徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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鬼道政樹の転生SS
よく見ると、結構転生先として有望そうなキャラがたくさんいて、こうした作品を書くのが楽しいですね、GSって。


GS美神短編 政樹が逝く

 気づいたら、GS世界に転生していた。

 

 何を言っているのかry

 と言うポルナレフネタは自重して、さてどうすべきだろうか?

 テレビからGSや霊現象等の単語、カレンダーの日付から、今現在が原作開始前のGS世界だと分かってしまった。

 或はパラレルワールドかもしれないが、それはそれとして色々考える必要がある。

 この世界、結構な厄ネタがゴロゴロ転がっており、主人公達GSがその多くを解決する訳だが、例え一般市民でもそれなりの確率で巻き込まれるのだ。

 魔神アシュタロス事件を筆頭に、妖怪死津喪比女による日本全域への花粉攻撃やバイパーの様な賞金首がかかった妖怪や悪魔等、一般市民が大勢巻き込まれる大事件も多い。

 となれば、自衛手段位は持っていた方が良いだろう。

 なら、霊能を鍛えた方が良いと思ったのだが…

 

 「よしよし、お前の名前は政樹にしよう。鬼道家の跡継ぎとして、立派に育つんだぞ。」

 

 ら〇ま二分の一の天道早雲の様な見た目のおっさんがまだ赤ん坊のオレを抱き上げて、そう告げた。

 鬼道政樹。

 それは原作において屑な父親と天然過ぎる幼馴染を持ったが故に人生を思いっきり歪ませられた青年の名だった。

 

 

 ……………

 

 

 物心ついた頃から訓練・修行・鍛錬の毎日だった。

 年頃の子供らしい遊びなんて出来なかった。

 まぁこの時代のプラモもゲームも、平成20年代のそれに慣れていた自分にも物足りないから別に良かったのだが。

 それに、霊能と言う物への探求が予想以上に面白かったと言うのもある。

 自分の家の霊能、つまりこの肉体に宿る霊的才能が式神の使役に特化しているだけあり、そっち方面の技術の一つである折り紙の鶴を折って、それを操る技なんて感動すら覚えた。

 父親の技は子供の自分とは異なり、確かに研鑚を感じさせるもので、その点に関しては素直に尊敬出来た。

 その点だけは、だが…。

 

 何せこの糞親父、女遊びやギャンブル、無軌道な投資や経営をやっており、霊能以外の才能は無いと言って良い。

 自覚して堅実な経営と節制に努めれば良いものの、半端に霊能だけは優秀なので、周囲の人間の言う事も聞かずに先祖代々が蓄えてきた財産を急速に食い潰していった。

 しかも、周囲の人間も諫言していた者は遠ざけられた事から見切りをつけ、優秀な人材は次々と去って行き、残ったのはおべっかを使うだけのイエスマンか密かに財産を懐に入れる様な者達だけで、最早どうにもならない状態だった。

 恐らく、自分が学校に入る頃には無一文かそれに近い状態になっている事だろう。

 

 (うん、見切りつけるか。)

 

