それは地球より遥か彼方。
光の速度でもなお640年を費やさねば届かぬ赤色超巨星ベテルギウス。
そこで、人知及ばぬ死闘が繰り広げられていた。
「オオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
深淵の宇宙において、なお漆黒の刃金が吼える。
怒りと憎しみ、そして愛しさと悲しさで。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』
それに対するは隻腕の刃金だ。
巨大な赤き星を背に、白い装甲を自らの力で砕きながら、限界を超えて全てを破壊し尽くさんと吠え猛る。
ただ殴り合い、ぶつかり合うだけで空間が逆行し、時間が歪曲し、神秘が発生し、物理法則が消失する。
神代の神々ですら生存し得ない程の、余りにも激しく、甚大で、荘厳な戦いだった。
「あああああああああああァァァァァァァァァァッ!!」
黒の巨神と乗り手が泣き叫んだ。
何故、何故、何故!?
何故お前がそんな様になっている!
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』
それにもう一体の巨神は拳で語る。
破壊する、破壊する、破壊する。
全ての魔を、全ての邪悪を、全ての神々を!
「馬鹿、野郎があああああああッ!!」
黒の巨神は、泣きながら白い巨神に殴りかかった。
嘗て、長い長い戦いがあった。
無限螺旋と言う、邪神が作ったクラインの壺の中で、未来永劫過去星霜の果てまで、億を超える命が蟲毒の様に戦い、死に、生まれ続けてもなお続く戦いがあった。
その中で求められ、生まれ、そして遂に螺旋を打ち破って生まれたのが白の巨神だった。
白の巨神と二人の乗り手、三位一体を成す神殺しの剣にして無垢なる刃。
それが巨神の在り方だった。
それが嘗ての巨神だった。
だが、戦えば戦う程成長していく巨神は、遂には神々を超えた。
超え過ぎてしまった。
無垢なる刃の力は世界からはみ出し、他の世界まで波及し…
やがて、たった一つの世界を残して、何もかも壊してしまった。
壊れて、壊れて、壊れて、その果てに
最後に残ったたった一つの世界で、黄昏の女王が生まれ、世界を再生しようとした。
それを白の巨神は感知していた。
女王の目的は善だが、その力は悪であり、神のものだった。
だからこそ、白の巨神は女王を殺そうと動き出した。
だが、それを阻む者がいた。
それは嘗て白の巨神と共にあった者。
白の巨神の先達にして、生みの親の一人であり、戦友であり、師であった者。
黒の巨神とその乗り手が、その身を無から顕現させ、立ちはだかった。
元より黒の巨神は神々の血を引く者。
神々の中でも変身に長ける一族故に、自らを無へと変え、誰にも気づかれる事無く、最後の機会が訪れるまで眠っていたのだ。
そして今、白の巨神を相手に、黒の巨神が最後の戦いを挑んでいた。
「天狼星の弓よ…」
咆哮と共に、影の天狼が宙を往く。
その名が指す様に、天体規模の莫大な光熱を放つ天狼が白の巨神を噛み砕かんと飛翔する。
「散れ!」
白の巨神がその手に召喚した偃月刀で天狼を両断する寸前、その姿が無数の光の矢へと分裂、白の巨神の全身を強かに打ちのめす。
だが、既知の業など無意味とばかりに、地球の地表程度なら焼き尽くせる熱量を浴びながら、白の巨神は前に出る。
しかし、そこにはもう黒の巨神はいない。
だが、白の巨神の目は正確に黒の巨神を見ていた。
白と黒、二体の巨神はとてもよく似ていた。
それはそうだ、二人は兄弟であり、師弟なのだから。
だが、黒の巨神は変身を得意とする。
それは他者だけでなく、自分を含んだ世界の認識すら騙し通す程の変身であり、本物と全く変わらない程だ。
「魔を断つ剣を討つのなら…この姿こそ相応しい。」
まるで鋼鉄の棺桶の様な姿だった。
或は翼を畳んだ蝙蝠か、今にも孵化せんとする繭か。
姿を変えた黒の巨神は、上から白の巨神を見下ろしていた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』
白の巨神にとっても、その姿は見慣れたものだった。
幾度死して生まれ直しても忘れられない程、怒りと絶望と共に魂に刻まれた姿だった。
「吠えろ、リベルレギス。」
棺桶の蓋が開く。
翼が広がる。
繭が孵る。
そこから姿を現したのは、先とは別の、しかし同じ漆黒の鬼械神。
法の書の名を持つ、人類の天敵であった者。
「魔術機関エンジン、フルドライブ。」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■…ッ!』
