ど う し て こ う な っ た(汗
多くのヒーローとヴィランが存在する中、一応ヒーローという特に変わった人物?がいた。
その名をメカヒーロー「カチコチマン」と言う。
「え、『何でヒーローにならなかった』ですか?」
高校のヒーロー科卒業後、よく彼?はそう問われた。
「他にやりたい事があったんです。だからヒーロー資格が、公に個性を使う資格が欲しかったんです。」
人類の総人口の8割が個性を持ち、その中でも強力だと言われる個性を持った彼?はそう言ってヒーロー活動は殆どしなかった。
無論、そんな彼?の活動を惜しむ声や責める声は多かった。
しかし、それ以上に彼への感謝と称賛の声が多かった。
「自分は多くを壊す事が出来ます。しかし、それ以上に『作る事』が得意なんです。だから、それを活かしたかったんです。」
彼?は多くのものを作った。
特許の数だけを見れば彼?個人のものだけでも3桁後半はあり、彼?が所長を務めて見出された研究員達が所属する研究所名義のものだけでも100を超える。
特に有名なものは三つある。
今日では一般的となったフルダイブVR用の大型筐体「コクーン」の開発。
これは病人や身体的に立ち上がり困難な老人、身障者でも疑似的に健康な生活を体験できるとして大変な人気を博した。
それ以外の一般人には超高性能ゲーム機として、ヒーローを始めとした危険な職種に就く者達からは超高性能なシミュレーターとして人気を博している。
次に従来よりも高性能・小型化・軽量化された人工臓器群が上げられる。
それまで完全な代替が極めて困難だった膵臓や腎臓、胃腸等を完全に人工的に再現したものを多数開発・生産し、臓器移植の順番待ち解消に大きな功績を挙げた。
最後に、これが三つの発明の中で最も高価かつ取り扱いの難しいものだ。
人工知能搭載型全自動人型機械、通称「自動人形」である。
今日では主に児童福祉や老人介護の現場にて活用されている自動人形だが、発表直後は物議を醸した。
というのも、これはロボットという概念が社会に広まってからと同時に危惧されていた事なのだが、人間の職を奪うと考えられたのだ。
それは当然、自動人形にはそれだけの性能があったからだ。
しかし、実際に主な市場として考えられていた福祉・介護の現場においては実践証明が成され始めると、諸手を挙げて喜ばれた。
先進国においては少子高齢化は切っても切れない問題であり、3K仕事である福祉・介護の現場は常に人手不足で喘いでいる。
そんな所に安価とは言えないが初期投資一体につき約200万円で購入可能な即戦力が出てきたのだ。
頭を悩ませていた行政・経営側は大喜びである。
更に細かなアップデートが行われるので、運用する毎に繊細さが増していく。
唯一全般的に歯に衣着せぬが故の毒舌があるが、それとて慣れれば個性的であると言われて終わりである。
また、他の分野においては労働者のサポートをするばかりで参加せず、もし参加しても会計位であり、自動人形の存在に不安を抱いていた者達は胸を撫で下ろしたという。
また、自動人形の外観(主に美女)に対して敵愾心を抱いていた一部の女性達の声も、徐々に消えていった。
と言うのも、自動人形は購入から2年は決してセクサロイドとしての機能は搭載されない事が厳密に決められているからだ。
他にも購入のためには多種多様な契約への同意、一定以上の収入及び一括払いが求められる。
その契約もユニークであり、特に面白いのが「自動人形側が購入者を拒否すれば出荷元へと戻る事が出来る」というものがある。
これは一部の人権屋等が言い出したのだが、「自動人形側にも権利を!」という騒ぎがあり、開発者であるカチコチマンも「じゃ拒否権搭載しましょう」とノリノリで加えた機能であり、権利であった。
が、これの行使された回数はとても少ない。
何故なら、自動人形とは元々人間に奉仕するために作られた存在なのだ。
彼彼女らが人間に奉仕する事に否と言う事は、主の健康や危険に関わらない限りは殆どない。
数少ない例外として、正式な日本国国籍を持たない者が購入し、秘密裡に国外への持ち去り・分解・破壊等を試みた場合であり、その場合は契約違反者はガチオコのカチコチマン或いは彼の作った戦闘用ロボ軍団の餌食となった。
そんなこんなでまぁ、メカヒーロー「カチコチマン」は有名なのであった。
殆どヒーローらしいヒーロー活動はしていないが、それでも彼は個性黎明期からの現役最古参のヒーローであったりする。
そんな彼が、ヴィランと繋がりを持っている事を知る者は殆どいない。