 幸いと言うべきか、母親の方も不倫しまくりのビッチ(まぁ夫がこれじゃ仕方ない面もあるだろうが)なので、心置きなく見捨てる事が出来る。

 幸いにも、既に自分はこの家の最大の財産を持っており、一番大事な準備は出来ていた。

 そう、先祖代々から受け継がれた式神、夜叉丸である。

 通常は元服と共に式神の譲渡を行うのだが、何を思ったのか、糞親父は六道家の跡取り娘である冥子に対抗して、同じ時期に式神の譲渡を行ったのだ。

 現当主である六道冥那に対して糞親父が勝手に確執を持っているが故なのだが……まぁこの場合は助かったので良しとしよう。

 さて、この夜叉丸だが、男性の平安装束を着た人型の外見をしており、武器を使うだけの知能だけでなく、術者からの指示さえあれば、簡単なものだが術を使う事も出来る。

 明らかにただの式神ではなかった。

 実際、自分からの霊力の供給だけでなく、食事を分けたら嬉しそうに食べていた。

 特に見た目華やかな甘味の類を。

 だが、お酒の類は甘酒や果実酒を除いて、余り強いのは好きじゃないみたいだった。

 フルーツタルトをあげた時など、感動で震えてすらいた。

 式神として契約しているためか、感情の機微は伝わってくるのだが、夜叉丸から感じる霊力は明らかに式神としてはオーバースペックだった。

 恐らくだが、伝承にある役小角の前鬼後鬼夫婦の様に、本来なら名のある鬼や妖怪だったのだろう。

 それを調伏して式神としたのが、恐らく平安時代からそれより少し後位の鬼道家の先祖なのだろう。

 実際、家系図を見てみたら、平安時代後期辺りから記録が始まっていたので、恐らくだが元々は陰陽寮辺りで術を学んだ術者だったのだろう。

 こういった事例は古い家には割とありそうで、是非とも紐解いてみたいものだ。

 

 閑話休題/それはさて置き

 

 これにより、夜叉丸の正体が大体絞れた。

 丁度その辺りの時代に、夜叉丸かそれに近い名を持つ人物は3人いる。

 一人は坂上田村麻呂の家臣となった、犬神丸の手下である鬼人の夜叉丸。

 もう一人はあの平将門公の娘にして高名な呪術師でもある滝夜叉姫に仕えた夜叉丸。

 そして、少し違うのだが、二番目の夜叉丸の主だった滝夜叉姫だ。

 だが、そこで先に上げた食べ物の好みが出てくる。

 鬼と言う種族は、昔から強い酒を好む、力の強い種族だが、それに反する様に自分の式神は寧ろ細やかな霊力操作や甘味好きという事で、もうこれは間違いないだろうと思って声をかけてみたのだ。

 

 「ねぇ夜叉丸…ううん、五月姫って呼んだ方が良いかな?」

 「!!!」

 

 誰もいない森の中、事前に簡単な式を打って人払いをしていた場所で、自分は遂に我慢できずに夜叉丸の本当の名(恐らくだが)を呼んでみた。

 それに対する反応は劇的だった。

 ブワッと、風と共に押し込められていた霊力が式神としての殻を破り、結界内を急速に満たし、遂には突き破っていく。

 余りの密度と勢いに腕で顔を庇う。

 明らかに尋常ではなかった。

 その量たるや、名のある神社に行っても現代では早々感じる事の出来ない程のものだった。

 霊力が納まって顔を上げると、そこには美しい女性がいた。

 纏っている衣服や小さな双角こそ式神であった頃のままだが、その顔は人間同様の目鼻がある美人であり、本人すらその事に驚愕している様だった。

 

 「は、ははは…」

 

 ペタペタと、顔を触り、手足を確認すると、不意に滝夜叉姫は笑い出した。

 

 「あはははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 うーん、早まったかもしれない。

 嬉しさと開放感に大爆笑する滝夜叉姫だが、そこには溜まり溜まった鬱憤が感じられた。

 感じる霊力もとてもではないが糞親父や自分でどうにか出来る範囲には無かった。

 シャーネー逃げるか、と思ったらグリンと滝夜叉姫がこちらを向き、ギラリと目を輝かせた。

 

 「礼を言うぞ政樹よ!よくも我が名を取り戻してくれた!これで妾は自由だ!」

 

 もうすんごい嬉しい!

 そんな感情を全身から放つ滝夜叉姫は一瞬でこちらに接近すると、あらん限りの力でこちらを抱き締めてきた。

 式神の頃とは違った豊かな感触に顔が自然と赤くなるが、それよりも確認するべき事が沢山あった。

 

 「して政樹よ。どうして妾の名が分かったのだ?普通、鬼の夜叉丸の方だと考えるものだが。」

 「いや、名を奪って、本来よりも格の低い名前を付けて弱体化させるのって、神話や伝承では割と普通でしょ?」

 

 実際、神話や伝承で名前を変えて古い神格を怪物や悪神として取り込む事はよくある事だ。

 ゾロアスター教や基督教、ギリシャ神話等がそれに当たるし、この世界の魔族とはそう言った存在が多い。

 

 「それとて可能性の話であろう?」

 「後、食べ物の好みが女の子だった。」

 「くは!まさかそんな事で気づかれるとはの!」

 

 呵々と優雅に笑う様は、確かに彼女が平家と言う皇族の血を継ぐ姫君である事を物語っていた。

 

