徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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オリ主、オリ設定、深海側主人公につき注意


艦これ短編 深海工廠艦が逝く

 このご時世には珍しく、海で溺死なんてしたのがいけなかったんだと思う。

 

 仕事は辛く、友人はおらず、相談相手もいない。

 家族はそれぞれの仕事で滅多に顔を合わせず、家には常に誰もいない。

 何とか寂しさとストレスを紛らわそうとゲームや漫画にのめり込もうとしていたが…結局、一部を除いて長続きしなかった。

 そんな生活をするようになってから暫くして、海や山、川と言った場所に出掛けるようになった。

 多少のストレス発散にはなったのだが…次第に目的が変わっていった。

 ここでは目立つ、ここでは見つかる、ここでは駄目だ。

 ストレスが溜まり続けるに連れて、次第に死に場所を求める様になっていた。

 やがて、数年来の職場を止めて、船に乗った。

 ただ遠くに行ってみたかったのだが…先日の台風で波が荒れていた事もあって、不意に海に落ちた。

 少し酒が入っていた事もあって、そのまま沈んでいった。

 特に苦痛も感じる事もなく、ただ暗闇の中にゆっくりと沈んで…眠る様に逝けたと思う。

 

 

 だが、唐突に意識が戻った。

 

 

 海底から見る海面は綺麗で、時折嵐や曇り空で濁るものの、その輝きはとても眩かった。

 やがて、周りにも海面を見上げる者達がいる事に気付いた。

 自分を含め、誰も彼もが黒く靄がかった姿だが、確かに大勢がいた。

 そうした人々?はどんどん増えていき、やがて海底を埋め尽くしていく。

 完全に海底の泥が見えなくなった頃、不意に誰かが言った。

 

 ウラヤマシイ

 キレイダナ

 ネタマシイ

 

 それに次々と賛同の声が上がる。

 斯く言う自分もそうだった。

 

 ナンデワタシタチハココニイルンダロウ?

 アッチニイキタイ

 ワタシタチモアカルイバショデイキタイ

 

 それが切っ掛けだった。

 人影達で飽和状態だった海底から、次々と人影達は海面を目指して立ち上がり、上へ上へと泳ぎ、昇っていく。

 次々と、次々と、こんなにいたのかと思う程、膨大な数の人影が昇っていく。

 生者への羨望と嫉妬を胸に、彼女達は海面に見える命の輝きへと引き寄せられていった。

 

 此処に来て、漸く思い出し、気づいた。

 深海に棲きる、生者に羨望と嫉妬、憎悪を持つ艦達。

 そう、彼女達は深海棲艦。

 人類の天敵にして、新しき海の覇者達であり、自分はその誕生と遭遇したのだと。

 此処は嘗て自分がファンだったゲームの世界なのだと。

 

 

 他の人影達が次々と海面を目指す中、自分を始めとした一部の者は海底に残り続けていた。

 海面の嘗ていたであろう世界に興味がない訳ではない。

 ただ、他の連中の様な熱狂を自分は持っていなかったからだろう。

 冷めている、と言っても良い。

 なので、残った他の人影達と時折話すだけで、そのまま海底から海面を見つめるだけの日々だった。

 

 だがしかし、暇は暇なので、有意義な使い方をする事にした。

 幸いと言うべきか、資源は船の残骸等が種類も大きさも新旧も様々で大量にあるので、色々作るには困らない。

 具体的には必要無いのに家屋っぽいものとか、家具を並べて自宅気分に浸ったりとかだ。

 そうこうする内に、周囲にいた暇してた同類達と一緒に遊ぶようになり…必然的に、遊びの規模も大きくなっていった。

 

 結果、始まってから約一年程で海底なのに乾ドッグ的なものが出来上がっていた。

 

 うん、オタクの様な凝り性かつやり込み大好きな者達に、自由にやらかせる状況を与えるべきではないね。

 ただまぁ、そのお蔭で海底なのに人間同様に快適な生活をおくれるようになった。

 乾ドックと言っても、艦娘?(いるらしいが見た事はない)における入梁施設の様なものなのだが、艦娘らのそれとは違い、こちらは温水プール風になっている。

 また、同類達と共に施設は拡張を続け、海底に出戻りしてきた者達を招いての宿泊施設の様な扱いになってきた。

 食堂に運動公園、図書館(電子書籍のみ)や訓練施設、更には宿泊用の個室かカップル向けの部屋、低価格の雑魚寝部屋等、様々な施設が要望と必要に応じて多数増築されている。

 まぁタダではなく、利用者には相応の資源と引き換えなのだが。

 

 で、皆で快適に過ごしていると、一部の戦争狂の連中が横槍を入れてきた。

 

