徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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ストパン転生ネタ 101人ウィッチ その3

 1941年2月、外交官らと共にカールスラント皇帝が扶桑へと来訪した。

 欧州の権力者、取り分け王族が遠き極東の地に来た事は初であり、国民はこれを扶桑国が名実共に列強の仲間入りをしたと喜んだ。

 

 「カ國皇帝来扶!対怪異での協力要請?」

 「カ國皇帝、陛下と会見!」

 「カ國首都陥落!リ國にて亡命政権設立!」

 

 扶桑国内の新聞各社がそうセンセーショナルに書き立てる中、カールスラント皇帝は皇居へと入城した。

 その後、皇帝が出てきたのは翌日未明であり、その間何が話し合われたのか知るものは誰もいない。

 しかし60年後、当時の侍従長の日記が発見されると、にわかに再調査が始まる事となった。

 

 曰く、「当時、カールスラント皇帝は陛下に何かを懺悔していた様だ。その内容は人払いされて分からなかったが、声の様子から皇帝は落涙していたように聞こえた」と。

 

 だが関係者の口は堅く、第二次ネウロイ戦争終結より50年以上経過する現在もわかっていない。

 また、皇帝と陛下の会見より三日後にあった発表により、そちらの方の記録ばかり目立っており、日記への注目は直ぐに下火になったという。

 

 「カ國皇帝の要請を受託!欧州派兵を決定!」

 「対怪異戦争、欧州劣勢!派兵間に合うか?」

 「求む扶桑魔女!海軍にて魔女募集!」

 

 派兵の決定と共に、扶桑国は海軍を中心に大規模な対怪異戦力の増強を決定、同時に大規模なウィッチの増員を開始した。

 加えて、ある情報がカールスラントより発表されると、民間からウィッチの応募が増加し始めた。

 

 「カ國にて扶桑魔女が義勇兵として活躍!怪異多数撃破!」

 「扶桑魔女、ベルリン防衛線に参加!避難までの防衛成功に寄与!」

 「扶桑魔女、カ國皇帝より黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与!」

 

 扶桑国出身の魔女が”義勇兵”としてカールスラントにて対ネウロイ戦に参加し、多大な戦果を上げ、カールスラント皇帝より直接極めて貴重な勲章を授与されたという情報が発表されたのだ。

 

 

 ……………

 

 

 無論、事実は異なる。

 カールスラント皇帝と外交官らは秘密裡にだが、事の次第を正直に、包み隠さず伝えた。

 

 これに対し、扶桑国政府は当然ながら激怒した。

 

 極々当然である。

 緊急事態とは言え、自国民を無理矢理徴兵された挙句、高い能力があったとは言え心を病む程に酷使された。

 この事実に対し、カールスラント側は一貫して謝罪に徹した。

 事前にある程度話を通していたとは言え扶桑側の怒りは大きく、予定されていた艦隊の派遣も一時中止されてしまう程だった。

 その後、本件に対する具体的な賠償及び外交的配慮の話へと移った。

 当然ながら、事実をそのまま公表すれば、それこそ誰も得しない両国の開戦へと繋がってしまう。

 そこで両国は件の”魔女”に関しては現地にて義憤に駆られた義勇兵として扱う事に決め、更にその献身的かつ英雄的な活躍を称えてカールスラント側でもつい最近新たに作った(現在一人しか受賞が内定していない)黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与する事を決定した。

 また、それに追加する形で一生を普通に生活するには困らない程度の恩賞を追加する形で”彼女”に関しては決着となった。

 その次、扶桑国そのものへの賠償としてカールスラントが現在保有しているアジアにおける海外植民地(主にミクロネシアにある諸島等)の割譲で纏まった。

 が、これでは不自然である上に、公表できる理由も無しに受け取れない。

 そこで海外派兵の前例作り及びノウハウ構築、そしてカールスラントを除けば未だ低い扱いを受けている扶桑国の外交的立場向上のため、中止されていた欧州への艦隊派兵を決定した。

 これには主に扶桑海事変に参加した将兵及びウィッチを中心として、陸軍にも機械化の進んだ有力な部隊(陸戦ウィッチ含む)を中心に編成される事が決まった。

 しかし、規模が規模であるため、中止されていた艦隊の編成及び派遣には時間がかかる。

 そのため、現在欧州及びリベリオンを中心に進んでいる各国から派遣されたウィッチを中心とした統合戦闘航空団の組織化に合わせ、扶桑海軍所属ウィッチを先行して派遣する事が決定した。

 なお、その中には”彼女”の名前は無かった。

 少なくとも、現段階においては。

 

 

 ……………

 

 

 都内の扶桑軍病院

 その中庭にて、一人の少女がベンチに座りながら虚ろな目で空を見上げていた。

 その傍らにはすっかり大きくなったダルメシアンのブチがいた。

 

 「……………。」

 

 一切の表情もなく、ただただ茫然と空を見上げる少女は、優れたウィッチだった。

 空でも、陸でも、彼女は懸命に戦い続け、大勢の人々を怪異から守り抜いた。

 しかしただ一つ、自分自身の心までは守る事は出来なかった。

 コラテラルダメージ、必要な犠牲と言ってしまえばそれだけだ。

 しかし、未だ年端のいかない少女を犠牲にする事は、本当ならどの国の軍でも思う所があった。

 そんな事を言っていられない程には、今の欧州は地獄となっていた。

 

 「くぅーん……。」

 

 心配する様に鼻を鳴らすブチ。

 その頭をそっと慈しむ様に撫でる少女。

 帰国早々にこの病院に来て既に半年近く。

 既にカールスラント皇帝と外交団は大使を残して亡命政権のあるリベリオンへと戻っている。

 そして、欧州各国は今も襲い来るネウロイを相手に終わりの見えない戦争を続けている。

 

 

 あの黒い怪異のクソ共が、未だカールスラントに陣取っている。

 

 

 「……………。」

 

 ギシリ、とブチを撫でていない方の拳を握り締める。

 既に体の方は完全に回復した。

 当初は静養と重湯、時々栄養剤の日々だったが、今現在は揚げ物以外は何とかいける。

 カレーは……まぁ一杯だけなら…(目逸らし

 

 「行こうか、ブチ。」

 「うぉん!」

 

 ハタハタと尻尾を振る使い魔に声をかけ、ベンチから立ち上がる。

 もう十分に休んだ。

 休暇は終わりだ。

 

 「もう一度、欧州へ。」

 

 世話になった宿屋のお婆さん。

 ブチの母犬。

 旅先で語らった気の良い人達。

 自分を庇って戦って死んだ兵士。

 自分の目の前で殺された兵士。

 ありがとうと言って死んだ避難民。

 ごめんなさいと泣く他のウィッチ。

 すまないと涙ながらに謝った皇帝陛下。

 

 「お父さん、お母さん、お婆ちゃん、ごめんなさい。」

 

 皆が皆、私にとってはかけがえのない人達だった。

 

 「私、行くよ。」

 

 こうして、私はまた戦場へと旅立った。

 

 

 

 

 

 後日、扶桑国内の新聞は一つの記事で持ち切りになった。

 

 

 「カ國皇帝より勲章授与されし魔女”杉原千歳” 欧州派遣艦隊へと参加す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは世界で最も有名なウィッチのお話

 

 「黒鴉」「一人ウィッチ大隊」「ネウロイの天敵」と評された扶桑出身のウィッチ

 

 杉原千歳の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 101人ウィッチ 完

 




はいこれで終わり!終了!閉廷!

理由?ストパン本編未視聴だからです!

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