徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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注意:独自設定あり


オーバーロード二次 TSモモンガが逝く その8

 準備は終了した。

 

 

 「では、そろそろ話を進めましょうか。」

 

 

 そう言って、慈悲深き死の支配者は微笑んだ。

 

 

 ……………

 

 

 帝都アーウィンタール 皇城執務室

 

 

 「なんだと?」

 

 秘書官であるロワネの報告を聞いた皇帝は、その端正な顔を歪ませた。

 

 「確かです。フェメール伯爵が国内のほぼ全てのワーカーに対してトブの大森林にあると言う未確認の遺跡への調査を依頼し、間も無く出発する模様です。」

 

 その内容に、ジルクニフは幾つかの疑問を持つ。

 

 「その遺跡、伯は何処から掴んだのだ?」

 「不明です。」

 「伯に報酬を払うだけの財産は?」

 「つい先日、UAO商会から多額の融資を受けた模様です。詳細な金額は調査中ですが…。」

 「またあそこか…。」

 

 大よそ一か月前から帝国・王国・法国・竜王国・聖王国という人類の生存領域を股にかけた商会が発足された。

 その名もUAO商会。

 穀物から金属資源、各種香辛料にマジックアイテム等、そのどれもが高品質かつやや安価な事もあり、既に多くの顧客を獲得している。

 王国を本拠としていた八本指とその系列店の多くが王都の悪魔召喚事件により潰れ、更に行政の多くも混乱状態にある王国において、実質的に庶民に格安で食料を販売する事から、多くの王国民から特に好意的に見られている。

 無論、それを快く思わない他の商会からは裏表問わない妨害を受けているものの、そうした商会は突発的なトラブル(不祥事や上役の事故・病死)によって逆に潰れたりと、明らかに後ろ暗いものを感じさせた。

 しかし、表向きは決して法律を破る事なく、税もしっかりと法律通りに納めている事から、今まで要監視対象に指定されながらも特に摘発等はされていなかった。

 

 「遂に馬脚を現した、か?」

 「唆したのは間違いないかと。」

 

 どう考えても遺跡の情報は件の商会が出所だった。

 

 「フェメール伯爵は以前から処分リストの一人だったから当然として…。」

 「商会の方はどういたしましょうか?」

 「悩ましいな。」

 

 UAO商会は強力だ。

 その財力だけでなく、軍事力においても。

 アダマンタイト級冒険者に比肩或いは凌駕するという、帝国にある商会本店に配属された護衛達。

 情報では六腕のメンバーに加え、あのブレイン・アングラウスもいるという。

 加えて、マジックアイテムに関してもあのフールーダー・パラダインも唸る様な品を数多く置いている。

 今現在、フールーダーはそれら購入したアイテムの解析に掛かり切りである事からも、その価値が分かる。

 

 「迂闊に手出しすべきではない。」

 「では?」

 「目的が分からん以上、今は泳がせておけ。但し情報収集は密にな。」

 「は。」

 

 こうして、帝国はこの一件に関しての意見を纏めた。

 この時の自身の事を見ていたら、未来のジルクニフはきっとこう言っていただろう。

 

 

 おいバカ今すぐ止めろ、と。

 

 

 ……………

 

 

 帝国所属のワーカー達。

 とある貴族が金に飽かせて雇った帝国所属のほぼ全てのワーカー達は、今現在トブの大森林へと、その比較的奥まった場所に存在する遺跡へとやってきた。

 とは言え、その貴族すらとある商会によって操られていたのだが、それを知る者は極僅かしかいない。

 

 「ご老公、これは…。」

 「うーむ、こりゃちとますいのぅ。」

 

 そう呟くのは「竜狩り」のリーダー、齢80を超えて今なお現役のパルパトラ・オグリオン、通称「ご老公」だ。

 高齢故に前歯が全て抜け、濁音を発音できなくなっているが、その経験から来る老獪さ、慎重さは多くのワーカー達から尊敬を集めている。

 

