「ふふーん♪」
鼻歌を歌いながら、BB(偽)こと間桐桜はのんびりとショッピングモールを歩く。
特に何かを買う、という予定はない。
ただ前世の頃の様に、極普通の人間と同じ様に買い物を楽しみたいというだけの事で。
「らんらん♪」
白いワンピース、HF劇中にて間桐桜が雪の中で着ていた姿が印象深いソレをそのまま再現したものに、上から薄桃色のカーディガンを羽織っている。
肩からは白い2Wayバッグを提げて、一人鼻歌を歌いながら楽し気に買い物をする姿はとても愛らしく、一見して無防備だった。
「おや、君この辺じゃ見かけないね?」
「何ならオレ達がこの辺案内してあげよっか?」
「オレ達良い店知ってるんだぜぇ?」
結果は当然の結果と言うべきか。
ニヤニヤと、如何にも軽薄そうな風体の男達が声をかけてきた。
「邪魔。」
「「「あぁ?」」」
その一言に男達は怒りを隠さずドスを利かせた声を出した。
「調子乗ってんなよこのアマ!」
そして、一人が強引に桜の肩を掴もうとした時…
「邪魔と言っているんですけどねぇ、醜く哀れな溝鼠さん達。」
それに対し桜、もといBB(偽)がとった手段は単純だった。
ズルリ、と。
二人の周囲を囲む様に、直立する影の様なナニカが現れ、男達を囲んだ。
「じゃ、見つからないようにしてテキトーに遊んであげてなさい。あ、くれぐれも同じ事起こさないように、ね?」
ひ、と男達の喉が引き攣ると同時、影達によって男達は包み込まれ、そのまま消えてしまった。
しかし、ショッピングモール内の人々は誰も騒がない。
その様にBB(偽)によって事象を改竄されたから。
「もう、気分が悪くなっちゃいました。ここは一つ、丁度良い時間ですし、何か食べてみましょうか。」
そう言って、今度は衣料品ではなく飲食店の集まったエリアへと向かうのだった。
男達?今頃夢の中で愉快な触手プレイでもしてるんじゃないですかね?
………………
「むぅ……。」
気分を一転、何か口にしようとしたBB(偽)だが、不満げに眉を寄せていた。
時刻はちょうどお昼時、飲食店はどこもいっぱいだったからだ。
「仕方ない、ちょっと時間を潰してみますか。」
「あら、だったら私と一緒に見て回らない?」
「へ?」
不意に、ちょんちょんと肩の辺りが突かれると共に、聞き覚えのある声がした。
「メルト!来たんですか!?」
「えぇ、どっかの誰かさんがいきなり消えるからびっくりしたわ。」
いつものすまし顔に皮肉気な言葉を吐くメルトリリス。
しかし、その身なりはどう見ても極普通の少女のもの。
特徴的な装備だけを纏う下半身も、この場に用意されたボディに関しては極普通の少女のそれだ。
白いセーター、それも萌え袖かつ襟が口元を隠す程に大きく立っている。
下は黒いミニスカートだが、普段は晒されているしなやかで美しい美脚は黒に近い濃紺の膝上まであるハイソックスで隠されている。
靴は極普通の白い女性用スニーカー(但しかなりの上げ底)だ。
極普通の生まれとは言えない、けれども今だけは極普通の装いをした自分の生み出した美少女。
更に普段は足の装備の関係で見下ろしてくる彼女は、今はちょこんと本来の体躯で目の前で自分を見上げてくる。
その姿に、BB(偽)は……
(きゅん)
柄にもなくときめいた。
「よーしよし、じゃー一緒に見て回りましょうか!」
「え、ちょ、いきなりなによ!?」
あんまり可愛いので抱き締めてなでなでする。
メルトリリスの程良い背丈に更に妹感が増し、ついついこの姿に転生してから増した女性的な感覚、より正確に言えば母性がぎゅんぎゅん唸っていた。
「どうしたのよBB。何か急にテンション変わったけど…。」
「いーんですいーんですそんな事は!さー今日はもう思う存分遊んじゃいましょう!」
「「「ちょっと待った!」」」
そこには残りのサクラファイブのメンバー(全員私服)の姿があった。
なお、パッションリップはバストがアレ過ぎるのでサイズは調整済みで、キングプロテアは精神世界に存在する本体の姿である。
「メルトばっかりずるい!私もおかー様と遊びたーい!」
「わーたーしーもー!」
パッションリップとキングプロテアの精神的幼少組二人が騒ぐ。
が、残り二人も不満そうなので、これはもう皆で遊ぶ以外には無い様だ。
「こらこら、二人ともそんなにはしゃがないはしゃがない。」
「「む~!」」
「大丈夫だから、ね?皆で楽しく遊びましょう?」
こうして、私達BB(偽)+サクラファイブはのんびりとショッピングを楽しんだのだった。