 「それで滝夜叉姫様は…」

 「良い良い。滝夜叉と呼んで構わぬぞ。何せ其方は恩人だしな。」

 「え、でも…。」

 「ん?妾の決定に何か異議でもあるのか?」

 「イエナンデモアリマセン。」

 

 凄むと実力差もあって凄い怖いっすね。

 

 「それで、滝夜叉様は…」

 「んん?」

 「…滝夜叉はどうして式神なんてやってたの?」

 「それはのう…。」

 

 曰く、本来の滝夜叉姫もとい五月姫は既に死亡しているのだとか。

 だが、生前も美しい女人でありながら尼として過ごし、往生したのだが、東北の虐げられていた人々が持つ父への忠誠や朝廷への怨念はその娘である五月姫が尼となっても向けられた。

 何時しかそうした念は形を持ち、滝夜叉姫となって鬼達と虐げられた農民、更に朝廷に従わないまつろわぬ民をも率いて、朝廷とその民に災いを齎したのだとか。

 つまり、この滝夜叉姫はGS原作において道真公が神霊となる時に分離した怨念と同質の存在なのだ。

 で、当時の陰陽寮と日本仏教界の僧らが何とか封じてみせた。

 多くの鬼達は坂上田村麻呂と妻である鈴鹿御前に討たれながら、彼女だけは封じられた。

 しかしその後、立て続けの外敵によって脅かされた朝廷は弱体化、陰陽寮も当時の政治的混乱によって滝夜叉姫が封じられた呪具も行方不明となってしまった。

 それは当時陰陽寮に所属していた鬼道家の祖先の仕業で、その男は陰陽術を駆使し、滝夜叉姫の名を奪い、厳重に弱体化した後に己の式神とした。

 それ以後、滝夜叉姫はずっと鬼道家の式神として仕えてきた。

 しかし、その封印も時と共に徐々に綻んでいった。

 そして、平安から1000年の時を経た平成の世に成って、一番大事で強固な名前による弱体化と連動した式神としての契約だけが残った。

 蔵に残ってた資料には恐らくだがもう残ってはいまい(口伝レベルではあるかもだが)。

 だが、悪い事だけではなかった。

 確かに隷属させられた事には怒りを抱いたが、同時に彼女は長い歴史を見つめ続けてきた。

 それは朝廷から武士へ、武士から幕府へ、幕府から政府へと続くこの日本の呪術的側面からの貴重な光景であり、何より思念系の怨霊と言う厄介な存在であった彼女が達観を抱くには十分な経験だった。

 達観、即ち盛者必衰の理だった。

 あんなに権勢を誇った朝廷も、平家も源家も、大名や幕府、そして政府すら時の流れの中に滅んでいった。

 今更当時の生き残りが一人もいないこの時代に叛旗を翻した所で、誰も自分にはついてこないだろう。

 それが霊能の家と共に生きてきた滝夜叉姫の結論だった。

 

 「じゃぁ、今は何がしたいの?」

 「そうさな…お主と共に甘味巡りなどどうだ?」

 

 それは実に平和な願いだった。

 

 「なら、鬼道の家を出よう。あそこにいたって、貧乏暮らしになるのが目に見えてるし。」

 「だの。明らかに没落まっしぐらじゃよ、あの男は。」

 

 現状でも既に使用人への給与未払いが出始めており、明らかに没落寸前だ。

 あれ程傍若無人で愚かしいのは珍しいからのぅ、とは糞親父を子供の頃から見ていた滝夜叉姫の言。

 鬼道家の始まりから存在した彼女からして、あの糞親父は本当に酷いらしい。

 

 「じゃぁ、将来的には霊能生かしてGSをやろう。それならお金も沢山稼げるし、滝夜叉の好きなケーキもたくさん食べられるよ。」

 「それは良いな。」

 

 自分も酒よか甘いものが好きなので、滝夜叉の提案は嬉しい。

 しかし、その前にするべき事がある。

 

 「一応、あの糞親父との縁を綺麗に切っておかないと。その上で何処か成人するまで保護してくれる人を見つけるべきだね。」

 「ふむふむ…妾と共に売り込めば、そこそこ良い家に潜り込めるかの?」

 