 「この遺跡はまた生きておる。必すけいけきされる。」

 

 そう判断した理由は、この遺跡の綺麗さだ。

 通常は古い建築物、それも森の中にあるのなら汚れたり、欠けたりと、経年劣化により大小様々な汚れや傷があるものだ。

 しかし、この遺跡にはそれが一切無い。

 苔や植物等が繁茂して目立たなくしているが、それはドルイド等の持つ魔法で十分に隠蔽可能だ。

 だが、遺跡を構成する石材そのものまでは強度や防衛の関係上、入念に魔化されているらしく、そういった経年劣化が見られない。

 

 (となると、何が目的じゃ?)

 

 フェメール伯爵が商会からの要請でこの依頼を発注したのは把握している。

 この遺跡に何かあるのだとは思うが、それなら他にやりようがある筈なのだ。

 

 「ここは撤退一択しゃな。せんいんに荷物捨てても良いから走る用意をさせるんしゃ。」

 「は!」

 

 老公はその経験から、此処が死地であると判断した。

 他のワーカーチームは表層で発見された財宝やマジックアイテムに沸いているが、「竜狩り」は彼らに気付かれない様にしつつそそくさと距離を取る。

 

 「う、うわあああああああ!?」

 

 そして、先行していたワーカーの叫びを聞いた途端、その場から全力で離脱した。

 

 

 ……………

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第十階層 玉座の間

 

 

 「どうやら新しい迎撃ギミックは順調に機能しているようですね。」

 「はい、これもモモンガ様のお陰でございます。」

 「私は許可を出しただけです。これはアルベド、そしてデミウルゴスのお手柄です。後で何かご褒美でも考えましょうね。」

 「く、くふーー!勿体ないお言葉です!」

 

 第二ナザリックの三階層から、ナザリックの第一階層へと転送されたワーカー達。

 通常のPOPするアンデット達なら兎も角、ナザリックオールドガーダーどころかマジックアイテムで武装したアンデットにすら劣る彼らの戦闘能力では、この場を切り抜ける事は不可能だ。

 実際、魔法・物理問わない各種ギミックに引っかかり、或いは大量のアンデッドに囲まれ、次々とワーカー達は死亡していく。

 

 「トブの大森林の住人達並みに動けるのなら、まだ使いようがあるのだけど……。」

 「今の所、オールドガーダーを超えられた者は一人もいませんねぇ。」

 「合格ラインを下げて、マジックアイテムで武装済みのスケルトンウォーリアー程度にしときましょうか…。」

 

 はっきり言って、余りにも弱かった。

 王国産の冒険者なら、もう少し善戦すると思うのだが、どうにも国家がしっかりモンスター退治している関係か、帝国のワーカーは個々の実力が劣る傾向にあるらしい。

 これでは利用方法が死体からのアンデット化位しかない。

 

 「あ」

 「おぉ、遂に合格者が出ましたか。」

 

 それはフォーサイトと言われるワーカーチームだった。

 神官の男性と魔法詠唱者の少女による神聖・火炎魔法の十字砲火によって、最下級のマジックアイテムで武装済みのスケルトンウォーリアー2体を倒してみせたのだ。

 

 「アルベド、オールドガーダー一個小隊を指揮してフォーサイトを捕獲しなさい。」

 「畏まりました。」

 「他にも合格ラインに達成した者は適宜捕獲しなさい。その後の処遇は、第六階層でアウラのペット達と死なない程度に遊ばせてから、トブの大森林の住人らと同じ扱いで労役に就けなさい。」

 「よろしいのですか?人間よりもゴーレムやアンデットの方が…。」

 「良いのよ。償わせる事が大事なのだし、マッチポンプなんだから余り手酷く扱っては可哀想でしょう?その上で利用価値があるなら本格的に傘下に加えてあげましょう。」

 

 うっそりと笑みを浮かべるモモンガに、底知れぬ叡智を感じたアルベドはゾクゾクと感動と快楽に背筋を震わせる。

 あぁ、やはり至高の御方の長たるモモンガ様は素晴らしい…!!

