徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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リハビリ風嘘予告短編

心折れてしまった藤丸成り代わり主の次の人生のお話


藤丸立香成り主(原作終了後)の次なる人生(in呪術廻線)

 焼けた鉄の上を歩くよりもなお過酷な日々だったと、藤丸立香に成り代わった誰かは思う。

 

 

 藤丸立香に成り代わっていた誰かの前世の記憶が戻ったのは、第一部が終了した頃だった。

 そこから先はまだ自分がプレイした事のない内容だったので、知識を活かせる場面もなく、ただただ「自分の知る藤丸立香」を演じ続ける日々だった。

 予告だけ知っている1.5部の亜種特異点、様々なイベント特異点はまだ良かった。

 新宿やセイレム、CCCを始め心を抉られる展開は多々あったが、それらはまだマシだった。

 問題は(恐らくと付くが)第二部の人理漂白が始まってからだった。

 今まではゲーティアに言った通り「生きるため」だった。

 生きて、生きて、生き抜いて。

 マシュと、ドクターと、ダヴィンチちゃんと、カルデアの皆と生きていくために戦っていた。

 敵は理由はあれど人類史を焼却する人類悪で、それに各々の理由から協力する者達だった。

 1.5部ではゲーティアの残党とそれに協力する者達だった。

 どちらも今の藤丸立香達が暮らす世界を滅ぼす程の脅威であり、負けては世界が滅び、自分達も死んでしまう。

 そんな事は御免だし、マシュ達カルデアの皆と生きるために戦い、勝利した。

 

 

 だが、人理漂白から続く異聞帯での戦いは今までとは全く異なるものだった。

 

 

 自分達の世界を存続させるために、他の世界を滅ぼす。

 どこぞの川上ん作品の様な展開に、人類最後のマスターとなった誰かは乾いた笑いを上げた。

 自分達の世界を問答無用で滅ぼした相手を道連れ気味に滅ぼすのは別に良い。

 注釈しておくが、藤丸立香は悟りを得た人とか神の子みたいな極まった善性じゃない。

 そんな人間なら、そもそもマシュが一度死んだ時にゲーティアに殴りかかってないから。

 こっちを滅ぼしてでも生き延びようとする連中を逆に滅ぼして生き残るのなら、多少悩むし罪悪感を抱きもするが、それでもその歩みを止める事は無い。

 

 

 問題なのは、異聞帯の人々が何も知らないという事だった。

 

 

 何も知らず、ただ日々を精一杯生きている人々が世界の都合によって無かった事にされた「行き止まりの人類史」。

 そこに住まう人々を世界ごとまた皆殺しにしながら戦い続ける二度目の旅路。

 本来、ただの善良な一般人である藤丸立香にとって、人類最後のマスターになった誰かにとって、それは正しく「焼けた鉄を歩くよりも過酷」だった。

 誰かを犠牲にする事も、誰かを傷付ける事も、誰かを見捨てる事も、藤丸立香と彼になった誰かにとってはこれ以上ない拷問であった。

 加えて、成り代わった誰かにとっては「本来の藤丸立香ならもっと上手くやれた」「知識があっても何の役にも立てられなかった」という自責と後悔も加わる。

 心は散々に罅割れ、意思は挫け、魂が罪悪感に沈むのも当然だった。

 それでも彼が歩き、戦い、止まらなかったのは、そんな旅路でも彼の背を押す者達がいてくれたからだ。

 獣人の青年、無垢な少女、勝気な少年、好奇心旺盛な少女、永き時を生きた双子の姉弟。

 そして旅路の最初から常に一緒だった盾の乙女と縁を結んだサーヴァント達。

 彼らを始めとした多くの人々の命を踏み越えたからには藤丸立香に、人類最後のマスターとなった誰かに止まる事は最早許されない。

 その命が、意思が、魂が真に限界を迎えるその時まで、最早彼らは止まらない。

 藤丸立香はカルデアの生き残り、アトラス院の錬金術師と再召喚に成功したサーヴァント達と共に更なる犠牲を積み重ねてでも生き残るべく、その歩みを進めた。

 

