徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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艦これ短編 深海工廠鬼が逝く4

 日本政府、正確に言えば海上自衛隊を元とする海上国防軍はここ数ヵ月に連続して発生する鎮守府での反乱や脱走騒ぎに頭を痛めていた。

 

 元々、深海棲艦との戦争に対し、既存の精密誘導兵器はそのサイズ故に当たらず、機関砲の類では火力が足らず、更に掌サイズの無数の艦載機に人型サイズなのに何故か戦艦クラスの威力を持った主砲を持った怪物が、海を埋め尽くす程の物量で攻め寄せてくるのだ。

 何とか高高度からの飽和爆撃や、戦車部隊等の上陸時の飽和攻撃によって、辛うじて国土への侵入を防いでいる状態だった。

 無論、撃墜の至難な艦載機による攻撃で、沿岸部の人口密集地の多くは壊滅し、滅亡までの時間を長引かせているだけなのだが。

 そんな時に偶然鹵獲できた深海棲艦を解析した情報を元に、実用化されたのが艦娘だった。

 艦娘は提督と言われる「妖精が見える性質」を持った人間と契約して指揮下に入り、深海棲艦と同じ性質を持った、唯一の対抗可能な兵器だった。

 しかし、提督の適正を持った人間は少なく、生存圏奪還及び確保のためには適正を持った人間を官民問わずに強制徴用してもまだ足りない位だった。

 故にどんな経歴であっても、どんな年齢であっても、どんな状態であっても、(職務に支障を来さない範囲で)徹底的に狩り出し、提督とした。

 これには提督適正を持った人間の身内を中心に、国内から多くの反発があったものの、「提督及び艦娘の運用に関する法案」の一部として可決された。

 提督となった事で人生を滅茶苦茶にされた人間は大勢いる。

 しかし、同時にそうせねば今日の日本は防衛圏の確立すら儘ならず、他の国々同様に深海棲艦に滅ぼされていただろう事は想像に難くない。

 

 そんな訳で、艦娘に憎悪を抱く提督は珍しくない。

 なにせ艦娘はほぼ全員が人格と容姿、能力に恵まれた美女、美少女だらけであり、一定期間を共に過ごせば、憎悪を飲み込む者が大半だったからだ。

 しかし、中には憎悪を抱き続けた者もいる。

 そうした提督は艦娘を積極的に使い潰し、時には意味も無く嬲り殺していく。

 無論、やり過ぎれば大本営や憲兵隊に検挙され、最前線の更に先の未探索海域で地獄の偵察コース(死亡率9割超)行きにされる。

 そのため、現在生き残っている反艦娘派の提督は戦果を出しつつ、艦娘を鎮守府運営に支障のない範囲で嬲る事を覚えていた。

 また、艦娘を単なる物言う兵器として扱い、徹底的に使い潰しながら戦果を上げる者もおり、こちらは主に防衛大や一流大学・企業出身者等が多い。

 この様な提督が上に立っている鎮守府は艦娘と良好なコミュニケーションを取り、就業時間等も明確に定めて、健全な運営を行っている鎮守府と比較して、ブラック鎮守府と言われる。

 

 最近、そんなブラック鎮守府で反乱や脱走が相次いでいた。

 中には貴重な高性能艦載機等の装備品の設計図や資源、軍事情報等を持って脱走する者もおり、数少ない提督が死亡した例も多く、大本営でも問題視されていた。

 そんな中、とあるブラック鎮守府の提督が反抗的な艦娘の艤装に発信機を仕掛け、その反応を追跡した所、驚くべき事が判明した。

 それは脱走した艦娘の多くが一つの海域を、即ちポリネシア諸島周辺海域を目指している事だった。

 これにより、大本営は脱走した艦娘達が深海棲艦の下へと向かっていると理解した。

 だが、向かって何をしているのかまでは不明だった。

 追跡していた艦娘はそこまでで通信が途絶え、未帰還となった。

 この事態に対し、大本営は目標海域が未探索海域と言う事で、威力偵察も兼ねて大規模な偵察艦隊の編成、出撃を決定した。

 

 ……………

 

 その頃、工廠艦隊もといホワイト環境希望組はと言うと…

 

 「えぇ~かき氷、かき氷は如何ですか~。」

 「ミッツクダサイ!オオモリデ!」

 

 太陽の照り付ける砂浜、その一角にある浜茶屋で威勢の良い艦娘の掛け声に、深海棲艦が笑顔で注文する。

 何せ赤道付近の南国、暑さも相当なもので、冷たい飲食物の売れ行きは絶好調だった。

 反面、煮物や鍋物等は一部を除いて余り売れていない。

 

 「なんでまたバカンス続行なんだ…。」

 「仕事はしてるから良いじゃない。」

 

 何気に強制水着姿の長門と、海パン一丁の工廠鬼の責任者コンビだった。

 

 「次の深海棲艦側の艦隊はもうすぐ準備が終わるらしい。そいつらを撃退するまでは暫くお預けだし、まぁ多少はね?」

 「全く…。」

 

 呆れる長門だが、しかしその恰好では説得力も無い。

 そして、工廠艦隊が今もなおローテーションで武器弾薬、深海棲艦の開発と備蓄に励んでいる事も知っているので、余りとやかく言う事は無い。

 

 「あ、長門。僕肌弱いからサンオイル塗ってー。」

 「お前、仮にも鬼級だろう…。」

 

 実際、深海棲艦らしく青白い肌をしている工廠鬼は元が生粋のインドア派なので、余り日光で焼きたがらない。

 長門は表向き呆れつつも、その身体は欲望に忠実であり、そそくさとオイルを塗る準備をしていく。

 

