徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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呪術廻戦ss 化け物に化け物ぶつけたら国が滅びかけた件

 現代日本より千年以上昔、西暦794年から1185(又は1192)年までとされる平安時代において。

 呪術全盛期と言われるこの頃、猛威を奮っていたのは天災や人災だけではなかった。

 鬼神とも言われる呪いの王「両面宿儺」こそが最も凄惨に人々を殺し、暴虐に明け暮れていた。

 無論、時の朝廷もこれを座視する事は出来ず、度々陰陽師らに討伐を指示していたのだが、余りの強さに誰一人として敵わず、全て躯になるか塵一つ残さずに消えるのみだった。

 己の快不快のみに生きる鬼神に、皆成す術が無かった。

 

 「化け物には、化け物をぶつけてみたらどうだろうか?」

 

 そんな時だった、一人の陰陽師が呟いたのは。

 

 「普通に戦っては余りに強過ぎる宿儺に皆殺されるだけ。」

 「ならば目には目を、化け物には化け物で対抗するのだ。」

 「もし失敗しても、少しは消耗して大人しくなってくれるやも知れん。」

 

 最早被害覚悟で陰陽師らを総動員する位しか無かった朝廷は、この案を良しとしてGoサインを出した。

 まぁ勿論ながらそれだけじゃ不安だし、予定通り総動員もしておく事にはなったのだが、露払い位にはなってくれるだろうとも考えていた。

 が、当然ながらそんな上手く行く筈もなく、彼らは後に子々孫々に渡ってこの判断を深く深く後悔する事となる。

 

 

 ……………

 

 

 宿儺にぶつける化け物を召喚すべく、とある陰陽師は準備を進めていた。

 彼は端から召喚した化け物を制御するつもりは無かった。

 宿儺の傍に出現させ、互いを食い合わせるつもりなのだ。

 では、どんな化け物を呼ぶつもりなのか?

 この男は陰陽師と言うよりも蠱毒や呪殺も積極的に行う外法師、現代で言う所の呪詛師に近い立ち位置にいた。

 それでも朝廷に出仕できているのは、この男の立ち回りや根回しの良さ、役人らに対する贈賄が故であった。

 そんな男が思いつく様な化け物等、まともなものである訳もなく…

 

 「召喚の媒介には、予定通りこれを使うとしよう。」

 

 それは男が師に当たる額に縫い目の様な傷跡のある呪術師より貰い受けた正体不明の物質だった。

 その水晶にも似た物質はこの世の何よりも堅く、同時に柔らかく、どの様な気温差にも耐え、それでいて鋭い。

 呪術のみならず金属製の槌や大岩で叩いた所で掠り傷すら付かない程の驚異的な耐久性をも備えている。

 上手く行けば、この物質と同様の性質を持った存在を召喚できる。

 が、それはつまり呪術による制御が不可能な存在を召喚する事を意味するのだが、端から制御する気が無いこの男には利点にしか見えなかった。

 

 「失敗は出来ん。念入りに準備せねば…。」 

 

 勘の鋭い者やその物質が何か知る者がいれば「おい馬鹿止めろ」と必死になって止める所だが、残念ながらこの男にはそんな稀有な知り合いもいなければ、良識だって無かった。

 呪術師は基本皆イカレているのである、じゃなかったらやってけない。

 加えて、この時代には人権すら未だ影も形もなく、精々が宗教関係者とかが人道とかを必死に布教してるの位しかない。

 そんな訳で、この物質を触媒とした召喚は総動員された陰陽師が宿儺の縄張りとされる山に到着する寸前に行われる事となるのであった。

 後に自分の住居近くでそんな訳分からん化け物を召喚された宿儺は後にこう言ったと伝わる。

 

 「ふざけるなよ愚物。虎を狩るのに龍を放す奴があるか。」

 

 御尤もである。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 結果だけを言えば、召喚は成功してしまった。

 そして、当然の帰結として召喚されたこの星の外の存在は、まるで水晶で出来た巨大な円盤に蜘蛛や蟹の足が生えた様な奇妙な存在だった。

 それは自らを召喚した陰陽師を瞬きも許さず殺害し、その躯を取り込んだ後に全方位に対して攻撃を開始した。

 文字通りの全方位である。

 後に侵食型領域と称される事となるその攻撃は、自身を中心とした全包囲に対して領域を展開する。

 飲み込まれた物は土地に空気、呪力に生物に呪霊や神魔の一切の例外なく、水晶に酷似したこの星に存在し得ない何かへと不可逆の変貌を遂げる。

 変貌した空間は当然の如くその存在にとって有利な空間となり、生物は美しいオブジェになるか配下となって更なる犠牲者を増やそうと蠢く。

 あの陰陽師の行動は、ただ悪戯に敵を増やしただけであった。

 加えて言えば、秒単位でこの侵食型領域はその版図を広げ、異星の生態系をこの星に植え付けようとしていた。

 

 「この、大馬鹿者共がッ!!アレが何か分かってて呼び出したのか!?アレがオレと貴様らを区別すると思うたか、この戯けめッ!!」

 

 速攻で対陰陽師から地球外からの外来種に対して、全力で迎撃に移ったのは敵である筈の両面宿儺だった。

 混乱して右往左往する陰陽師らに対して一喝した後、自らの領域を展開して外来種の領域を駆逐せんと応戦を開始した。

 陰陽師らも刻一刻と広がり続ける外来種による侵略を見て優先順位を変更、態勢を立て直し応戦を開始した。

 まさかの両面宿儺&陰陽師連合VS異星からの外来種である。

 共通の敵は人を団結させるとはよく言ったものである。

 そして、戦いは七日七晩続いた。

 結果だけを言えば、陰陽師らと両面宿儺は召喚の媒体となっていた件の水晶体を抉り出す事に成功、異星からの外来種はこの星で存在するための楔を失い、退去していった。

 残ったのは共に満身創痍となった両面宿儺と陰陽師達であり、彼らもまたこれ以上の好機は無いとして互いに消耗し切った状態で最後の戦いへと臨んだ。

 その結果は、両面宿儺の封印と20本の指という形で今日まで伝わっており、日本の呪術史における大きな歴史的事件であった事は間違いない。

 なお、記録に残されている両面宿儺の最後の言葉は以下の通りである。

 