 

 だが、敵は余りにも強大無比だった。

 

 

 ビーストⅠゲーティアの二等惑星級に次ぐ魔力放出量を誇るビーストⅦU-オルガマリー(!?)。

 ビーストⅦを撃退しつつオルガマリー所長を救助するのは、どちらかだけでも不可能に近いミッションだった。

 故に、故に、藤丸立香は熟考に熟考を重ね、多くの賢者や知恵者、魔術師に陰陽師に錬金術師らに千里眼持ちに相談した後に、あるプランをゴルドルフ所長へと提出した。

 

 

 「今まで集めた聖杯を、オレに使ってください。」

 「そうすればサーヴァントの皆だけじゃなく、ブラックバレルへの魔力供給も今よりグンと安定します。」

 「一つで特異点を形成できる聖杯を使えば、オルガマリー所長を助けられるかも知れません。」

 

 

 余りにも無謀だった。

 そも、専用に調整されたホムンクルスやデザイナーベビーでも無い限り、サーヴァントや英雄ならざる普通の人間が聖杯を、それも複数受け入れるのはどう考えても無理無茶無謀であった。

 人類最後のマスターたる藤丸立香を失えば、カルデアにはもう後は無い。

 そして、こんな生きる目など微塵もない自ら死にに行く様な行動を取る程に、藤丸立香と彼になった誰かはこれまで犠牲にしてしまった人々の重さに追い詰められていた。

 それでも藤丸立香ならばとカルデア首脳陣は考え、その上で更に作戦プランを練りに練り、入念な確認を繰り返した上で更に二度の異聞帯攻略作戦を成功させた後、彼らはそれを実行した。

 対峙するは未熟な器としてオルガマリー所長を捨て、オールトの雲より飛来した極限種たるORTを器としたビーストⅦ。

 漂白され、何もかもが消えた地球上でカルデア最後の作戦は行われた。

 その結果がどちらだったにせよ、それは最早些細な事だった。

 

 

 何せその結果如何に関わらず、藤丸立香と彼になった誰かの人生は終わるからだ。

 

 

 ビーストⅣの加護無き今、七つもの聖杯をその身に受け入れ、後天的に生きた聖杯となった彼は自らの全てを使い切るべくして最後の戦いに挑んでいた。

 文字通りの全て、である。

 その程度で覆す事は絶対に不可能な差であるが、それでも作戦実行者の生死をほぼ気にしないで良くなったのは作戦の縛りを緩める意味では大きかった。

 白紙化された人類史を巡る決戦の行く末は敢えて語らない。

 ただその結果に関わらず、藤丸立香になった誰かが死んだ事だけは、確かな事だった。

 

 

 ……………

 

 

 

 『全く、君は本当に馬鹿で不器用だなぁ。』

 

 『折角頑張ってここまで来た君が、最後の最後に諦めてどうするんだい?』

 

 『仕方ない。これで今度こそ僕は完全に消えてしまうけど、最後の贈り物だ。』

 

 『と言っても、この世界線じゃもう君は存在を保てないから、何処か適当な所で産み直してもらう形になるけどね。』

 

 『じゃあね立香。さようなら名前も知らない誰か。こんなになった僕に最後まで美しいものを見せてくれて、本当にありがとう。』

 

 

 

 ……………

 

 

 「ここかい、例の少年がいるってのは?」

 

 東京の某所にある呪術高専東京校、その地下隔離区画にて。

 名実共に当代最強の呪術師の名を欲しいままにする五条悟はそう言って部下である伊知地に尋ねた。

 

 「え、えぇそうです。藤丸立香、13歳。両親は先の呪霊被害で死亡。呪霊に襲われた際、未確認の術式を発現してこれを祓いました。」

 「で、何でまた秘匿死刑?急過ぎない?」

 「本人が望んだとの事です。加えて、使用した術式が余りに異質かつ強力過ぎるとの事でして…。」

 「とりま本人と面談してみない事にはね。」

 

