2128年、遂に日本初のDMMORPG「ユグドラシル」。
多くのユーザーを生み、反響を生み、後の多くのゲームへ波紋を与えたソレが、遂に終わる時がやってきた。
「あー、遂に終わりかー。」
それを廃課金勢にして廃人勢の一角たる桜井了子、PC名「桜花」もまた、その最後の時を迎えていた。
「終わりたくないなー。」
しょんぼりとした声で了子が呟く。
色々なゲームをやったが、それでも青春時代の多くを過ごしたこのゲームが終わってしまう事に、了子はどうしようもない寂寥感を抱いていた。
「でも、仕方ないよね。」
そう言って何とか自分を納得させる。
そうでもしないと絶望で叫び出しそうになるからだ。
あぁ、自分は何を希望にこれからの苦界を生きていけば良いのだろう。
「折角ワールドアイテムも手に入ったのに…。」
アイテム欄を見れば、そこにはプレイヤーの誰もが驚くものがあった。
20と言われるワールドアイテムの中でもぶっ壊れと言われる一つ、運営に願う事でゲームシステムそのものの変更を行う「永劫の蛇の指輪/ウロボロス」。
それが今、彼女の保有している代物だった。
「あ、後3分。」
今、彼女は始まりの街を見下ろせる山の上にいる。
そこかしこで超位魔法や第10位階魔法、そして花火型消費アイテムが打ち上げられ、このゲームの最後を皆が嘆き、悲しんでいた。
「さようなら、ユグドラシル。」
つい涙腺が緩む。
10年以上をこのゲームと一緒に過ごしてきた。
それが終わるのは彼女の青春そのものが終わるようで、ただただ悲しい。
「あ、そういえば使わなかったっけ。」
アイテムボックスを弄ると、そこには三つの願い事を運営にお願いして叶えられる「流れ星の指輪/シューティングスター」という
「えーと、えーと…。」
エリクサー病=もったいない精神によって結局使わずに来てしまった彼女。
それはウロボロスも同じなのだが、そっちはたまたま退会してしまった友人から貰ったものなので、コレクションとしての意味合いが強い。
しかし、こっちは自分の給料をかけてやっとこさ入手したものなのだ。
今まで使わなかったとは言え、最後位はパーッと使いたい。
「素敵な旦那様と結婚できますように…っと。」
パキン、と軽い音を立てて、指輪に嵌った三つの宝石の内の一つが割れた。
「…………うわ、我ながら恥ずかし!」
が、今更ながら羞恥と自己嫌悪と後悔で胸がじくじくと痛みだした。
「ま、最後だし、こんなアホな終わりも私らしい、か。」
そんな時、遂に最後の時が訪れた。
サービス停止まで、後1分を切ったのだ。
「さようなら、ユグドラシル。」
そして、全てが光に包まれた。
……………
「アイエエエエエエエエ!?」
気付けば、空中に投げ出されていた。
高速で落下しており、ぐんぐんと地面が迫ってくるのが眼下に見えている。
「あばばばばばばばばbbbb…!!」
ジタバタと手を動かすが、しかしそんな事で揚力が発生する訳もない。
しかし、彼女は分かっていないが、今の彼女の肉体なら、多少の揚力は発生できる。
手でも足でもない、尾と翼もまた無茶苦茶に動かされたため、僅かながら落下速度が下がり、尚且つ当初の落下地点からずれていく。
「何何何何何何なんなのさー!?」
混乱のまま叫ぶ。
しかし、地面は、否、移動したせいで迫ってくる岸壁は待ってくれない。
「きゃあああああああああああああッ!?」
そして、勢いよく岸壁へと頭から突き刺さった。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
………………
「っ、敵襲か!」
ガバリ、と定位置の玉座からガバリとこの地の主たるツアーが起き上がった。
アーグランド評議国の永久評議員にして白金の竜王ツァインドルクス=ヴァイシオン。
先代竜帝の息子たる彼は、嘗て父と仲間達が敵対し、殺しあった八欲王の残した武器を管理し、更にその優れた知覚能力を活かして広範囲を監視している。
最近では主にスレイン法国を監視しているとは言え、自分のお膝元を留守にしていない。
故に、それをすり抜けられる者は限られている。