 取り敢えず、完全に没落し切る前に抜け出す事が肝要だった。

 そして、保護してくれる家に関してだが、最適な家が既に存在していた。

 

 

 ……………

 

 

 半年後、自分は糞親父と共に六道家を訪れていた。

 この半年、滝夜叉に霊能を鍛えてもらった。

 家での修行と共に行うそれはとても厳しかったが、現代では失伝してしまった多くの知識を当時の一流の人物から直接教わるのだ。

 今の自分の知識と技術は霊能分野に限れば凄まじい価値を持っていると断言できる。

 とは言えまだまだ未熟なので、日々精進するのみだが。

 で、ガサガサと六道家の洋風の屋敷の庭を散策する。

 糞親父は館で六道当主との話し合いをしているが、付けていた折り鶴式神による盗聴ではマジで心抉る形で自身の失敗を指摘されまくっていた。

 うん…言葉の暴力って怖い…。

 そんなだから恨まれるんだよ冥那さん…。

 

 (政樹、いたぞ。)

 (分かった。)

 

 漸く見つけた。

 庭にいる自分と同じ位の女の子、六道家の一人娘にして跡取りの六道冥子だ。

 その性格は天然故に人の最も痛い所を意識せずに突き付けて抉ると言う、友達全くいない子の典型みたいな子だ。

 

 「あら~~?貴方はだれ~~?」

 「あ、僕は鬼道政樹。父さんと一緒に来たんだ。」

 「あ~お母様の昔のお友達の子ね~~?」

 「じゃぁ君が冥子ちゃんか。」

 

 本当にのんびりした子だ。

 此処まで頭緩くて大丈夫か?と、ちょっと本気で六道家が心配になってきた。

 将来GSになっても物件ごと更地にしたり破壊するだろうから、収支がとんでもない事になってそうだ。

 

 「じゃ~マー君って呼ぶわね~~。」

 「良いよ良いよ。渾名の方が気安いしね。」

 「ね~マー君のお父様って、昔お母様にフラれて、この前お父様の会社に事業で負けて失敗して、今日はプライド捨てて借金しに来たって本当~~?」

 「全部本当だね、当然の事ながら。」

 

 初対面でこんな事言われたら、そりゃ(10年以上恨んで)そう(式神奪おうとする)よ。

 原作の鬼道政樹君、君は何も悪くない…。

 悪いのは何時までも引き摺る君の親父だよ…。

 

 「冥子ちゃん、初めて会う人に嫌な話題を振っちゃ駄目だよ。自分の事を馬鹿にされてると思うし、その人に嫌われちゃうからね。」

 「そうなの~~…。マー君も私の事が嫌いになった~~?」

 「いや、僕は怒らないけどさ。次からは気を付けようね。」

 「は~~い。」

 

 天然の相手をする時は根気強く付き合い怒鳴らない。

 必ず理由を言って、自分の気持ちを正直に伝え、ゆっくりと時間をかけて矯正する。

 決して逸ってはいけないのだ。

 これは人の悩み相談なんかを請け負う尼僧としての知識もある滝夜叉姫からのアドバイスだった。

 

 「マー君~~どうせだから遊びましょ~~。」

 「いいよ。何する?」

 「ん~~じゃ~~皆で鬼ごっこしましょ~~。」

 「皆でかぁ…。」

 

 どうやら初手から危険度特大の御遊びになってしまったらしい。

 冥子ちゃんや、君はもう少し力加減とかを覚えてほしいよ…。

 

 「皆~~一緒に遊びましょ~~。」

 

 途端、冥子の影から12体もの完全に別種の式神が出現した。

 同種の式神を複数使役するのは探せばある程度の技能だが、全く別種の高位の式神を12体も使役するとなると天性の霊的な素養、キャパシティーが必要となってくる。

 いや、これはもしかしたら12神将と言う形で一つの概念としているのか?

 それで術者への負担を減らしている?

 まぁパッと見で式神の制御そのものが術者のセンスや意思に依存するらしく、制御が不安定な様だが。

 問題なのは、そんな強力な式神12体が冥子と言う術者本人のテンションに引き摺られて半ば暴走状態な事だ。

 

 「夜叉丸!」

 (話には聞いておったが、滅茶苦茶過ぎるわ!)