既にただの鬼械神を彼方へと置き去り、軍神すら超越し、神々の領域へと辿り着いた二柱の巨神。
その全力に空間が悲鳴を上げ、時間が絶叫し、宇宙が震える。
既に両雄は神々すら恐怖し、逃げ惑う程の者となっていた。
「ハイパァァァボリアァァァァ……!」
『■■■■■■■■■■…ッ!』
黒の巨神が右手に手刀を、白の巨神が左手に拳を掲げ、力を集める。
これぞ必滅、正と負の無限熱量、嘗て地球上に存在した二つの大陸を滅ぼした災厄の再現。
「ゼロドライブ――ッ!!!」
『■■■■■ッ!!!』
正と負、両方向の熱量の極致の衝突。
それは宇宙誕生の爆発にも似た、人間では認識できない程の巨大な閃光と熱量の発生だった。
そんな光と熱に飲まれ、二体の巨神はこの宇宙から消滅した。
……………
「いやはや全く…見事としか言いようがないね。」
何もない、光や時間すら存在しない虚数の海に、声が響いた。
「私が生み出し、私が殺し、私が鍛え、私が育んだ我が子。」
それは威厳ある男の声だった。
「愛おしいよ、本当に。君は遂に九郎君すら超えて魅せた。」
それは艶やかな女の声だった。
「とは言え、このままでは消えてしまう。君は余りにも消耗してしまった。」
「それはならぬ。貴様はまだまだ私を楽しませてくれる。」
何処から聞こえているのか、何処から見ているのか、何処から響いているのか。
何も分からない。
だが、一つだけ分かっている事がある。
「故に此処とは異なる世界線に。」
「安心してほしい。君と女王の頑張りで、世界は既に再生した。」
「「何の憂いもなく、旅立つと良い。」」
この声の主に、激しい憎悪を抱いた事だ。
………
ずっと眠っている。
国の、文明の、時代の始まりから終わりまで。
そのどれよりも遥かに長く、永く、久く、眠り続けた。
それでよい。
この世界にとって、この星にとって、自身の知識、自身に流れる血は毒だから。
もし、自分が表に出れば、それは自分の知る神々もまたこの世界に繋がりを持つという事。
それは出来ない。
決して平和とは言えないが、それでも確かに幸福や正義もある世界を徒に乱す事は避けたかった。
人間の記録に残る事も無く、神々の目に触れる事もなく、ただこの星だけがソレを見ていた。
だから、それは英霊ではない。
死者でもなければ、伝承にのみ語られる存在でもない。
この大地を除けば、誰もソレの存在を知らない。
しかし、何にでもなれると言う性質を持ったソレは、言い換えればどんな状態であっても、星や人類の危機に現れる状態に変化し、その後に脅威を打ち払う状態になる事が出来ると言う事でもある。
それはガイア/アラヤにとって、この上も無く都合の良い存在だった。
………
特異点F 炎上汚染都市 冬木市
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
走る、走る、走る。
普段運動なんてしない身体では、そう遠くまで走れないと知っていても足を動かす。
何せ、足を止められない理由があるのだ。
ガシャガシャガシャガシャ
背後から骸骨達が自分と言う生者を追って走ってくる。
彼らは恐らく、嘗てはこの街の普通の住人達だった。
それが、この都市の特異点化によって、アンデットとなって彷徨っているのだ。
「う、痛!?」
限界にきた足が縺れて転倒する。
しかし、骸骨達はガシャガシャと、疲れを感じない故に止まらない。
元より骨だけの彼らには自分の身の安全と言う考えもない。
「こ、のぉ!」
指を指し、呪いを飛ばす。
ガントと言われる北欧由来の呪いの魔術。
それを持って何体かの骸骨を吹き飛ばすが、それ以上に数が多い。
「来ないで!来ないでよぉ!」
涙声で叫びながら、オルガマリー・アムニスフィアが必死に魔術を行使する。
(なんで、なんでこんな事になったのよぉ!!)
彼女の人生は幸薄いものだった。
魔術師の名門にしてロードである父の継子として、その期待に応えられる様に、誰かに認めてもらうために、自分を褒めてもらいたくて、必死になって努力してきた。
しかし、そんな自分に父は一切の愛情も見せず、感心も持たなかった。
剰え、正式に自分に当主の位を継がせる前に死んでしまった。
だから、父の事業を継承し、時計塔の他のロードや国連の人間達と丁々発止のやり合いをしてまで、カルデアを維持し、指揮してきた。
なのに、なのに、なのに!
なんで大事な特異点へのレイシフトの時に限って爆発が起き、行く予定の無かった自分までレイシフトしているのか!