 「この痴れ者共が!二度とアレを呼び出すな!次こそは現世が滅ぶわ!」

 

 これを知った後世の者は大体「せやな」と思った。

 だが、この話はこれで終わりではない。

 

 異星の生態系へと変貌してしまった土地は、千年経った現在においても未だ回復していない。

 

 永い年月によって土砂に埋もれ、多少の草木に覆い隠されてはいるが、あの不気味な水晶の渓谷は未だこの日本に存在し、20世紀現在では殺生石よろしく極めて危険な有毒ガスの発生地点としてあらゆる立ち入りを禁止している。

 更に言えば、あの異星からの侵略者の召喚の触媒となった水晶体もまたあの戦いで運悪く破壊される事なく未だに現存し、呪術高等専門学校京都校の忌庫に厳重に保管されていると言う。

 

 

 ……………

 

 

 2007年 東京都立呪術高等専門学校東京校

 

 

 「後にこの異界からの存在は『超級異界災害一号』と命名された。その後から現在まで変貌してしまった地域周辺ではこれに纏わる天与呪縛や術式を持った人間、一号や水晶体に酷似した呪霊が確認されており、これらは超級異界災害の残滓である事から『異界災害影響案件』として確認され次第即座に抹消か保護した上での監視が義務付けられている。」

 「夜蛾セーン、オレそれ実家で聞き飽きたー。」

 「悟、私と硝子は初耳なんだから静かに聞いてようねー。」

 

 そして現在、高専東京校切っての害悪問題児であるクズコンビとその同期の女子一名による所謂さしす組は件の異星からの侵略者に関する授業を受けていた。

 とは言え、宇宙からやってきた事は彼らも知らないため、異界からの存在とされてはいたが。

 

 「この超級異界災害一号の持つ侵食型領域は一度展開を許せばほぼ全ての呪力や術式を無効化し、物理的な干渉に対しても極めて強固だ。そのため千年経った今でも解除も破壊も出来ずにそのままとなっている。近年ではこの一号の出自に関して『異世界ではなく宇宙から飛来したのではないか』と言う仮説もあるが…当時を記した絵巻物として『水晶事変絵巻』に残されている一号の外観を見てのものなので信憑性は無いぞ。」

 

 配布されたプリントに記されている絵巻物の一部、そこには件の侵略者の姿が掲載されている。

 成程、巨大な水晶の円盤に蜘蛛か蟹の様な足が生えている姿はUFOに似ていなくもない。

 

 「そして、何故改めてこの様な授業をしているかと言うとだな…。」

 「最近増えてるんでしょ、これ関連の奴が。」

 

 退屈そうに授業を受けていた白髪にサングラス、そして類稀なる美貌を持った少年。

 五条悟がここに来て初めて心底愉快そうに笑みを浮かべた。

 

 「そうだ。加えて、よりにもよって件の一号を召喚するための呪具が京都校より盗難された。」

 「「「は???」」」

 

 が、それも直ぐに消えた。

 単なる厄介事ではなく、文字通り超級の厄介事の気配を察知したからだ。

 

 「超級災害誘因器物『異界水晶』の捜索と発見、後に確保又は破壊が次のお前達の任務となる。」

 

 安心しろ、合同だから他にも大勢参加するぞ。

 優秀だが揃いも揃ってアレな生徒三人に夜蛾は真剣な眼差しでそう告げた。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 以下は本文で書けなかった設定

 

 

 ○超級異界災害一号

 

 皆さんご存知の型月産逃れ得ぬ絶望ことORT……の影法師とも言うべき存在。

 サーヴァントよろしくあくまで本体の影であり、この世界の地球へやって来るにはどうしても地球側から呼び掛け、楔となるもの(異界水晶)が必要となる。

 本体よりは弱いものの、あくまで規模が小さいだけで性質は同じ。

 まだまだ人類が挑むには早過ぎる相手。

 この世界の神秘法則である呪術はあくまで人間の感情が土台であり、異星の存在であり思考回路も何もかも違っているORTには効きが悪い。

 更に劣化してるとは言えORTはORT、その外殻と異界法則を貫く事は人類だけでは出来ない。

 なので、両面宿儺が体表のみに極小の領域を展開して耐えつつぶん殴って粘り勝ちした。

 後一日遅かったら宿儺でも無理だったが、神代に近い=より神秘の強い陰陽師連合による多種多様な支援のお陰で勝ちを捥ぎ取られた。

 殺し切るにはクトゥルー神話的異界法則で概念マウント合戦するか、光の戦士を呼びましょう。

 現在まで伝わっている姿は円盤形態であり、捕食能力もある事から今後進化する可能性も…?

 

 

 ○超級災害誘因器物『異界水晶』

 

 要は型月時空のORT本体の体組織の一部。

 偶々偶然よく分からないまま例のメロンパンが手に入れ、テキトーな人材に使われた事で千年にも及ぶ災害を齎した激ヤバな代物。

 もし悠二君が飲み込んだりしたら、間違いなく宿儺の指よりヤベー事になる。

 誰かウルトラマンを呼んでくれ!或いはRX!

 

 


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