 

 名前を呼ぶ前から夜叉丸こと滝夜叉が飛び出し、自分を抱えて逃げ回る。

 真名を知って解放してからこっち、彼女はとても自分に協力的だが、正体がばれると危険なので、こうして人の目がある時は以前の式神としての名前で呼んでいる。

 十二神将に集られたらそれこそ重傷では済まないので、筋力と耐久、泳ぎは兎も角としても素の敏捷性は高い滝夜叉に抱えられて庭中を逃げ回る。

 

 「すご~~い!貴方も式神使いなのね~~!」

 

 正確には妖怪?怨霊?との直接契約者なのだが、それは言える訳が無いので黙って逃げる。

 すると、テンションが更に上がったのか、十二神将達の攻勢が激しくなった。

 丑のバサラの吸い込みでこちらの動きを阻害し、酉のシンダラがこちらの動きを監視し、寅のメキラが短距離転移で、卯のアンチラが小柄故の素早さで牽制し、残りが数任せで周囲の物体を破壊しながら追いかけてくる。

 正直に言って質が悪すぎる。

 

 (知っててやっているのなら、邪悪ってレベルではないのぅ。)

 (全部天然だとしても質悪すぎ。)

 

 そんな質の悪さが六道家の発展に繋がっているのかもしれない…。

 途中、使用人の人達の悲鳴が聞こえたので、この騒ぎも直に収まるとは思うが、それまではこうして逃げ続けるつもりだ。

 

 (政樹、このままでは追いつかれるぞ?)

 (デコイを打つ。牽制して。)

 (よし来た!)

 

 同時、夜叉丸の左腕から雷の術が放たれ、冥子達の目の前の地面に着弾、派手に火花を撒き散らす。

 これに冥子を乗せていた午のインダラが蹈鞴を踏んで停止してしまい、隙を晒した。

 

 「急急如律令!式神よ、我が似姿を取れ!」

 

 腰のポーチから自作のお札を取り出し、術を発動させ、札を投げる。

 意外と難しいお札投げを成功させた直後、それぞれの札が自分達二人の姿となって冥子達がいる方向を除いた全方向へと逃げ出していく。

 一応人気が無い方向を選んでいるが、自分が三日三晩寝たきりの重傷を負うよりはマシなので、六道家の人は是非とも我慢してほしい。

 恨むなら、ちゃんと教育されていない娘さんを恨んで頂きたい。

 

 「よし、三十六計!」

 (逃げるに如かず!)

 

 こうして、何とか僕達は冥子とその愉快な式神軍団から逃げ延びたのだった。

 背後で六道の屋敷が盛大に吹っ飛んでいたのを見ない振りをしながら…。

 

 

 ……………

 

 

 さて、その後の事を話そう。

 鬼道家への支援の話だが…なんと六道が融資してくれる事になった。

 とは言え、経営に関しては六道からの人材を相当数受け入れ、財政健全化していく形なので、殆ど先進国によるODA漬けと変わるまい。

 将来的には経済面だけでなく、家としても吸収されるのだろう。

 家は残らないが、名前だけは残ると思われる。

 まぁ借金塗れの生活から脱却できるんだから、是非もないよネ!

 

 (そう上手い話でもないと思うがの…。)

 

 げんなりとした滝夜叉の言葉に、内心で頷く。

 自分、なんと六道の家に預けられる事になりました。

 冥子ちゃんのお友達枠として。

 えぇ…と思うが、他の分家の子や同年代の子を持つ上流階級のご家庭には既に冥子ちゃんの暴走ぶりは有名らしく、友達らしい友達はいないのだとか。

 まぁ誰だって命の危機と日常を過ごしたくはあるまい。

 しかし、そこに命の危機を独力で切り抜けた、冥子と同じ式神使いの少年が現れた。

 家の方も没落してはいるが家格自体は大分高いものがあるため、冥子の友人としては申し分ない。

 序でに没落した家の方も吸収する形だが支援してしまえば、少年が逃げ出す事も無いだろう…と言うのはちと穿ち過ぎかもしれないが、まぁ六道から鬼道への取引は確実にあったと思われる。

 

 (当初の予定とは違うが…まぁ衣食住に困らぬのなら何でも良い。)

 (だね。僕も滝夜叉とスイーツ巡り出来れば取り敢えず問題ないし。)

 

 例え六道の子飼であったとしても、ちゃんと給料が払われる限りは従うつもりだ。

 まぁ問題と言えば…

 

 「マ~~く~~ん!遊びましょ~~!」

 「はいはい。冥子ちゃんは何したいの?」

 「え~と、お飯事~~!私が姑で~マー君がお嫁さんで~~。」

 (小娘…政樹は私のだぞ!!)