「っ!?」
頭上、ビルの三階から奇襲してきた骸骨に、何とか察知したオルガマリーが指先を照準、ガンドを撃つ…が外れた。
骸骨はそのまま片手に持った欠けた剣を振り被り、この街の数少ない生者目掛けて振り下ろす。
「いや、だって、私は!」
不意に、オルガマリーのコートのポケットから光が漏れる。
呼符と言う、英霊召喚のための使い捨ての礼装。
それが光を漏らし、今にも発動しそうになっていた。
本来、オルガマリーにはレイシフトと英霊召喚、その適正は一切ない。
だが幸か不幸か、彼女は肉体を捨てた事で、その適正の軛から解き放たれていた。
「まだ、誰にも褒めてもらってない…!」
そんな、唯の寂しい子供の声に、応えた者がいた。
「■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」
呼符が輝きと共に消え去り、同時にオルガマリーの足元に英霊召喚の魔法陣が広がる。
そこに表示されるクラスカードは大剣を持った獣頭の戦士、即ちバーサーカー。
ゴッと魔力の発生によって大気がかき乱され、その反動で群がっていた骸骨達が吹き飛ばされる。
直後、収束したエーテルが実体を結び、咆哮と共に一体のサーヴァントが召喚される。
それは紺の装甲を纏った2m程の怪物だった。
長くしなやかな尾、大きく張り出した肩のコンテナ、バイザーに隠された頭部と後ろに伸びる橙色の長髪。
明らかに通常の英霊召喚では呼ばれない様な、イレギュラーな存在。
しかし、この局面で最も重要なものを、そのサーヴァントは持っていた。
「■■■■…!」
戦闘力。
両腕をガトリング砲へと変形させ、魔力を機関銃の様に両腕から放ち、背後から迫ってきた骸骨には尾の一撃で砕く。
その弾幕、その威力に、脆弱な骸骨はあっと言う間に殲滅された。
「あ、貴方…」
それをオルガマリーは呆然と見ていた。
「貴方、私のサーヴァントなのね!?」
しかし、目の前の存在が何なのか分かるや否や、オルガマリーは喜色満面となった。
「私の!私だけの!私を尊敬して私を守って私を褒めて私を認めてくれる私だけのサーヴァントなのね!?」
「………。」
もし周囲に人間がいれば、ドン引きしていただろう。
オルガマリーが言っているのはそういう内容だし、本人も普段なら絶対に言わないのだが、この危機的状況に箍が外れてしまったらしい。
「■■■■■…。」
「痛っ!?」
ベチン、と結構痛そうな音と共に、召喚されたサーヴァントはオルガマリーの額を指で弾いた。
「な、何するのよ!?」
サーヴァントはその言葉に応じず、黙って指先を横に向ける。
そこにはオルガマリーの部下の中でも特に若い二人が、気不味そうな顔で彼女達を見ていた。
「みみみみみみ見たの!?見ちゃったの!?」
「その…はい…。」
「ごめんなさい…。」
申し訳なさそうな二人に、オルガマリーは羞恥と怒りで顔を真っ赤にした。
「き…」
「「き?」」
「記憶を失えー!」
「「うわあああああ!?」」
わぁわぁと騒ぐ三人に、バーサーカーはやれやれと肩を竦めて索敵に専念していた。
(さて、何が何やら分からんが、取り敢えずこの三人と一緒に行くべきか。)
現状、サーヴァントに擬態している彼女だが、それはつまりサーヴァントとしての在り方に拘束される事に他ならない。
しかし、先程の叫びを聞いていたが故に、それに嫌悪を感じる事は無い。
(うちの子らで子育ては終わりと思っていたんだが…まぁ仕方ないな。)
そんな考えを一切表に出す事はなく、バーサーカーは未だぎゃあぎゃあ騒いでいる三人の下へと歩み寄った。
嘘予告 デモベ×FGO(所長救済ルート予定) 続きません
ちょい説明が足りなかったので補足。
旧神様本編→ダインフリークス→FGOとなっております。
なお、息子&娘は死亡済み。
リーア&アーリと鬼械神の三位一体+這い寄る混沌由来の変身能力によって、上位神霊クラスの能力を持って相打ちで渦動破壊神を撃破した後、ナイアさんにFGO時空で「幸せにおなりノシ」されたお話です。
なお、ルキウスもといベディヴィエールの様にサーヴァントに化けてますが、その気になれば何時でも普段のリーア&アーリになれます。
但し、基本的なスタンスとして「この世界の事はこの世界の住人が解決すべき」として積極的に干渉しません。
例外として、人理の滅びがほぼ確定した様な大災害がありますが、まぁそんな事ないやろと思ってたら見事に滅んで原因究明も兼ねてカルデアと共に冒険する事になった訳です。
続きませんよ?