「100年の揺り返し、プレイヤーからの攻撃か。」
それを理解し、世界への影響を抑えるために掛けていた己の体への「縛り」を解き放っていく。
自分の父とその仲間達が敗れた者達と同格の相手に油断も慢心も即座に死に繋がると判断しての事だ。
その威容、その力を知れば、如何なスレイン法国の漆黒聖典とは言え、命を落とす覚悟をしてかかっても、全滅は免れない程だ。
ツアーは間違いなくこの世界最強の存在にして、この世界の守護者だった。
「いだいいだいいだい~~!」
「」
だからこそ、進んだ通路の先、落下してきた大質量によって崩落したそこで頭を抑えて泣く薄紅色の鱗のメスドラゴンの姿に、目を丸くしたのだった。
「え、なに、どういう事?」
「うえええぇえぇええええ~!」
砂漠の中にある元浮遊都市にして八欲王のギルド。
その玉座では暫くの間、二頭の竜によるカオスが広がっていた。
……………
「大変すいませんでした!」
「いや、いいけどね。」
10分後、そこにはこの場所の管理者であるツアーへと竜の身体で土下座する桜花の姿があった。
「僕はツァインドルクス=ヴァイシオン。この地の管理者だ。」
「あ、失礼しました。私は桜花と言います。竜の信仰形魔法詠唱者です。所でその…」
桜花は周囲を見渡す。
転がっているアイテム類はユグドラシルで見られるものだが、先程落ちてくるまでに見た砂漠の地形や動植物は見た事がないものだった。
「ここ、何処なんでしょうか?ユグドラシルでは見覚えのないエリアなんですけど…。それにツアーさんもプレイヤーなんですか?それとも運営の方でしょうか?」
「あー、うん、じゃぁ説明するか落ち着いて聞いてくれるかい?」
「は、はい。」
桜花の言葉に、諸々の事態を大体把握したツアーは、桜花に残酷な真実とこの世界の事を話し始めた。
「桜花、この世界は君の知るゆぐどらしるではない。僕はプレイヤーでもうんえいでもない。完全な異世界で、僕はこの地に住まう竜王の一人なんだ。」
「はぇ?」
そして、ツアーは語った。
この世界の成り立ち。
即ち、異世界と100年周期で繋がる性質。
600年前より訪れるユグドラシルからのプレイヤー達。
彼らによる世界への大きな影響についてを。
そして、それらは一方通行であり、こちら側から戻る手段は無いという事を。
無論、権力者の常套手段として、その中に自分に不利になる様な情報は混ぜていないが。
「…………………。」
大凡一時間程の説明を聞いた後、桜花は頭を抱えて蹲ってしまった。
(無理もない。荒廃してるとは言え、もう故郷に帰れないんだから。)
自分も故郷であるアーグランド評議国を離れ、ここでこうして危険な八欲王の遺産を管理しているのだ。
何とかこの都市を移動できないかとも考えたが、下手に人の目の届く所では良からぬ考えを抱く者も出る。
つまり、ツアーは現状ここにいなければならない。
自身の境遇と経験から、ツアーは竜としては余りにも若い桜花へと同情した。
「ふぅぅぅぅぅぅ………。」
そんな中、桜花は意識して深く息を吐いた。
そうやって何とか精神を落ち着けようとして、それから何とか言葉を発する事が出来た。
「取りあえず、私は向こうには家族もいません。友人と呼べる程に付き合いの濃い人もです。強いて言えば向こうに残してきた買って読んでない本とかが気になりますが、それだけです。」
その名の通り、美しい桜色の鱗、銀色の角と濃い茶の瞳の愛くるしいメスの火竜は、故郷への慕情とこの理不尽への怒りが綯い交ぜになった心を押し殺す様に、重々しい声で現状を告げた。
「だから、あまり向こうへの執着は無いんです。」
「そうかい…。」
無理して感情を押し殺す事はない、と言いたいツアーだが、それは出来ない。
こうなってしまったからには、彼女にはこの世界に適応し、騒ぎを起こさないように暮らして欲しい。
そ■て、願わく■僕の■いに…
「ん?なんだ、これ?」
不意に思考にノイズが走った。
余りにも自然に入り込んできたソレに、ツアーは気づくのが遅れてしまった。
「ぁ、あ、あぁあ?」
「っ、桜花!?」
