徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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twst夢風小説で人外主のお話

 その日、ツイステッドワンダーランド史上初にして余りにも異例の軍事作戦が行われた。

 

 参加者は世界各国の選りすぐりの中から更に選抜された一握りの上澄みのみで統一された魔法士達。

 全員が戦士、或いは軍人や狩人に相当する職分に就き、類稀な実力や才能、経験を併せ持った代えの利かない珠玉の人材だ。

 加えて、あの妖精種の国こと茨の谷から今代の王とその直属の部下達すらも参加していた。

 余りにも異常かつ尋常ではない錚々たるメンバーであった。

 恐らく質の面だけを見ればこの世界の歴史上でも最上であろう。

 彼らが編成された理由はたった一つ、ある一体の怪物を撃滅するためだった。

 

 それはこの星の外、宇宙から降りて来た。

 それは山程に巨大だった。

 それは一対の翼と三つの首、二股の尾、金色の鱗を持つ巨大なドラゴンだった。

 それは目に付く全てを薙ぎ払う災厄だった。

 

 この黄金の三頭竜、とある国の首都へと隕石が如く着陸した直後から目に付く全てを蹂躙した。

 夥しい死者と瓦礫の山が幾つも築かれ、竜が去った後に動く者は誰もいなかった。

 僅か半年で三つの都市が滅んだ後、ツイステッドワンダーランドの全ての国々が過去例を見ない大同団結を果たし、この災厄へと対応する事で一致した。

 そして、それぞれが命を懸けて己の出来る最善を尽くした。

 熱砂の国はその経済力と占術の造詣の深さから各国への資金提供と占術による目標の行動予測。

 夕焼けの草原は獣人達の優れた身体能力から目標への命懸けの偵察活動と被災地域の救援活動。

 薔薇の王国はその規律の高さから被災地域の治安維持並びに復興支援。

 珊瑚の海は人魚たちによる海上ルートからの避難への協力や食糧支援等。

 輝石の国はそんな各国への医師団の派遣や医薬品の格安販売等。

 茨の谷は各地の妖精達へと協力を要請し、各地でそれぞれに出来る支援活動をお願いした。

 勿論、この様な前例のない大同団結する前に各国は当初独力での対処を図った。

 しかし、150mを超える小山程の巨体の黄金の三頭竜、しかも飛行可能で強力なブレスをそれぞれの首で放ち、死角らしい死角も無い超ド級の怪物となれば如何に優れた魔法士であっても一国家レベルでは対応するには余りに無謀であった。

 都市部に入られる前に撃滅を狙って攻撃するも、逆に殲滅された軍隊もあり、更にその直後に最寄りの都市が壊滅した事例もあった。

 この様な事態となっては普段戦争している各国も(こりゃあかん)と生き残るために一致団結するのは当然の帰結だった。

 

 そして黄金の三頭竜がこの星に降り立って丁度一年の日。

 各国の精鋭魔法士部隊はとある砂漠の果てに作られた偽の都市へと目標を誘導する事に成功した。

 

 熱砂の国による無数の占術と目標の行動データの蓄積により、ある程度の行動予測が可能になった事が大きかった。

 砂漠上空を飛行中の目標へと魔法で作った人形の軍勢による攻撃で進行方向を誘導し、偽装都市へと誘き寄せた。

 そして人形の軍勢をあっさりと蹴散らした目標が都市へと着陸し、破壊の限りを尽くそうとした時、

 

 『トラップ、起動します!』

 

 都市へと偽装された殺し間に仕掛けられた罠が起動した。

 各国がここぞとばかりに仕掛けた無数の拘束魔法と秘蔵(使い所無くて死蔵とも言う)のマジックアイテムにより、目標は捕らえられた。

 

 『トラップの発動を確認!目標への効果あり、固定確認!』

 『よし、第二段階へ移行!』

 『了解!第二段階へ移行!』

 

 続いて、茨の谷で作られたドラゴンの牙製の槍が射出され、目標の翼を貫き、飛行能力を奪った。

 

 「「「■■■■■■■■■■■ッッ!!!」」」

 

 余りの激痛に三つの口から独特の咆哮が轟き、次いで胴体から首へと光の波が送られていく。

 ブレス発射の前兆である。

 

 『ブレスの前兆確認!発射まで後3秒!』

 『カウンター並びに対ブレス障壁展開用意!』

 

 きっかり三秒後、三条の稲妻にも似たブレスが発射される。

 しかし、その一斉射は三つ首竜の眼前に展開された防御魔法へと直ぐ様命中し、その場で爆散した。

 

 『カウンター、効果確認!』

 『よし、このまま止めを刺すぞ!』

 

 最後の止めとして用意されたのは先程のドラゴンの牙製の槍に加え、珊瑚の海から提供された三又の黄金の鉾トライデント。

 王権の象徴とも言える武器を十全に扱うべく、人間への変身薬を飲んだ人魚すらもこの作戦に参加していた。

 しかし、目標には未だ見せていない奥の手があった。

 

