『良し、繋がった!誰か、生きているなら応答してくれ!』
三人の混乱が収まったのは、カルデアのロマニ・アーキマンからの通信が入ってからの事だった。
「ロマン!?何で医療部門の貴方が!レフはどうしたの!?」
『アイエエエ!所長!所長ナンデ!?』
何故かSRS(所長リアリティショック)を発症したロマンを何とか落ち着かせて話を聞くと、色々ととんでもない事態が明らかになってきた。
カルデアに起きた爆発事故、否、タイミングからして恐らく爆破テロにより、施設機能はその殆どを喪失、活動可能な生存者は医療部門を中心に30名程で、コフィンに搭乗していたマスター候補達も全員が重傷であり、危篤状態で、更には外部との通信も断たれ、救援は絶望的との事だった。
辛うじてカルデアス等の超重要施設の稼働を維持するための動力炉であるプロメテウスの火は維持されているが、出力は大分低下している状態であり、その影響で通信も後数分で切断する程に不安定な状態だった。
「直ぐにコフィンのコールドスリープ機能を使って!生存が最優先よ!」
『えぇ!?しかし、コールドスリープの使用は本人の許諾が無いと…』
「生きてれば言い訳のしようがある!急いで!」
『は、はい!直ぐに取り掛かります!では所長、これにて通信を終了します!幸運を!』
ロマンの激励で終わった通信の内容に、オルガマリーは頭を抱えたくなった。
(なんでこんな事になってんのよぉぉぉォォォォォォォッ!!)
出来れば全てを忘れてベッドに入り、ゴロゴロしたい気分だったが、それも出来ない。
今、自分の傍にいるのは素人同然のマスターと本来よりも能力の下がっているデミ・サーヴァント、そして何かマスターに反抗的なバーサーカーのみ。
下手に弱みを見せようものなら、士気の崩壊すら在り得たし、この状況でそれは死と=で結ばれる。
(なんとか、なんとかしないと…!)
ぐるぐると頭が空回りする。
元々彼女は事務・研究向きの人材であり、後方で指揮を取る予定だったのだ。
前線指揮など、経験もレイシフトもマスター適正も無い彼女は一切心構えが出来ていなかった。
まぁ、元々が優秀なので、経験と覚悟さえ決まれば、やるべき事は出来るだろうが。
しかし、時間も何もかも足りない現状では、どうしようもなかった。
「…取り敢えず、一旦セーフゾーンを確保して、情報収集に努めるべきね。」
「ですが、何処が安全か情報が…。」
何とか絞り出した答えに対するマシュの疑問は当然の事だった。
何せ特異点化しているとは言え、事前情報のあった冬木市と比べ、地形が消し飛んでたり骸骨がうろついていたりするので、何処に行けばよいのか見当もつかなかった。
「市内で何か所か質の良い霊地があるから、その中で一番近い場所を目指し、障害があれば排除します。バーサーカー!」
「………。」
所長の声に、正体不明の鋼の狂戦士は黙って視線を向ける。
その目はじっとオルガマリーを見据えており、明らかに知性の、値踏みの色が見えた。
「護衛をお願いします。マシュはまだデミ・サーヴァントに成り立てで、戦闘に不安があります。現状、真名も解らない貴方に頼るのは怖いけど、それでもお願いします。」
頭を下げる。
魔術師が、使い魔でしかないサーヴァントに。
それは魔術師の常識としては明らかな異常だったが、それでも必要な事だった。
何せ、このバーサーカーに対する令呪を、オルガマリーは持っていないのだ。
自分の呼び声に応えこそすれ、この英霊を打ち据える鞭も、嵌める首輪も、力強い後押しも持っていないオルガマリーには、頼む事しか出来なかった。
「■■■■■■■。」(まぁ良いだろう。)
それをバーサーカーがどう受け取ったかは定かではない。
しかし、一度頷いた後、真っ直ぐ霊地へと歩き出した事から、この英霊がこちらの指示に従ってくれた事は間違いなかった。
「凄い、扱いの難しいバーサーカーが…。」
「さ、行くわよ二人とも!」
「は、はい!」
かくして、カルデアから来た2人とデミ・サーヴァント、そして呼び出されたバーサーカーは歩き始めた。
……………
「………。」
索敵を密にしながら歩き続ける4人を、遠方から見つめる人影があった。
褐色の肌に白髪、黒い胴鎧に護拳の付いた弓を持った男だ。
彼こそはこの地の聖杯戦争に呼び出された弓兵、アーチャー。
彼は鷹の目と言われるスキルを持って、カルデア一行を正確に捕捉していた。
「迂闊だな。地下鉄でも通るべきだった。」
とは言え、街全体が延焼している現在、迂闊に地下に籠ろうものなら、窒息の危険もあったのだが。