 曰く、深海棲艦として海上の奴らの撃滅に協力せよ、との事だった。

 私達はシャーネーナーと思いつつ、ドッグを利用してある深海棲艦を開発、その連中の下へと送ってやった。

 具体的には浮きドッグ、戦地における補給と修理、整備を可能とする深海棲艦であり、その名も海上船渠鬼と言う。

 外見は多数の駆逐イ級が二列分連結した様な艤装に、雷巡チ級(但し完全人型)が乗っている。

 外見から分かる通りに既存艦の継ぎ接ぎであり、そのお蔭で鬼級でありながら割と生産性も高く、コストも低い。

 ドッグ機能を使用する場合、二列の間に折り畳まれていた軟質のビニールプール染みた簡易入梁施設が多数広がり、そこで修理を受けられる。

 外見は生体パーツ多めなのでグロいが、艦娘と同様の高速修復剤等も装備しており、回数制限はあれど、即座に修理完了する事も出来る。

 無論、多数の資材を搭載しているので、補給拠点としても機能する。

 また、イ級部分には自衛用に駆逐艦級の火器を装備しており、最低限の自衛も出来る。

 自身の戦闘力こそ鬼級の中では最低と言って良いが、コイツが戦線にいるだけで自軍の戦線復帰までの時間が大幅に短縮できる。

 下級の艦は殆ど使い捨てにしている深海棲艦だが、上位の艦は一度沈むと復活するまでどうしても時間がかかるので、こうした戦闘ではない支援面に特化した艦は今までいなかった。

 この深海のドッグにいる自分を始めとした技術者にとって、中々の出来だったと思う。

 が、当然ながら打たれ弱いので、是非とも頑張って足手纏いを守ってほしい(ゲス顔

 

 そして、この深海船渠鬼の存在は、人間達にとって多大な脅威となった。

 

 唯でさえ艦娘よりも物量に勝る深海棲艦、その最大の武器の一つである物量を補助する鬼級など、人間達にとっては悪夢でしかない。

 無論のこと、見つけ次第優先して殲滅する対象となったのだが、逆にそれを囮として包囲殲滅されたりと、酷い被害を受ける事も多々あった。

 かと言って、無視すれば物量で磨り潰される事になるので、人類側は頭を抱えつつも対処する羽目になった。

 

 そして、頭を抱えるのは自分達もだった。

 余りにも便利だったので、戦争狂連中が船渠鬼の量産を指示してきたのだ。

 無論、資源は捥ぎ取ったのだが、鬼級らしからぬ比較的簡易な構造の艤装もあって割と生産ラインの確立は上手くいったのだが…作れば作る程、もっと作れと言われるのだ(なお、一度完成したラインの運用・維持はグロ可愛い妖精さんがやってくれる)。

 人間と艦娘が優先対象としているだけあって、こちら側にも相応の被害が各所で出ており、作った傍から撃破されているのだ。

 で、各戦線で充足率がさっぱり上がらないのだ。

 結果が、自分達のブラック業務である。

 資源があり、生産ラインがあり、施設が十分にあっても、人手が圧倒的に足りないのだ。

 宿泊施設業務は半ば以上セルフサービス化しているので何とか回っているが(清掃・料理・設備運用等の労働も施設利用費代わりにした)、それでも人手が足りないのだ。

 三日徹夜がザラになり、何とか注文分を作り終えて一斉に倒れる様に眠ろうとした瞬間に追加注文が来るようになった時、自分達はキレた。

 

 「…ドウスル?」

 「逃げる。」

 「ドウヤッテ?」

 「前に緊急時向けに作った機能があっただろう?」

 

 一応プランだけだったのだが、この施設の緊急事態向けの機能を使えば、この施設ごと逃げられる。

 

 「タシカニソレナラバイケルデショウケド…。」

 「もう義理は十分に果たした。アイツらだけでも自前の方法で量産できるだろう。」

 「…ソウネ。ソウシマショウ。」

 

 とは言え、今まで試運転しかしていなかった機能をいきなり使うのは不安が過ぎるので、入念な点検を行ってから使用する事となった。

 なお、逃亡に合わせて「リニューアルに付きご利用できません。」の告知で、お客様には退避してもらう予定だ。

 そして一ヵ月後、何とか注文を裁きながらも時間を作って計画を進めた自分達は、遂に逃亡を決行した。

 

 「ゼンキカン、セイジョウニカドウチュウ。」

 「カクブ、モンダイナシ。」

 「では…全艦、離床開始!」

 

 太平洋、フィリピン海溝の底から、遂に全長1kmにも及ぶ巨大な艦が離床、航行を開始した。

 

 「ソウイエバ、ナマエハドウシマショウ?」

 「ア。」

 「ッテイウカ、リーダーノナマエモナイワヨネ?」

 