 そうして案内された独房には、壁一面に拘束・封印のための札や呪具が張り巡らされた異常極まりない部屋だった。

 その中に一人、若干疲れた様子が見受けられるも微塵も動揺せずに床に座っていた。

 その全身は真言を記した包帯や注連縄で拘束され、更にその上から無数の札が貼られ、余りにも念入りに封印されていた。

 だと言うのに、五条の目の前の少年は動揺らしい動揺もなく、余りにも普通に落ち着いていた。

 両親を目の前で殺され、幾人もの呪術師に拘束され、この様な場所に連れて来られては恐慌なり激怒なりで感情を露わにするのが普通だ。

 しかし、この少年にはそれが微塵も見受けられない。

 調査では少年の育ちは一般人で、両親もまた同じく。

 先祖に若干呪術師生まれがいたらしいが、それは戦前よりも更に前の事。

 普通の少年がこの状況で動揺せずにいる事自体が、余りにも異常であった。

 

 「…少年、藤丸立香君だっけか。君、一体どうしてその状態で生きていられるんだい?」

 

 五条は顔の上半分を隠す大きな黒い眼帯を外し、その六眼で直に立香を視認する。

 

 「…どうしてでしょう。自分でも不思議です。」

 

 空色の眼を除けば極々一般的で善良そうな少年。

 その総身を覆い隠す程の呪いが、彼を蝕んでいた。

 否、その呪いは不思議と彼の心身に影響を与えてはいない。

 しかし決して離れず、彼との繋がりを極めて強固に保っている。

 そして、その中心になる二つの術式の存在に、五条は愕然とした。

 余りにも荒唐無稽、余りにも強力無比なそれは、当代最強の呪術師たる五条をして愕然とするしか無かった。

 

 「…君は二つも術式を持っている。この時点で前例がない。そのどちらもが異常であり、君の秘匿死刑を呪術界上層部が決めた理由だ。」

 

 ごくり、と知らず唾を飲み込んでから、五条は立香に自分が見たままの内容を告げる。

 

 「一つは『英霊召喚』。召喚した呪霊と契約し、使役する。似た様な術式は前例があるが、呼び出せる存在が規格外だ。殆ど全てが特級呪霊に比肩する。」

 

 これだけで通常の呪術師や呪詛師は腰を抜かすだろう。

 特級呪霊ともなれば通常兵器で例えると「クラスター爆弾の絨毯爆撃でトントン」とか言われる規格外の存在である。

 そんな存在に伍する者を召喚し、使役するとなればやはり異常としか言い様がない。

 

 「そしてもう一つ、こちらこそが厄介だ。術式『聖杯』。人の望みを、願いを叶える。色々と制限はあるけれど、君は正に生きた願望器と言うべきだね。」

 「そうですか、それは大変ですね。」

 

 五条の語る呪術界の歴史や常識に喧嘩を売る様な内容を聞いても、やはり藤丸立香は普通の少年の様に少し困った顔をしながら他人事の様に返すのだった。

 

 

 

 

 これは世界を二度救った人類最後にして最大のマスターに成り代わってしまった誰かの、望んでもいない二度目の物語である。

 

 

 




ご両親は凛ちゃんと士郎君似のモブです。

呪いが大気中に漂ってる不浄な世界線なので、悪属性英霊はステータスUP。
逆に善属性はダウンした状態で召喚されます。
聖杯七個分の魔力+カルデア式召喚術式が藤丸成り主の魂そのものに刻まれており、今後どんなに転生したとしても命の危機に反応して術式が起動する設定です。

Q つまり?
A 生きてる限り地獄☆ でもモンペ=鯖の皆さんがいるから身の安全は確保されるよ!


これはダークファンタジー世界で生きる事となった世界を七度滅ぼした罪悪感で死にそうになってる藤丸成り主の物語である!

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