 モモンガとしては、この世界の人間のレベルキャップ自体は大体30程度と把握しているのだが、それは適当に拉致した八本指の使いようのない構成員らで行った実験によるものだった。

 魔法詠唱者としては、法国との接触が視野に入った頃から解凍した陽光聖典らの隊員らで行った実験によって第4位階が限界である事が分かった。

 このレベルキャップを超える方法は幾つかあり、一番簡単なのは異なる種族への変化・転生だ。

 後天的に人間から簡単に行えるのは吸血鬼による眷属化、一度死んでから高位の魔法詠唱者による意思持つアンデットとして復活の二択だ。

 他の異形種へ生きたままとなるとどうしても特殊なアイテムが必要不可欠であり、それらはナザリックでも少ないのでこちらは必要が無ければ行わない方針だ。

 で、三つめが一番面倒だったりする。

 これは只管にレベリングを繰り返すだけだ。

 無論、種族としての限界を突破するのだから、簡単な訳がない。

 具体的には30まで到達すると、そこからレベルを上げるのに10倍の経験値が必要となる。

 それも訓練ではない戦闘、格上との命がけの戦闘を、だ。

 現在、純粋なこの世界産の人類でこの壁を突破しているのは、帝国の「逸脱者」フールーダー・パラダインただ一人だ。

 彼の場合、前線で戦った頃が魔神戦争時代で格上の敵に事欠かなかった上に、本人が魔力による生命賦活で寿命を延ばしているため、この壁を突破する事に成功したのだろう。

 なお、31Lvまで到達すると必要経験値は元に戻るため、その壁を超えさえすれば何とかなるのも確認済みだ。

 そして、ナザリックにとってこの世界の人類に対して格上の敵を用意するのは簡単であり、才能のありそうな現地住民達も確保済みだ。

 

 「トブの森の住人達。六腕。そして帝国のワーカー。レベリングは時間がかかるでしょうけど、必ず必要になります。」

 「次の百年のため、ですね。」

 

 現在、この世界に活動中のプレイヤーは自分達以外はいない。

 情報系魔法により把握できたのは、活動を停止中の海上都市のプレイヤー、そして法国にいるNPCだけだ。

 既に各地に放ったシモベ達により、ユグドラシル産・現地産問わず余り表沙汰にならない貴重なアイテム類の場所の多くも把握している。

 問題なのは、竜王達の巣にあるだろう財宝等だが、それは迂闊に手を出すと八欲王よろしく連合を組まれかねないので、現在は刺激するのを控えている。

 しかし、次の百年後に敵対的なプレイヤーやワールドエネミー襲来の可能性を考えると、戦力強化は必要不可欠だった。

 事実、ここナザリックは嘗て1500人ものプレイヤーとワールドエネミーの内の一体に襲撃を受けた経験がある。

 そして、その最盛期は既に遠いとなれば、モモンガが対策を練るのは当然の事だった。

 

 「私が特に警戒しているのは、ユグドラシル由来のモノではないのだけど、ね…。」

 

 ぼそり、と呟かれた言葉は、アルベドには聞こえなかった。

 しかし、クリスタルモニターを見据えるモモンガの横顔は、常にない深刻な色だった。

 

 

 ……………

 

 

 四日後、帝都アーウィンタール 皇城執務室

 

 

 「それは真実なのだな?」

 

 そこでジルクニフはワーカーの生き残りからの報告に頭を痛めていた。

 

 「はい。全て本当の事です。報告したワーカーチームも、リーダーは高齢ですが実績ある者達です。」

 「大量のアンデットと高度な魔法に守られた墳墓か…。」

 

 未確認の遺跡、そこは彼らの予想以上に厄介なものだった。

 

 「現状、手を出す事は出来んか…。」

 「はい。帝国軍として正式に動くには、王国領に近過ぎます。」

 「えぇいクソ!あの役立たず共が!」

 

 アンデット、それも魔法が付与された武器で武装したスケルトンが大量に存在する。

 そんな場所を放っておけば、どうなるか?