 そう言えばそうだった。

 自分についてきている彼女達は潜水級三種をメインに、軽巡・重巡・輸送なんかで構成されているメンバー達だが、自分は既存の深海棲艦には無い外見をしているらしく、分類できないし、名前も無かった。

 一応、この船も自分の艤装と言う扱い(一応艦の操作だけなら自分だけでも出来るが、内部の施設維持とかには人手がいる)だが、名前が無いのは恰好が付かない。

 

 「じゃぁ…深海工廠鬼とかどうかな?」

 「イインジャナイカシラ?」

 「サンセイ!」

 「デハ工廠鬼艦長、ゴウレイヲドウゾ。」

 

 「よし!深海工廠鬼艦隊、目標地点に向け全速前進!」

 「「「アイサー!」」」

 

 この時、自分は知らなかったのだ。

 憩いの場と折角の工廠を無くした深海棲艦達が追ってくる事を。

 剰え、人間達にすら自分達の存在を知られてしまい、戦略上超重要な攻略目標とされてしまう事を。

 自分が男のままで、周囲の部下達から虎視眈々と貞操を狙われている事を。

 自分は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 以下、解説

 

 ・海上船渠鬼

 戦争大好き、生者大っ嫌いな深海棲艦達の注文により、深海工廠鬼とその部下達が生み出した、海上ドック艦としての機能を持った深海棲艦の一種。

 外見は完全な人型になった雷巡チ級が、5隻から10隻程度の駆逐イ級を二列曳航している様に見える。

 戦闘能力こそ、最低限の自衛用(10cm連装高角砲相当)を駆逐艦部分に一つずつ装備しているだけで、装甲も駆逐艦並に低いが、その真価は浮きドックとしての機能にある。

 背面にある大型の艤装、つまり二列の駆逐イ級を左右に展開すると、その間に生体軟質素材で出来たビニールプールの様なものが多数広がっている。

 ここを艦娘が使用しているものに酷似した液状の修復剤で満たし、そこに破損した深海棲艦を入梁させる事で修復する。

 また、大型艦としての容量を生かし、多量の資材を格納しており、修復だけでなく補給も可能。

 この艦の登場により、元より物量に優れていた深海棲艦における上位艦種の生存性が飛躍的に向上した事(特に鬼・姫級が攻略作戦中に修復される事)から、現在では鬼・姫級とはまた別枠に、最も厄介な存在として認識されている。

 破損した傍から次々と修復し、確認された中では最大で10隻も入梁させる事が可能な個体も存在していた事から、現在人類の海上戦力からは最優先で撃破すべき対象となっている。

 

 現在、各戦線における深海棲艦の指揮官である鬼・姫級は最低でも一隻はこの艦を指揮下に置いている。

 

 

 

 ・深海工廠鬼

 深海棲艦きっての変わり者にして、唯一の技術者。

 基本的に海底で、白い鯨にも似た巨大な艤装の中で過ごしており、未だ人類とは遭遇していない。

 その技術力は本物であり、工廠として高い生産・開発能力も有している上に、白鯨型艤装を海上に浮かべてメガフロートの様な海上拠点としても使用できる。

 艤装内部には高級とは言えずとも、レジャー施設程度の宿泊施設と工廠機能を有しており、嘗ては多くの深海棲艦達から唯一の癒しの場所として愛されていた。

 しかし、人類との戦争が激化すると、戦争に熱中した他の深海棲艦の指揮官らから協力を命じられ、仕方なく内部の工廠機能を用いて、海上船渠鬼を作り出した。

 急造ながら中々の自信作となった船渠鬼だが、それ故にひっきりなしに注文が相次ぎ、遂にはブラック業務にキレて新天地を求めて逃げ出した。

 現在、深海棲艦からは多額の報奨金と共に情報・身柄共に捜索対象となっている。

 また、船渠鬼を開発・量産した様に、新たな艦種を一から開発する事も出来、その存在が知れた場合、人類からも船渠鬼を遥かに超える戦略上の超重要目標として狙われる可能性が高い。

 戦闘能力として、巨大な白鯨艤装に魚雷発射管並び生産・格納した多数の一般的な深海棲艦達を内蔵しており、それらを艦載機ばりに射出して戦わせる。

 だが、自身を改装する事で、更なる戦力UPも可能なので、今後はどんどん武装が増えていくと思われる。

 そして船渠鬼以上の修理・補給能力を持っているので、資源と内部の人員さえあれば、他の姫・鬼級とは別の形で一つの戦線を支える事も出来る。

 なお、人型の外見は中学生程度の黒髪・黒目・黒短パンに白長袖シャツの男の娘。

 深海棲艦唯一の男性個体として、艦内の部下達からは日々性的な視線を向けられている。

 

 

 

 

 続きません。




最近、日間その他ランキングでちょくちょく乗る。
何故こんなニッチな短編集が受けるんだろう?

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