

 が、何だかんだ言って、TSモモンガ様もまた元とは言え社畜だったのでした。

 

 

 ……………

 

 

 一方その頃、スレイン法国では上層部が頭を抱えていた。

 原因は先日、陽光聖典を監視していた土の巫女姫がいる土の神殿の大爆発による倒壊、更にその直後に起きたデスナイト亜種と上位種(槍騎士/ランサーと弓騎士/アーチャーに隊長/リーダー)含む大量の上位アンデット召喚(魂食いやエルダーリッチ等)により、法国首都に当たる神都では3000人近い被害が出たのだ。

 これが王国や帝国なら間違いなくそのまま滅亡していただろうが、六大神と言われるプレイヤーのものを始めとした多くの遺産を継承・回収してきた法国の誇る漆黒聖典らを出動、更に番外席次すら投入する事で辛うじて壊滅を免れた。

 しかし、この事件により、法国上層部はある確信を持った。

 

 王国、それもカルネ村近辺にプレイヤーが降臨した。

 

 自分達の軍事力を正確に把握している彼らは、それを物量や種族格差ではなく、純粋な魔法技術で上回る存在をそれこそこの世界では各地に点在する竜王位しかいないと確信していた。

 しかし、それらの存在は彼らはある程度把握しおり、動き出せばそれなりの時間差はあるものの把握または予兆位は観測できる。

 それが一切無かったという事は、それだけの軍事・魔法技術的に自分達よりも遥かに優位な存在が突如として現れた事になる。

 そして、今年は百年ごとの特別な年だった。

 これをもって、法国上層部はプレイヤーという新たな神の降臨を確信した。

 

 同時に、どうやって穏便に接触し、その庇護下に入るかについては議論が進まなかった。

 

 行方不明となった陽光聖典は戦略上必要な事とは言え、無辜の民草がいる村を殲滅・略奪・放火する作戦を実施中であり、その中で彼らを監視していた土の巫女姫のいる土の神殿の爆破及びアンデット大量召喚である。

 明らかに自分達の心象は最悪だと、彼らは判断していた。

 かと言って、どうするべきかと言うと、地道にカルネ村周辺を捜すしかないという事になった。

 法国の誇る秘法によってプレイヤーを洗脳できないかという意見もあったが、そんな事をすれば従属神なり何なりに殺される可能性も高いし、それでプレイヤーの怒りを買う事だけは避けたかった。

 それに加え、破滅の竜王の復活の予言もあり、迂闊に動く事はどう考えても出来なかった。

 そのため、彼らは漆黒聖典をカルネ村周辺へと派遣し、火滅聖典をトブの大森林へと派遣した。

 どちらも探索・情報収集こそを優先とし、絶対に情報を伝達する事を厳命して出撃させた。

 

 

 

 なお、番外席次は外に出したらそれこそアーグランド評議国と開戦待ったなしなのでいつも通りお留守番となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回登場したTSモモンガ様作のデスナイト亜種・上位種

 デスナイト・ランサー…盾と大槍を装備。通常種より攻撃力上昇するも敏捷性低下。

 デスナイト・アーチャー…盾と弓矢を装備。通常種より射程が長いも、弓使用中は盾使えず、防御力も火力も低下するので失敗作。

 デスナイト・リーダー…隊長、指揮官個体。全性能が強化され、レベルも5高い。周囲のアンデット(特にデスナイト系)の能力を強化する。

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