 (落ち着いてよ。十歳児に何をむきになってるのさ。)

 

 襲来してくる冥子と、それにイラつく滝夜叉を宥める事だった。

 更に式神を交えた遊びが始まると、即座に命の危機となる。

 これを乗り切るためには更なる修行が欠かせず、しかし冥子の襲来によって邪魔され、そして冥子のせいで命の危機に陥ると言う悪循環に悩まされるのは直ぐの事だった。

 

 

 ……………

 

 

 「ふぅ~~高い買い物だったわ~~。」

 

 庭でわいわい騒いでいる子供達を二階から見つめながら、六道冥那は思考していた。

 眼下の光景は普通ならただ微笑ましいものだったが、彼女には一人の少年が二人の異性から言い寄られ、対応に苦慮している姿が見えていた。

 

 (鬼道君の子は~~随分と優秀みたいね~~。)

 

 式神使いの大家にして歴戦の霊能者である冥那だからこそ分かる。

 あの政樹と言う少年と夜叉丸の間にある契約は、単なる式神と術者のそれではない。

 明確な意思のある神魔の類と人間の術者の、直接的な契約だと看破していた。

 しかも、先日この庭で使用した術も問題だった。

 

 (あの術式、明らかに陰陽寮の方でも失伝してた術よね~~。あの夜叉丸から習ったのかしら~~。)

 

 使用された幻惑の術は既に失伝し、僅かな記録の残る平安時代のものと酷似しており、現在は外部に漏れない様に極秘に調査を重ねている段階だ。

 先ず間違いなく、これ以外の多くの術も持っている事が予想される現状、あの少年とは今後も良い付き合いがしたい。

 場合によっては陰陽寮とも話し合う必要があるが、今はあの少年を囲い込むか、確実なパイプを作りたかった。

 

 (それに~~冥子のお友達だし~~余り酷い事はしたくないわ~~。)

 

 無論、こちらに味方してくれるのなら相応の利益は与えるし、将来的に独立してもそれまでにした融資がものを言う事になるので、既にどちらに転んでも鬼道政樹が六道と縁を切る事は出来なかった。

 また、政樹の父親である鬼道家当主は政樹の術の事を全く把握しておらず、融資の条件で政樹をこちらに寄越すのも人質程度の認識しかしていなかった。

 昔と全く変わらない呆れる程の無能だが、今はその方が都合が良かった。

 

 (問題は~~鬼道を捨てて国外に行く事だけど~~……。)

 

 庭を見る。

 今はまだ警戒が勝っている様だが、その内雪解けすれば、あの少年も年相応の笑顔を見せてくれるだろう。

 

 (冥子次第だけど~~将来的にはうちに入れるのもありかしら~~?)

 

 無論、本人同士の気持ちが大事だが、あの式神と少年は既にそれだけの利益が見込める。

 家の長としては、鬼道への多少の援助など些細な位に、あの少年は霊能業界全体にとって利益となる可能性があった。

 

 (まぁ~~今は子供同士で~~のんびりしててほしいわね~~。)

 

 家を大きくするための謀略家としてではなく、親として当たり前の事を冥那は思う。

 どうか、二人の子供達に幸せになってほしい、と。

 

 「わ~~い!皆出て来て~~!」

 

 ドカン!!

 ワーギャーワーギャー!

 

 「……………。」

 「奥様!お嬢様がまた十二神将全部を出して政樹様を追い回しています!」

 「直ぐに行きますね~~。」

 

 いつもの事に頭が痛くなるのを堪えながら、冥那は椅子から立ち上がり、またやらかしている愛娘を叱りに出た。

 

 

 

 

 

 

 

 続かない

 

 




 なお、将来的に冥子と滝夜叉、更に六道女学院で新設される男子部に入学してボーイミーツする予定です。

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