不意に、この場にいるもう一体のドラゴンへと声をかける。
しかし、その姿を見て、ツアーは彼女にも何らかの異変が起きていると悟った。
彼女は動揺したままウロウロと落ち着きが無くなり、尾を立てている。
その姿を見て、何故かツアー自身もまた落ち着きが消え、焦燥感に似た何かが胸に満ちていく。
「なん、だ、これ?」
長い事生きているが、こんな事になったのは初めてだった。
亡くなった父やその友人達なら何か分かるかもしれなかったが、彼らは全て八欲王との戦争で死亡済みだ。
そして、そもそもこの場には彼女と自分しかいない。
自分達でどうにかするしかない。
「桜花、落ち着いて、気をしっか、!?」
振り向いた桜花の姿を見た時、ツアーの頑丈な心臓がドキリと大きく跳ねた。
美しい、可愛い。
女性を評する経験なんて無いツアーをして、彼女は美人としか言えなかった。
艶やかな薄紅の鱗、細くとも長くしなやかな尾、先端がきゅっとしまった手足、そこだけ色が白に近いお腹、そして自分の鱗と近い色の角。
同種か近似種なのに自分とは違う、細くて嫋やかな体。
穏やかさを感じさせる濃い茶の瞳は、今は動揺と状態異常によって潤み、初見にはなかった色気を感じさせた。
ごくり、と今まで誰とも番となった事のないツアーは喉を鳴らしてしまった。
そして、無意識に尾が震え出し、ゆっくりと桜花へと近づいていく。
一歩ずつゆっくりと、万が一にでもメスを怯えさせて、逃げられないように。
「つあーさん、おかしいの、なんか、からだが…。」
「大丈夫。大丈夫だから…」
一体何が大丈夫なのか、ツアー自身にも分からない。
ただ分かるのは、本能がこの状態の解除方法を知っているという事だけ。
知らず荒くなっている呼吸に気づかないまま、ゆっくりと近づいていく。
「少し、大人しくしててね。」
自分よりも小柄な桜花の背に伸し掛かる形で、ツアーは彼女の後頭部、正確には頭の付け根、人間でいう項に該当する場所を牙を立てぬように優しく噛んだ。
びくん!と桜花の体が跳ねたが、伸し掛かっていたツアーの重さにより、跳ね除けられる事はない。
「い、いまのぉ…。」
「いや?」
「すごい、びくって、おどろいて、でもいやじゃなくて…」
「そっか。」
へたり、と桜花の前足から力が抜け、上体が崩れてしまう。
そして、彼らは竜であり、そうすれば当然ながら衣服や鎧も着ていない部分は丸見えとなってしまう。
「じゃぁ、問題ないよね?」
「ぇ、あ?」
そして、ツアーは桜花の尾の付け根へと前足を沿えると、今まで経験した事が無い程に昂った己の分身を、知らず蜜を溜め込んている彼女の最も無防備な場所へと宛がった。
「行くよ桜花。大丈夫、責任は取るから。」
「ぁ、あぁああ!?」
これ以上はR18規制に引っ掛かるので書かない。
書かないが、砂漠周辺の都市からは、何時しか白や銀、赤に桃色の子竜達が空を舞う様が見られるようになったとか。
これは死の支配者がその墳墓と僕達と降臨する100年前の事。
この世界の最強の一角、白金の竜王がプレイヤーの嫁を取るお話である。
「このおバカこのおバカこのおバカ!」
「いた、ぶへ、ごめんなさひ!」
「信じられない信じられない!なんで初対面の人にあんな事になるのよ!?我ながらもう訳分かんない~~!!!」
「いやぁ、あの時の君は本当に可愛かったねぇ。」
「~~~~~~~!!記憶を失えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「うわ、あぶな!?ちょ、それはシャレにならないよ!」
「うっさいうっさいバカバカバカーー!」
ともあれ、前途多難な夫婦生活はこれより始まるのでした。
Q ツアー回りのお話って少なくね?
A だったら書けば良いじゃない。
Q 竜のプレイヤーっているの?
A あの運営と設定なら、いても不思議じゃないと思う。
Q これ、R指定…
A 少しだけだから大丈夫、だと思う。もしもの時は管理人さんから何か来るでしょ。
Q これ、主人公の好みってなに?
A 自分を大事にしてくれる優しくて頼りになる旦那様(ちょっと子供っぽい所有り)が理想です。