「まぁ良い。仕事だ。」
いつの間にか右手に握られていた矢を番え、その先を数km先を歩くカルデア一行へと向ける。
「―――――
詠唱の直後、音速の倍以上の弾速で矢が放たれた。
……………
「!」
最初にそれに反応したのは、最も戦闘経験の長いバーサーカーだった。
彼女は察知と同時、素早く全身の耐久性及び装甲を強化し、オルガマリーと立香を背後に庇える位置についた。
次に反応したマシュも、遅れてバーサーカーの防御範囲からやや外れる位置へと移る。
僅か数秒にも満たない間隙で、そこまでの動きが出来たのなら、及第点は超えているだろう。
「■■……。」
「っく!」
「うわ!?」
「きゃああああ!?」
雨霰と連射される矢弾に、マスター二人が悲鳴を上げ、サーヴァント二人は耐え凌ぐ。
マシュはその大楯で、バーサーカーは強化された全身の装甲で受け止め、マスター二人には掠り傷すら負わせない。
これで少なくとも、アーチャーからの狙撃には対応できていた。
「ではライダー、任せたぞ。」
無論、その程度で終わる訳が無いのだが。
「■■■■■■■■■―――ッ!!!」
咆哮と共に轟音が鳴り響き、一行の背後に当たる位置から進行上にあったあらゆる障害を砕きながら、ライダーが突撃してきた。
騎兵として呼ばれながら、しかし聖杯の泥による汚染によって狂戦士と化したライダーが襲い掛かる。
黒い肌に金色の入れ墨を彫り、骨で出来た戦車に乗った巨漢の真名をダレイオス三世と言う。
本来の理性あるクラスなら、征服王の好敵手と知られた王らしく、威厳ある立ち居振る舞いをする男なのだが、今の彼は周囲のあらゆる者が倒すべき征服王に見えており、憎悪と狂気のままに振る舞う様になっていた。
無論、そんな状態では連携など取れる筈はないのだが、偶々近くに来ていたのをアーチャーが敢えて轟音を立てる様に狙撃を行い、更にダレイオスに対しても矢を射かけて注意を引き、誘導してみせたのだ。
「■■■!」
その騎兵突撃に、バーサーカーは過たず反応してみせた。
その両肩、四角いウェポンコンテナの上面が展開、気体が抜ける様な音が連続し、何かが白煙を引きながら垂直に発射される。
その何かはある程度上昇すると一様に反転、地表を目指し、ダレイオス目掛けて突き進んでいった。
「■■■■■■■■■■!?」
VLSより発射された、地対地ミサイル。
それらは狙い違わず全てがダレイオスへと命中し、その進路を大きく反らせ、道沿いにあった雑居ビルへと盛大に突っ込ませた。
ほぼ同時、狙撃地点と思われる高層ビルの屋上が爆発した。
「っち」
舌打ち一つ残し、自身を狙う生き残りのサーヴァントを視界に収めながら、邪魔が入ったアーチャーは即座に撤退する。
元より、焦る意味は無い。
この戦いは時間稼ぎであり、どうあってもこちらが有利だったから。
「■■■■■■■■■■■■――ッ!!!」
だが、そんなものはダレイオスに意味は無い。
周囲全てが怨敵に見える彼にとって、誰も彼もが倒すべき敵でしかないのだから。
咆哮と共に再度戦車を走らせ、カルデア一行目掛け突撃してくる。
命中すれば、カルデアの魔術師達は間違いなく彼が先程蹂躙してきたビルの様に砕け散るか挽肉にされるだろう。
だがしかし、彼がそれをする事は出来ない。
この場には、二体もの心強い護衛がいるのだから。
「バーサーカーはアタック、マシュはカバー!」
「はい!」
オルガマリーの指示に、咆哮一つ漏らさぬ狂戦士と共に、盾の乙女が駆ける。
敏捷の差でバーサーカーが前に出て、未だ装甲と耐久性を強化したままの状態で、骨の戦車を受け止めた。
「■■■■…!」
「■■■■■■■■■■■ー!!」
盛大にアスファルトを削りながら、しかし10mと滑らぬ内に、戦車はその勢いを殺され、更に戦車を曳く骨となった馬を砕かれ、前半分を持ち上げられて、完全に死に体となった。
「えぇい!」
「■■■■!!」
そこを狙って、マシュが盾を前に構え、側面からぶち当たっていく。
元より、これで仕留められるとは思っていない。
重要なのは、狂っているとは言え、ライダーを乗り物から叩き落した事だ。
騎兵であるライダーは、基本的に宝具たる乗り物に依存している。
無論、そんなものが無くても強いと言う英霊もいるが、それは少数派であり、更に言えばクラス補正を受けられる状態の方が有利を取りやすい。
如何な巨漢と言えど、殆ど無防備な状態で重量物の突進を不安定な乗り物の上で受ければ、落馬するしかない。
「■■■■■■■■!!」
この程度で!