……………
「いやぁ、最初は戸惑ったものです。」
カチコチ、と音を立てて時を刻む時計を仮面に仕立てたマスクを被った紳士が、懐かし気に語る。
「個性黎明期。未だ個性に対しての認識や法整備が追い付いていない頃。個性に纏わる犯罪の激化・多発化は目を覆う程で、今現在とは比べるべくもない。そんな中で私はよくやった方だと思います。」
言う程簡単ではない。
一部では集団ヒステリーも合わさって、個性持ちは全て殺せと魔女狩り染みた暴動も発生し、大勢の個性持ちの人々、それこそ子供や赤ん坊すら殺された時期もあったのだ。
それをこの最古参の一人は生き残り、今現在も日本の各種技術の発展に寄与し、多くの後進達を己の研究所へと誘致して思う存分研究させている。
そんな事が出来るだけの組織力を持った個性持ちは、今現在彼の他にもう一人だけだった。
「全くだね。しかも、当時荒れてたボク達を支援しながら、と来たものだ。」
そう返すのは、古くからの腐れ縁にして茶飲み友達であるオールフォーワンだ。
最早カチコチマンを除けば誰も彼の名前を知らない・言わない巨悪そのものの男。
そんな人物が、今はのんびりお茶を啜っていた。
「個性を持った者達は、早々に社会の中に足場を固めねばならなかった。」
「しかし、それには既得権益を持った連中が邪魔だった。」
「軍や警察だって、定員割れを起こしている状態でも、彼らの装備等で稼いでいる者達にとって、ほぼ無料でそれに代替し得る個性持ちは邪魔でした。たとえそれに数を揃える事が出来ないという欠点があったとしても。」
「だから、当時の社会の混乱に乗じて、我々ヴィランが表社会で生きられない個性持ちのための受け皿兼既存秩序の破壊を担った。それに対抗する形で、私の弟達がヒーローとなった。」
「そして、自分がそのどちらにも行く事を拒んだ、或いは行けなかった者達の受け皿となりました。戦いではない、別の個性の使い道を示しながら。」
これが個性黎明期、その混乱を抑えた本当の実力者達の会話。
きっと当時の混沌とした社会の中で、多くの無個性の人々は思っただろう。
誰かヴィラン達をどうにかしてくれ、と。
しかし、ヴィラン達を抑えるには既存の警察や軍隊では不可能だった。
無警告・無差別・全兵装自由使用ならばまだ何とか出来ただろうが、そんな事をすれば下手すると革命すら起きかねない。
だからこそ、人々は思う所があってもヒーローに期待せざるを得なかった。
それが続いた結果、現在の超人社会が出来上がった。
それを傍で聞いていた死柄木は知らずゴクリと唾を飲み込んだ。
それでも一言一句漏らさず聞いているのは、それが彼の先生とその友人の会話であり、己の将来に役立たせるべき情報だと理解しているからだ。
「そして今、超人社会は次の段階へと進んでいます。」
「既存秩序を破壊し、個性を持つ人々の居場所は作られた。では、次は何処を目指すべきか?」
「自分は宙を目指すつもりです。」
そう言ってカチコチマンが指さすのは、上。
宙、即ち宇宙。
「どの道、人類はこの星から出ねば詰みます。故に、自分達研究所は宇宙開発を目指します。」
「その中で、君は私達ヴィランに何を望むかね?」
共存共栄のためには、持ちつ持たれつの形にせねばならない。
故にこそ、オールフォーワンもカチコチマンも様々な形で互いに協力してきた。
重傷を負ったオールフォーワンの治療に改人の基礎技術やヴィラン用コスチュームの開発等。
無論、表沙汰にならない形でだが、その恩恵は大きい。
その代価として、研究所は表沙汰に出来ない仕事をヴィランに依頼してきた。
「民間組織である我々が、多くの国や企業を差し置いて宇宙開発にて独走した場合、どうなるでしょうか?」
「邪魔な羽虫がやってくるだろうね。では掃除は任せたまえ。」
カチコチマンとしては、既に飴は十分与えたという形だ。
しかし、国家の、企業の、人間の欲望というのは果てしない。
確実に、研究所の成果を見て横槍を入れ、甘い蜜を吸おうとする者達は出るだろう。
「この星の上での活動は何れ限界が来ます。ならば、外に場を移しましょう。」
「ヴィランを追う形でヒーローが来る。そしてその後に人々が、か。」
「そして宇宙空間というあらゆる物資が限られる極限状態では、また強力な個性持ちこそが必要とされる、か。」
結局、世界はこの二人の掌の上だった。
伝説的な裏社会のTOPと両世界の技術的最先端の担い手。
彼らの企みは、未だ露見していない。
「さぁ次のステージを始めようか。」
「ふふ、また忙しくなりますな。」