 アンデットの「群れるとより上位の個体を発生させる」性質から、そこを中心に第二のカッツェ平野が発生しかねない。

 だが、王国貴族共にそんな事を語ったとしても、持ち前の無能さから事態を楽観視して何もしない事は確実だった。 

 

 「一応、話を通してみますか?」

 「任せる。が、望み薄だろうな。」

 

 本来なら軍を動員すべきなのだが、その墳墓の位置はトブの大森林の比較的浅い場所だが、それでも王国の領地に隣接しているのだ。

 流石に冒険者扱いのワーカー、それも100人にも満たない人数なら兎も角、本格的に帝国軍を動員するには遠い上に先ず間違いなく王国軍も動員される事態になる。

 

 「今現在はこちらからは何も出来ん、か。」

 「一刻も早く王国を打倒するしかありませんね。」

 

 ジルクニフとロワネは二人、深々とため息を吐いた。

 

 「冒険者組合に話を通して、常設依頼に追加させるしかあるまい。」

 「ではそのように。」

 

 取り敢えずできる手を打つ事にして、二人はこの話を終わらせ…

 

 

 

 『その必要は無い。』

 

 

 

 ようとして、執務室に響いた声に血相を変えた。

 

 「ッ!」

 

 咄嗟にロワネが執務机の上にあったベルを鳴らすも、誰も反応しない。

 部屋の外には常に近衛兵が控えている筈なのに。

 

 『無駄だ。今、この城の者達は全て眠っている。』

 

 突然現れたソレは蒼いアンデットの馬に跨った、禍々しい全身鎧に身を包んだ騎士だった。

 放たれる威圧感は、彼らが知る魔法省地下に繋がれた死の騎士を遥かに上回っていた。

 

 「何の御用かな、騎士殿?」

 

 絶句し、しかしそれでも皇帝の盾にならんとするロワネを挟み、ジルクニフは恐怖と驚愕を必死に押し殺して問いかけた。

 

 『我が主のおわす穏やかなるべき場所を荒らした者達の首魁に通告をしに参った。』

 

 そして、蒼の騎士は朗々と告げた。

 

 『我が主の墳墓を荒らした罪、真許しがたい。墳墓へと赴き謝罪せよ。謝罪無き場合、我らは主の号令の下にこの地を蹂躙する。』

 「成程。その件に関しては本当に申し訳なかった。後日正式に謝罪に赴かせて頂こう。」

 

 ロワネはガタガタと恐怖に体を震わせながら、それでも皇帝の胆力に感心し、何とか主君の邪魔をしないように努めた。

 

 『良かろう。七日待つ。』

 「感謝する、青の騎士よ。」

 

 言うだけ言って、蒼褪めた乗り手/ペイルライダーはスキルを発動し、幽体となって宙に消えるようにその場を去った。

 

 「ふぅ~~~~~~………。」

 

 どっかり、とジルクニフは背もたれへと体を預けた。

 これだけ冷や汗をかいたのは何時ぶりだったか。

 

 「おいロワネ。至急城の人間を起こし、各省のトップと四騎士を呼べ。緊急会議だ。」

 「は、はい!」

 

 脱力し、へたり込んでいたロワネが何とか這う這うの体で執務室を出ていった。

 

 「さて、面倒な事になったな、本当に。」

 

 降って湧いた想像の埒外の事態に、ジルクニフは本格的に頭痛を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、「帝国、斜陽タイム」&「竜王国、ヒーロー参上」の予定。

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