そう言わんばかりに両手に斧を持ち、暴風の様に暴れ回るが、その威力は明らかに先程の騎兵突撃より落ちている。
「バーサーカー!」
誰かのお蔭でアーチャーが撤退した今、目の前のライダーを倒すのに一辺の迷いもない。
主からの声に、狂戦士は十二分に応えて魅せた。
「■■■■…!」
先程までの防御一辺倒の姿から、元の機械でありながら有機的なしなやかさを持った姿へと戻る。
否、その右手だけは更に変質していた。
回転式の弾倉に杭を接続した様な、先程のミサイルの様なハイテクな武装ではなく、弾薬による爆発力で杭を打ち付け、その衝撃を目標へと叩き込む近接兵装。
その名をパイルバンカーと言った。
「■■…!」
背面の装甲が開き、魔力を放出する事で爆発的な推進力を得ると同時、バーサーカーは踏み込んだ。
肉体とスラスターの完全な同期による神速に近い域での踏み込みに、理性を失ったダレイオスは迎撃を選択した。
丸太の様に太い両腕で繰り出される斧の双撃は、しかし背面だけでなく、肩部コンテナの背面が開き、スラスターへと変形、更なる加速によって懐に潜られる形で回避されてしまった。
となれば、後はその右手の杭打機を防ぐ術は無い。
ゴ!!
まるで大型トラック同士が正面から衝突した様な音と共に、バーサーカーの右腕の杭がダレイオスの胸部へと突き刺さる。
胸筋を易々と貫いた杭はそのまま胸骨を砕き、心臓に突き刺さり、ダレイオスの3mを優に超える巨体を僅かに浮き上がらせた。
これにより肉体の持つ弾性が失われ、この後の衝撃が余さず肉体内部へと伝達される準備が出来た。
次瞬、十分に杭が食い込んだと同時、回転弾倉の撃鉄が下ろされた。
ズドンッッ!!!!!
炸薬の燃焼時の圧力を、杭は余す事なくダレイオスの心臓へと叩き込んだ。
結果、心臓にある霊核をその胸部ごと吹き飛ばされ、肉片がその背後へと放射状に盛大に飛び散った。
霊核を砕き、胸部の大半を消し飛ばす一撃に、戦闘続行を持つにも関わらず、ライダー・ダレイオス三世は断末魔を残す事すら出来ず、肉片共々黄金のエーテルとなって消えていった。
「絶対食らいたくないわね…。」
その光景を見ていたオルガマリーの感想に、マシュと立香の二人は顔を青くしながらコクコクと頷く事しか出来なかった。
スキル・変化A
本来の状態よりも弱体化しているが、それでもなお実質的には最上級のAランクを誇る。
父である■い■る■■の能力を受け継いだもので、凡そ何にでも変化できる。
現在は主に比較的簡単かつ低コストな機械や銃火器類に変化している。
だが、十分な魔力さえあれば、質量保存の法則を無視した大型兵器や乗り物等にも変化できる。
効果 防御力UP(3T)・攻撃力UP(3T)