なお、ご飯に関しては幼少組二人がある程度遊んだ頃にはピークが終わってたので、あっさりと入れました。
……………
「いやー遊びましたねー。」
「うん!」
「楽しかったね!」
全員が何かしら買い物をして、ホクホク顔で帰路に就く。
帰路と言っても、この仮初の体を維持するための設備を置いたマンションであり、その物件と土地の名義はBB(偽)の作ったペーパーカンパニーなため、家賃も何も必要無い。
こうしたペーパーカンパニーは他にもあり、主にソフトウェアやゲーム関連で結構な利潤を出している。
しかし、公に雇っているのは事務員だけだし、経営陣もネットを通じてBBの用意したテキトーなAIが出力するソフトウェア等を商品として販売を任せているだけという実に「何時でも切れます★」な仕様となっている。
「にしても、カズラとヴァイオレットはそれで良かったんですか?」
「えぇ、私はこれで十分です。」
「はい。これ気に入っちゃいました。」
ヴァイオレットは原作でもファッションとして気に入った眼鏡をかけ、カズラドロップは……何か効果あるのか怪しげな健康グッズの入った箱を幾つも抱えていた。
「本当は注射器が良かったんですけど、それだと法的にアウトらしいですし…。」
ぼそりと厄い事を呟いたカズラドロップに、BB(偽)は内心で冷や汗を流した。
「ま、暫くはこっちで過ごしましょうか。」
「何時あっちに帰りますか?」
「飽きたら、ですかねぇ。まぁ何かあったら直ぐに帰るつもりですが。」
すっかり暗くなった空を見上げる。
そこには、街の明かりに負ける事なく輝く満月の姿があった。
あの夜空に浮かぶ月こそが、彼女達の故郷であり帰るべき家である。
「その前に、ちょっとお掃除していきましょうか。」
静かで穏やかで暖かな、母親にして姉の様な雰囲気が消え去り、普段の彼女のものへと戻る。
即ち、おしゃまで悪魔でイケイケな月の女王へと。
周囲には何処からか現れた如何にもなヴィラン達の姿がある。
「5、いや6人姉妹か。こりゃプレミアもんだなぁ。」
「おい、嬢ちゃん方。悪いこた言わねぇから大人しくしな。そうすりゃ顔だけは傷つけずにしてやるからよぉ!」
ゲラゲラと笑いながら勝利を確信し、その後のお楽しみと利益を想像して、ヴィラン達が下卑た視線で彼女達を無遠慮に撫で回す。
その様子を、月の女王はただ羽虫に向ける視線でもって返す。
「じゃぁ皆、実戦試験といきましょう。周辺への被害は出さないようにして、オールウェポンズフリーです。」
初の地球上における仮初の体を用いての戦闘。
その言葉が、母にして姉にして創造主たるBB(偽)への無礼を働く者達を即殺せずにいた彼女らの最後の鎖を解き放つ。
サクラファイブ達はド三流のヴィランへと、その大き過ぎる力を行使した。
……………
翌日
「こりゃ、ヴィラン同士の抗争か?」
朝になって発見された重傷を負って死亡したヴィラン達と彼らが見つかった戦場跡地を見て、警察の一人がそう呟いた。
「相当強力な個性ですよね。範囲はそんなに広くないですけど…。」
「加えて、隠蔽能力がある奴もいるな。今朝まで気付かれなかったのはそれが原因だろう。」
発見が遅れたのもあるのだろうが、全てのヴィラン達は発見当時、既に絶命していた。
ある者は全身を甚振る様に切り刻まれていた。
ある者は拳大にまで圧縮されていた。
ある者は巨大な質量によって押し潰されていた。
ある者は全身を強靭な縄の様なもので絞殺されていた。
ある者は息こそあるものの完全に精神が破壊され、ほぼ脳死状態だった。
「確認取れました。何人かは手配中の人身売買組織の連中です。」
「やはりヴィラン同士の抗争ですかね?」
「或いは、そうと知らずに格上に手を出した、か。」
結局、この事件は迷宮入りした。
確保されたヴィラン達の遺体や回収された遺留品から人身売買組織のアジトが判明し、ヒーローとの合同作戦で一斉検挙に成功し、報道でもそちらの方だけがクローズアップされた事もあって、直ぐに人々の記憶から風化する事となる。
だが、たった一人。
人身売買組織の一斉摘発事件の前に起きた事件に興味を抱いた者がいた。
「ほぅ?これは興味深いね。弔達では少し荷が重そうだし……偶には僕が行くか。」
こうして、悪の首領と月の女王の縁は繋がった。
うーむ、思ったより進まなかった
次こそは原作キャラとの絡みを!
でもそろそろ次のネタが思い浮かぶ頃だしなぁ