 『ッ!目標、再度発光!』

 『カウンター並びに対ブレス障壁再展開!』

 

 目標の150mを超える全身が発光、再びブレスかと思われ、先程と同じ対応が成された。

 この時、先程と同じくカウンターのための防御魔法だけでなく、純粋に防御用のための対ブレスに特化した障壁魔法も展開された事が、彼らの命を救った。

 

 「「「■■■■■■■■■■■ッ!」」」

 

 目標の巨体を中心に、全方位へとブレスと同様の性質を持った衝撃波が発せられた。

 それらは偽装された都市群を一撃で壊滅させ、入念に対策された筈の障壁魔法越しにその場に展開していた精鋭達すらも木端の様に吹き散らした。

 

 『ぐ、が…!各員、現状報告…!』

 

 司令部に届けられる報告は、どれもこれも絶望的だった。

 今の一撃で精鋭の多くが戦闘続行不可能な程の重傷を負い、一部では死者も出ている。

 並みの魔法士では今の一撃で文字通り全滅していてもおかしくはなかったのだから、流石と言えば流石である。

 しかし、今の一撃で目標の拘束も緩んでおり、次々と戒めが破られつつある事が伝えられると、流石に司令部の脳裏にも「総員撤退」の四文字が浮かんだ。

 目標の戦闘能力は警戒していた。

 その能力を解明すべく今日まで誰もが血と汗と涙を流し続けた。

 しかし、目標の能力は彼らの想定を上回っていた。

 だが、ここで撤退を決定しても無事撤退できるのか?

 そも、ここを逃せば目標をもう一度捕捉できるかも分からない。

 もう一度拘束し、何とか槍と鉾を当てれば勝てるかも知れない。

 だが、それは余りにも成功の確率は低い。

 悩ましさの余り、脂汗とうめき声が満ちる司令部から、一人消えた姿があった。

 だが、それは逃げたのではない。

 戦いに向かったのだ。

 

 「我らにも意地がある!宙の竜よ、この地より去るが良い!」

 

 グレートセブンの後継、茨の谷の妖精王がその真の姿を露わにして、今にも全ての拘束を振り解こうとしている目標へと挑みかかったのだ。

 茨の谷の妖精王、その本性は巨大なドラゴンである。

 蜥蜴に似た五体に小さめの翼を持つ100m超えの黒い鱗を纏った巨体で、自らよりも一回り大きい巨体へと殴り掛かったのだ。

 

 「「「「■■■■■■■■ーッ!!」」」」

 

 突如始まったドラゴン同士の殴り合いに、誰も介入できない。

 巨体の動き一つで発生する衝撃波に、人間の身で参加するには余りに無謀だったからだ。

 ブレスの撃ち合いに至っては、余波だけで城も消し飛びそうな勢いだった。

 近づいたら一瞬でミンチ未満になる死地へと突っ込む無能な者はこの場にはいなかった。

 故に、有能な彼らは即座に自らに出来る事をすべく動いていた。

 

 『各員、槍と鉾の状況はどうか!?』

 『B班、こちらにはありません!』

 『A班、こっちは全て破損!』

 『穂先はどうだ!?他は!?』

 『こちらD班、C班の全滅を確認…。ですがトライデントは確認!』

 『E班だ、こっちは槍の穂先が三つある!』

 『よし、妖精王が踏ん張ってる内に射撃位置を確保!これがラストチャンスだ!』

 『『『『『『了解ッ!』』』』』』

 

 彼らが苦労して射撃位置を確保した時、ドラゴン同士のVSバトルは妖精王が圧倒され、地面にその巨体を沈め、その上から踏み付けられていた状態だった。

 目標の意識は、完全に妖精王へと釘づけられていた。

 

 『各員、一斉射!』

 

 目標が止めのブレスを吐こうとした瞬間、その胴体に3本の槍の穂先とトライデントが命中した。

 

 「「「■■■■■■■■ーッ!?!?」」」

 

 その肉と骨を盛大に抉られ、目標が苦痛の叫び声と共に倒れる。

 

 『今です陛下!奴に止めを!』

 『無理だ!ダメージが深くて動けない!』

 『治癒が得意な者は妖精王を治療しろ!他は目標を拘束して時間を稼げ!』

 

 妖精王が回復するまでかかった時間は、僅か3分だった。

 それでも精鋭達の半数近くがこの3分で死亡した。

 拘束魔法で動きを抑え、攻撃魔法を目眩ましにし、飛行術で囮を務め、貴重な三分を稼ぎ切ったのだ。

 

 「このままでは勝てぬ…!皆、私に魔力を送れ!」

 