 (工廠きゅんの生肌…茹で卵みたいにすべすべ…お尻もプリンプリンで…。)

 

 もし内心がバレたら逮捕不可避なビック7であった。 

 

 ……………

 

 さて、アイオワである。

 彼女は漂着後三日で目覚めたが、日本の艦娘と深海棲艦が一緒にいる光景に混乱し、暴れ出しそうになったが、長門を始めとした腕自慢達に抑え込まれながら、この諸島にいる者達の事情を聞かされた。

 曰く、ブラック業務に倦み疲れた艦娘と深海棲艦達の楽園。

 曰く、年中バカンスしながら外敵を迎え撃つ日々。

 曰く、此処以外に行く所が無い。

 曰く、喰っちゃ寝最高だけど偶には働かなきゃ…。

 一部突っ込みどころはあったが、取り敢えず事情を理解したアイオワは自身の目的を果たす所存だった。

 それは祖国防衛のため、日本とコンタクトを取り、救援要請を出す事だった。

 無論、祖国を直接的に防衛し続ける事も大事だが、しかしアメリカの艦娘は現在自分1人であり、どうやっても数が足りない。

 物量を誇る米国が物量で押し負けると言う事態に、アイオワは何とか抗い続けた。

 しかし多勢に無勢、彼女は大破しつつも周囲の深海棲艦を撃滅し、その後は沈没手前の航行すら不可能な状態で漂流していたのだ。

 その間、彼女が無事だったのは奇跡としか言いようがない。

 そんな彼女が至った結論が救援要請であり、自身の実用化のための技術情報の一部を齎してくれた日本との接触だったのだが…

 

 「どうしようかしら…。」

 

 此処にいる者達は深海棲艦からも、日本からも離脱した平和を望む艦達だ。

 自身の行いで、彼女達の存在が外部に漏れる事は避けたかった。

 祖国を思えば一刻も早く彼女達を説得するか、或はここを出発するかだが、そのどちらも難しい。

 なにせ自身の艤装は未だボロボロで、アイオワの艤装に合う砲弾も今現在一から作っている最中であると聞く。

 無論、解析もしているのだろうが、どの道今は自分からアクションは出来ない。

 

 「かき氷いかがですかー?ソーダもありますよー。」

 「Oh…Statesには悪いけど…今はVacationを楽しみまショー!」

 

 しかし、その悩みも今はどうする事も出来ないと悟るや否や、彼女はあっさりとこの環境に順応した。

 流石はアメリカ人、中々の合理主義かつ豪快さである。

 

 ……………

 

 深海工廠鬼艤装内 深海棲艦開発・建造部

 

 「うふ、うふふふふふふふふ…。」

 「ツイニセイコウシタワネ明石。」

 

 そこには海上船渠鬼と明石の姿があった。

 二人はここでアイオワの艤装から入手した最新鋭戦艦娘の情報を元に、ある深海棲艦の開発を任されていた。

 それは工廠鬼肝いりの計画であり、原作のゲームを知る彼故にその重大さを知っていたからだ。

 そのため、この計画は艦娘の情報を普通の艦娘以上に知り尽くした明石(人体ならぬ艦娘実験が行き過ぎて解体行きになって脱走)と工廠鬼直々に技術的手解きをされた海上船渠鬼が担当していた。

 

 「アイオワさんのお蔭で、遂に完成しました。」

 「コレナラ人間ニモ、戦争ズキナバカドモニモマケナイワ。」

 

 ゴポリと、二人の目の前の培養槽の中で気泡が昇っていく。

 その中には、一体の深海棲艦が胎児の様に身体を丸めて浮いていた。

 巨大な尾を持つ、幼気な容姿を持ったその深海棲艦は、未だ目覚めていない。

 

 「主力戦艦級の火力とそれ以上の装甲、更に重雷巡級の魚雷、正規空母級の艦載機運用能力。おまけに対潜能力まで…。うふふふふふふふふふふふ!これぞ正に『わたしのかんがえたさいきょうのせんかん』ですね!」

 「ソノブン、コストモスゴイケドネ。」

 

 深海棲艦、そして人類を相手に二正面作戦を行う事態に陥った場合、物量に勝る敵勢力を確実に粉砕可能な「量産型姫・鬼級」の開発。

 後にレ号計画と称される開発計画の結実が、この深海棲艦だった。

 工廠鬼の肉体や各地の船渠鬼から入手した情報を元に開発は進み、汎用性を確保しつつも戦闘に特化した鬼・姫級として開発が進められたソレは、艦娘と言う多様な装備を換装可能な兵器の情報、特に最新鋭戦艦のアイオワのデータを参考にする事で完成した。

 そこまで漕ぎ着けるだけでも、既に戦艦数十隻分の資源を消費していた。

 今後この艦を量産するとなれば、如何に資源を自給自足できるホワイト環境希望組と言えど、財政破綻待ったなしである。

 となれば、少数生産の上で要所要所で打撃を行ってもらうエース部隊としての活躍が期待された。

 少なくとも、相手が全艦大和型とか言う基地外編成でもない限り、正面から負ける事だけは無いだろう。

 

 「じゃぁこの子の名前だけど…レ級ちゃんにしましょう。」

 「マァヨインジャナイ?」

 「よろしくねレ級ちゃん。早く目覚めてね~。」

 

 後に深海棲艦と人類双方から魔王の様に恐れられる深海棲艦と艦娘の相の子は、未だに目覚める気配が無かった。

 

 

 


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