 何とか立ち上がった妖精王の号令に、生き残った精鋭達は残り僅かとなった魔力を送り、次々と力尽きていく。

 そして、精鋭達の命を賭した時間稼ぎの果てに、遂に準備は整った。

 目標が再び妖精王へと意識を向けた時、そこにいたのは先程とは別の何かだった。

 過剰に貯蓄された魔力により、全身を焼けた鉄の様に赤熱させた黒いドラゴンの姿に、目標は即座に口内へと光を充填し、ブレスを発射せんとする。

 しかし、既に準備を終えていた妖精王を前にして、それは余りに遅すぎた。

 黒いドラゴンの口内から放たれたのは、精鋭達の絞り出した魔力と妖精王の残った全ての魔力を掻き集めての一撃だった。

 一拍遅れて放たれた目標のブレスを掻き消し、そのど真ん中へと命中した渾身の一撃は遂に目標を爆発四散させた。

 それが余りにも膨大な被害を出した宙からの来訪者の最後だった。

 

 以降、ツイステッドワンダーランドの全ての国々が復興と今後起きる可能性のある似た事態へと対応するために平和条約を締結し、事実上この星から国家間の戦争は完全に消えた。

 荒れ果てた国土の復興に国力を注ぐため、戦争なんてしている暇や余裕が無いとも言うが。

 それでも今後も非正規戦や暗闘は消えないだろうが、取り敢えずこの星の人類は辛うじて平和を取り戻したのだった。

 

 これは異世界からの迷い人が名門魔法学校ナイト・レイブン・カレッジへとやってくる実に300年前の出来事だった。

 

 

 ……………

 

 

 「いや、完全にキングギドラじゃん。登場作品間違ってない???」

 

 そして300年後、異世界からの迷い人で魔法なんて使えないのに今はNRCに入学している監督生は魔法史の課題で出された「過去に行われた宇宙生物殲滅作戦についてのレポート」を書くために司書のゴーストからお勧めされた資料へと目を通して、思わず突っ込んでいた。

 

 「え、もしかして妖精王ってゴジラ?妖精王じゃなくて怪獣王じゃん???」

 

 生憎と監督生の知るツノ太郎は怪獣王じゃないのだが、それはさておき。

 図書室で混乱の極致にいる監督生の背後から、三人の人影が近づいて来た。

 

 「あら、どうしたのユウ?」

 「レポートが難航してるの?」

 「もし良かったら手伝ってあげようか?」

 「あ、三つ子先輩達。」

 

 監督生が振り向くと、そこには三人のとてもよく似た容貌の少女がいた。

 全員が白磁の肌に金髪赤眼であり、同時に余りにも人間離れした美貌をしていた。

 ここNRCは生徒の9割以上が男子生徒なのだが、数年に一度、数人が入学してくる事がある。

 原因はバグだとか、矯正の必要ありと判断されたのか不明だが、稀に闇の鏡は女子生徒を選ぶのだ。

 彼女達は三つ子であり、三人とも現在はディアソムニア寮の2年生をしている。

 彼女らの名はそれぞれアイ・ヴァイ・ライと言い、シルバーのネックレスにそれぞれⅠ・Ⅱ・Ⅲと刻印されている。

 なお、実は孤児の出なので姓は持っていないそうだ(本人から聞いた)。

 

 「ふふ、頑張り屋のユウには~」

 「この飴ちゃんと上げましょう。」

 「どうしてもダメな様だったら相談してね?」

 「ふふ、ありがとうございます、先輩方。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…貴様ら、人の子をどうするつもりだ?」

 「あら怖い。未来の妖精王様はとても怖いわ。」

 「うふふ、それだけあの子が大事なのね。」

 「答えろ。」

 「別に、今は何もしないわ。」

 「でも、あの子が帰れなくって寂しいって言うのなら…。」

 「私達の家族にするのも、悪くないかな?」

 「………。」

 「あら、怒っちゃったの?」

 「お気に入りが取られそうだから?それとも…」

 「失せろ、目障りだ。」

 「うふふ、じゃあねドラゴンさん。」

 「あはは、貴方のお父様によろしくね。」

 「ふふっ、まったね~。」

 「……あの人の子は、よくよく厄介な者に好かれてる様だな。」

 

 

 




取り敢えずリハビリなのでここで終わり。

なんでギドラが生きてるかって言うと、爆散した肉片の一部か以前に剥離した肉からこの三姉妹が生まれたから。
合体すれば以前並の実力はあるけど、今の自由度の高い姿も気に入ってる。

監督生に目を付けているのは、自分達と同じこの星に属さない異物であり、魔力・魔法による抵抗が出来ず、工夫すれば自分達の同胞に変化させる事も可能だから。

闇の鏡としては「放っておくと人類滅亡級の厄ネタをどげんせんといかん」と判断して選んだ。
NRCでの生活如何では300年で増量した肉片を用いたギドラ族誕生祭りが開催される可能性すらあるので、頑張って更生させましょう(はぁと)

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